真実
日本神話とギリシャ神話、それぞれの神が登場するファンタジーアクション。主人公は高校二年生伊邪那岐海斗、ヒロインは伊邪那美涙子。彼らは自らの怪我を癒すためにオリンポス十二神の城に招かれる。そこで知らさせる裏切り者ハデスの過去。そして怪我の癒えた海斗に新たな影が忍び寄る。
第二章
プロローグ
此処は、二人の構想の中である。
今、二人の構想が一本の線になる。
「俺は弱すぎる、当主になったのに。俺はこれから親友を殺なければならない。任務だから仕方ないけど、奴は俺のことを変えてくれた。苛められていて友達のいない俺のことを」
これは十年前の天神 輝之の話である。
当時輝之は馬鹿で不器用だったためにクラスの一部の奴らに苛められていた。
自分でも苛められる理由はわかっていた。だから最初はやり返してやろうと思った。
だけど、一回もやり返さなかった。
なぜなら、もしやり返したとしてその後どうする?
俺はそのままクラスに馴染めることが出来るか?
答えは、“NO”だ。
俺の他に苛められていた奴がいた。だがそいつは最初やり返さなかった。しかし、そいつは我慢することが出来ず、やり返してしまったのである。そいつは、次の日から学校に来なくなった。そいつはたぶんやり返されるのが怖かったのだろうし、クラスにそのまま馴染められるか心配だったのだろう。だからそいつは学校から逃げたのである。
俺はそのこと知っていたためにやり返すことが出来なかったのである。
しかし、苛められていた俺に一人の男が救いの手を指し伸ばしてくれた。
そいつは俺を苛めっ子から助けてくれた。そいつは苛めっ子たちに何度も殴られたり蹴られたりしても俺のことを苛めっ子から守ってくれた。
そいつはいつの間にか俺の親友であり、大きな目標になっていた。
俺はそいつに少しでも近づくために心と体を鍛え始めた。
それから十年後、努力が実り俺は実家の本山に呼ばれ当主になった。
「海斗、俺はどうしたらいいのかな。お前と向き合った時に俺は、お前のことを殺すことができるかな」輝之の目からは一筋の涙が零れていた。
その涙は月の光に照らされ、ダイヤモンドように美しく光っていた。
・
・
彼女の名前は、卑弥瑠魏 菫。
海斗と同じ学校に通う高校三年生である。
彼女は、頭脳明晰でスポーツ万能だが料理は素人以下である。
ルックスやスタイルに関しては一流のモデルレベルで、髪は黒髪でまさに日本の女性の鏡である。
普段彼女はメガネを着けていて、このメガネを一回も外したことがない。部活の時でさえ着けたままなのである。
この話は海斗が輝之と出会うさらに二年前の話だ。
彼女も輝之と同じ境遇を持つ一人の女の子であった。
彼女も、海斗と出会う前は一人も友達がいなかった。
彼女は性格が内気だったためにみんなの輪に入ることが出来ず、いつも一人で学校に行き、いつも一人で過ごし、一人で家に帰る始末だったのである。
彼女は今日も一人で公園のブランコを漕いでいた。
そこに、一人の男の子が現れた。その男の子こそが海斗である。
海斗はその時はまだ五歳で、幼稚園で言うと年長あたりである。
海斗は菫に声をかける。
「お姉ちゃん、いつも一人で遊んでいて楽しいの?」
菫は一瞬海斗の顔を見たがまた下を向いた。
「お姉ちゃん、どうしたの?」海斗は下を向いている菫を横から覗き込んだ。
彼女は驚き、ブランコから転がり落ちて地面にしりもちをついた。
「ごめんね、驚かせるつもりはなかったんだ」海斗は、彼女に手を伸ばした。
菫は、海斗の伸ばした手に掴まり立ち上がった。
「ありがとう」彼女は恥ずかしそうに言った。
「ううん、それよりもお姉ちゃん何でいつも一人なの?」
「私、友達いないの」彼女は下を向き頬赤くしながら恥ずかしそうに答えた。
「じゃあ、僕と友達になろう!」
「えっ!」菫は驚いた顔をし、海斗の顔を一直線に見た。
「お姉ちゃん、僕と友達になろうよ!」海斗は満面な笑顔で言った。
「でも、私、・・・・・恥ずかしがりやだし、友達いないし・・・・・」
「平気だよ、実は僕も友達いないんだ。だから、僕もお姉ちゃんが初めての友達なんだ」
海斗は、右手を頭に置き笑って言った。
そんな海斗が面白く、菫は海斗の前で初めて笑った。
「名前なんていうの?」菫の顔から笑みがこぼれていた。
「僕の名前は、伊邪那岐 海斗。海斗って呼んで、お姉ちゃんの名前は?」
「私の名前は、卑弥瑠魏 菫。菫って呼んで」
「菫ちゃんって言うんだ。じゃあ、遊ぼうよ」海斗は、菫に手を伸ばした。
「うん!!」彼女は、海斗が伸ばした手に手を伸ばした。
それからと言うもの、菫は一日一日が楽しくなった。
毎日のように海斗と遊び、泥だらけになりながら家に帰るのが日課になっていた。
海斗と遊ぶせいか自然と内気な性格は、陽気な性格に変わり始めた。
そのうち学校でも友達が出来るようになり、年齢が増えていくにつれ海斗と遊ぶ回数も少なくなった。
最近ではほとんど遊ばなくなっていた。
しかし、菫にとってはその時の思い出は一番なくしたくない思い出で、海斗が初恋であることは彼女だけの秘密なのである。
第一章
「ここは?」海斗は目覚め、自分の体に包帯がグルグル巻きにされているのに気づいた。首は固定されていて動くのは顔の一部だけだった。目を覚ました海斗に、一人の美人な女性が話しかけてきた。
「体の具合はどうですか? 私の治癒魔法でほとんどの傷は治すことが出来ましたが、骨の方は全身の半分はぼろぼろに砕けていましたよ。しばらくの間は安静にしてくださいね」彼女は、海斗に微笑みかけた。
「あ・り・が・と・う・ご・ざ・い・ま・す」海斗は途切れ途切れであるが、力を振りしぼってボロボロの体から、お礼の言葉を伝えた。
「よくその体で喋れましたね! さすが男の子です」彼女は首を縦に振り、大きく頷いた。
「君のお礼の言葉に感動しました! わかりました。一時的ですが、あなたを喋れるようにしましょう」彼女は海斗の手を優しく握り、目を瞑りながら祈り始めた。
すると、徐々に海斗の体から痛みがなくなり、喋れるようになった。
「あーー、あれ、ちゃんと喋れる」
「はい、一時的ですがあなたの体から痛みを失くしました。これで喋れるようには、なりますが、体は動かさないでくださいね。動かすと治るのが長引きますよ」彼女は人指し指を立て、笑いながら言った。
彼女の言うとおり喋れるようにはなったが、体はまったく動かなかった。
「ありがとうございます。あなたの名前は?」
「私ですか?私の名前はニンフ・フュセースと言います。みんな私のこと“ニンフ”と呼んでいるのであなたもそう呼んでくれて構いませんよ」
「日本人の名前じゃありませんよね。外国の方とかですか?」
「外国の方・・・・・・・?」ニンフはクエンションマークを頭にのせた。
海斗が見る限り、この人はどこにでもいるような普通の女性とはまったくかけ離れていた。
