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サマーメモリー  作者: ぴぃ夏
2/10

出会い

 絢斗は自分の部屋で考えていた。

 昨日の敦司のメッセージは何かおかしかった。

 いつもなら暇な日は『集まれる人?』みたいな感じで疑問文で言ってくるはずなのに、昨日の文はまるで何かをやるような感じがした。

 そんな疑問を考えていたら、もう少しで皆が来る時間になった。

 階段を下りて和室に向かう。

 ちょうどその時ドアのチャイムが鳴った。

「はいはい~。」

 ドアを開けると敦司が立っていた。

「よっ。」

「よっ。じゃねぇよ、昨日何かあったのか?」

 敦司は表情を曇らせた。

「それは皆が来たら話すよ」

 どうしたんだこいつ?

 とりあえず和室に入る。

 数分後に他の二人も集まった。

「で、皆集まったけどどうしたんだ?」

 敦司を真っ直ぐ見ながら尋ねる。

「……………」

「なにかあったん?」

 絢斗に続いて尋ねる少女―――鹿内 穂奈美も不思議そうな表情を浮かべる。

「実は……」

 やっと敦司は口を動かし、昨日の帰りのことを話した。

「……と、いうことなんだ。」

 話を聞いた三人はぽかんとした。

「その話マジ?」

 普段だったら笑い話に持っていくところだが、敦司の真剣な表情からして冗談ではないことはわかった。

「見間違えとかじゃなく?」

 もう一人の少年――ー吉岡 譲もまだ信じられないみたいだ。

「本当だって!」

 敦司はきっぱりと言い張る。

「じゃあさ、もう一回行ってみるか?」

「え、マジで?」

 絢斗の提案に穂奈美は少し不安な表情を浮かべた。

 まぁ、女子なんだから当たり前かなと絢斗は思った。

「わざわざ行く必要あるか?何かあったら嫌だし。」

 譲はあまり乗り気ではないみたいだ。

「なら、明後日は中止にするってことか?」

 確証もないのに中止にするのはなんか嫌だなと絢斗は思った。

「そうじゃなくて、四人で行くより八人全員で言った方がいいってこと。なるべく人数は多い方がいいだろう?」

 なるほど。それは一理ある。

「じゃあ、そうゆうことにしよう。このことは他のやつにまだ言わなくてもいいだろ?」

「そうだな。ビビッていかないって言われるのも嫌だし。」

 絢斗達のグループは穂奈美を含めて四人の女子がいる。そして皆こうゆう話は苦手だ。

 実際、穂奈美ももうビビッている。

「それにしても………。」

 絢斗はずっと思っていたことがあった。

「どうした?」

 敦司が絢斗の方を向いて訊く。

「その女の人ってかわいいのかな?」

 その場の空気が一瞬止まった。

「「「はぁ??」」」

 三人とも訳が分からないような表情を浮かべてる。

「いや、だってそこ重要じゃない!?歳は俺らと同じくらいだろう?めっちゃ気になるじゃん!」

「そこそんなに重要か!?」

 絢斗の発言でさっきまでの雰囲気は一気にぶち壊された。

「で、どうだったあっちゃん!?」

 絢斗は興味津々で訊く。

「覚えてねぇよ!まぁ不細工ではなかったけど…。」

「え~…。」

 大げさに肩を落としてがっかりする。

「でも確かにかわいかったらそんなに怖くないかも!」

 穂奈美までそんな話をし始めた。

「だろだろ!やべぇめっちゃ見てみたい。」

 ついさっき明後日に大人数で行った方がいいと結論が出たのにもうこれだ。

 絢斗はこうやって空気を軽くしてくれるから頼もしい。

 が、思わず突っ込みたくなるようなことを言ってくるので苦労する。

「早く明後日になんねぇかな~。」

 絢斗は約束の日がさらに楽しみになった。

 その日は結局、昨日の少女がどんな感じなのかをみんなで想像して終わった。

 

