表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

掌編作品(1~4000字)

とある道の上にて

作者: はなうた
掲載日:2013/10/19

 大学を卒業し、あと一月で丸一年が経つ。

 男の就職先がようやく決まった。ただ、入社するための条件として、通勤一時間半圏内の場所へ引っ越さなければならなかった。

 一人暮らしなどした事のない男。これから起こる未知への不安をもみ消すように、自分の心に言って聞かせる。


 ――きっと、やれるさ。俺の人生はこれからだ。


 引っ越し前日、昼過ぎまでに荷物の整理を済ませ、男は時間を持て余していた。


「見納めに、少し町を見て回ろうかな……」


 高校、大学と他県に通っていたので、故郷の町をちゃんと歩くのは中学生の頃以来だった。

 やたら幅の狭い十字路。

 よく帽子を落とした道路脇の溝。

 ベンチと滑り台がその半分を占める小さな公園。

 然して思い入れのない町が、この日ばかりは懐かしく思えた。

 大きく息を吸い込み、眼を閉じながら吐き出す。


「最後に、中学校を見てから帰ろう」


 体の向きを変えた瞬間、公園内の人影に気がつく。

 中学生くらいの少年が座っていた。その少年は、生まれた頃から一度も笑った事がないかのような暗い表情で、自分の影を見つめている。


「こんにちは」


 男は少年に話しかけた。

 普段、滅多に他人に話しかけなどしない彼が、まるで何かに操られたかのように、自然と声を掛けていた。

 少し驚きながらも小さく頭を下げる少年。そこに笑顔はない。

 男は少年の隣に腰を下ろし、話し始める。


「今って、まだ授業中だろ? こんな所でサボってんのか?」

「……。俺、学校、行ってないんだ」


 少年は、中学生が着ているはずの学ランを着ていない。どうやら休んでいるようだ。


「学校に行くのが嫌になって、最近行ってないんだ」

「そうか。イジメられてんのか?」

「違う。けど、何となく、行きたくないんだ」


 何となく、学校に行きたくない、か……。


 同じ事を言っていた子を、男は知っている。その子もこの少年と同じで、全く笑わなかった。でも、今は――。


「それなら、気が済むまで休めばいい」

「え?」

「行きたくないなら、無理に行かなくていいんだ」


 少年は少し戸惑うような仕種を見せる。男には、少年が何に悩んでいるのかすぐに分かった。彼の心は恐らく「行かなければいけない」と「行きたくない」の間で戦っているのだろう。


「今はただ、どんな事でもいい。やりたい事を見つけて、それをとことんやってみな?」

「でも……」

「大丈夫。そのうち、ふと学校に行ってみようって思う時が来るんだ。その時、君はきっと笑ってるはずだ」

「そうなの?」


 少年は猜疑心に満ちた眼を男に向け、首を傾ける。

 それはそうだろう。通りすがりの見知らぬ男にこんな話をされても、信じられる訳がない。


「やりたい事、探してみるよ」


 とりあえずのお礼を残し、少年は去っていく。

 あの少年の進む道は一本しかない。その上で、笑っているか、泣いているか、それを決めるのは彼自身だ。

 ベンチから立ち上がり、一度眼を擦ってから景色を眺める。枯れた木々が、じき訪れるであろう春を待ち望んでいるかの様にその枝を揺らしていた。


 一通り町を見終え、男は家に帰った。

 玄関からすぐ横手にある居間。こたつテーブルの上に分厚い本を置き、両親が談笑している。その本は、家族写真を集めたアルバムだった。


「ただいま。何? アルバム見てんの?」

「おかえり。ほら、あんたの小さい頃の写真。可愛いわね~。この頃はちょっと内気な子でさ。人前では全然笑わなかったのよねぇ」

「昔の話じゃんか」


 そこに写る笑わない少年を見ながら、男は笑う。そして、心の中で呟いた。



 ――君の人生はこれからだよ。



小説の書き方すらほとんど分からない頃に書いた、正真正銘の処女作です。他サイトでも結構なご指摘を受けましたが、自分の歴史の一つということで、当時のままの状態で投稿しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 私はとても良く纏まっていると思います。 描写など場面が点々としていく印象があり、置いて行かれた感がありましたが、最後まで読んで、 少年にアドバイスしたのが現実だとしたら、主人公は壁を乗り…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