少しの猶予
「取れぬ……」
一つ質問だ。掃除時間、床と壁二枚の間に残った埃が地味に取れず、大変モヤモヤする。という経験をしたことのある者はいるだろうか?
今の俺がまさにその状態だ。
教室の隅にある埃が小指を使ってもギリギリ取れない。
「昨日爪を切るべきでなかったか……」
恐るべきマーフィの法則……
そんなこんなしていると、
「何……してるの……?」
と、背後から大分聞き慣れた声が聞こえる。
俺はサッと後ろを向き、こう言う。
「長里か。シャーペンかボールペンか……何かしらペンの類は持ってないか?」
「えっと……シャーペンなら……」
「NICE!」
差し出されたシャーペンをひったくり、自前のポケットティッシュで先端を包み、例の埃を取り除く。
「これでよしと。あ、シャーペンありがと」
「いや、別に……掃除中?」
「如何にも」
ティッシュをゴミ箱に捨てながら答える。
隕石のニュースが流れてからというもの、学校は登校禁止。県は避難警報。
そりゃそうだ。隕石が迫ってるっていうのに、平然としていられるのは、基本的には頭がおかしくなったか、もう諦めてるかのどちらかだ。
そんな状態だから教室は放置される。
「そして俺は、虫すら行き来出来るのか分からないのに不思議と汚れていく教室を
掃除していたと。大体二時間半くらいやってたかな?」
「隕石が降ってくるっていう中のうのうと……まぁそれはいいとして、あれの対処については大丈夫なの?」
「あぁ、神さんに相談したら、どうにかなりそうなくらいにはどうにかなってる」
「はぁ……」
「隕石落下まで後一週間を切った。もう昼間でも肉眼でハッキリと視認出来る程近くに来てるらしい。角度的にはまだここからでは見えないけど、着陸は丁度この学校のグラウンド」
俺は窓から空を見上げながら呟くように言葉を出す。
「雫は念のためって一旦此処から離れた、というか俺が避難させた。あんたは此処にいるってことは、もし俺が失敗しても恨まないと言えるということか?」
長里は少し長めの沈黙の後、この言葉を言ってきた。
「……私が君の立場だったら、恨まれたら怒る……
『自分がされて嫌なことはするな。』
昔の中国のえらい人はこんなことを言ってた。だから私は逃げなくてもいいかなって」
論理が少々飛躍してる気がしたが、言いたいことは伝わった。
「孔子の言葉を借りるか……
それで命を落としたとしても、か?避難した方が安全なはずだが」
「南アメリカに行っても、助からなかったら意味がないし。
『雪成君を信用してる』って言うよりは、『どこに逃げても無駄』って感じがしてね」
「まぁ、瀬西警官からも最小限の被害に抑えるように頼まれてるから、どうにかは
する」
そうして今日は別れて帰った。
「……寝るか……」
腹が減ったが、今はどうでもいい。飯は目が覚めたときに食えばいい。
そうして俺は眠りについた。