なぜなら、顔はオイルを塗ったようにテッカテカで、体は長身で胸は中の中ぐらいで髪型もロングでしっかり切り揃っていた。
しかし、もっと驚く場所が他にもあった。それは背中に透き通った羽が生えていることだ。
海斗がニンフのことをじっと見ていると、ニンフは惚けたように言った。
「どうかしましたか?」
「いや、なにも」海斗は無意識にじっと見ていた事に気づいた。
「それよりあなたの連れの人も治しましたが、あなたほど重傷でありませんでしたよ」
「そうですか、涙子は何処ですか?」涙子の安全を聞いて海斗は心を落ち着かせた。
「彼女はもう起きて、今はゼウス様と話していますよ。ゼウス様はあなたにも話があるみたいですよ」
その時、左のドアから涙子と話しながらたくましい男性が来た。
その男性こそ、全能神ゼウスである。
涙子はいつも見る制服姿ではなく古代ローマ人が着ていた服装をしていた。
涙子は海斗が目覚めているのを見て、思いっきり抱きつく。
「よかったぁ。海斗君目が覚めたんだ、大丈夫?」
「痛ってえな。そんな勢いで抱きつかれたら、折角くっついた骨がまた折れるだろ」
「ごめんね、海斗君。私のせいでこんなことになっちゃって」涙子はいつの間にか涙を流していた。そんな涙子に海斗は優しく話しかける。
「気にするなよ。俺がやりたくてやったんだ。何よりお前が無事でよかったよ」
ゼウスは二人の出会いを見届け、ニンフの方を向いた。
「悪いな、ニンフ。来たばっかりだと言うのに仕事を頼んでしまって」
「いえいえ、それが私の仕事ですから」彼女は、首振って答えた。
「今回もまた自分の寿命を使って治したのだろ」
「まぁ、何でわかったのですか?」彼女は少し驚いた様子で尋ねた。
「まぁ、これが初めてじゃないからな。大体見当はつく。それで今回はどのくらいの寿命を使ったんだ?」ゼウスは頭を掻きながら言った。
「女性に年齢のことを聞きますか?知らない人なら半殺しにしてましたよ。まぁ、昔の命の恩人には伝えておきましょう。今回は百年から百五十年の間くらいですかね」彼女は少し声を低くして答えた。
それを聞いたゼウスの表情は一変する。
「馬鹿者が、またそんなに寿命を使って・・・お前はもうそんなに寿命がないというのに。自分でもわかっているのだろ?」ゼウスは彼女の肩を強く握り言った。
「そうですね。正直言ってあと生きて百年、短くて五十年ぐらいです。
でも、それでいいと私は思います。私は永い時をあなたとともに生きてきました。
あなたは私の命の恩人です。だからこの命あなたに捧げるつもりです。この残り少ない命を」
「何を言っているんだ。お前が統べている森やそこで生きている動物はどうする?
それに、一緒に住んでいる娘はどうするんだ!」ゼウスは声を張り上げて言った。
「ニクスのことは心配要りません。あの子もおかげさまで二百歳になりました。
私はあの子に私が統べているすべての土地を任せてきました。私はもうあの土地に帰るつもりはありません。全てはあなたとあるために」
「く・・・・。そこまで言うなら私は何も言わない。私と共に来てくれるか?ニンフ・フュセース」ゼウスは最初は呆れた雰囲気を見せたが、最後は真面目な顔になり優しくニンフに声をかけた。
「どこまでもあなたに着いて行きます」彼女はゼウスの前で忠誠を誓った。
「ニンフさん、一つ聞いてですか?」涙子はこの空気に話を割り込ませた。
その質問に優しく微笑みかけ答えた。
「何ですか?」
「娘さんが、二百歳だったら、あなたは何百歳なんですか?」
「私ですか?えーと、二千万歳くらいですかね」
「えっ、それにしては、若く・・・」涙子はニンフの体を見渡す。
「これでも体は以前に比べて老いていると思いますけど、私たちは人間と違って歳の取り方が違いますから。まぁ、例外もいますけど」
「例外って?」
「あっ、なんでもないです」ニンフはすぐに口を抑え、首を横に振った。
「そうですか?で、老いているのに若く見せている秘訣って?」涙子がニンフに顔を近づける。
「それは、女の秘密です」ニンフは口に指を立てた。
「じゃあ、ゼウスさんは?」涙子はゼウスにも同じ質問を問いかける。
「私か?私は一億歳くらいかな」ゼウスは笑いながら答えた。
海斗と涙子は驚きのあまり開いた口が塞がらなかった。
「さて、本題に入る前に君たち言わなければならないことがある。少しニンフは席を外してくれるか?」ニンフは頷きその場を後にした。
そして、ゼウスは真面目な顔つきで海斗たちのほうを向いた。
「此度のこと、本当に君たちには申し訳のないことをした」ゼウスは突然海斗たちに頭を下げた。その姿は神々のリーダーとは思えない姿だった。
「やめてください。あなたが悪いわけじゃないのに俺と涙子に謝られても・・・」海斗と涙子は戸惑いを隠すことができなかった。
「いや、私の全てが悪いのだ」再び深く頭を下げた。
海斗と涙子は顔を見合わせた。
「俺たちはそんなこと気にしていません。俺にはあなたが悪い人には見えない」
「そうですよ、私と海斗君はあなたを責めようとは思っていません。何より、私たちはあなたたちに助けられました。私たちこそあなたにお礼を言わせてください」涙子はゼウスに笑顔で語りかけた。
「「ありがとうございました」」海斗と涙子はお互いの手を握り、頭を下げた。
「君たちのような人間を見るのは何千年ぶりだろうか。君たちの心遣い感謝する」もう一度ゼウスは海斗たちに頭を下げた。
「それよりも俺たちを襲った奴は何者なんですか?」海斗はゼウスに問いかけた。
ゼウスは下げていた頭を上げ、海斗たちのほうを向いた。
「奴は、私の兄だ」
「「えっ」」海斗と涙子は、さっきの年齢の話の時よりも驚いた。
「海斗君、涙子君、これからは少し難しい話になる。そこでだが、分かりやすく話すために君たちを私の心の中に来てもらおう」
「えっ、そんなことできるんですか?」涙子が疑問を問いかけた。
「ウム、可能だ。君たちの心と私の心をリンクさせればな。
さぁ、君たちを古代の世界に誘おう」ゼウスは二人の頭の上に手を置いた。
すると、二人は気を失った。
海斗と涙子は目を覚ました。二人は寝かされた状態だった。
辺りは真っ暗で近くのものさえ見えないぐらいの暗さだった。
すると、遠くの方からゼウスの声がした。その声はだんだんこちらに近づいてきた。
「二人ともすまないね。今、明るくするから」ゼウスは指を鳴らすと辺りが一瞬で明るくなった。
辺りは水色で多くの何かが飛び交っていた。
「二人とも無事に入ることが出来たようだね」
「ゼウスさん、ここは?」
「涙子君、いい質問だ」
「ここは私の心の世界、いや私の思い出の中と言った方がいいかな」
そう、何か飛んでいたものの正体はゼウスの記憶。いわば、“メモリー”である。
「さぁ、二人とも少し歩く。私の後について来てくれ」
海斗と涙子は立ち上がった。
「あれ、海斗君。怪我治っていない?」
海斗は自分の体を見ると包帯を巻かれた体ではなく、普通の体だった。
