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俺が魔法少女になるんだよ!  作者: 赤しゃり
本編

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113/639

誰がためにと願わくば ④

「あたた……嫌やわぁ、油断してもうた」


身体にのしかかる瓦礫を手で払う、それだけでこの身を押し潰す岩の塊は粉微塵に砕け散った。

一挙一動が大げさな破壊を招く魔法、いつもの街中では使い勝手が悪いが周りを気にしなくていい戦いなら便利なものだ。


「ほんま油断したわ、“加速”切ったのはちょい痛いなぁ……はぁ、脚痛い」


ダメージこそ軽いが弾き飛ばされた時に捻ったのか、左の足首が赤く腫れている。

この脚で再度の加速は少々危険が伴う、今後の戦闘を考えるなら尚更だ。

どれほど飛ばされたのだろう、荒廃しきった街並みはどこまで行っても変わり映えがなく、位置感覚を狂わせる。

土ぼこりを払いのけ、ゆっくりと立ち上がる……すると、自分を取り囲むように周囲から幾つもの気配が蠢いた。


「……弱った獲物狙いに来たってとこか、当てが外れて残念やなぁ」


10か20か、数えきれないほどの群れだがまあなんとかなるだろう、しかし流石に量が多い。

窮地というほどでもないが、足止め程度にはなってしまう。 オーキスという名の魔法少女はとうに逃げた後だろうか。

……ふと、彼女に吐き捨てられた最後の言葉を思い出してしまう。


「せやなぁ、なぁんもかんもうちが悪い……恨んでくれるならうちだけで良かったのに、なぁ()()()


扇のように広げた札から一枚引き抜くと、それは石竹色の炎を燃やして1対の棍棒へと姿を変える。

太鼓のバチとも思えるそれを軽く振り、くるくると振り回す。 手応えこそ軽いが大丈夫、これで殴られると痛いじゃ済まない事を自分は知っている。


「ほな、来や。 まとめて相手したるわ」


言葉が通じてか、それとも隙だらけの振る舞いに飛びついて来たか、四方八方から同時に色とりどり達の魔物が襲い掛かる。

黄、青、紫、灰、黒、浅葱、臙脂、琥珀……ただ、そのどれもこれもが次の瞬間には物言わぬ「赤」へと姿を変えた。


ロウゼキが1対の棍棒を踊るように振るうたび、まるで桜のように鮮やかな赤だけが飛び散った。



――――――――…………

――――……

――…



『もーしもし! 聞こえてますかー、えーとドレッドハートくんだっけ!? 返事をしてくれんかねー!?』


ドライブガールが握る無線機からややノイズが掛かった局長の声が聞こえる。

東京都内は濃い魔力の影響で外部との通信は途絶えていたはずだが、魔力の塊である“杖”に付随する媒体ならある程度影響を無視できるのか。


「はいはいあい、聞こえてますよー! えーと、槻波さんでしたっけー!?」


『ああそうとも、東北支部局長こと槻波影一郎……いや、自己紹介はあとだ! いつ切れるかも分からない、今はどういう状況かね!?』


「ネズミに追われてピンチでーす! 何か良い案ないですかー!?」


『ネズミ……あれか、あれかぁ……!』


ドライブガールが状況を簡潔に伝えると、無線機の向こうでグヌヌと唸る。

局長としてもネズミには苦い思い出がある、今その思い出がフラッシュバックしているのだろう。


『えー……あれだ、こういう時は本体を叩くしかない! どうにか見つけられないかね!?』


「見つけられないから苦労しているんです!!」


『ですよねー……』 『モッキュー』


今更な提案にドライブガールがやつあたり気味に叫ぶ。

イラ立つ気持ちは分からないでもないが、いくら言っても状況が変わるわけじゃない。

無線機の向こうでも気圧された調子の局長とバンクの声が……バンク……?


