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私達の東京 ①

《マスター、まだこちらも万全ではありません。 一度降りて体力を回復させましょう》


「そんな暇はねーよ、シルヴァが待ってんだ」


そびえ立つ巨大な壁の周囲を、所在なく羽箒で飛び回る。

天の壁とも呼ばれるこの障害物は、災厄の日に目覚めた初代魔法少女たちが命懸けで作り上げたものらしい。

内部に蠢く危険なものたちを外へと漏らさないための壁、これがなければとっくの昔に日本は魑魅魍魎の地獄絵図と化していたことだろう。


「壊すわけにはいかないし砕けるもんじゃないけど、どうしたもんだかなぁ」


《だーかーらー、ちょっと休みましょうってー。 魔石食べたくらいじゃ満足な回復は出来ませんよー》


見上げた壁の頂上は雲のはるか上、羽箒の飛行高度ではまるで届かない高みだ。

東京へ来いとは言われたが侵入手段がない、向こうがこの程度の事を考えてないとも思えないが……。


《……ん?》


「どうしたハク、何か見つけたか?」


《いえ、ちょっと尋常じゃなく濃い魔力の流れが……マスターも感じません?》


「あいにく俺はこの手の感知とかからっきしだよ、場所は分かるか?」


《ちょっと待ってください、今探ってみます》


ハクの導きを頼りに、壁の周囲をぐるりと回ると原因と思わしき箇所を発見した。

羽箒の高度ギリギリ、そこに人一人が通れる程度の“切れ込み”が刻まれているのを見つけた。

触れた断面はゴムのような弾力があり、身体を押し込めば内部への侵入が叶いそうだ。


「……おそらくオーキスだな、人を招いておいてヒントが少なすぎるだろ」


《わー、見つけなけりゃ良かった……ますたぁ、一応聞いておきますけど一度退く気は?》


「ないね、この穴もいつ閉じるか分からないだろ」


《でーすーよーねー、はぁ……お願いですから死なないでくださいね》


「ああ、支援は任せた」


一度だけ大きく息を吐き、覚悟を決めて俺たちは切れ目の中へと飛び込んだ。

さて、この先に何が待ち受けるだろうか。




――――――――…………

――――……

――…



「あっはっはっはっは! ごめーん、思ったより高かった!」


「死ぬかと思った……殺されるかと思ったヨ……!」


「魔法少女でもあの高度は恐怖を感じるものですね……!」


「…………ぉえ」


地面に深々と突き刺さった車をバックに、三者三様が今生きていることの喜びに悶える。

車が壁を登り始めて1分は持っただろうか、だがしかし重力に負けた車両は唐突に壁から剥がれ、落下を始めた。

あれはダメだ、人間が体験して良いものじゃない。 落下死はしないと分かっていてもあれはダメだ。


「よし、助走付けてもう一回!」


『リベンジマッチと行きましょう』


「「「ふざけろ!!!」」」


何度繰り返したとしても登り切るのは難しいだろう、というか何度もあんな目に会うのはごめんだ。

どうにか他の侵入手段を考えなければ、もう一度あの恐ろしい登頂方法を試すことになる。


「ドクター、あの戦闘機型のカセットはどうですか!?」


「無理だ、あの高度を登り切る前にボクの魔力か酸素が尽きる。 ゴルドロス、そっちはロケットとか出せないのか?」


「全財産はたいても足りないヨ、ラピリスは何かこう……頑張っていけない?」


「全力で風を吹かしても無理ですね、そもそもドクターが言ったように高度が上がれば酸素が……」


「私の車なら問題ないわよ?」


まずい、話が人権を無視した最適解に傾き始めた。

何か手はないだろうか、何か……


「―――――ふふ。 何やぁ、東北の方々はえろぉおもろい話をしはりますなぁ?」


後ろから掛かってきた声に、反射的に刀を抜く。 隣を見れば2人も各々の得物を構えていた。

振り抜いた先。 ギリギリ刀が届く間合いの外には、着物のようなドレスに身を包み、はんなりとほほ笑む少女が居た。

妖艶とも形容できる怪しい笑みに、何故か背筋がゾクゾクと震える。


「何者ですか、見たところ魔法少女と見受けますが……」


「ふふ、ふふふふふ……怖いこわぁい、そないに睨まなくても、取って食いはしいひんよ?」


「待って待って! ラピリスちゃん、その人味方だから、刀しまって!」


今にも切りかかってしまいそうな私の前に、ドレッドハートが割り込む。

味方? それにしては今一信用しきれないような胡散臭い気配を感じるが……


「久しゅうなあドレッドはん、うちらの事話してへんかったん?」


「ごめんなさい、道中で話しておくつもりがすっかり忘れてましたー!」


「……ドレッドハート、そちらの方は?」


「ああん、ごめんね3人とも。 こっちの人はえっと、なんて言うか……」


「魔法局京都本部、()()()()十角 咲良(とおかど さくら)……魔法少女ロウゼキいいます、以後よろしゅう」


着物の裾を摘まみ、ぺこりと頭を下げる京都訛りの少女。

……はて、今代理局長だとかなんとかと聞こえたが気のせいだろうか?