「ゼウスさん、何で俺の体が治っているんですか?」
「ここは現実世界ではない。言うなれば疑似世界なのだ。だからここで怪我が治っていても現実世界では治っていない」ゼウスはそれだけ言うと一人歩き始めた。
海斗たちもゼウスの後に続いて歩き始めた。
少し歩くと金色に光る場所があった。そこは他の場所から孤立されていた。
三人はその場所に入った。
「さぁ着いたぞ。ここが中心部、いわば“聖地”だ」その中は他の場所とはかけ離れていた。そこには木も花も川も黄金に輝いていた。
ゼウスはその世界の一番高い丘に登った。二人もゼウスの後についていき、丘へと登る。
「さぁ、これから君たちにハデスについて話そう」
ゼウスは突然目の前に手を伸ばした。
そして中指で景色を指差し、何かに触れるように押した。
目の前に、“接続を確認”という文字が出てきた。
すると巨大な液晶画面がたくさん出てきた。それはまるで、巨大なIPadのようだった。
ゼウスはそれを巧みに操り、自分の見たい記憶だけを見つける。
海斗と涙子は、驚いて言葉が出なかった。
「二人とも大丈夫かな。さっきから言葉一つないんだが」
「いや、こんなの初めて見ましたよ。俺こんな体験初めてで」
「私も、こんな体験初めてです」
「そうかそうか。最近アップグレードしたばかりなのだが、すぐには見つからないな。やはり最近のハイテク機能は老人の私にはさっぱりだ」ゼウスは何か嬉しそうに話し出した。
「「えっ、アップグレード!!」」
「何で二人ともそんなに驚くのだ?」
「いや、ゼウスが今風の言葉を喋れるなんて思わなかったので」海斗は驚き言った。
「そうですよ。私てっきりゼウスさんって古い言葉を並べるおじさんってイメージだったんで」
「そうか?私も最近、人間界に降りたときに覚えたのだ。この機能も今は液晶画面で分かりやすいが昔は巨大な図書館だったのだぞ」
「「昔っていつぐらいですか?」」
「かれこれ二百年前ぐらいだな。その時会った人間に教えてもらったのだ」
「二百年前じゃ、まだ液晶画面は発明されていないはず・・。ゼウスさん誰から聞いたんですか?」涙子は疑問を投げかけた。
「何て言ったかな・・・。確かエ・・エ・・エジソンって言う男だったな」
「「エ・・ジソン!!」」
「なかなか面白い男だったぞ。私と会うなり発明の話ばっかりしてきたわ。私も面白くなってしまいついつい私の正体を明かしてしまったのだ。だが、その男は驚きもせず話を続けたのだ。いや・・なかなか面白い男だった」ゼウスは笑いながら二人に話しかけた。
「私、もっとゼウスさんについて知りたいです!他にどんな人たちと会ったんですか?」歴女である涙子はゼウスの話に聞き入っていた。
「君たちの国は管轄外だからあまり降りたことないのだが・・。一番近いときで百年ぐらい前に君たちの初代首相伊藤博文に会ったぐらいだな」
「どんな話をしたんですか?」涙子は顔を近づける。
「未来の日本の話をしたのだが、そしたら彼はとても怒っていたぞ!『未来の日本は優しすぎる、だから他国になめられるのだ』とか何とか」
「そうですよね、最近の日本は韓国や中国に言われっぱなしですから・・・
えっ、未来の日本ってなんで百年後のこと知っているんですか?」
「そこまでのことは教えることは出来ないんだ」
「おい、そこのお二人さん。いつの間にか日本の経済の話になっていると思っているのは、俺だけですか・・・・」
「海斗君、これはすまない。君を仲間に入れるのを忘れていた。君も混ざってこれから経済の話を・・・」
「ありがとうございます、いや〜一人ぼっちで寂しかったんですよって、おい!」
「海斗君、良いノリツッコミだな。それは、関東風?それとも関西風?」
「えーと、家が京都なんで関西風かなって、おい!どんなボケだ」
「いやいや海斗君。君ツッコミのセンスあるな、良ければ私と全世界神漫才大会に出てみないか?」
「ゼウスさん、このボケはいつまで続くんですか?」
「あっははは。すまない、ついつい面白くなってしまって。今ちょうど“メモリー”が見つかった」
ゼウスは巨大な液晶画面にそれを映し出した。
そこには三人の若い青年たちが笑顔で肩を組んでいる姿が映し出された。
「真ん中が私、右がポセイドンそして左がハデスだ。この映像のとおり、私たちは仲が良く自分たちの力を高めあう良きライバルだった。しかし、ある出来事から私とハデスは決別した」
「そのある出来事って?」涙子は言った。
「君たちに詳しいことは話せないんだが、五千万年前この世界を揺るがす大戦争が起きた」
「涙子、五千万年前にそんな世界を揺るがすほど戦争があったのか?」
「私が知る限りそんな戦争は教科書に載っていなかったはず・・・」
「君たちの本に載っていなくて当然だ。なぜならそれは人間同士の戦いではない。
“神同士の戦いだ”」
ゼウスは再び巨大液晶画面に触れ、画像をスライドさせていく。
辺りの空気が一瞬にして重くなる。
ゼウスはその時の画像を見つけファイルを開く。
ゼウスが見せた画像は海斗と涙子にはあまりにも生々しい画像だった。
二人はその画像を見るや否や吐き気を覚え、地面に蹲る。
「この画像は開くことさえ憚れる禁断の画像」ゼウスは声を低くして言った。
この画像に写し出されていることは、まるで地獄絵図だった。
背中に羽を生やした天使たちの羽はもぎ取られ、顔や上半身と下半身がない天使もいた。女、子供も無残に殺され、地面はめくり上がり木々は根っこから倒れた状態になっていた。
「この戦争、最初は地上で始まったのだが、敵の猛攻によりそれは私たちの住む天界までにも及んだ。相手はあまりにも惨忍で冷酷なゆえに天界では名前を知るものは彼らと戦った私たちオリンポス十二神と一部の神しか知らない」
やっと落ち着いた海斗が涙子の背中をさすりながらゼウスに説明を求める。
「その戦争とハデスがどう結びつくんですか?」
「その戦争は結局、決着はつかなかった。結果的に彼らをバラバラの場所に封印することに成功した。しかしその戦争は全てものたちの人生を一変させた、そして私たちも例外ではない。私たち三人は功績が認められ、私たちは自分たちの統べる領地を分けることになった。しかし、ハデスは敵の攻撃で昏睡状態だった」
「でも俺、ハデスって奴と戦いましたよ?」
「ここ最近、昏睡状態だったハデスが天界から姿を消したのだ。そして消えたハデスが人間界と冥府で目撃されるようになった。そして私たちはある仮説を立てた」
「その仮説って?」
「それは、まだ君たちに教えることはできない。教えたとしても君たちではまだその真実を受け止めることは出来ないだろう。とりあえず、現実世界に戻ろう」
「ちょっと、まだ話は終わってませんよ」海斗は現実世界に戻ろうとするゼウスを止めようとする。
しかし、すでにゼウスが“シャットダウン”を押した後だった。
・
・
三人はそれぞれ現実世界に戻り、意識を取り戻した。
ゼウスは二人の意識が戻っていることを確認した。