 そして約束の日。

 率土神社の前に絢斗達は集まっていた。

 時間は19時。周りは徐々に薄暗くなりつつある。

「全員揃ったか?」

 絢斗が皆の顔を見回す。

「龍駆がいないけど?」

「あいつは彼女とこいくことになったらしいから来れないらしい。」

 前日の夜、敦司のところに連絡があったらしい。

 結局今回集まったのは絢斗、敦司、譲、穂奈美の四人と、庄野みず穂、山辺奈恵子、坂部詩好の女子三人だ。

「で、なんでわざわざこの神社で線香花火やる必要があるの?」

 早速みず穂は疑問をぶつけてきた。

「え、雰囲気でるじゃん。夏っぽい雰囲気が。」

「そうか?」

「まぁまぁ、とりあえず進みましょうよ。」

 敦司は半ば強引にその場を進める。

 周りが暗いので、慎重に階段を上っていく。

「やっちゃん!暗い!ちょ、エスコートして!」

「わっ!詩好、いきなり引っ張ったら危ないって!!」

 後ろはなにやらいろいろ騒がしいようだ。

「俺一番後ろに行った方がよかったか?」

「下手したら上から誰か振ってくるぞそれ。」

 そんなことが起きたら死んでしまいそうだ。

 敦司は一溜息をついてまた上りはじめる。

 ようやく階段を上り切り、次は山道だ。

「あの~、予想以上に暗いんですけど……。」

「大丈夫み~ちゃん。私がついてる!」

「やながついててもなぁ…。」

「あれぇ??」

 ここでもこいつらは楽しそうだ。

 男子達はとにかく先を急いだ。

「ちょっと待ってよ!」

 女子たちも後を必死についていく。

 鳥居が見えたところまで歩くと、絢斗達は一旦足を止めた。

「どうしたの?」

 みず穂は絢斗の顔を見る。

「一回敦司と譲と俺で様子を見てくるよ。」

「なんで?」

「神主さんがいないかどうか。」

 適当にごまかして先に進む。

「いるかな?」

「確証はないけど、多分。」

 三人は息をひそめて奥へ進んでいった。

 鳥居の陰に隠れて覗き込むと、そこには一人の少女がいた。

「いた!あの子か?」

「うん、間違いない。あの服装、前と一緒だ!」

 その少女は赤と白の着物のようなものを着てニット帽をかぶっている。

「どうする?」

「今度は声をかけてみれば?」

「よし絢斗、頼んだ。」

「いやいや、ならあっちゃんも来い。」

「マジかよ…。じゃあ譲は皆を連れてきといて。」

 絢斗と敦司はゆっくり近づき、軽く深呼吸をする。

「「あの、ちょっとすいません。」」

 二人声をそろえて言う。

 少女はビクッとしてことらを振り向く。

 整った顔形、背は少し小さい。そして気になるのが、両頬にまるで動物の髭のような三本の線が目立っている。

「誰?あなたたちここで何をしているんですか?」

 どうやらこちらのことを警戒しているみたいだ。

「いやっ、俺たちは怪しいものじゃなくてその……。」

 敦司は完全にパニックになっていた。

「あんた人間?」

 絢斗はストレートにとんでもないことを聞いた。

 絢斗もパニックになっていたようだが、二人ともその一言で逆に落ち着いたようだ。

「な!尻尾とかあるけど人間です!」

「え?尻尾!?」

 少女はハッとなって口を塞ぐ。だがもう遅い。

「で、後ろで聞いてた俺たちにもそのことを詳しく。」

 後ろには譲が皆を連れて立っていた。

「誰この子?」

 詩好が首を傾げて尋ねる。

「尻尾が生えてる自称人間だと。」

「自称人間じゃないです!人間です!」

「尻尾が生えてる人は人間とは言わない。その帽子の下には耳でもあるのか?」

「なっ!なんでそこまで!!」

 どうやら隠し事は苦手なタイプのようだ。絢斗はそう確信した。

「とりあえずさ、自己紹介でもしようよ。」

 敦司が一旦場を整理しようとする。

「あんたの名前は?」

「……八雲……楓です。」

 楓と名乗る少女はうつむきながら答える。

「ねぇ、その前にこの子誰?」

みず穂たちはもう訳わからないみたいだ。

「あ~、じゃあ説明するからこっち来て。絢斗達はあとよろしく。」

 そう言って敦司は少し離れたところでみず穂たちに事情を話し始めた。

「んじゃあとりあえず自己紹介ってことで。藤本 絢斗です。よろしく。」

「俺は吉岡 譲です。」

「うちは鹿内 穂奈美です。よろしく。」

 楓は三人を交互に見て一息ついて

「よろしくです。」

 と一言言った。

「早速だけど、人間じゃないよな?何者?」

 楓はしばらく黙っていたが、やがてしぶしぶ口を動かした。

「私は、狐です。もともとは違う神社にいたんですけど、いろいろ理由があって潰されてしまって居場所がなくなったんです。」

「なるほど。それでこの神社に移ってきたってこと?」

「そうゆうことです。」

 絢斗は腕を組んで少し唸った。

「とりあえずさ、その帽子取ってくんね?」

「なっ!?さっき帽子の中を当てたじゃないですか!」

「あれはハッタリだ。」

「えっ!!」

 絢斗はこの子はあほの子だと確信した。

「とりあえず取ってみよう。譲。」

「うぃ。」

 譲は楓の後ろからひょいと帽子を取り上げる。

「ちょっ、ちょっと!」

 帽子の下からはぴょこんと狐のような耳が二つ出てきた。

「え、なにこれかわいい!」

「ほぉ~、いいね~。」

「めっちゃいいね。」

 三人は各々感激している。

「じろじろ見ないでください!」

 そんなやり取りをしていたら敦司たちが戻ってきた。

「盛り上がってるね~。」

「盛り上がってません!」

「なんでこんな険悪なんだよ。」

 いきなり怒鳴られて敦司は少しへこんだ。

 一通り敦司たちの自己紹介も終わり、楓の事情も大体わかった。

「つまり、この神社に住み着きたいけど、完全に同調できなくて困ってると?」

 敦司はざっくりまとめて言い返した。

「そうゆうことです。」

「なるほど~……。てかなにちゃっかり皆で線香花火やってるの?」

 気付いたら皆線香花火に火をつけて座り込んでいる。

「いや、楽しそうだったので。」

「お前なぁ…。」

 敦司は呆れた。

「とりあえず、同調がうまくいかないので、それまで私をかくまってほしいのです。」

「「「「「「「はぁ!?」」」」」」」」

 七人が揃って声を上げる。ここまでそろうのも珍しい。

「これ以上正体がバレるわけにはいかないので。特に神主さんには。」

 絢斗達はまだ理解できなかった。

「かくまうってどうしろと?」

「あなた達の仲間に入れてください。人といる方がバレにくいかもなので。」

 もう唖然とするしかなかった。

「つまり、グループに入ると?」

「はい!」

「皆どう思う?」

 絢斗は皆を見回した。

「いいんじゃない?」

「賛成!」

「八雲ちゃんなら大歓迎だよ!」

 どうやら皆賛成らしい。

「じゃあ、OKだ。いつメンへようこそ八雲さん。」

「いつメン?」

「いつものメンバーの略だよ。」

「なるほど。よろしくです!あと、八雲さんではなく楓って呼んでほしいです。」

 こうして、八雲 楓がいつメンに加わった。

 そして、まさかこの日から退屈な夏休みがあんなに騒がしくなるとは、この時はまだ想像すらしてなかった。


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