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お気に入り登録して下さった方、本当にありがとうございます!!見つけた瞬間、涙が出る程嬉しかったです!なかなか更新出来ないのですが、気長にお待ちください!!
夢であったなら、何て幸せなんだろう…。そんな事を考えていて眠れないなんて、今までになかった。
空が徐々に明るくなっていく。もうすぐ怜央がいつも起きる時間になる。重い身体を引きずり、ドアに手をかける。
ここを開けて、奴がいたら何て言えばいいんだろう…。怜央は、ずっとどう会話をしていいかわからないでいたのだ。
ずっと部屋にいるわけにはいかないので、ゆっくりドアを開けてリビングを見渡す。
誰もいない事に安堵し、ため息が漏れる。昨日は、あまりの疲労に夕食を食べる気にならずにいたので空腹で死にそうであった。
キッチンに行き、冷蔵庫を開けてビックリ。ぎっしり入った食材に怜央が好きでいつも使っている調味料までしっかり揃っていた。
「すごっ!」
つい声が出てしまう程の中身よりも驚いたのは、調理器具である。普段使う鍋やフライパンだけでなく、お菓子作りに使うハンドミキサーやケーキの型なども多種多様に揃っていた。
「お兄ちゃん、こうなる事知ってたんだわ」
怜央が気に入って使っていた器具が揃っているのが証拠である。一緒に料理をする兄ならわかるからだ。
この生活で楽しい事を忘れないようにという、兄の優しさである。
「とにかく、朝ご飯にしよう」
冷蔵庫を覗き、あれこれ考えているとある事を思い出す。奴は朝ご飯を食べるのかどうか…。
佳暁は、婚姻届を出した後バイトに行って深夜に帰って来ていたので会っていない。普段のイメージから、日曜日の朝から起きて来ない気がする。
とりあえず、簡単に食べれるフレンチトーストとサラダを用意する事にする。食べないならおやつに出来るからだ。
新品の器具で気分もウキウキである。料理をしている間は、嫌な事を忘れられる。慣れた手つきでサクサク進めていく。
バターと少し香ばしい香りがキッチンに広がる。いつも和食メインなので、久しぶりの洋食の朝御飯だ。
お皿をテーブルに並べて、盛り付けが完成した時。佳暁が部屋から出て来たのだ。
意外と早く起きたな…。
何て声をかけていいか悩んでいると、佳暁から意外にも第一声が発せられた。
「おはよう」
眠い目を擦りながら、ゆっくりと近付いてくる。怜央が目を見開いて固まっていて返事が無い様子に首を傾げて、もう一度繰り返す。
「おはよう」
再度言われ聞き間違いではなく、自分にきちんと言ったのだと気付き怜央も朝の挨拶を返す。
「おはよう…」
勇気を振り絞って返すと佳暁は満足したのか、目の前の席に座る。
「何か食べる…?」
「それがいい」
「すぐ出来るから待ってて」
冷蔵庫から仕込んであったパンを取り出し熱したフライパンに流し込む。後ろから佳暁の視線を感じるが、考えない様にして目の前の事に集中する。ょ出来上がり皿に盛り付け、佳暁の前に置くと怜央の皿と交換してしまう。
「え?それ…」
「作ってる間に冷めただろ?自分で作ったんだから美味いの食べるべきだ」
それなら、先に食べてればいいのに…。
言おうとするが、独りで食べる食事が嫌いだと言う少年の顔が浮かんだ。自分にしか弱音を素直に口に出せないと泣く姿が思い出させる。
「これから、どうするつもり?」
「何が?」
「結婚しちゃったのよ?今まで何もかも違うのよ?」
「そうか?怜央はいつも通り学校に行ってバイトに行けばいい」
「ちょっと、名前で呼ばないでよ!」
「結婚したんだから、怜央だって高丘だろ?昔は名前で呼んでたんだからいいだろ」
「う…」
本当の事だけに、何も言えず言葉に詰まってしまう。何年ぶりに名前を呼ばれたのか、少しだけ嬉しくなってしまう。
「とにかく、今まで通りでいい。後は俺が何とかする」
「は?何とかするって何を?」
「生活費は、バイト代と貯金があるから当分大丈夫だと思う」
「食事は…」
「俺の分は、作らなくていい」
「は?」
「今は食ってるけど、基本朝飯は食わないし昼は学食で晩はバイトの賄いが出るから」
「朝は食べない?」
「朝飯より、ギリギリまで寝てたいからな」
プチンッ。
怜央の中で何かが切れた。
「朝食は、一日の活力源です!!」
バンッ!
怜央は、机を叩いて勢いよく立ち上がった。
「朝起きれないのは、遅くまでバイトしてるからでしょ!」
「でも、昼と夜はまともに食べてるし…」
「まとも?どうせ大好きなお子様メニューでしよ?肉やチーズばかりで野菜のない」
「なっ!」
次は、佳暁が黙る番であった。
「その顔は図星ね。昔っから、全く変わらないのね。好き嫌いが激しくて自分の思い通りにいかないとすぐ拗ねる。そのくせ素直になる事も出来ない」
「お前だって!」
「何よ。みんなの前だとおとなしくしてるのに、本当は口が悪くて性格が悪いとでも言いたいの?」
「いや…その…」
「そんなの高丘君に言われなくてもわかってるわ!」
それは、影で佳暁が怜央の話をしている時に言った事である。佳暁本人が言った記憶があるかはわからないが、怜央は一生忘れられないであろう。
「とにかく、朝食は作っておきますから必ず食べる事。わかった?」
「…」
「返事は?」
「はい…」
「よろしい」
怜央は、母親が身体が弱かった為、健康には人一倍気を付けている。特に食に関しては煩いのだ。
「さて、食べたら出掛けますよ」
「は?俺、寝る予定なんだけど…」
「明日からお昼はお弁当にしますので、お弁当箱買いに行きますよ」
「いや、だから…」
「行きますよ」
「はい…」
急いで食べ、行く支度を整える。佳暁が車を持っていたので少し遠いショッピングモールに行く事になった。
「さぁ、さっさと行くよ」
「あぁ…」
お弁当箱のコーナーに行くと思った以上の種類があり、何がなんだか佳暁にはわからなかった。
「何でもいいから適当に選んで」
「自分のものなんだから自分で選びなさいよ」
「だって、よくわかんねぇし」
「じゃあ、これとこれのどっちがいい?」
怜央は、青と黒の弁当箱を差し出す。実は、二色とも佳暁の好きな色である。
「じゃあ、こっち」
佳暁は、青の弁当箱を受け取る。
「やっぱり…」
怜央は、佳暁から弁当箱を受け取り小さく呟く。見た目は変わってしまっているが、中身は昔のままの彼なのだとわかり、怜央は結婚生活に微かな光を感じたのであった。
幼馴染って、やっぱりどこか特別なんだと思います。そんな部分を出していけたらと思っています。