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対策


「見苦しいところをお見せしてしまいました」


 目元を赤く晴らした結歌が恥ずかしそうに口を開いた。


 あのあとしばらく結歌が泣き止むことはなく、嗚咽を漏らし、子供のように泣きじゃくる結歌を前に連夜はオロオロとうろたえることしかできなかった。


「気にしないでくれ……俺は気にしてないから」


 少し居心地が悪そうに連夜が言う。


「で、では話を戻しますけど」


 居心地の悪さを誤魔化すかのように結歌が声を上げる。


「全て思い出したと言いましたけど……それはあなたの魔術源の封印が解けた、ということでいいのですか?」


 連夜の記憶と魔術源を封印した理由は理解できた、それは連夜を『魔』の意識の侵食から守るため。ならばもう一度封印を行わなければならないのではないか。


「もしそうなのであれば、ここでもう一度私が封印処理を行いますが」


「いや、その必要はないみたいだ」


 だが連夜の口から放たれたのは否定の言葉だった。


「それは、何故か聞いても」


「昨日解けた封印は俺自身の魔術源だけみたいだ、あの狸親父ども、俺が命の危険に陥った時に封印が解けるように細工をしてたみたいだ」


 つまり『魔』の魔術源は現在も封印されている、ということになる。


「その言葉を信じてもいいのですね?」


「魔術師にとって自分の魔術源の把握は基本だろ? 問題ないさ」


 そういい連夜はにっこりと笑った。


「では……これからどうするかを話し合いましょう」


 そう、これからをどうするか、それこそが現在の最大の問題である。


「昨今出現中の『魔』と、どうやらそれをの原因と思われる一人の男」


 彼らの対策を講じなければならないやっかいな障害である。


「おそらく、今後も十六夜君が狙われる可能性は少なくないです」


 あの男は連夜の魔術源を狙っていた、今後も襲われる可能性はあると考えた方がいいだろう。


「よって、十六夜君は常に私と行動を共にしてもらいます。さしあたっては私の家に泊まりなさい」


――は?


「待て待て待て、どうしてそうなる」


「どうしてとは」


 結歌は心底不思議そうな顔をして問い返す


「だってそうだろう、なんでいきなり泊まることになるんだ」


「これが一番手っ取り早いからです。いいですか? あなたへの奇襲を防ぐためなら私と行動を共にすることが一番確実なのです。この家には探知に防護の結界が貼ってありますから、迎撃ならばこの家が最もやりやすいのです。私と行動を共にしていれば貴方が襲われたとしてもすぐにカバーにいけますし。と、これが理由ですね、理解できましたか」


 連夜と結歌が別々にいた場合、結歌のみを黒い風で足止めしてその間に連夜を襲うことだって可能だ、それを防ぐために結歌は最も効率的な手段を取ったにすぎないのである。


「――わかった……けど結歌結歌は本当にそれでかまわないのか」


 ただ、理屈では理解できても連夜とて一人の健全な男子である。同世代の女子の家に泊り込むなど感情では納得がいかないのだ。


「何を今更、小さい頃はよく泊まりに来ていたではないですか」


「あれはまだ子供だったから良かったんだ!」


 必死な連夜の様子に結歌は小さく笑いを漏らした。


「あぁ、そうでした、これは言っておかないとですね」


「なんだよ」


 憮然とした様子で連夜が言葉を返すが次の言葉でそれすらもすぐに崩れるのであった。


「今両親はロンドンに渡っているので、家には私一人ですよ」


「――なんっ」


 結歌はいたずらが成功した子供のように笑みを零すのであった。




 数時間後、私物の詰まったバッグを肩から下げた連夜は望月邸の前に立っていた。


 連夜は大きく息を吸い込むとインターホンへと手を伸ばした。


――ピンポーン……。

 

 その音が聞こえるが否や望月邸の扉が開いた。


「あら、今度は思い切りがいいのですね、てっきりまた十分くらい待たされるのかと思いました」


 いかにも心底驚いたと言った顔を取り繕った結歌が言った。


「――悪かったな」


「いえいえ、悪いなんてありませんよ。改めまして、ようこそ望月家へ」


 にっこりと少し悪戯っぽく微笑んだ結歌にしばし連夜は見惚れてしまうが、すぐに気を取り直す。


「どのくらいになるかわからないけど、よろしくな」




――部屋はこちらを使ってください


 と通された部屋はやはり一般の家より豪奢な作りになっている……ように思えた。


 思えた、というのは連夜が比較できるほど家屋に詳しくないことと、高級な部屋というものが見慣れないことからなのだが、そう感じるだけでもひどく落ち着かない気持ちになる。


 結歌からは荷物を置いたら洋間に来るように言われている。連夜はその言葉に従い洋間へと足を運んだ。


「あら、思ったより早かったですね」


 結歌はいつものように椅子に椅子に腰掛け紅茶を優雅に飲んでいた。


「どうぞ、立ったままだと話もしにくいでしょう、座ってください」


 連夜は遠慮なくその言葉に甘えることにした、結歌の対面に腰掛け、紅茶を一口口に含む。


「さてと……私は当面の予定を話そうと思うのですが……よろしいですか?」


 無言で頷いた連夜を確認すると、結歌は紅茶を一口飲み下した。


「今回の『魔』とそれをコントロールしていると思われるあの男についてですけど、これについては当分受身に回るしかないでしょう。私達には『魔』が発生する前にそれを押さえる手段はありませんし、男の消息も不明です。なので、私は今までどおり『魔』が発生したらそれに対処します。それと並行して十六夜君か、私の魔力を狙って現れるあの男を捕縛、『魔』の核について聞き出します。場合によっては手荒な手段を取らざるを得ないですが、それは仕方ないでしょう」


 対策、と言うにはあまりに後手に回った作戦である。いや、後手に回らざるを得ないと言った方が正しいか。それほどまでに今回の騒動は情報が不足している、これではまともな対策など講じようがなかった。


「『魔』の発生についてはあらかじめ私が町に探知用の結界を張っておきましたので大丈夫ですよ」


 連夜が『魔』が発生したときはどうやって察知するのか質問したところ、結歌がそう応えた。


「十六夜君の記憶は戻った……とは言っても魔術源を封印されたのは十歳の時……大した魔術は使えないと考えたほうがいいでしょう……。なので、以前渡したのと同じタリスマンを渡しておきます、これで何かあっても私が助けるだけの時間は稼げるでしょう」


 改めて、渡されたタリスマンを首から下げる。以前もらったものは壊れてしまったことを伝えると、仕方ありませんね、と結歌は笑った。


「では、以上です。対策と言える程まともなものではありませんけどね」


 そう言って結歌は紅茶を飲み干した。


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