第一話 目指す場所
「ねえおとうさん! もうすぐ?」
「まだつかないよ、あともうちょっとかな」
となりで妹が前に乗り出しながら、キラキラと目輝かせて声を上げる。
車を運転する父さんの肩口からひょっこりと顔をのぞかせて、イルカのぬいぐるみをしっかりと抱きながら、まだなの?まだ~?とせかしている。
それを楽しそうに相手しながら父さんは車を走らせる。
母さんは椅子を少し倒して横になっている。朝早くから弁当を用意して朝の支度をしてもう二時間くらい車に乗りっぱなしだ。妹がはしゃぐもんだからちょっと疲れたのかもしれない。でも、妹のはしゃぐ声に笑っている。
夏休み。
家族みんなで水族館のイルカショーを見に行く。妹ががんばって家のお手伝いをして、ねだりにねだって実現した。
楽しいお出かけ。
に、なるはずだった。
「あ……」
「ん? どした?」
「とらっく」
「そうだなー」
そりゃあ道路なんだから、トラックの一つや二つ通るさ。だから、横を流れていく外の景色を見ながら、そっけなく俺は言った。
「ねんねしてるよ?」
「は?」
振り向いた時、もう、目と鼻の先だった。
ぶつかる音、ブレーキ、揺れる、信号、赤……車……
~~~
「―――っ!!」
飛び起きるように目が覚めた。
「はぁ……はぁ……また、か」
溜息といっしょに吐き出すようにつぶやく。
ガタガタと揺れる馬車の中で荷物を背に寝入っていたのだ。
あの夢。
事故の夢。
俺が死んだ夢。
沈んだ気分を何とかしようと背筋を伸ばす。
俺がいた町からもうどれくらい経ったかは分からん。ただ、背中がバキバキと音を立てるくらいにはずっと走ってきたらしい。
「んん~~~……ふう」
「おうボウズ、起きたか?」
「ん、ああ……うん」
外から中年っぽい男が声を掛けてくる。さっきの音で分かったのかもしれない。
前後の幕が開きっぱなしになってて風通しがいいから、汗が滲んだ体に心地いい。
「いいタイミングだな、ほら、あれだよ」
「おお、でっけぇー」
御者台に乗り出して進行方向からやや左を見る。
高い城壁に囲まれ、中央に馬鹿でかい城がそびえる。
あちらこちらから狼煙のように上がっているのは鍛冶屋か宿屋か。
国の中心ってだけあってそれだけで活気があるってのが分かった。
「あれが王都セインハウルだ」
「あれが、王都」
エイムリス十国同盟の中心、王都セインハウル。
「おめえさん、騎士学校に入るんだって?」
「ああ」
「じゃあ、あれだな」
御者のおっさんが王都を指差すが距離が遠いから何処指してんのか曖昧過ぎる。
「城の隣にあるやつ?」
なんとなく城の次に目立つ建物を答えた。
城を小さくしたような豪奢な建築物で、広さなら城といい勝負かもしれない。
「あれもそうだがなあ、おめえさん貴族じゃあねえだろ?」
「そうだけど、学校って二つあんの?」
あれも、と言うからには騎士学校は二つ以上あるらしい。
「ああ、あっちのリノハウル城の隣にあるのは王立中央騎士学校だ。所謂お貴族様専用の学校だよ」
あれリノハウル城っていうのか初めて知った。ハウルハウルって言うから歩き出すイメージが頭ん中にもわもわと浮かんでくる。
ていうか貴族だけの学校かよ。そりゃあ豪華な造りしてるわけだ。
「じゃあ俺が入学するのってどこ?」
「貴族じゃねえならおめえさんはあっちの方だな」
徐々に近づいてくる城壁の上あたり、近づいたせいでほとんどの建物が隠れたけどそれでも頭一つぽんと飛び出している建物がある。
「あれ?」
「そう、王立第二騎士学校だ」
言い終わる頃には完全に壁に隠れてしまってよくは見えなかったけど。城門から入って結構近いな。
そして城壁の陰に入る頃、門の近くにいた鎧を着た兵士に呼び止められる。検閲かな?
近づいてくる兵士におっさんが挨拶をする。
「おつかれさまです」
「おつかれ、商売?」
「ええ、これ、許可書です」
「ん、確かに、じゃあ一応荷物調べるな、おい」
「は!」
手慣れた感じに話が進む。おっさんが言うには、王都と俺がいた町アルセムを主に行き来して商売してるらしいから顔なじみなのかもしれない。
よくみるとアルセムでも見たことのある鎧を着ていた。胸には青色で竜の翼の前で剣と杖が交差した紋章がある。王都の騎士だ。
気さくというか砕けた感じに軽くあいさつを済ませ、部下と思われる兵に荷物を調べるよう促す。
勝手知ったる感じでポンポンと手続きが済んでいく。
開いたままの門の向こうを見ると、多くの人が行き来している。
たったそれだけなのになんというかワクワクしてきた。
「そっちの少年は?」
最初におっさんに話しかけてきた騎士が、顔をのぞかせた俺に気が付いた。
「この子も王都に向かうってんで一緒に連れてきたんでさ」
「どうも、今日騎士学校に入学しに来たんです」
一応先輩に当たる人だからちゃんと挨拶はしておかなくちゃな。
「ほほう学校に、てことは俺の後輩になるわけだなぁ?」
「そういうことですかね」
うんうんとなんか頷いてる。
「まあ騎士になるってのは簡単な事じゃあねえが、諦めなかったら何とかなるもんだ。そこで騎士の先輩としてひとつ」
「はあ」
おほんっ、といってたたずまいを直す騎士さん。人差し指をぴんと伸ばして一言。
「無理だと分かっていても足掻いてみろ、そういう時こそ妙案が浮かんだりするもんだ」
「あはは……はい、覚えときます」
ようするに、結局のところ諦めんなよと言う事だ。
言う事変わってなくね?
「ああそうだ、少年、通行許可書か入学許可書はあるか?」
「ええ、え……と、はい、これっすよね?」
手荷物の中から1つの書状を取り出す。騎士学校への入学許可書だ。
これが王都への通行許可書にもなると、俺を送り出してくれたとある騎士に渡されたのだ。
「おし、確認した。がんばれよ」
「はい、ありがとうございます」
先輩騎士からの激励に礼を言って許可書を受け取る。
それと同じくして荷物確認をしていた騎士が戻ってくる。
「確認良し、不審物はありません」
「ん、通って良し」
そう言われると、おっさんが一礼して馬車をゆっくりと進ませる。
「そうだ、少年! 名前を聞いといていいか!」
門をくぐりぬける辺りでさっきの騎士が聞いてくる。
後ろに遠ざかっていく騎士に向かって大きな声で言った。
「赤穂龍真です!」
初めてですが楽しんでいただけるよう頑張ります




