始まり
猛暑が続く季節に、やることもなく無駄な時間を過ごしている。普通こうゆう日は友達と一緒にプールだのBBQだのしているのが王道だろう。
実際、友達も目の前にいる。
「やることなさ過ぎて死にそう…。」
だるそうにそいつは口を開いた。
「あっちゃんや、なぜ俺たちはこんな時間を過ごしているのかね?」
顔をこっちに向けて尋ねる。
藤本 絢斗。中学のころからの腐れ縁だ。ちなみに、あっちゃんというのは俺のあだ名だ。水本 敦司だからあっちゃん。小学の時につけられたあだ名だが、別に嫌いでもないので何も言わない。
「そんなこと言ったって俺以外に誰もこれなかったんだからしょうがないだろう。」
今日は絢斗の家に集まる予定だったのだが、声をかけた5人のうち俺以外誰も来なかった。皆大学とか仕事で忙しいんだろう。
「暇すぎる…。」
「しょうがねぇよ…。」
中学まで一緒だったが、高校でバラバラになったから集まりがどんどん悪くなったのは事実だ。まぁ、違う学校に通いながら解散にならなかっただけすごいと思うが。
「なんかやることがあれば集まるんじゃね?日にち合わせてさ。」
「やることって何?」
そういわれると言葉に詰まる。
「う~ん……。肝試しとか?」
ぱっと出てきたのがそれだった。
「王道からづれてるなぁ、おい。」
溜息つきながらがっかりしたような口調で呟く。
「いや、率土神社はヤバいって。あそこ夜中通るのは結構雰囲気あるで。」
山の近くに率土神社というところがある。それは長い急階段を上り、ちょっとした山道を通るので、夜はそれなりに怖い雰囲気は出る。
「あそこは行くまでがだるい。」
確かにそれはもっともだ。
「雰囲気楽しんでから花火とかやればいいじゃん。」
「お前は俺を殺す気か?」
「あっ……。」
そういえば絢斗は喘息持ちだった。ひどいものではないが、花火などをやると激しく咳き込む。一昨年あたり死にかけてたな。
「なら線香花火くらいならさ。」
「まぁそれくらいならできるが。それに集まる口実にもなるか。」
「んじゃ決まるだ!」
早速グループトークにメッセージを送る。
『暇な日の夜に率土神社で線香花火しに行こうぜ。肝試しも踏まえてさ。』
いつもなら返信が返ってくるまで時間がかかるのだが、今回は10分ほどで返ってきた
『いいだろう』
『いいよ~』
『ほ~い』
『おk』
「お、今回は全員くるみたいっすよ!」
「マジか!」
久しぶりに全員がOKを出してくれたことに二人は喜んだ。そのあと、集まる日は三日後に決まった。
「やっと退屈しない日ができたな。」
「ホントだよまったく。」
二人は約束の日が楽しみで仕方なかった。
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その日の帰り、敦司は楽しみすぎてつい下見をしに率土神社に寄った。
時刻は午後6時半。そこまで暗くないからか、不思議に落ち着く、が。
(急階段だるっ!)
長いうえに角度が結構あるので登りきるのに結構苦労する。雨の日なんか滑って踏み外したら死んでしまいそうだ。
帰るときは別の道から周れば階段を使わないで楽なのだが、行くときにその道を使うのはかなりの遠回りになる。
ようやく登り切った後、真っ直ぐな道の先にある鳥居に向かって歩く。夕日が差し込んでいるその道は、怪しげにも、神秘的にも見えた。
3分ほど歩き、鳥居が見えてくると、そこにはすでに知らない少女がいた。
(こんな時間に誰だ?)
その人はさらっと長い黒髪で、赤と白の着物のようなものを着て、ニット帽をかぶっていた。
この神社はあんまり人が来るようなところではない。元旦の時に、地元の高校生とかが合格祈願に来るくらいだ。第一お祭りなんてやってるとこを見たことすらない。
(見た感じ歳は俺と同じくらいか?尚更おかしい。というか、なぜ着物?そしてなぜニット帽?)
様々な疑問が敦司の頭の中に広がる。
(声をかけた方がいいのか?それとも帰った方がいいか?大体、特に用事があったわけでもないしな。うん、そうだ帰ろう。)
その場で回れ右をして帰ろうとした時、パキッと落ちていた枝を踏んでしまった。
その音に気付いたのか、女性はこっちを向いた。
(なんてベタなことを!)
必死で何か言おうとするが、言葉が見つからない。
「あの!その~、別に怪しいものじゃなくて…え~と…。」
顔をそらしながらいろいろ考えたが、これ以上は限界だ。諦めて一度相手の顔を見ようと顔を上げた。
が、正面を向いた先には誰もいなかった。
敦司は驚きながら辺りを見回して探したが人影すら見えない。
(今のは何だったんだ?)
幻覚でも見た気分だ。人がいきなり目の前から消えた…。ありえないだろ…。
ただ茫然としながらその場を後にする。
(明日あいつらに話してみるか。)
グループトークを開き、ただ一文を入力する。
『明日集まれる人は集合しよう。』
返事は敦司を除いて七人中三人が集まれるとのことだった。