今後
楓がいつメンに加わった後、絢斗、敦司、穂奈美、楓の四人は敦司の家にあるプレハブに一旦集まった。
それはこの後どうしていくのかを決めるためだ。他のメンバーは時間の関係上家に帰ることにした。
今の時刻は夜中の十時。男子はともかく、女子は家に帰らないとまずい時間帯だ。
譲は次の日の朝が早いらしく、さきに帰った。
「で、この後楓さんはどうするんだ?」
敦司が話を切り出した。
楓が同調するまで仲間に入るとはいえ、今後どうするのかはさっぱりわからない。
「同調するにはここら辺に長く滞在する必要があります。なので、それが完了するまで普通に人間として生活すればいいだけなんです。あと、さん付けはしなくていいですよ。」
「それだけでいいならわざわざ仲間に入る必要あるのか?」
絢斗は首を傾げながら訊いた。
「あなた達に見つかったせいで、単独だと危ないんです。知ってしまった人が誰にも言わない保証はないので。」
「俺らのせいなのか……」
「いえ、隠れるところがあった方が安心なので、これは結果オーライです。」
三人はホッと息をつく。
きっかけは些細な好奇心からだったので、そのせいで迷惑になるのは申し訳ないと思ったからだ。
「どのくらい滞在するんだ?」
「どれくらいかかるかわかりませんが、夏が終わるまではかかると思います。」
割と長い期間だ。まだ夏休みが始まって二日しかたってない。大体一か月はかかるようだ。
「とりあえず、同調が終わるまで改めてお願いするです。」
「お願いされるのはいいんだが、寝るとこはどうするんだ?」
「誰かの家でよろしければそうしてもらいたいです。夏とはいえ野宿はそろそろつらいのです。」
楓はうつむきながら言った。
いくら夏とはいえ、何日も野宿は確かに辛そうだ。
「まぁ、そうなるよな。じゃあ穂奈美の家は大丈夫か?」
「ん、大丈夫だと思うけど…」
「てかさ、それなら今日ここに泊んね?」
絢斗の発言に敦司と穂奈美は驚いた。
「え、それいいの!?」
いくら楓が狐とはいえ女に変わりはない。男女が一緒の部屋に泊るのは流石にどうかと思った。
「私はかまわないですよ?」
「「いいのかよ!」」
二人はまるで漫画のような突っ込みを入れた。
「この三人だったら一回一緒に泊ったこともあるし、問題ないだろ。」
確かにこの三人は、初日の出を見ようといって一回このプレハブに泊ったことがある。泊るといってもほとんど徹夜に近かったので一緒に寝たわけではない。絢斗と敦司に関しては完全に徹夜した。
「じゃあいいか…。穂奈美は大丈夫なん?」
「うちは泊り行くぶんには基本大丈夫だから。」
結果的に、今夜は四人で泊まることになった。不安があるわけではないが、どうなるのやら…。
「とりあえずさ、帽子はずそうか。」
「な、なんでその必要があるんです!?」
なぜか楓は慌てている。絢斗達はすでに一回見てるから隠す必要はないはずだが。
「いいじゃんいいじゃん。ほれほれ。」
絢斗はさっと帽子を取り上げる。
すると、狐の耳がぴょこんと出てきた。
「ん~……」
三人はマジマジと耳を見つめる。
「な、なんですか?」
「一つ気になってな。お前には人間の耳はついているのか?」
「はい?」
絢斗の質問に他の二人はうんうんと、首を縦に振る。
「ちょっと失礼。」
敦司は楓の耳元の髪を手で分ける。
「おぉ!あるぞ!」
そこには絢斗達と同じようにちゃんと耳がついていた。
「マジか!てことは耳が四つも付いてんのか!」
「すごい!それって全部ちゃんと聞こえてるの!?」
三人はすごく興奮している。楓は、勢いに圧倒されそうになっている。
「お、落ち着くです!耳はちゃんと全部聞こえてますし、四つあるから聴力は人より優れているんです。」
「なるほど…。どうですか、リアル獣耳は?」
敦司は二人の方を向いて言った。
「めっちゃかわいいです。」
「素晴らしい。」
「だよな。」
三人に言われて、楓は真っ赤になっている。
「もう一ついい?」
今度は穂奈美が質問した。
「尻尾はどんな感じなの?」
「し、尻尾ですか?」
楓は腰の辺りを手で押さえた。
「そういえば、あの時は尻尾見てなかったな。」
「尻尾はその~……。」
なにやら恥ずかしそうにもじもじしている。
「なんだよ。もしかして尻尾は性感帯なのか?」
「な、なんでそれを!?」
「あ~俺今まずいこと言ったわ。」
敦司は冗談で言ったつもりなのに、笑えない状況になってしまった。
「お前はホントに隠し事下手だよな。」
絢斗は笑いながら言った。
「え~、じゃあ見せてもらうだけでも!」
穂奈美は食い下がらない。
「う~…見せるだけなら。」
しぶしぶ楓は着物を少しずらして尻尾を出した。
もふっとした感じの少し大きめの尻尾だ。
「うわぁ!すんごくモフモフしたい!」
穂奈美は目を輝かせてる。
「そ、それはちょっと…。」
楓は顔を真っ赤にしてもじもじしている。
「そうだぞ穂奈美。まだ深夜じゃないからそうゆうのはダメ。」
敦司は穂奈美を手で制した。
「にしてもすごいなこの尻尾。」
不意に絢斗がサッと楓の尻尾を撫でた。
「ひゃん!」
楓はいやらしい悲鳴を上げる。
「おいぃ!俺の話聞いてなかったの!?」
「いや~、つい」
絢斗は笑いながら言った。
「ずるい!うちも!」
そう言って、穂奈美は楓の尻尾を顔に当てた。
「ちょ、やめて…あん!」
はたから見ればただ尻尾を触っているだけなんだが、何ともエロい雰囲気だ。
「はいストップストップ!R-18みたいなことは禁止!」
敦司は手を叩いて中断させる。
「とりあえず今日は寝よう。もう0時になるぞ。」
いつの間にか随分と時間が経っていた。
「深夜のテンションということでもう一回尻尾を…」
「却下。これ以上はいけない展開になりそう。」
絢斗が言い切る前に敦司が言う。
楓は尻尾を隠しながらガタガタ震えている。
「布団持ってくるから、絢斗と穂奈美は手伝え。」
「は~い。」
「しょうがないなぁ。」
二人はしぶしぶ敦司の後についていく。
三人が布団を持って帰ってくると、四人は布団を敷いて横になった。
「寝る時もその着物で大丈夫なのか?」
「大丈夫です。見かけほど邪魔にならないので。」
「ならよかった。んじゃ寝ますか。」
敦司がそう言うと、四人はおやすみといって眠りに入る。
楓は布団のぬくもりに安心しつつ、この人といて身が持つかどうか心配になりながら眠りに落ちた。