表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

奔走トラック ー作為的な異世界転生ー

作者: 九乃頭虫


「もしもし?」


《今日も良い標的が沢山だ、ざっと30件程・・・、一日で行けるかい?》


「俺を誰だと思っているんですか、余裕ですね。詳細送ってください」


《はーいよ、じゃ宜しくねー》


通話が切れる。それと共に、仕事の詳細が送られてきた。


(・・・なるほど、いつも通り若者が中心で・・・稀におっさんか)


詳細に一通り目を通した後、男は立ち上がる。


「今日も元気に轢いてくるか!」


彼は、トラック運転手である。が、ただの運転手ではない。無数に広がる異世界と、この現実世界の橋渡しを受け持つ"異世界トラック"の運転手である。


その数、実に無限を誇る異世界。それぞれの管理者は「暇潰し」「世界の均衡を保つ」「管理が面倒なので奴隷が欲しい」等々、様々な理由で他の世界からの来訪者を求めている。そうして、管理者達は現実世界に干渉し、都合の良さそうな人間を殺し、連れ去るのだ。だが、彼らにとって現実世界もまた異世界。知らぬ景色、知らぬ文明に惑わされ、間違えた人間を殺してしまうことも多々あった。そこで活躍するのが我らが異世界トラックである。


異世界の管理者達から呪いを受けたこのトラックは、轢き殺した人間を異世界に転生させることが出来る。現実世界に詳しい人間が操縦するため、轢き殺す人間を間違える事なく、的確に異世界にご案内できるという訳だ。この事業が発足すると、瞬く間に数多の異世界から依頼が届き、異世界トラックの運転手は引っ張りだこである。


(まずはご近所から・・・"九十九つくも 朱晴すばる"、22歳・・・ややこしい名前だな、いっちょ轢くか)


男は、アクセルを踏み込んで、トラックを走らせた。彼を轢き殺すため、最適な場所へ向かうのだ。


ーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーー


「あー・・・だる・・・」


俺の名前は九十九つくも 朱晴すばる、22歳、高卒。コンビニバイトでなんとか食い繋いでる半引きこもりだ。今日はバイトがないから、いつも通りPCに向かってオンラインゲームのイベントを走ろうと思ったんだけど・・・、妙にやる気が出てこない。


「こーいう時は、あれだな」


元気が出ないときはあれに限る。俺は、ちょっと足取りを軽くしてリビングに向かった。


「そう! 愛しのカップラーメーンッ!」


カップラーメン、それは独り暮らしの希望だ。芳醇な香り、そして直接脳味噌にクる味! 食べた後の罪悪感は官能的とすら・・・。


「っ!? そんな・・・!」


カップラーメンが入っている筈の段ボール箱を開けると、そこはもぬけの殻だった。馬鹿な、この俺がカップラーメンを切らすなんて!


「マジかよ・・・どうすっかな」


正直、今日外に出たくはなかった。せっかくの休みなのに外に出ようと思うか? けど、流石に背に腹は代えられない。カップラーメンがなければ、充実した休日はおくれないことだろう。俺は、カップラーメンを買いに行くことにした。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「暑っちい・・・最近気温おかしいんじゃねえの? 春の野郎引きこもりやがったな? 仕事しろよ・・・」


お前が言うなって突っ込みはNGな? そうして俺は、ちんたら歩いてコンビニに向かい、だらだらと買い物を済ませた。


「ふぃー、歩くのってこんなに重労働だっけ?」


久々に歩いて疲れたから、近くの公園で休むことにした。全く、年かな?


「にゃ~ん」


「ん? 猫だ」


休んでると、そばの茂みから、黒猫がすり寄ってきた。


「おーなんだなんだ、人懐っこいなー。ごめんなー食いもんは持ってねえんだー」


言いながら、そいつを撫でてやる。可愛かった、もふもふしてて。


「にゃあっ!」


戯れてると、黒猫が突然飛び出した


「あっ、逃げられた・・・って、おいおいっ! そっちは危ねえって!」


黒猫が飛び出した先は赤信号だ! 不味い、このままじゃあいつが轢かれちまう!


(どうする? 大声出しても止まってくれそうにねえよな・・・クソッ! 飛び出してくか?)


迷ってるうちに、向こうからトラックが走ってくるのが見えた。


「ええいっ、どうにでもなれ!!」


俺は、思いっきり地面を蹴って走り出した。あの猫を拾って、さっと走り抜ける! 大丈夫、50m7秒の俺なら行ける!!


「よしっ、もうちょい・・・っておわっ!?」


俺は、道路のど真ん中で転けてしまった。足元を見ると、拳くらいの石が落ちていた。おいおい、ついてないな・・・。でも、あの猫は無事みたいだ。


「え?」


あいつ、俺を見てる? 間違いない、あいつ、俺を見て笑っている!どういうことだ、まさか俺、あの猫にはめられたのか!?


俺はそのまま、意識を失った。


ーーーーーーーーーー


ーーーーーーーーーー


(一命様ご案内。せっかくの異世界だ、楽しんできてくれ)


男は、轢き殺したことを確認し、トラックに戻る。その途中、先ほどの黒猫が彼の肩に乗った。


「おう、クロ。今日もありがとな」


男は、笑いながら黒猫に餌付けする。黒猫は満足そうだ。


男の名前は"山崎やまざき 広史ひろし"異世界トラックの運転手。今日も何処かの誰かを轢き殺す。


彼に誘われた者達は、その先でどんな生活をするのだろう。物語として語り継がれるような英雄になるかもしれないし、案外、一瞬で命を落とすのかもしれない。だが、そこのところは異世界の管理者達に委ねられているので、彼の知るところではない。


『奔走トラック ー作為的な異世界転生ー』

君の町にも在るかもしれない、不思議な業者の物語。


これにて終幕。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 猫が飛び出してトラックにぶつかるところ、とあるボカロ曲を思い出しました(笑)
2018/05/31 17:14 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