「聞いての通りよ、こちらのロウゼキさんは京都魔法局の局長さん兼最年長の魔法少女、こんな見た目だけど二十歳越えてるベテラン幼女先輩よ」


「What's? どーみても私たちと同い年に見えるけどナー……?」


「その話はまた後でしよか、今はこの壁を越えたいんやろ?」


人当たりのいい微笑みを張り付けたまま、彼女がコンコンと立ち塞がる壁をノックする。

――――すると、叩かれた壁の一部にヒビが入り、瞬く間に崩れ落ちるとぽっかりと大きな穴が開いてしまった。


「ふふ、開いたぁ♪ ほな行こか」


「……どうやったのカナ今の?」


「企業秘密やなー、皆も待っとるしはよ集まらんと」


「おい誰が直すんだこれ、ボクか? ボクの役目か?」


さも何事も無く穴を潜る彼女は確かに大物なのかもしれない。

後に続いて穴を潜るが、壁の割れ目はかなりの厚みがある。 一体何をどうすればあんなノックで砕けるのだろうか。


「はいはい、こちら京都。 東北さんと合流してもうたよー、ピョンピョンはんはどや?」


『チャンピョンだよー!! んとね、平気! 今ね、()()()()()()とこだからー! 後で合流するねー、イェイイエーイ!!』


「あんじょうやってなー、ほなまた」


こちらまで聞こえるほどのボリュームで喋る相手との通話を切り、ロウゼキさんがこちらへ振り返る。

後ろでは不満げなドクターが潜り抜けた壁を修復中だ、修理が終わるまで彼女を置いて先に進むわけにはいかない。


「少し時間できたなぁ、ほな今のうちにお話しよか。 東京奪還作戦について」


「東京奪還作戦……? 待ってください、何時の間にそんな話が上がっていたのですか?」


「私達がドライブしてる間にねー……ごめんごめん、伝えるの忘れてた!」


ドレッドハートが気まずそうに頭を掻いて見せる。

舌を出して茶目っ気で誤魔化そうとしているが、かなり重要な事ではないのか。


「せやせや、あんたらんとこの局長はんが発した作戦に皆便乗したんよ? おかげさまで、全国からここに魔法少女たちが集まって来てはるん」


「突貫作戦も良い所だな、あの局長め……」


「ふふ、女の子助けるために必死なんよ。 ええやないの」


ヘルメットをかぶった小人を動かし、修復を続けるドクターが頭を抱える。

元はと言えば私の独断専行が原因だが、それがまさかここまで大事になるとは。


「ええどすか、うちらの目標は2つ。 1つは計4人の野良ネコたちを保護する事、そして2つが東京の奪還や」


「質問です、奪還と言いますが具体的には?」


「それはおいおい考える事にしとこか。 まずはおいたした子たちに“めっ”しないとあかんなぁ」


「“滅っ”しちゃう威力だけどネー……」


可愛く拳骨の仕草を見せるロウゼキさんに、ゴルドロスがぽつりと呟く。

確かに壁を砕くあの拳を喰らったらただじゃ済まない、しかし急な計画のせいかかなりいい加減だが大丈夫だろうか。


「……まあまず、お互いに実力確認しとこか? ほら、お出迎えもぎょうさん来てくれはったみたいやしなぁ」


ロウゼキさんの着物がはためくと、彼女の頭上から無数の魔物が飛び掛かって来た。

そうだ、ここは既に魔境東京。 ここから先は一瞬の油断も出来ない戦場だ。


「2人とも、援護はいるかい?」


「結構です、ここを抜けられなければどの道先はありません! 行きますよゴルドロス!!」


「あいあいサ、ドクターもさっさとそっちの作業片付けてヨー!!」


抜いた刀を勢いそのままに迫りくる魔物へと振り抜く。

数え切れぬほどの魔物の波を切り裂き、東京へ突入して初めての戦闘が始まった。

魔法少女チャンピョンはaABCa@村人Aさんから頂いたアイデアです。

Twitterにて読者募集の魔法少女企画やっているので、良ければご応募ください。

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