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前章

ゴットオブユニバース

第一章 

今日俺は人間と神の一線を越えた。

その日も、いつもと変わらない朝だった。俺はいつもと変わらない時間に起き、そしていつもと何も変わらない時間に家を出た。

俺の名前は伊邪那岐海斗、京都の中心部から離れた市内の高校に通っている普通の高校二年生だ。自分で言うと自画自賛になるが、顔やスタイルは、平均より良い方で、身長は、百八十センチ近くある。

俺は古くから伝わるイザナギ神社の一人息子で日本神話に伝わるイザナキの神が、祭られている神社なのである。俺の家族は俺を合わせて三人家族で、俺の親父は三十九代目神主伊邪那岐龍神といい、ほとんどの武術を心得ている。

俺も何度か、親父には挑んだことがいつも瞬殺でやられてしまった。

まさしく人類最強と言っても過言ではない。さらに家は代々、イザナキの神の血を引き続けているため、俺も親父もその血を今も引き続けている。

打って変わって母親の方は普通の人間で、たまたま神社に御参りに来ているときに、親父に一目惚れしたらしい。それからというもの俺の母親は、毎日のように神社に通い続けて、そして母親のプロポーズにより結婚したらしい。そんなこんなで俺はいつもと変わらない一日を平和に過ごしていた。

その日もいつもと変わらない道で学校に通っていると後ろから名前を呼ぶ声がした。

「海斗君、おはよう。今日も雲ひとつない、いい天気だね」振り向くと天女のようなとても美しい女子が立っていた。

「おはよう、涙子」俺は手を上げ、挨拶をした。

ここで涙子の説明をしておこう。

彼女の名前は伊邪那美涙子、彼女も古くから伝わるイザナミ神社の一人娘であり、俺と同じ高校に通う高校二年生である。彼女の家も、代々イザナミの神の血を引き続けているため、彼女の血にもイザナミの血が流れているのである。

学校では生徒会長で茶道部の部長もやっていて、頭脳明晰でスポーツ万能な天才美少女なのである。ちなみに涙子は俺のお馴染みで俺と彼女の親同士が決めた許嫁である。ちなみ俺は涙子が許嫁になることに賛成である。

俺たちは学校に着くと、それぞれのクラスへと向かった。

海斗のクラスは二年一組で涙子は二年四組である。

俺がクラスに入るとそこにはいつもと変わらない面々がいた。

「よっ、海斗。英語の予習やったか?」クラスに入って最初に声をかけてきたのは、親友の天神輝之である。ちなみにこいつのあだ名は輝之にちなんで『テルー』と呼ばれている。