海斗は疑似世界で話しそびれたことを話そうとした。
しかし、いつの間にか体の痛みが戻っていて喋ることが出来なくなっていた。
喋れなくなっていることに気づいたゼウスがあることを思いつく。
「海斗君は喋れないんだな。それなら神々のリーダーである私が荒療治であるが君の体を治してあげよう」
「ゼウスさん、大丈夫なんですか?海斗君は本当に治るんですか?」涙子は不安そうな顔でゼウスの顔をジーっと見つめる。
「大丈夫だろう。応急処置はニンフがやってくれているのだろ、多分問題ない」
「多分って何ですか?多分って!」涙子はゼウスの目をじっと見つめた。
「多分大丈夫だ!多分・・・」ゼウスはそういうと海斗の心臓に手を置いた。すると突然寝ている海斗が、ドーンという音とともに軽く体が浮く。海斗の体の至る所でボキボキという音が部屋全体に響き渡る。
「ゼウスさん、本当に大丈夫何ですか?」
「大丈夫大丈夫。これやって治らない人いないから」
「でも、海斗君。気を失っていますよ」見ると海斗はいつの間にか気を失っていた。
「そうなんだよな、これ人間にやるとほとんどの人が気を失うんだよ」ゼウスは顔に手を置いた。
「ゼウスさん、それを先に言ってくださいよ!」
「あれ?言ってなかったっけ」ゼウスが頭を掻きながら惚ける。
「言ってませんー」涙子の声が部屋全体に響き渡る。
その声に気づいたニンフが部屋に入ってきた。
「どうしたのですか?」ニンフは部屋に入ると同時に海斗の様子に気がついた。
「ゼウス様、もしかしてまたあれを使ったのですか。海斗様は、絶対安静だったのに・・・・」
ニンフはゼウスの行動に呆れて何にも言うことが出来なかった。
「心配するな、涙子君。今の荒療治のおかげで海斗君は三日で元の正常の体に戻るだろう」ゼウスはニンフと涙子の顔を見て白い歯を見せ親指を立てて言った。
「「そういう問題の話ではありませんーーーー」」ニンフと涙子は同時にゼウスのことを怒鳴りつけた。
「えっ、違うの?」ゼウスは惚けるのであった。
・
・
そして、三日後。
海斗は歩けるまで回復していた。
海斗は涙子とともにゼウスにもう一度お礼を言うために、ニンフの案内で王座の間に向かっていた。
王座の間は百階の最上階にあるために、海斗たちのいた八十階の医務室から歩いて十分ぐらいの距離だった。
「やはり、男の子は治りが早いですね」ニンフは海斗に話しかけた。海斗の服装も涙子の服装と同じく古代ローマの服装をしていた。
「そうですね、あんなにぼろぼろだったのに三日で治るなんて驚きですよ」
「海斗君、昔から怪我が治るの早かったからね」
「涙子、あんまり昔のことは出すなよな恥ずかしいから」
「えーーー、だって本当のことだよ」
「お二人は仲が良いんですね」
「それよりもニンフさん。俺、ゼウスさんの話を聞いた後の記憶がまったくないんですが・・・・」
それを聞いた涙子とニンフの表情が固まった。
「海斗様、着きましたよ」ニンフは話を逸らすように言った。
最上階の王座の間の前に着くと、そこには驚くべき光景が広がっていた。
そこには十階の建物とほぼ同じ高さの扉があり、黄金に光っていた。
ニンフはその巨大な扉を軽々と開けた。
そこには巨大な円卓があり、オリンポスの神々は十二個ある席に座っていた。
「ゼウス様、お二人をお連れしましたが、お邪魔だったでしょうか?」
「いや、ちょうど海斗君の話をしていたところだ。ありがとうニンフ。
さぁ、海斗君と涙子君、円卓の中央に立ってもらおうかな」海斗と涙子はゼウスに言われるがままに円卓の中央に立った。ニンフは海斗たちを見送ると小さく手を振り、礼をして部屋を出た。
「さぁ海斗君、怪我はもう治ったかな?」
「はい、三日前の怪我が嘘みたいに」
「そうか、それはよかった。治った早々悪いのだが、海斗に話したいことがある」
「何ですか?」
「君の力を見込んで私たちの軍隊に参加してもらいたい」
「えっ・・・・そんなこと、急に言われても・・」海斗は急なことに驚きを隠せなかった。
しかしそれは他の神々も同じことだった。静かだった神々がざわめき始めた。ゼウスはその話に関して他の神々には伝えてはいなかったらしい。
案の定、王座の間はざわめきの嵐となった。
そこに、一人の神が異議を唱えた。それは、“軍神アレス”だった。
「ゼウス様、その人間を私たちの仲間にするというのは本当ですか?」アレスは立ち上がり海斗たちを指差し、声を張り上げていった。それを隣にいたアテナが片方の手を握り止める。
「あぁ、本当だ、アレス」
「彼らは普通の人間ですよ?彼らに何ができると言うんですか?」
「アレス、アテナ、アポロンは彼の力を見ていたのだろ」
三人の神々は頷いたが、アレスは疑問を持っていた。
「しかしハデスと戦い、彼は相手にすらなっていませんでした」
「彼の力はまだまだ粗削りだ。しかし、力を磨けばいつかハデスとも互角に渡り合えるだろう」
「しかし・・・」アレスはなかなか食い下がろうとはしなかった。
すると、一人の神が声を張り上げて言った。
「アレス、いい加減にうるさいわよ。黙らないとあなたの顔を机に鎮めるわよ」
すごい形相で恐ろしいことを言った神は、“愛と美の神アフロディーチェ”だった。
「何?戦場に立った事のないお前はだまっていろ!」アレスがその言葉を言った瞬間、ざわめいていた神々が静まり返った。
「あら、そう」アフロディーチェは立ち上がると、指をポキポキと鳴らし始めた。
隣にいた結婚の神ヘラと商業の神ヘルメスが必死にアフロディーチェをなだめる。
アレスの隣にいたアテナがアレスに囁く。
「アレス、早くアフロディーチェに謝りなさい」
「私が謝るだとあの“年増”に」
それを言った瞬間、アフロディーチェの頭の血管がプチプチと鳴り始め、アレス以外の神々が肩を並べ言った、“終わった”と。ヘラとヘルメスは自分に被害が及ばないうちにアフロディチェから離れた。
海斗と涙子はアフロディーチェの顔を見て、寒気がした。
その顔を一言で例えると“鬼”だった。最初に見た美人な顔からは想像の出来ない顔をしていた。
すると突然、海斗たちの視界からアフロディーチェの姿が消えた。
アフロディーチェはすでにアレスの後ろに立ち、深い笑みを浮かべていた。
「だれが・・・だれが年増ですって」アフロディーチェはアレスの頭を思いっきり掴むと、アレスの顔を机に叩きつけた。その勢いは机を突き破り、そして地面を突き破り、最上階から一階までの百層の地面を突き破った。アフロディーチェはアレスの頭を地面に埋めると大きく跳躍し、最上階の玉座の間まで飛び、涼しい顔をして自分の席に着いた。
「アレスは置いといて、アポロンとアテナは彼についてどう思う?」ゼウスは彼女のやったことを完全に無視し、話始めた。
「私は少し考えさせてください。初めて力を覚醒させたにしては少し力が大きすぎますし、他の神々に影響を与えかねません」アポロンはゼウスに正論を突きつけた。
