原因~2~
「――なっ」
全く身に覚えのない指摘に連夜はうろたえる。
「何を馬鹿なことを――」
「馬鹿なこと……と思うなら、彼の魔術源を調べてみるといい。面白いことが分かるだろう」
男は2人を嘲笑う。
「そら、今度は少年から風が吹きだしたぞ」
その言葉に結歌は連夜を振り返るが、何事もない。
その一瞬の隙に乗じて男は何やら魔術を使い、その姿をくらました。
「転移の魔術……あの男、魔術の腕は半端ではないみたいですね」
口も達者なようですが……と結歌は呟く。
「あの男の言うことなど信用する必要はありません、次こそはあの男を捕らえて」
「――結歌」
むりやり作ったかのような笑顔に連夜は言葉をかける。
「……なんでしょう」
「俺の魔術源を調べて欲しい」
「あ……あの男の言うことを信じたのですか? そのような必要はありません、人
間そのものが『魔』の原因などと」
前例がないわけではない……だが決して多くはない事例だ。
「あれは、あの男が逃げるための方便です、きっと、いいえそうに決まっています」
「――結歌」
声を荒げた連夜にびくりと結歌は肩を震わせる。
「貴方……わかっているのですか? もし貴方が『魔』の原因だとしたら、私は貴方に対処をしなければなりません、最悪あなたを抹消する羽目になるかもしれません」
「わかっている……それに、そうはならないかもしれないだろう」
「貴方は……いえ、いいです、貴方の魔術源を解析しましょう、ただなるべくリラックスをして欲しいので、一度家に戻りましょうか」
望月邸の洋間で、二人は紅茶を飲んでいた。
こうしてここで話すことももう何度目になるだろうか。
――カチャリ
と、結歌がティーカップをソーサーに置いた。
「さて、少しはリラックスはできましたか?」
「あぁ、大丈夫だ」
連夜も同じくカチャリと、カップを置く。
「それでは、これから貴方の二つの魔術源を解析します、一つはあなた自身のもの、そしてもう一つは未だ封印された『魔』の魔術源、あの男の言葉を信じるのならばこの二つのどちらかに問題があるはずです」
あくまで信じるのなら、ですけど。と最後に付け加えた結歌は、腕まくりをして連夜の座る椅子へと歩み寄った。
「では、解析の術式を開始します、なるべく力を抜いてくださいね」
そう言うと結歌は連夜の胸に手を添えた。
「術式――起動」
結歌の添えられた手から魔力が流れ込んでくる。その違和感に思わず抗いそうになるがそれをこらえ結歌の魔力を受け入れる。時期に流れ込んでくる魔力は自らの胸の中心、魔術師のみが自覚、感知できる魔術源へと到達した。
「解析――開始」
他人に体の奥底をまさぐられるその不快感に連夜は歯を食いしばって耐える。
「一つ目に魔術源には異常は見られませんでした……このまま二つ目の魔術源を解析します」
その言葉の後、結歌の魔力は連夜自身の魔術源の更に奥、『魔』の魔術源へと手を伸ばした。
「解析――開っ」
その言葉を言い終わることなく、結歌は目を見開いた。
「レジストされた――? いえ、でもこれは」
連夜自身の魔術源にはなんら異常はなかった。だが、『魔』魔術源に解析の手を伸ばした瞬間まるで弾かれるかのようにレジストされた。これはつまり。
「封印下にも関わらず……魔術源が活動している? いいえ、それだけではない」
そう、ただ活動しているだけではなく『魔』の魔術源があまりに強大すぎるせいか封印の下からその魔力の大部分が漏れ出しているのだ。
ただ漏れ出しているだけならば大した問題ではない、だが強大な魔力の前に初めは強固だったはずの封印術式に綻びが出ているのだろう。漏れ出す量が多すぎる、これならばあの黒い風の『魔』が発生するのも頷ける。なにより。
「あの『魔』とこの魔術源……魔力パターンが同じ……ですね」
おそらくあの男はこの魔力パターンを読み取って確信したのだろう。
そしてこれは連夜を処置しなければならないことを意味していた。