「なんだよ。朝っぱらからその話かよ。もっと面白い話題はねーのかよ」

「そんなこといったって、こんな田舎に面白い話題なんかあるわけないだろう。そんなことはいいから早く英語の予習見せろよ。やんねーと残勉になっちまうだろ」

「わかったよ。見せるから、これ貸しにしとくからな」

「おう、わかったよ」とテルーはそれだけを言うと、自分の席に戻っていた。

午前中の授業もあっという間に終わり、昼休みに入ると涙子がやって来て昼ごはんを食べようと誘ってきた。

これもいつもと変わらない日課のようなものである。

ちなみに俺が昼食を食べるときのベストポジションは学校の屋上である。そこは、静かで空気もおいしいからだ。

「なー涙子。高校二年生になっても毎日弁当作ってくれて悪いな」

「いーよ。別にいつも多めに作っちゃっているだけだから、気にしないでもいいよ。それよりも早く食べてみて。今日の料理は自信作だから」

海斗は弁当のふたを開ける。今日のメニューは鶏のから揚げの甘酢炒めとほうれん草とコーンのバター炒めと玉子焼きだった。ご飯は手の込んだタケノコご飯だった。

海斗はタケノコご飯を一口、口の中に入れた。

「うまい。これ、すげーうまいな」

俺はあまりのおいしさにタケノコご飯だけで弁当の半分を食べてしまった。

その後、残りのタケノコご飯とおかずを食べたがまたこのご飯とおかずがうまくマッチしていてあっという間に完食してしまった。

「ありがとう、涙子。今日もすごくおいしかった。何か図々しい事言うかもしれないけど、明日も出来ればお弁当作ってきてくれないか?」

「うん!じゃあ、今度食べてみたい料理をリクエストして。出来る限り作ってみるから」

「ありがとう、涙子。何かいつも迷惑かけっぱなしで今度涙子の為に何か埋め合わせするから」

「うぅーん。私は海斗君が、私のお弁当をおいしそうに食べてくれる顔だけ、見られれば充分だよ」

「そうか。でもきちんとお礼はしっかり返すからさ」

「ありがとう。海斗君」と涙子は、優しく微笑んだ。

美しく繊細な昼休みはあっという間に過ぎていった。

















第二章 

これは一週間前の話である。

ここは地上から約一万メートルのところにある天空の要塞である。

天空の要塞の外見はギリシャのアテネにあるパルテノン神殿を模った造りになっている。この要塞は人間に見つからないように光の屈折と厚い雲のバリアで周りは覆われている。

今、この要塞である会議が行われようとしている。そこで働いている天使たちはその会議の準備でてんてこ舞いである。まさにネコの手も借りたい状態である。

この要塞の最上階には王座の間と言う部屋が存在する。

そこである会議が行われようとしている。

この王座の間は巨大な円卓がありそこには十二個の椅子が並べられている。中心には何でも映し出す聖なる泉がある。

すでにそこには四人の神々が会議のときを待っていた。

時計回りで紹介していくと一人目海神ポセイドン、二人目軍神アレス、三人目太陽神アポロン、四人目火神へファイストスはすでに自分の座る椅子に腰をかけていた。

四人の神々はすらっとした顔立ちで身長は皆、長身である。

少し経つと、七人の女神たちが話しながら王座の間に入ってきた。

一人目結婚の神ヘラ、二人目農業神デメテル、三人目かまどの神ヘスティア、四人目知恵と戦争の神アテナ、五人目月と狩猟の神アルテミス、六人目愛と美の神アフロディチ、七人目商業の神ヘルメスが入ってきた。

七人の女神もすらっとした顔立ちをしてそれぞれ違う体づきをしていた。

残る椅子は中央の椅子の一つとなった。

それぞれの神々は自分たちのこれまでの功績などを自慢しあっていた。

そこにコツコツという靴の音が響き渡った。

そこに最後の神が入ってきた。

その神が入った瞬間話していた神々が一瞬にして静まり返った。

その神こそ現在までの約五千万年間、全神々リーダーを務めているその名は全能神ゼウス。

ゼウスの体はたくましく、長身でこれまでの戦いの傷跡がたくさん残っている。顔にも戦いの傷が残り顎には白いひげを生やし威厳のある顔立ちをしている。

ゼウスは残る椅子に腰をかけ、一呼吸をあけしゃべりだした。

「皆、よく集まってくれた。皆がこうやって集まるのも四千万年ぶりだな。

皆とはゆっくり話したいことがたくさんあるのだが、今回の件は人類の命運を分ける戦いである。皆、心してかかってくれ。今回、私たち十二神が迎え撃つ相手は“ティタン”

だ。皆も知っていると思うが、ティタンは我々十二神が五千万年前に封印した相手だ。それが何者かによって解かれようとしている。なんとしてでもティタンだけは復活させてはならぬ」

ティタンの話を聞いた神々は驚きを隠すことは出来なかった。

静かだった王座の間は一瞬にしてざわめきの嵐になった。

ゼウスはざわめく神々を見て立ち上がり大声で一喝する。

「静まれ。何神々が弱音を上げている。私たちに臆するものは何もなかろう。私たちもいつかは死ぬ運命、しかし、だったら後ろは振り向くな。前に聳え立つ壁だけを壊し、前へ進め。それが、私たちが五千万年前に誓った誓いだろ」

