捜索者
どうもどうもです。
今回は狛犬サイドのお話です。
炎天下の中、たった一人の人物を探し出すために彼らは歩き回っていた。
「あいつがこっちに来てから一週間たつのに、手がかりも見つかんねぇ。」
男は暑さに疲れ、道端に座り込む。
「狛犬とは言っても、狐を追うのは厳しいなぁ。」
この男――率土 海は人間ではない。
ここら辺にある、率土神社という神社の守り神だ。
この神社は、二匹の狛犬によって守られている。その弟がこの男だ。
「こら、何を休んでいる。」
「げっ、兄者!」
不意に、海の兄である率土 天が姿を現した。
「こうして休んでいる間に、楓はどんどん我々に浸食してくるんだぞ。」
「そうは言ってもよ、情報がなきゃ探しようがないさ。」
海は溜息をつきながら言った。
「大体さ、別に狐一匹入れるくらいよくね?八雲神社ってとこ潰れて追い出されたんだろ?」
「お前は本格的なバカだったのを忘れていたよ。」
天は憐れむような目で海を見た。
「んだと!」
海は爪を鋭く伸ばして睨んだ。
「短気な奴だ。いいか?浸食されるということは俺たちが追い出されることになるんだぞ。」
「え?」
海はそのことを初めて知った。
「守護神としての心得を忘れたのかお前は。」
天は呆れていた。
「心得なんて、こんな信仰心のない神社で覚えてても無駄じゃねぇか。」
海はうつむきながら言った。
「まったく。ほら、一回これ読んどけ。」
そう言って、天は海に一冊の薄いノートを渡した。
そこにはこう書いてあった。
一、守護神は滞在する神社をいかなる外敵からも守り抜くこと。
二、守護神の力は、参拝する人間の信仰心の強さによって左右される。
三、自身が滞在する神社が滅びた場合は、人間として生きてゆかねばならない。
四、堕落した守護神は、他の守護神がいる神社に同調することで再び守護神に戻れる。
五、乗っ取られた守護神は人間として生きてゆかねばならない。
という内容だった。
「なるほど。つまり、楓に乗っ取られたら俺たちはただの人間になると。」
「そうゆうことだ。居場所も何もない人間にな。」
「やばいじゃん!!」
「だから最初から言ってるだろう。」
海はやっと事の重大さがわかったみたいだ。
「なら、早く見つけ出そう!」
海は慌ただしくバタバタしている。
「落ち着け。」
天は海の首元を掴みあげて制した。
「同調はそう簡単ではないから、時間はあと一か月くらいの猶予がある。がむしゃらに探しても進展はしないんだ、一旦神社に戻ろう。戻って捜索ルートを考えるんだ。」
天はそう言うと海を離し、スタスタと神社に向かって歩きだした。
「ま、待ってくれよ兄者!」
海も後を追って走る。
神社に着くと、鳥居の柱に何かが刺さっていた。
「何だこれは?五寸釘か?」
見ると柱には、手紙の上から浅く五寸釘が刺さっていた。
「誰からの手紙だ?」
海は少しワクワクしているようだ。
少しは怪しめと天は思ったが、口には出さなかった。
五寸釘を引き抜き、手紙の封を切ると中にはこう書いてあった。
『我ヲ見ツケタクバ来イ。8月15日正午、廃工場ニテ待ツ。 楓』
という内容だった。
「向こうから仕掛けてきやがった!」
海は興奮している。
「いや、ほとんど人間のあいつがわざわざ自分から仕掛けるか?」
天は自分に言い聞かせるように言った。
「でも、このことを知っているのは俺たちだけだろう?」
「確かにそうだが…。」
怪しい。どう考えても勝算がないのに呼び出すか?
確かに、俺たち二人を無力化すれば同調が楽な作業になるが、不可能なはずだ。それをなぜわざわざ自分で仕掛けるのかが分からない。
「罠か?一体どんな?」
「兄者、今まで手がかりもなかったんだ。たとえ罠でも行くべきだぜ。」
海の言っていることはもっともだ。
今までみたいに地道に探すよりはいいかもしれない。
「よし、ならその誘いに乗ってやるか。」
8月15日。今から三日後だ。狐女はその日何をたくらんでいるのだろう。
誤字、アドバイスがあればコメントください。