「私もアポロンと同じ意見です。あと彼は少し自分の力に過信するところがあります。
多分、他の神々も同意見だと思いますよ」他の神々はウムウムと頷いた。
「うむ、そうか。海斗君はどうかな?」
海斗は少しの間下を向いていたが、何かを決心すると真正面を向いて言った。
「俺は、涙子の命も満足に守ることが出来ませんでした。そんな俺にあなたたちの軍隊に入るなんておこがましいことだと思います。それに俺と涙子はまだ高校生です。こんな命がけの戦いに加わることなんて出来ません」海斗の拳は震えていた。その拳を涙子が強く握り締めた。
「自分の気持ちは決まっていたようだな。それなら私が無理矢理止めることは出来ないな、分かった。今回は諦めよう。しかしこれだけは忠告しておこう。ハデスからの接触はこの一回では済まないだろう。私からの話は以上だ。君たちを家まで送ろう。アテナ、彼らを送ってやりなさい」
「分かりました」アテナはゼウスに頭を下げた。
そしてアテナと海斗と涙子は玉座の間を後にした。
・
・
三人は階段を下りていた。
人間界へのゲートは五十階にあり最上階の玉座の間からかなり遠い道のりである。
八十階からはエレベーターがあるが、そこまでは来た道を降りなければならない。
黙々と階段を下りていた三人だったが、涙子は何かを思い出したように口を開いた。
「アテナさん」
アテナは優しい笑顔で振り向いた。
「何ですか?涙子さん」
海斗と涙子は顔を見合わせ言った。
「「先日は助けてくださってありがとうございました」」海斗と涙子は頭を下げた。
「いえいえ、当然のことをしたまでですから」
「いや、私たちアテナさんたちが来てくださらなかったらどうなっていたか」
「こちらこそ助けるのが遅れてしまって」
涙子は思った。
最初、玉座の間で見たときの印象は何か怖そうな人って言うイメージだったけど何か清楚だし鼻高くて美人だし人間界だったらもてそうだな。
そんなことを思いつつ、海斗のほうを見るとアテナの体をじろじろ見ていた。
涙子が海斗のことを怒ろうとした時、涙子よりも先に何かが海斗の顔面にあたり海斗は階段の段差のところに後頭部をぶつけ気を失っていた。
「お前、何俺の体をじろじろと見てるんだよ! 見せもんじゃねーぞ、この地上に這いつくばって生きてる下等生物どもが!!」清楚ぷりを見せ付けていたアテナの印象ががらっと変わったことに驚きを隠せない涙子の姿がそこにあった。
「おい!そこの尼も、何か心の中で『うっわー、この人清楚っぽい』とか思っただろ。
バーカー俺は、このとおり清楚っぽくありませんよ!」
「えっ、えっええ、今自分のこと俺って私のイメージと全然ちがーう」涙子は突然のことに頭を抱え騒ぎ始める。
そこに全速力で階段を降りてくるゼウスが来た。
「かーー、遅かったか!アテナだけに頼むのはやっぱりだめだったか」
「よっ、親父。お疲れ!」
「え、ゼウスさんこの人アテナさんじゃないんですか?」
「アテナはアテナなんだが、こいつ実は二重人格なんだ」ゼウスが頭を抱える。
「そう、お前が清楚だなって思っていた方もアテナ、今の姿もアテナ。俺はたまにしか出てこないんだけど、よからぬ視線を感じたもう一人の俺が今の俺を呼び覚ましてしまったらしいんだ」アテナが気を失っている海斗のことをじっと見つめる。
「まっ、とりあえず海斗君は私が運ぼう」
ゼウスは気を失っている海斗を肩に乗せ、階段を下りていった。
「さぁ、俺たちも階段下りようぜ。今で言うガールズトークをしながらさ」
アテナは涙子の肩を組み階段を下りていった。
・
・
ゲート前に着く前には海斗は目を覚ましていた。
「なー、涙子。俺さ、何で気を失ってたんだ?」
「えっ、・・・・階段で転んだじゃない?」涙子は微妙な間を空けて答えた。
「えっ、そうかな。おかしいな」海斗は頭をポリポリと掻きながらさっき起きたことを必死に思い出そうとしていた。
「二人とも着いたぞ」
ゲートを見ると、人一人通れるスペースでトンネルのようになっていた
「このゲートは君たちの世界と私たちの城を繋ぐ唯一の道だ。君たちの帰りたい場所を設定してある。潜れば君たちの住んでいる町に着くだろう」
「ゼウスさん、俺たちが人間界をどれくらい立ちますか?」
「うーんと、海斗君が起きるまでに三日間、海斗君の怪我が治るのに三日間合計で六日間だな」ゼウスは指で数えながら説明した。
「てことは、私たち一週間近く家を留守にしているってことですか?」
「時間は問題ない。君たちがゲートを潜れば次の日の夕方ぐらいだろう」
二人は安心してホッと息を吐いた。
「そういえば、君たちの制服直しておいてもらった。おーい、ヘルメス」
すると、ゼウスの隣にアテナのほかにもう一人女性と言うより、まだ小学生ぐらいの女の子が現れた。
その女性は体中に色とりどりの布を巻きつけていて、大人しそうなでめがねをかけていた。彼女は海斗たちの制服を取り出すと指をパチンと鳴らす。
すると、いつの間にか海斗たちは制服を身に着けていた。その制服は新品同然の輝きを放っていた。
「ありがとう、ヘルメス」ゼウスは優しくヘルメスの頭を撫でた。
ヘルメスは小さく頭を下げると姿を消した。
「あの子は?」海斗がゼウスに質問する。
「あの子は、初代ヘルメスの娘だが」
「へぇー、あんなに小さい子供なのに神様か、大変だな」海斗は頷く。
「色々お世話になりました、制服まで綺麗に直してもらっちゃって」涙子は頭を下げた
「いやいや、君たちに迷惑をかけたのは私たちだ。これくらいのことはさせてくれ」
「ゼウスさん、アテナさん、アレスさん、アポロンさんには本当に感謝しています。ありがとうございました」海斗は深く頭を下げ、そして頭を上げ涙子の手を持ちゲートまで走った。そこで二人はゼウスたちの方を向き再び頭を下げた。
そんな二人をゼウスとアテナは優しく見送った。
「行っちまったな、親父」
「あー、そうだな」
「彼にあの件伝えなくても良かったのか?」
「今の彼に伝えるのは、まだ荷が重過ぎる。彼に世界の命運を託すにはな」
「そうだな〜、あいつまだ弱いし。護衛の方はどうするんだ?」
「それについては大丈夫だろう。なんせ“女帝”がついているのだから」
第二章
ゲートを潜るとすでに町は夕暮れだった。時計を見ると事件の一日後だった。
海斗は涙子を家まで送ると自分の帰路についた。
海斗は考えていた。自分のこれからのことを。
ゼウスさんの前で自分の決意は決まっていたがまだあやふやだった。
悪魔の木と戦っている時、確かに自分の意思を感じた。しかし、もう一人の誰かが自分のことを操っているようにも感じられた。
悪魔の木に殺された時に俺は夢の中で誰かと出会っている。しかしそれを思い出そうとすると頭痛と耳鳴りが響く。考えていると次第に、もしかしたら自分は人間じゃないのかもしれないという疑問が芽生えていた。
次第に頭がパニックになってきたので、とりあえず家に帰ってからゆっくり考えようと思っていたとき、涙子の家から出た時から誰に後をつけられている様に感じた。