それを聞いた神々の目は一瞬にして変わった。さっきのような、怯えた目ではなく、自信に満ち溢れた目へと変わっていた。

「それでこそ、我々オリンポス十二神。

さぁ、出陣だ。私たちの誇りのため、そしてこの世界に生きる人類のために」

神々は立ち上がり天空に拳を大きく突き上げた。



































第三章 

五、六時間目の授業も終わり、部活の時間になった。

俺は柔道部に所属している。ほんとはめんどくさい部活なんかには絶対に入りたくはなかった。

だが、親父に「何かあった時の為のために、鍛えておけ」と言われ無理矢理入らされた。

しかし、やってみるとなかなか面白いもので、もう始めてかれこれ五年近くになる。

まぁ、柔道部入ったおかげで友達も増えたから一石二鳥なんだよな。

そんなことを思いながら学校の片隅にある道場に一礼をして入った。

「こんにちはっス。相変わらず、先輩早いっすね」

「おぅ。海斗、今日も早いな」と言葉を返してきた先輩の名前は阿保島 力といって柔道部の部長である。

「そんなことないですよ。いつも通りっすよ」

「いやな、お前って真面目だなと思ってな。普通、彼女持ちの男って時間にルーズだろ。でもお前は部活が始まる十分前にはいつも来ているだろ。何でかなってな」先輩は声を低くして言った。

「そんなことないですって。部活は日課なだけですし涙子は自分のことで忙しいらしいんで、俺は普通に部活に来ているだけですよ」

「そうか。はぁ、俺も彼女ほしいな〜」先輩は、ため息混じりに言った。

「先輩にも居るじゃないですか、菫先輩が」

「ばぁか、あの人は幼馴染みなだけだ」

「あっれ〜先輩。顔、赤いっすよ」

「うるせー。ほら、部活始めるぞ」

先輩がそんなことを言っていると遅れて残りの八人のメンバーが一礼をして入ってきた。残りのメンバーは急いで柔道着に着替える。阿保島先輩の「整列」の合図とともに、俺は自分の顔を思いっきり叩き、自分の気持ちと帯を改めてきつく結びなおし部活へと向かった。

           

           

部活は十七時から始まり十九時に終わる。だから部活が終わると辺りは真っ暗だった。

帰ろうと思って、帰る準備をしていると柔道部の先輩の菫先輩が話しかけてきた。

「ちょっと待って、かいくん。話したいことがあるんだけどいい?」

「いいっすけど。そのかいくんって呼び方やめてくださいよ」

「いいじゃない、かわいくてさ。それよりも前にこの町で起きた事件は覚えているわね」

「あー、あの事件ですか?双子の女子高校生が謎の失踪を遂げて、最初はただ遊びに行っただけかなと思ったら、夜になっても帰ってこないし、二、三日して両親が心配して警察に捜索願を出して一週間が経って警察が諦めかけていたら、突然、ひょっこりと家に帰ってきたっていうあの事件ですよね。あれって結局、双子の女子高校生はなんにも覚えないって言って覚えていることはとある大木の下、急に意識が飛んでそれからのことは覚えてないって言うことで事件はお蔵入りした事件ですか?」

「そう、その事件よ。何かまた謎の失踪を遂げた人たちいるそうよ。それも今度は大勢の人たちが謎の失踪を遂げているらしいのよ。さらに狙われているのは女子高校生だけって話よ。怖くない」

「それってただの変態がやっているんじゃないですか?」

「それはないわ。みんな共通点があるの。まず一つ目が、みんな失踪して一週間もすると帰ってくること。二つ目はみんな何も覚えてなくて、なぜか大木の下のところで気を失っていること。三つ目は帰ってくると人が変わった様におとなしくなることよ」

「怖いっすね。でもそれを何で、俺に伝えたんすか?」

「だってあなた、彼女いるじゃない?その子もいつ狙われるかわからないじゃない。だから、もしものことがあったらあなたが守ってあげなさい」

「はい、わかりました」と俺は照れくさそうに言い、その場を後にした。            

校門に向かうと、そこには涙子が立っていた。

「悪いな、涙子。少し遅くなっちまった」

「そんなことないよ。私も今、来たばかりだから」

「そうか。涙子はこんな時間まで何してたんだ」

「今日は生徒会の仕事。体育祭近いし、その打ち合わせ」

「大変だな。あんまり無理はするなよ」

「ありがとう、海斗君。やっぱり昔からやさしいね、海斗君は。心配しないでね、これでも体は丈夫な方なんだから」

「そうか、それでもあんまり無理はするなよ」

そんなことを話しながら、俺たちは学校をあとにした。

             

