勝利
どうも。9話目の投稿です。
さて、どんどん楓の事情が深くなっていきますね。
楓は一体何者なのか。
敦司の家のプレハブに戻っても、七人はまだ興奮していた。
「あんなにうまく引っかかってくれるなんてな。」
絢斗は笑いながら言った。
「いや~、牛糞に落ちた時は本当ヤバかったわ。な、譲。」
「見事に落ちていったからな。漫画かと思ったくらいだ。」
敦司と譲は、またハイタッチをした。
「こっちも聴診器は絶対引っかからないと思ったのにな。」
「ね。賢そうに見えたのに超バカだった。」
絢斗とみず穂はあの時のことを思い出して笑っていた。
「うちらも頑張ったよね、やっちゃん?」
「うん、めっちゃ投げまくったよ。」
穂奈美と奈恵子はあの時、上の階から爆竹を大量に投げつける役をやっていた。
「それにしても、最初は楓は連れていかないはずだったのに、結局ついてきちゃったよな。」
「皆さんが頑張っているのに黙ってお留守番なんてできません。」
楓はフンッと胸を張った。
「根性あるよなホント…。」
敦司は苦笑いを浮かべた。
「で、これでしばらくは大丈夫なの?」
みず穂が楓に向かっていった。
「しばらくは向こうからは手を出してこないと思います。あの二人も、神主さんにはこのことは報告しないでしょう。」
「報告しないってなんで言い張れるんだ?」
譲が訊ねる。
「今回は失態が大きいからですよ。ただの人間に惨めにやられましたなんて恥ずかしくて言えません。下手すれば守護神解雇です。」
「確かにそれはダサい」
奈恵子は少し笑いながら言った。
「よし。一段落ついたし、この後どうする?」
絢斗は皆を見回して言った。
時計を見ると、まだ十四時だ。これで解散は早すぎる。
「このまま遊ぼうぜ。詩好と龍駆はくるかな?」
「聞いてみろよ。」
絢斗に言われて、敦司は二人に暇かどうかメッセージを送った。
しばらくすると返信が来た。
「お、二人とも来れるみたいだ。」
「え、てことは全員集合じゃん。」
久しぶりに全員が揃うことになった。
「にしても、龍駆が来るなんて珍しいな。」
「あの…そのリクって人って誰です?」
楓は首を傾げた。
「あ、そうか。あの時は龍駆いなかったんだっけ?」
「そうだったそうだった。楓ちゃん。もう一人いつメンでいる人なんだけど、来たら紹介するね。」
「は、はい。」
穂奈美に言われて、楓は少しワクワクした。
二十分くらい経った頃、詩好がやってきた。
「うぃっす~。」
「お久~。」
敦司と軽く挨拶をして、プレハブに入る。
「あ、楓ちゃん!久しぶり!」
「久しぶりです!」
入って早々、楓と詩好はハグを交わす。
「愉快な奴らだねぇ。」
絢斗は呆れていた。
敦司がドアを閉めようとした時、お~い。と声がした。
「閉めないでくれよ。」
「おぉ、龍駆。久しぶりだな。」
「そうだな。」
この少年―――山口 龍駆も、絢斗達いつメンのメンバーだ。
高校三年になってからいろいろと予定が合わず、敦司とは何回かあったことはあるが、他のいつメンに会うのは本当に久しぶりだった。
「そうだ。新しいメンバーを紹介しないとな。」
敦司はそう言って龍駆を中にいれる。
「新しいメンバー?」
「私です。」
ヌッと楓が龍駆の前に現れた。
「うわぁ!びっくりした!」
「私、八雲 楓です。よろしくです。」
龍駆が驚いていても、楓は構わず自己紹介を続けた。
「えっと。俺は山口 龍駆。よ、よろしく。」
おずおずと自己紹介を交わした。
「いろいろと事情はあるんだけど、ゆっくり話すよ。」
穂奈美が言った。
龍駆はまだ戸惑いながらも楓の事情をみんなから聞いた。
事情を話し終えると、その後は作戦成功のパーティみたいなものが開かれた。
パーティといっても、棚の中に溜めてあるお菓子やカップ麺、ソフトドリンクしかなかったが。
それでも夜中の八時過ぎまでは皆で盛大に盛り上がった。
やがて、皆各々が家に帰っていくと、プレハブに残ったのは絢斗、敦司、譲、穂奈美、楓の五人になった。
「今日は楽しかったな~。」
敦司がそういいながら、布団を人数分運んでくる。
「ホントそれな。久しぶりにみんなで盛り上がったよね~。」
穂奈美も敦司が運んできた布団を敷きながら言った。
「ちょっと待て、この後この五人で泊まるのか?」
譲は、現在当然のように行われてる作業に疑問を持った。
「ん?そうだけど?何をいまさら。」
絢斗はキョトンとした顔で言った。
「いやいや、楓と俺たちはともかく、穂奈美まで?」
「そうだけど?」
穂奈美もキョトンとしてる。
「いいのかよ。」
「夏休みだし、問題ない。」
譲はガクッと肩を落とす。
そうこう言っている間に布団は敷き終わり、皆寝る体制に入った。
「じゃあ寝るか。おやすみ。」
「おやすみ~」
そう言って皆眠りに入った。
だが、楓は一人考えていた。
(皆さんに伝えた方がいいのでしょうか…。いや、もうしばらくは皆さんともっと遊びたいです。)
ふと、頬に暖かさを感じる。
手で触ってみるとそれは涙だった。
「どうしてッ……。涙なんか流しちゃいけないのにッ……。」
楓は静かに涙を流した。
他の四人に気付かれないよう、必死に歯をかみしめながら。
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