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違う、そうじゃない

読んでみたかったけどほとんどなかったので書いてみました。

 日本ではなかなかお目にかかることのできない規模の荒野で、一人? つぶやいていた。


「違う、そうじゃない……」


 確かに、転生にはあこがれていたんだよ?


 やってもやっても、なくならない仕事。


 残業しても増えることのない、給料。


 年齢イコール彼女なしで何が悪い……。


 そんな俺だから異世界への転生にはあこがれていた。もっと言ってしまえば週に一度は転生を夢に見るくらいははまっていた。特に最初にトラックに轢かれて転生する小説を読んだ時は興奮したんだよなぁ。


 いきなり、主人公がトラックに押しつぶされて死んでしまうというインパクトのある、プロローグ。それを読んでからは、しばらくトラック転生の小説を読み漁ったものだった。


 そして、念願かなって俺は転生することが出来たみたいなんだけど……。違う、違うんだよ。あのバカ女神。トラック転生はあくまでトラックに轢かれて人間に転生することであって、トラック『に』転生することじゃないんだよ……。


 独り言が漏れてしまっても仕方ないよな?


 どうしてこうなったか納得はできない。でも、俺が軽トラに転生してしまったとい事実は変わることがないのだろう……。


※※※


「おめでとうございます。あなたは転生? する権利を得ました」


 目の前で銀髪碧眼の女神が何かのたまっている。ひどく抑揚のない喋り方で、明らかにお仕事です感が半端ない。俺の夢にしては珍しい。いつも見る夢ではハイテンション女神の系列が多いのに。


「黙ってないで何かしゃべってもらえますか? 話が進まないので。それとも勝手に進めていいですか? それなら楽でいいんで黙っててください」


 夢の中でくらい優しくしてほしいと思うのは間違っているのだろうか? もう少し柔らかめにお願いしたい。


「あぁ、あと夢じゃないですからね? いい年して異世界転生を毎週夢にみるとか面白気持ち悪いことをしていたみたいですけど」


「謝れ! たぶん1万人くらいはこの世界にいる、俺と同じことをしている人たちに謝れ!!」


 おっと、つい声を荒げてしまった。しかし、おそらくいる筈である同志たちの希望を面白気持ち悪いとは許容できない。


「いませんよ、そんな人。いてもたぶん10人くらいじゃないですか?」


「そんなことはない! あの島国をなめるなよ? 下手したら1万人じゃきかないかもしれないぞ?」


 夢に見るほどで無ければ、憧れている人は10万人いても驚かない。てかそれくらいいるんじゃない? 日本。


「嫌な……もとい、すごい世界ですね……。まぁそんなことはいいので話を進めさせてください。夢だと思って居ても結構ですが、あとで困るのはあなた自身なので、しっかりと話を聞いておくことをお勧めします」


 おい、あんた、これ以上話すのが面倒だから適当に流しただろ? 嫌なとか言うなよ、悲しくなってくる。


「まぁ、ここで話すことは多くはありませんけどね。まずさっき伝えた通り、あなたは転生をする権利を得ました。あなたの好きそうな魔法と剣がものをいう中世風な世界です、良かったですね。次に転生? する先ですが、この中から好きに選んでください」


 言外にさっさと決めろ、という雰囲気を出しながら一枚の紙を手渡してくる。


「……他のリストは?」


「ありません。このリストはあなたが転生可能、かつあなたの趣味嗜好を反映したものですよ?」


「せめて生き物のリストはないのでしょうか?」


 そう、渡されたリストに載っているのは基本的に機械類だけだった。リストの一番最初の方にトラックが並べられているのが趣味嗜好を反映した結果だとでもいうのだろうか?


「生前にあなたが積んだ功徳では生き物はちょっと、敷居が高いというか……。機械への転生? というのはもとにある輪廻の概念から外れているので功徳を積んでいなくても転生できるんですよ。一応意思も残りますし。どうしても生き物でと言うなら、微生物くらいならいけるかもしれませんが?」


「結構です……」


 微生物に転生してどうしろと言うのであろうか?


「一応オプションはつけられるので、それも含めて選んでくださいね」


 オプション、チートのことだろうか? おぉ、ちょっとテンション上がるな!


「チートですか? そのリストは?」


「だからあなたの功徳でチートなんて与えられるわけがないでしょう? オプションはオプションですよ。裏面に書いてあります」


 ……。裏面に書いてあったのはカーナビやタイヤのオプションだった。本当に車を買う時のオプションでしかない。

 

「黙ってないで早くしてくださいよ。もうすぐ定時なんですよね。今日はデートだから時間を過ぎたら帰りますからね、私」


 どこまでお役所仕事をするつもりだこの女神。


「ちなみに、決められなかった場合は?」


「そりゃ死にますよ。死因は睡眠中の心筋梗塞ですね。普段から不摂生な生活をしているからそんなことになるんですよ?」


 もう、なんだろう。とりあえず一発ぶん殴ってやりたい気持ちを押さえつける。そんなことをして、そのまま死ねと言われてもたまらないからな。


 リストの中にある中では軽トラックやスポーツカーなどが一番よさそうなんだけど、どうしようかな? 炊飯器とかに転生したところでどうにもならないだろうし……。


「ちなみに、今から行く世界は道の舗装はされていますか?」


「中世程度の技術レベルなので、まったくないとは言わないですけど。お察しですね」


 だめだ、これでスポーツカーを選択したら身動きが取れなくなりそうだ。実質軽トラ一択じゃねえかよ。女神が足をゆすり始めたのでもう適当に決めてしまおう。


「もう、軽トラでいいです。オプションは……」


  オプションの注文まで終わると女神は書類にいくつかサインをして、張り付けたような笑顔を作る。


「これから貴方を転生させます。それではよい来世? を」


 それだけ言うと、急に周囲が輝きだして周りが見えなくなった。というかあの女神さっきからちょこちょこ転生とか来世とかいう単語の後に『?』をつけるのやめてほしい。


 光が収まった後には、荒野の真ん中に残された一台のトラックがあった。


※※※


 回想を終えてみても何も事態は進展しない。ぶっちゃけ身体? の動かし方もいまいちわからない。何故なら体がトラックだから。



 こうして俺はトラック『に』転生を果たしたのだった。色々考えなければいけないことは多いけど、ちょっとだけ泣いておこうと思う。くそ、ウォッシャー腋がライトにしみる。


 自体は進展しないけど、大切なことだからもう一回言っておこう。カーナビのスピーカーから俺の声が流れる。


「違う、そうじゃない……」

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