             

「じゃあ、海斗君。わたしこっちだから」

「家まで送ろうか?最近世の中物騒だから」

「平気、ここから歩いて十分ぐらいだから。じゃあ、また明日学校でね」涙子は少しあると振り向き、海斗に向かって大きく手を振った。

「おう、また明日な」

俺は一人で自分の帰る方向に、向かっていた。

俺はさっき菫先輩から聞いた事件のことについて考えていた。自分の中で何かが引っかかっていた。

「たしか、菫先輩。狙われている人たちは、女子高校生だけって。あとみんな大きい大木の下で、気を失っていた」そんなことを一人ぶつぶつと呟いていた。

「何か引っかかるんだよな、大木・・・。確かこの辺に枯れきった、大木があったような」そんなことを考えていたら自分の中でいつの間にか何かと何かが繋がっていた。

繋がった瞬間、自分の体は鳥肌が立ち、冷や汗まで掻いていた。

すぐさま、自分のポケットから携帯を取り出し、携帯で謎の失踪事件について調べた。

そこで俺は驚くべき真実を知った。

それは失踪した場所がこの町の山の入り口の枯れた木の下で皆気を失い、謎の失踪を遂げていると言うこと。

そしてもう一つ共通点があった。

それは第一週目の土曜日の二十時に失踪していたことだ。

即座に俺は、自分の腕時計を見た。

海斗の足は、無意識のうちに震えていた。

今日は第一週目の土曜日、時計は午後十九時四十五分を指していた。

俺はもと来た道を全速力で戻った。そして涙子と別れた道で涙子が行った方向に全速力で走った。

今日、涙子が被害者なるという根拠がない。

しかし、海斗の足は無意識のうちに動いていた。

海斗は涙子の家を寄って見た。

しかし、涙子の両親はまだ涙子は帰ってないと言った。

俺は涙子の両親にお礼を言うと玄関を急いで出た。俺は行方不明になる場所に走って向かった。走っているとき嫌な胸騒ぎしかしなかった。

海斗が枯れた木の前に着いた時、そこの次元歪んでいた。歪んでいる場所の前に涙子の鞄が落ちていた。海斗は何か閃いたようにポケットから自分の携帯を取り出す。

携帯の電話帳から涙子の電話番号を見つけダイヤルボタンを押す。

自分の耳に長いキャッチホンが鳴り響く。海斗の心の中では早く電話に出て被害者ではない彼女の声を聴きたかった。

しかし返ってきたのは日常茶飯事に聞いている何処かの企業の女性の声だった。

「お掛けになった電話は、現在繋がりません」海斗の手はいつの間にか汗でびしょびしょだった。

海斗は何度も涙子の携帯にかける。

しかし、彼女の声を聴くどころか携帯に繋がることさえできなかった。

海斗はどうするか判断できる状態ではなくなっていた。

助けに行くと言う選択肢しかないのにそれすら判断できなかった。

海斗は心の中で一人呟いていた。

どうする、どうすれば涙子を助けることが出来るんだ。今から、家に帰って親父を呼びに行くか、それとも俺が助けに行くか。けど、行ったとして俺に何が出来る?生きている間に、柔道しかやってない俺に何が出来る?でも、親父を呼びに行く時間もない。

こうするうちにも、向こうの道に続く扉は閉じかけていた。

無意識に海斗は涙子との思い出を頭の中にめぐらせていた。楽しかったとき、嬉しかったとき、悲しかったとき、いつもあいつは俺のことを何も言わず笑顔で支えてくれた。

そんなあいつに、俺は何かしてあげたか?いや、何もしてあげてないじゃないか。

彼女が俺のこと支えてくれた分、今度は俺が彼女を支えてあげる番じゃないのか?

いつも涙子が支えてくれたから、俺は今ここにいるんじゃないのか?