つけている奴は俺の小幅に合わせて歩いていた。俺が止まるとそいつも止まった。
しかし、俺が振り向くと後ろには誰もいなかった。何か怖くなった俺は家までの残り二百メートルを全速力で走った。足には自信があったため、ついて来れまいと後ろを振り向くとついてくるそいつは俺の一メートル後ろを走っていた。その後、後ろを一回も振り向くことができず、全速力で帰った。
海斗は玄関のドアを急いで開け入るや否や思いっきり閉めた。家に着いたとき海斗の制服はぐちゃぐちゃに乱れ、汗は滝のように出ていて息の方も酸素スプレーがほしいぐらい荒れていた。海斗はゆっくり息を整え、靴を脱いで家の中に入る。
家の中は静かだった。居間に入ると、親父は胡坐を掻いて寝そべっていた。
「ただいま」
「おかえり、お前昨日何処行ってたの?」
俺は焦った。なぜならついている奴のせいで昨日までの言い訳を考えることが出来なかったからだ。体からさっきの汗より増して汗が噴き出る。
「えーと、ゲームセンター行って・・・」とりあえずありきたりな言い訳を並べる。
「あれ、私の知る限りこの町にゲームセンターなんかなかったような」
やっべ〜、ばれてるよ。何で家から出たことがない親父がこの町にゲームセンターがないこと知っているんだよ。さては何かで調べたな、でも親父は典型的な機械オンチだからパソコンとか持ってないはず・・・・。
「おい!結局、何処行ってたんだ?」
「えーと、うーんと涙子とラブ・・・・・」
「ラブ?ラブって何だよ!」
「うぅ〜ん、ド○スコドドス○親父にラブ注入!」どちらも凍り付き、空気も固まる。
凍った瞬間俺は最終手段逃げるという手段を発動する。海斗は急いで自分の部屋に入ると鍵を閉めた。
そして海斗は学校指定のバックを部屋の隅に投げ捨て、制服のままベットの上に寝そべった。その途端、全速力で走った時の疲れが現れ、制服のまま寝てしまった。
・
・
朝の日差しが部屋全体に広がり、その眩しさに海斗は目を覚ます。
「そうか、そのまま寝ちまったのか。うっわ〜、制服シワだらけ。てか、俺よく考えたら休み返上で学校か、とりあえず親にばれずに学校行くか」
海斗は部屋の片隅に置いてあったスチームアイロンで制服のシワを伸ばす。
そして、静かに部屋の鍵を開けた。すると部屋の前にラップされたおにぎり三つと少々の漬物が乗った皿が置いてあった。
「あ〜、母さんか。そういえば昨日何も食ってなかったっけ。マジ、感謝だな」海斗は母さんの親切心に感動した。
海斗は静かに自分の部屋のドアを閉め、母さんが作っておいてくれたおにぎりにかぶりつく。
とてつもない空腹感でおにぎりがいつも以上においしく感じた。
海斗は食事を済ませると再び静かに部屋を開け、キッチンを経由して玄関に向かった。
海斗は急いで靴を履くと静かに家を出た。
いつも通りの通学路を歩いていると、いつもの場所で涙子が待っていた。
「海斗君、おはよう」
「おう、涙子おはよう」
「海斗君、昨日は家まで送ってくれてありがとう」
「いや、家まで送ることは別に気にしてないから良いんだけどさ。涙子さ、昨日帰ってからさ親への言い訳どうした?」
「えっ、私?私は海斗君とラブ・・・・うぅーん何でもない、海斗君は?」涙子は慌てた様子で首を横に振った。
「俺?俺は、ラブ・・・・・いやいや何も言わずに逃げた。てか涙子、海斗君とラブって何だよ?」
「えっ、それはえーと・・・海斗君こそラブって何?」一瞬頬を赤く染めるが涙子も言い返す。
「えっ、俺か?俺は、確か何とかしんごっていう芸人がやってたラブ注入だよ、そうラブ注入!」俺は咄嗟に思い出した芸人の芸を涙子の方を向いてやったが、涙子は突然の出来事に一瞬驚くも小さな声で笑い出した。
「やっぱり海斗君面白いね。私、海斗君のそういうところ好きかな」と涙子は言うと、急に頬を赤く染め下を向いてしまった。
俺も涙子の突然の告白と芸をやった恥ずかしさのダブルパンチでノックアウト寸前になった。
二人とも下を向いて歩いていると、突然誰かが肩を組んできた。見るとテルーだった。
「おうおう、またお二人さんでデートか?うらやましい限りだな」
「ちげーよ、てか何でこっちなんだよ。方角逆だろ」
「違うよ天神君。密会だよ」涙子は人指し指を立て笑顔で言った。
「おい、密会って」海斗は涙子のボケにノリツッコミをした。
「いやー、事情はどうあれ天下の伊邪那美さんに名前覚えて貰っているなんて感激だな!」
「うぅーん、鞄の名札見ただけだよ」涙子はテルーの鞄を指差す。
「え、そうなの」テルーは肩をがくっと落とした。
「お前、質問に答えろよ!何でこっちから来てるんだよ」
「偶然だよ、偶然。それよりも海斗、昨日何処で何やってた?」テルーは静かに質問した。
「何だよ、急に。昨日は・・・・あっ」
「もしかして誰かと、闘ったりとかしなかった?」
「えっ、いや・・・・・特に何もなかったよな?涙子」
「そうだよ、海斗君と私昨日はずっと家にいたよ」涙子と海斗は一緒に頷く。
「いや、伊邪那美さんには聞いていない。海斗に聞いているんだ。で、お前は昨日ずっと家にいて誰とも会ってないんだな?」
「うんうん、昨日は誰とも会ってないし、家から出てない。でもなんで昨日のこと聞いて来るんだ」
「いや、お前の携帯に何回も電話したんだけど出ないからさ」
「あっ、ごめん。昨日ずっと電源切ってた。で、用件は?」
「いや、いいんだ。今済んだから。俺先行くわ!お前らもデートしながら学校行ってると遅れるぞ」テルーは海斗の着けている数珠を見るとそそくさと学校に行ってしまった。
「何だったんだ?あいつは」
「さぁ?」
「なぁ、涙子。今何時だ?」
「え、今八時二十分」
「馬鹿、何平然と言ってるんだよ!あと十分しかねぇじゃねぇか!走るぞ!」
海斗は涙子の手を握ると全速力で走り出した。
・
・
「はぁ、ギリギリ間に合ったな」海斗たちは学校まで全速力で走った。学校に着いた時、涙子の制服が全体的に乱れていて、その姿に見惚れてしまった。
海斗たちは学校に入ると、靴を履き替え自分たちの教室に向かった。
海斗は自分の教室に入ると一人の女の子に抱きつかれる。
「おっはよ!!!! か・い・とく〜ん」
「おい千夏。いつも抱きつくなって言ってるだろ」
「だって、昨日会えなくて寂しかったんだもん。だから昨日会えなかった分のスキンシップ!」彼女は胸を海斗の胸にすり込ませる。
「おい、やめろ。みんなの視線が痛いから〜や・め・てくれ〜」海斗は彼女を引き剥がす。
彼女の名前は天童 千夏、クラスのムードメーカーにして天然の萌え系の女の子である。
「てかお前。土曜日髪の毛、赤のロングじゃなかったか?」
「さすが海斗君。今日はロングのピンクです! ちなみに明日はロングのきみどり色にしようかな」
千夏は海斗の前でくるりとターンする。
おいおい、毎日色変えるとかどっかのアニメと趣旨被ってないか?