「局長、今そこにバンクが居るのカナ!?」


『おお、その声はゴルドロスクンかね! 確かにあのモキュモキュ鳴く小動物は私の膝の上にいるが……』


『モッキュ!』


私の声に応えて、危ないからと置いて来た小動物の元気な鳴き声が帰ってくる。

思い出すのはドライブガールと初めて会った日、マンタの魔物を捕まえた後の出来事。

バンクが潜り込んだ私の杖から取り出した、不思議なピコピコハンマー。


「……局長、今どこにいるヨ?」


『無論魔法局、作戦室だとも。 ……ん、今ちょっと嫌な顔したかね?』


「当たってるけどなーんで分かるカナ、けどそりゃそっかぁ……!」


せめて壁の外にいるのであればワンチャンあるかと考えたが、仮にも局長の地位にある人間を危険な前線付近まで運ぶわけもないか。

バンクが手元にいれば、あの時と同じ力があれば、この状況も何とかできるかもしれないのに。


「ゴルドちゃん、何か良い作戦あるの? 遠慮せずお姉さんに話してみなさい」


「あったけどダメだヨ、物理的に無理。 バンクが手元にいたなら可能性はあったんだけどネ」


「物理的に……なら魔法的にはどう?」


「…………あ」


私の杖……ぬいぐるみのテディに視線を落とす。

引き裂かれた腸に魔石を代金として突っ込み、相応のものを引き出せる私の魔法――――


「バンクを買い取る……? いやでも、私の魔法は“取り出す”だけでどこから“取り寄せる”わけじゃないヨ!?」


「やってみなきゃ分からないでしょー! 女は度胸、それにこんな状況なんだから試して損って訳じゃない!」


「そうカナ……けど……」


例え取り寄せに成功したとして、もう一度あの力が引き出せる保証はない。

そうなれば今度はただバンクを危険地帯に引き込むだけだ、結果が不確定の割にリスクが無視できない。


「大丈夫よ、その時はその時! 局長さん、バンク君は今誰が飼ってるの!?」


『う、うむ? 誰が? うーん……一応は私の管理下ということになるのかな?』


「よーし、じゃあ安値で引き取らせて局長さん!」


「勝手に話を……あーもーわかったヨ! やってやらぁ!」


ポーチに手を突っ込み、掴めるだけの魔石を取り出す。

そしてバンクの顔を思い浮かべ、その全てをテディの腹へと投入する。

眼を閉じ、指先の感覚に集中すると重い手ごたえが指先に掛かった。 

しかし取り出そうにもビクともしない、この手応えには覚えがある。


「どう、ゴルドちゃん。 行けそう!?」


「ふんぬぬぬぬ……! この感触は支払いが足りない時の……ずいぶんと高くつくネェ!?」


「お金足りないの? ちょっとロイ、運転任せるわ! 魔石が入っているのはこのポーチね!」


「えっ、ちょ、待っ……あ゛ー!! そんな、丸ごと入れたらア゛ァ゛ー!?」


止める暇もなく、助手席から抜け出したドライブガールが私のポーチをひっくり返してその中身を全てテディの腹へと放り込む。

苦労して集めた残高が一気に底をついた悲しみに思わず悲鳴の声が漏れてしまうが、その代わりに指先のひっかかりが少しずつだが動き出した。

そう、少しずつだ。 ポーチ一杯分の魔石を流し込んでゆっくり、ゆっくりと。


「バンク……あいつどれだけ金食い虫なんだヨ……!」


「じれったいわね、2人掛かりで引っ張りましょ!」


2人掛かりでテディの腹から目当ての「それ」を引き抜きにかかる。

重い手ごたえは次第に軽くなり、最後にはスポーンと音を立てて引き抜かれた。


『――――モッキュー!!』


先ほどまで無線機越しから聞こえた声が、今度は掌の中から元気に吠えたてた。



――――――――…………

――――……

――…



『キュルアアアアアアアアアアアアアア!!!!』


「ああもう、アタシの邪魔しないでくれるかなッ!!」


黒騎士にあの2人の相手を任せた私は、鈍く輝く銃口を振り回しながら見慣れた街並みを駆ける。

隅から隅まで知り尽くした街並みだが、力量差も分からず襲い掛かる魔物が邪魔をする。

いや、下手に力量差を考える頭があるからか。 “まがい物”の私をカモか何かと勘違いしている。


「ったく、アタシが駆け付けるまで持ってろよ……!」


ブルームスターとあのアホっぽい魔法少女は黒騎士に任せて問題はない、問題なのはあの和装のバケモノだ。

姉1人で相手が出来る手合いとは思えない、せめて私が加勢すれば僅かな可能性も生まれるだろうが。


「……随分と姉思いだね、その気持ちを少しでも素直に伝えたら彼女も救われるだろうに」


「っ――――誰だ!!」


反射的に声が聞こえた暗がりに向けて放った銃弾は、突然現れたレンガの壁に阻まれて弾かれる。

役目を終えた壁はすぐにドット状に分解して消失、その後ろに隠れた少女の姿を顕わにした。


「……ンだよ、あんたか。 上手いこと孤立できたようで何よりだねぇ」


その姿を見て、構えた銃を降ろす。

神経質なタイミングで紛らわしい事をしてくれる、つい他の魔法少女と間違えて撃ってしまったじゃないか。


「御託は良いよ、それよりこの状況について説明を貰えるかな。 内容によってはボクは怒るぞ」


「はいはい、仰せのままに――――()()()()()魔法少女さま」

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