ここで彼女を助けなかったら俺は一生後悔する。そんなことは絶対にいやだ。

海斗は自分に問いかけ自分の心を奮い立たす。

俺は自分の顔を思いっきり叩いた。

助けられるかが、問題じゃない。絶対に助けるんだと心に誓い、海斗は彼女の元へ向かった。

             

             






























第四章 

海斗は不気味な道を全速力で駆け上がった。

幸いにも不気味な道は一本道になっていた。

俺は走った、とにかく走った、彼女を助けるために。

走っているうちになにか禍々しいオーラを感じる。

そして、林の中を抜け大きな大木のあるところに着いた。

そこには見るも無残な光景が広がっていた。

大木を境に全ての木々は枯れ、大きな湖は干上がり全ての生き物は息絶えていた。

大木は何か邪悪なオーラを身に纏っていた。そのオーラは全ての来訪者を一瞬でひれ伏させるぐらいの禍々しいオーラを放っていた。

その大木はいつかテレビで見た“屋久島の縄文杉”のように聳え立っていた。

海斗はその大木を呆然と見ていた。

しかし、すぐに我に返り涙子を探す。

海斗は大きな声で彼女の名前を呼んだ。しかし返答はない。

しばらく辺りを見回していると大木の方から声がした。

「そこにいるのは、誰だ?」

恐る恐る、振り向くとさっきまで顔がなかった大木に顔が現れていた。

「久しぶりの男の来訪者か、もてなさなければならんな」

「お・・お前は誰だ?なんで木が喋っているんだ」声を震わせながら、俺は言った。

「わっはっはっはっはっは。久しぶりに男の怯えた顔を見たわ。わが名は、悪魔の(デビルズ・フォレスト)。私の姿を見られたからには生かして帰すわけにはいかない。お前にはここで、死んでもらう」

「そんなことより、涙子。お前、涙子のこと知らないか?」

「あー。さっき私が招き寄せた女の事か。その女なら、まだ魂は吸っておらんよ。ほれ」

大木の中から、捕らえられた涙子がそこにいた。

「涙子。おいお前、涙子を放せ!」海斗は大声で叫んだ。

「そうか、お前の友達だったか?そうか、そうか。じゃあこいつとお前を戦わせたら面白い余興になりそうだ」大木は笑みを浮かべ言った。

悪魔の木は自分の種を涙子に無理矢理飲ませる。

飲んだ瞬間、涙子は苦しみだし涙子の体は黒く光りだした。

そして、いつも美しく透き通った目は黒く邪悪な目に変わっていた。

「久しぶりに人間の体に憑依したわ。さぁ、少年よ、私を楽しませてくれよ」

涙子は指と首を鳴らし始める。

「さぁ、いくぞ」涙子は一直線にこっちに向かってくる。

海斗は格闘技をやっている経験上、普通の女の子殴られたって痛いはずがないし柔道をやっている俺に勝てるはずがないと思った。

そう思っていた矢先のことだった。涙子の右足は目にも止まらないスピードで、海斗の右横腹を蹴っていた。

その瞬間、アバラに嫌な音が響いた。

そして次の反応を取ろうとした瞬間、次の一発が海斗の右頬に左足の回し蹴りが入っていた。その瞬間海斗は吹き飛ばされる。

海斗は枯れた木にぶつかり食道から感じたことのない何か熱いものが口から出ようとする。

海斗は苦しさのあまりそれを吐き出す。それはあまり口からは吐き出したことのない血だった。たまに咳き込んで血が混じる時があるが、その量は度を越えていた。

そして海斗は思う。あれは人間が、なせることではないことを。

「ちっ、なんだよ。これサイヤ人同士の戦闘シーンみたいじゃないか。こんなやつに勝てるのかよ」海斗は弱音を吐いていた。

「なんだ。もう終わりか?最近の男は軟弱だな。ほれほれ、早く立て。まだ始まったばかりだ。私の体も温まってきたところだ。これからはもう少し本気でいくぞ。覚悟しろよ。お前も本気で行かないと、死ぬぞ」涙子は大きく地面を蹴り走り出した。

海斗はフラフラになりながら立ち上がる。

そして涙子の右ストレートが海斗の顔面に入ろうとした瞬間、海斗は咄嗟に身を屈め右ストレートを利用して背負いの体勢に入る。

「とぉぉぉぉりゃゃゃゃゃ」海斗は声を張り上げ、涙子のことを思いっきり投げ飛ばそうとしたが、涙子も咄嗟に自分の体を空中で捻らせ地面に着地するなり、海斗の腹に左アッパーを叩き込む。俺は宙に浮き胸倉を捕まれ背負い投げで地面に叩きつけられた。