「因み、千夏。何で毎日色変えるのって何か意味あるのか?」
「えっ、それは宇宙人と交信するためだよ」
パクってきた〜、こいつ、他のアニメの最初のシーンパクってきたよ。いや、ここまでアニメに自分を似せるやつ始めて見たよ。しかし、涙子には負けるがなかなかかわいいよなこいつ。
本当にアニメのヒロインとして出てきてもいいレベルじゃないか。
俺は目を閉じうんうんと首を縦に振る。
「海斗君、どうしたの?」
彼女の一言で我に返り目を開けると、クラスメートの冷たい視線が俺に集まっていた。
「うんうん、なんでもない!で、今日のスキンシップは終わりか?」
「えっ、海斗君。何かまだ期待してる?」千夏は海斗の顔を覗き込む。
「いや、いつものお前だったら抱きつく+俺を倒す+キスをしてくる+俺は嫌がるって順番だろ。まだ俺が倒れるまでしかやってないだろ」
「じゃあ、チュウする?チュー」千夏が唇を近づけてくる。
「やっぱりいいわ。それよりもテルーの姿が見えないけど?」
「うん、天神君?天神君、今日は休みだよ。何かさっき連絡あったらしいよ」
「えっ、でも学校来る前あいつとあったぜ」
「そうなの?でも私、わかんな〜い。あと菫先輩が今日部活ないって」
「あっそ、今日のお前なんか変だな。いつもだったら嫌がってもキスしてくるくせに」
「ごめんね、何か今日そこまで行く気分じゃないんだ」千夏は後ろを振り向き、席にかえろうとする。
「あっ、今日一緒に帰らないか?涙子と俺と千夏だけど」
「いや、今日は大事な仕事だから」千夏は下を向き、静かに答えた。
「え、お前アルバイトなんかやってたっけ?」
「うぅーん、でも大事な仕事かな。自分の命を懸けるくらい」千夏は小さく首を振った。
声は小さく、途中まではっきり聞こえたが最後の一言までは聞き取れなかった。
「ふぅーん、わかった」海斗は頷いたが、千夏の不自然さを感じた。
明らかに今日の千夏はいつもの千夏ではなかった。いつも来るスキンシップに迫力が感じられなかった。
その後の学校生活も、いつもだったら授業が終わったら話しかけてくるくせに今日に関しては一回も話すことなく、目線も朝以来合わせようとはしてくれなかった。
まぁ、こういうときもあるかと自分で解釈した。
学校は三〜四時間目まであっという間に終わり、俺は涙子の弁当を待っていた。
しかし涙子はクラスに来ると、今日は作ってないから購買に買いに行こうと誘われた。
海斗はシブシブ涙子と購買に向かうために廊下を歩いていた。
海斗は歩きながら外を見る。
すると、電線に見たことのない鳥が一羽とまった。その鳥は全身が赤色に染まっていて、頭の羽は長く、顔も凛々しい顔立ちをしていた。
いつか親父に見せてもらった古い書物に載っていた伝説の鳥“鳳凰”に類似していた。
俺はまじまじと鳥を見ていると、それ気づいた涙子が話しかける。
「どうしたの?海斗君」
「いやさ、あそこの電線にいる鳥かっこよくね?」海斗は一瞬鳥から目を逸らした。
「うん、その鳥どこにいるの?」涙子は首を傾げた。
「えっ、あそこに。ってあれ?何処いったんだ?」海斗は鳥のいた場所に再び目をやると見た鳥はいつの間にかいなくなっていた。
「海斗君、大丈夫?まだ、怪我の後遺症があるのかも」
「怪我は完全に治ってるから大丈夫だと思うけど、何か見たことのある鳥だったんだよな」
「ふぅーん、それよりも購買に行こ!昼休み終わっちゃうよ!」涙子は俺の手を握り廊下を小走りで走り出した。
「おい!お前、生徒会長だろ。走るのはまずいんじゃ・・」
「今日は特別だよ!さぁ、行こ!」涙子は振り向き笑って言った。
俺も涙子の振る舞いに戸惑ったが、俺は小さく笑い涙子の後をついて行った。
しかし、何処かおかしかった。涙子の方ではなく、千夏と鳥のことだが、千夏は千夏で何か張り合いが感じられなかったし、鳥は鳥で何故か俺のことを一点に見てたように感じられた。
俺はあの鳥と目が合った瞬間、自分の血が疼く感じがした。
俺は何故だがあの鳥に親しみを感じていた。
・
・
海斗と涙子は購買で自分の好きなもの買い、いつもの場所で昼食を済ました。
海斗は涙子が食べ終わるのを確認して自分の教室に帰ろうとしたとき、涙子が俺のことを呼んだ。
「あっ、海斗君。今日一緒に帰れないんだ」
「えっ、何で?」
「今日も生徒会の仕事で遅くなりそうなんだ。だから先に帰っていいよ」
「待ってるよ、前みたいなことがあったら大変だろ」
「大丈夫だよ。生徒会の友達と一緒に帰る約束したから」
「え、でも涙子と同じ方に帰る人いたっけ?」
「何か聖徳 叶が今日一緒に帰ろうって」
「あの物静かそうな生徒会の書記が一緒に帰ろうって?」
「うん、いつもだったらそんなこと言わないのに」
「まぁいいや。でも、できるだけ早く帰れよ。また変なことに巻き込まれたら大変だからな」
「うん!心配してくれてありがとう」涙子は微笑んだ。
海斗は少し照れくさくなった。
五時間目に入る前、何故だか知らないがクラスの何人かが早退したことを知った。
その早退した人たちの中に千夏の姿がいた。いつもは早退なんかしない面々もその中に入っていた。
やっぱり千夏の奴体調が悪かったのかと俺は納得し、そこまで気に留めなかった。
六時間目も終わり、HRに入ると担任から課題を渡される。
それはいつか出すこと忘れていた作文だった。担任はそれを今日残ってやるようにと告げた。海斗は学校に残り一人作文を書いていた。教室は俺一人で作文を書く音しかしなかった。字の書く音が教室に響き渡る。
何故か、一人教室にいるのが少し不気味だなと感じた。
海斗は早く帰るために字を書くスピードを上げた。
その甲斐があり、思ったより早く終わった。
海斗は作文を持って職員室に向かおうと引きドアを開ける。
すると、全身黒ずくめの人が立っていた。顔を隠れていて男か女までは分からない。
海斗は驚き、一歩後ろに下がる。
その瞬間、鳩尾に拳を叩きこまれる。
俺は苦しさのあまり前に倒れる。そのまま意識を失った。
第三章
海斗は校庭の真ん中に寝かされていた。
そして海斗は夜の冷たい風で目が覚めた。
「うっ、ここは。ごほっ、ごほっ」海斗は目が覚めると苦しさのあまり咳き込む。
海斗は立ち上がると周りを見渡す。学校の明かりは全て消され、海斗一人が校庭の真ん中でポツンと立っていた。持っていたはずの作文用紙も何処かに消えていた。
海斗は頭の裏を掻き、今ここにいる経緯を考える。
すると、後ろから人影を感じる。後ろを振り向くとそこには全身黒ずくめの人が十人ほどこちらに向かってきた。一瞬、またハデスが襲ってきたかに感じたが、ハデスと初めて会ったときの身を震わせるほどの殺気は感じられなかった。
しかし海斗は反射的に一歩後ろに下がっていた。
黒ずくめたちは海斗のいる五メートル前で止まると、真ん中の一人が海斗に近づいてきた。
そして、海斗の目の前で止まると口を開いた。
「お前が伊邪那岐 海斗だな。突然で悪いがお前にはここで死んでもらう」
声からして男の様だ。その声はどこかで聞いたことのある声だった。
その男は袖先からナイフのようなものを取り出すと、それを海斗の首先につける。
海斗は男に話しかける。
「お前、俺を何のために?」
答えはすぐに返ってくる。
「お前の答えに答える気はない。ただ一つ答えるならお前は“友達を裏切った”ということだけだ」