海斗は口から血を吹き上げる。

海斗は何度も立ち上がるもその度に涙子の強烈な攻撃に何度も地面に倒された。体の至る所から血が出ていた。着ていた制服もぼろぼろに引き裂かれていた。

何度か諦めても良いかと言う意志が芽生えた。

しかし、自分の中の何かが俺の心を揺さぶっていた。その度、俺は立ち続けた。何度倒されても、踏み潰されても、俺は立ち続けた。

「男よ、お前は何故立つのだ。そんなにこの女が大事か、そんなにこの女を取り戻したいか、ならば仕方がない。次の一撃で決めようじゃないか。お前も愛する女に殺されるなら本望だろう」

涙子は次の一撃で終わらせるために全身の力の全てを右手の拳にかける。涙子の周りからは黒いオーラが湧き上がる。

「さぁ、これで終わりだ」涙子は言い放つと地面を大きく蹴った。

俺は自分の死を悟り、無意識に目を瞑っていた。その瞬間自分を取り巻く時間の流れが止まったように感じた。

しかし、いつまで経っても最後の一撃はとんで来なかった。海斗は目を開ける。

目を開けるとそこには苦しむ涙子の姿があった。

「なぜだ。完全取り込んだはずなのに、何故、私の邪魔ができる。出てくるな、出てくるなーーーー」

その時涙子の何かが変わっていた。そこにいるのはいつもと変わらない涙子の姿があった。

「海斗君、私のことを殺して。私の意識があるうち、私のことを殺して。私、海斗君のことを殺したくない」涙子は涙を流しながら、俺に訴えかけてきた。彼女が流す涙は真珠のように一粒一粒が美しく透き通っていた。

「そんなことできるかよ。俺はまだお前に何もしてあげてない。俺はお前のことを必ず助ける。だから待ってろ、俺の手で絶対に助けてやる。だから、“殺して”なんて物騒な言葉使うんじゃねぇ」

「ありがとう。海斗君」涙子はそう言い残しまた邪悪な涙子へと戻ってしまった。

「やっと、体を取り戻すことが出来た。さぁ、始めよう。死へのカウントダウンを」涙子は改めて右手の拳に力を込める。

海斗は考えていた。涙子を助ける起死回生の一撃を。

海斗は思った。相手が拳でかかって来るのだったら、その拳を受け流し俺の柔道の技でもっとも得意な技、一本背負いで投げることは出来ないだろうか。いや、できるはずだ。

柔道始めて六年、何度もこの技に助けられた。高校一年生の全国大会決勝戦、最後に決めた技は一本背負いだったし、親父から最初に教えてもらった技もそれだった。だから生と死を決めるこの最後の一手を俺はこの技にかける。