その答えにはその男の気持ちがこもっている様に感じられた。
その男は少しずつナイフの先を首に付けていく。少しずつ首から血が滴れる。
海斗は首から流れる血に恐怖を感じ始め頭がパニックに陥り始める。
その時、学校の方から女の子の叫ぶ声が聞こえた。
「待ちなさい!」
その声もどこかで聞いたことのある声だった。後ろを振り向くと黒いフードを頭から被り、黒いマントを羽織っていた。人数は二人で、一人の腰には刀の鞘が見え隠れしていた。
その二人も海斗のいる方に静かに近づいてくる。
「千夏ちゃん、手筈道理ね!」刀を持つ方の子が優しく呟く。
「OKで〜す!!」その子は元気良く答えると、マントを空高く投げる。
その正体は同じでクラスで早退したと思っていた天道 千夏だった。
「えーーーー」海斗は自分の立場を忘れ、声を空高く上げていた。
千夏は腰からPS3の様なコントローラーを取り出すと丸ボタンを押す。
すると、彼女の後ろから等身大の戦闘機が現れる。
「戦闘機ーーー、発進!!!」彼女は嬉しそうに叫び、コントローラーの二本のカーソルボタンを同時に海斗のいる方に倒す。
戦闘機は海斗の方に勢い良く飛んでいく。
「ミサイルーーー、発射!!!」彼女の声とともに戦闘機から二発のミサイルが海斗めがけて飛んでくる。
黒ずくめはナイフをしまい、後ろに跳躍する。男が後ろに下がると残りの九人が前に突進する。それとともに千夏といたもう一人が男に向かって突進する。
「えっ、マジで!マジでミサイル!!」海斗は自分めがけて飛んでくるミサイルに驚きのあまり逃げるのを忘れていた。だが、我にかえり千夏に大声で聞く。
「おい、千夏!これ本物?」海斗はミサイルを指差す。
「うん!本物だよ!」
「マジで・・・」海斗は全速力で逃げようとするが、ミサイルは目の前まで近づいていた。
ミサイルは海斗にぶつかったと思いきや、そのミサイルは海斗をすり抜けた。
「海斗君、ごめんね。うっそ!!!」千夏が海斗に笑顔で謝る。
「先輩!!!後はよろしくお願いしーまーすー!!」千夏はもう一人のほうに手を振る。
「えっ、先輩?」
もう一人は走りながら刀を抜く。
刀を両手で持つと、疾風の如く擦れ違い際に突進してくる黒ずくめたちを一刀両断していく。
黒ずくめたちは切られると一枚の紙に変わる。
すると、後ろに下がった男が御経の様なものを唱え始める。
その瞬間、切られた紙が爆発し始める。刀を持った子はその爆発に飲み込まれた。
しかし、マントを盾がわりにし空へと飛び上がる。
月に照らされ、素顔が明らかになる。
それはまさしく海斗達の一つ上の先輩で柔道の先輩でもある卑弥瑠魏 菫だった。
菫はいつも着ている制服を体に纏い、スカートのベルトには鞘が挿さっていた。
菫は優雅に空中を舞い、静かに着地すると男向かって直進する。
男は相手が菫だと分かると小さい声で呟いた。
「やっば〜、やっぱり会長である菫さんが出てきたか〜、なら今回は引き上げるか」男は後ろに下がるのをやめると、服の中から十枚ほど紙を取り出す。
それを目の前にばら撒くと、さっきと同じように御経の様なものを唱え始めた。
すると、さっきと同じように紙は爆発を始める。
菫はその爆発をジグザグにかわすと、刀を両手から片手持ちに変える。
そして左手で鞘を抜くと、空に逃げようとする男の顔面を鞘で殴る。
男は大木に叩きつけられ、その時に顔に着けていた黒いマスクが取れる。
しかし木が月の光を遮り、その男の素顔を見ることが出来なかった。
「そこの男の人、大人しく出てきなさい。そうすれば命までは取りません」菫は男の方を向き言った。
「やばいな〜。菫先輩じゃあ爆発は足止めにもならないし、どうすれば」男は一人呟いていた。
「出てこないなら、こちらから参ります」菫は男のいる大木に突進する。
菫が大木まで数メートルまで差し掛かったときに菫の前に三本の手裏剣が刺さる。
菫は走るのをやめ、立ち止まる。木の方を見上げると、男と同じ服装をした黒ずくめが十人ほど現れた。その真ん中には長い髪をした女の子がいた。
その子は菫先輩に向かって一言言う。
「行きなさい、我が兵士たち」真ん中の女の子以外の黒ずくめが菫に突進する。
最初に来た黒ずくめを菫が切ろうとした瞬間、突然爆発する。
菫は爆発前に後ろに下がっていたが男の爆発よりも威力があり、菫は爆風で吹き飛ばされる。
菫は地面に着地して大木を見ようとするが、砂煙が上がっていて見ることができなかった。菫は追うのを諦め、鞘をベルトに挿し刀をしまった。
そして、呼吸を整えると歩いて海斗のいるところに向かった。
海斗は意外な正体に驚きを隠せないでいた。
「本当に菫先輩なんですか?」海斗は菫を指差し言った。
「うん、かいくん。柔道部の菫先輩だよ」菫は顔では笑っていたが、何処か悲しそうだった。
海斗は言葉を返すことが出来なかった。
「かいくん・・・・今日は、とりあえず家に帰ったらどうかな?聞きたいことはたくさんあると思うけど、それは明日全部聞くからさ」
「あっ・・・・・はい」海斗はただ返事することしか出来なかった。
海斗は菫と千夏の方を振り向かず、門に向かって走った。
エピローグ
顔が夜風にあたり輝之の目が覚める。輝之は女の子に逆お姫様抱っこされていることに気が付く。
「大丈夫ですか?兄さん」
「はぁ、また独断で動いたのか?まぁ助かったよ。ありがとな、楓」
「いえ、私は兄さんの奴隷ですから」
「お前いつも言ってるけど、そんな表現の仕方やめろよ。俺お前のことそんな扱いしたことないだろ」
「ですが、私は兄さんのおもちゃであって、人間ではありませんし」楓はいろいろ妄想し始める。
「お前、さっきより表現が重くなってるぞ。お前は俺と同じ人間だろ」
「そう思ってくれて光栄です。兄さん」楓は小さく笑った。
楓は忍者のように人の屋根を飛びながら、自分たちの帰路に着いた。
海斗は走っていた。全速力で走っていた。
海斗の口からは一つの言葉が漏れていた。
「ちくしょう、ちくしょう、ちくしょう・・・・」
石に躓き顔を打ち付けて転ぶ。海斗はすぐに立ち上がり、また走り出す。
別に千夏や菫が自分に秘密を隠してことに怒りを覚えたわけではなかった。
それよりもむしろ自分に怒りを覚えていた。
女の子に二度も助けられてしまった。それが海斗のプライドを深くまで傷つけていた。
自分ことも守れず、ましてや自分の彼女まで守れなかった。
自分より弱いと思っていた千夏と菫は自分より強い力と強い心を持っていた。
自分が情けなかった。自分をやめたいぐらい情けなかった。
家の玄関のドアを思いっきり開け、入る同時にドアを思いっきり閉めた。
玄関から自分の部屋まではとても短いが、その距離さえも遠く、足が泥沼に入っていく錯覚にかられた。
早く自分の部屋に入らないと頭がおかしくなりそうだった。
自分の部屋のドアを開け布団に入る。その布団の中で拳を握りしめ、それを何度も叩きつけた。
「くそ、くそ、くそ、くそ、くそ・・・・・」その声は次第に大きくなった。
海斗の泣き叫ぶ声は夜遅くまで続いた。
読者の厳しい意見待っています。つまらないならはっきり言ってもらっても構いません。甘い言葉は私を成長させてはくれないと思っています。
ご意見の方よろしくお願いします。