コンマ一秒でもずれたら、確実に俺は死ぬ。

だから俺も目を閉じ自身の精神を一点に集中させる。

「男よ、面白い。こんなに面白い男は久しぶりだ。だが、止められるかな。私の拳は、そう簡単には止められないぞ」

相手の言葉はすでに俺の耳には入ってはこなかった。それだけ海斗の取り巻く世界はすでに無音の世界になっていた。

辺りは静まりかえっていた。聞こえるのはお互いの呼吸をする音だけ。

時さえも止まっているかのように感じられた。

どちらも微動だにしない。

静まり返ったところに一筋の風が吹いた。

その時、涙子は地面を大きく蹴り、俺の方へ一直線に向かってきた。

海斗は目を開き呟いた。

「ごめん、涙子。少し痛いかもしれないけど我慢してくれ」

海斗は一直線に飛んでくる涙子の拳を左手で上へと裁き、そのまま左手で涙子の制服の右肘の部分を掴む。右手は涙子の胸倉を掴み、完全に技の体勢に入った。

海斗は空中で前転をするように大きく跳躍し、涙子を地面に叩きつけた。

その瞬間、涙子の口から無理矢理飲まされた種が吐き出された。

海斗は横たわる涙子を抱きかかえ、名前を呼んだ。何度も何度も呼び続けた。

その時、涙子の瞼がかすかに動いた。海斗はその反応を見逃さなかった。

もう一度、涙子の名前を呼び続けた。

そして、涙子は目を開いて薄ら声で言った。

「海斗君・・。ありがとう」涙子は小さく笑い言った。海斗は涙子のことを抱きしめた。涙を流しながら強く抱きしめた。

「痛いよ、海斗君」

「ごめん。でも俺はもうお前のことを離したくない」

しばらくの間、彼らは抱き合った。

だが、その時だった。涙子の背後から先の尖がった鋭い根っこがすごい速さで襲ってきた。

海斗は咄嗟に涙子を横へと力強く突き飛ばした。

その瞬間、鋭い根っこは俺の横腹を貫いた。そこからは大量の真っ赤な血が流れ出た。根っこは海斗の横腹を貫くと土の下へと戻っていた。

「キャーーー」涙子はその光景を見た瞬間、大声で悲鳴を上げた。

涙子は千鳥足で血だらけで横たわる海斗のところに向かった。

涙子は海斗のことをやさしく抱き抱えた。

海斗の周りは血溜まりが出来るほど血で溢れていた。

海斗の息は虫の息だった。

涙子は海斗のことを抱き寄せ、海斗の手を強く握り締めた。

「海斗君。何で私のことを庇ったの?」涙子は大粒の涙を流しながら言った。

「それは俺がお前のこと好きだからに決まっているだろ。だから俺が守った命、大切に生きろよ」しだいに涙子の顔が見えなくなり、眠気が襲ってきた。

海斗は目を閉じた。それとともに海斗の心臓は止まった。

「海斗君、嫌だよ。そんなの私、嫌だよ。海斗君のいない世界なんて嫌だ。海斗君、海斗くんーーー」涙子の声は静かな夜の空に響きわたった。

            

              
















第五章 

彼女は泣き続けていた。

誰も居ないこの森の中で一人泣いていた。

彼女の制服は海斗を抱きかかえた時に付いた血で赤く染まっていた。

その時、背後から声がする。その声の主は悪魔の木だった。

「私が人間のような下等生物などに負けるなど・・・・断じてありえん。そこの女、退け。このままではわしの腹の虫が治まらん。その男を八つ裂きにして、ただの肉片にしてやる」悪魔の木の顔は怒りで変形していた。

涙子の何かがプツンと切れた。

「いやだ・・・・・・。いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ」さっきまで泣いていた涙子の姿はそこにはなかった。

涙子の心の中は憎しみと自分への愚かさに満ち溢れていた。

涙子は自分のことを責めていた。

私がもっとしっかりしていれば海斗君は、死ななかったかもしれない。

私があの時海斗君に甘えて、一緒に帰っていればこんなことは起きなかったかもしれない。

私が・・と自然とまた涙がこぼれていた。

「私はもうだれにも海斗君を傷つけさせない。海斗君には、指一本触れさせない」涙子は、海斗を守るように悪魔の木の前に両手を開き立ちふさがった。

「いいだろう。お前が私の攻撃にいつまで耐えられるか見物だ。言ったからには、何が何でも守ってみせろ」悪魔の木は少し楽しげに言った。

          

           

ここはとある世界。

そこは辺り全体が金色に輝いていた。

海斗はゆっくりと目を開ける。

「ここは何処だ。もしかしてもう天国に着ちまったか。随分と早く着いちまったな。

それにしても天国のわりには随分と殺風景な場所だな。建物一つねぇーし」

海斗は緊張感のないことを言っていた。

しかし、突然海斗の前に、一つの鏡のようなものが現れた。

海斗は突然現れた鏡に最初は驚きつつも好奇心に駆られ、まじまじと見た。

その時、鏡におかしな現象が起きた。それは鏡に映ったもう一人の海斗が本体とは別の行動を取り始めたのである。

「うわぁぁぁ」海斗は思わず声を上げて地面にしりもちをついてしまった。

そうすると、鏡に映るもう一人の海斗は本体に声をかけた。

「そんなに驚かなくてもいいじゃないですか。私はあなた自身なのですから」

「いや、普通は驚くだろ。目が覚めたら、訳のわからない場所に居て、尚且つ鏡が出てきてお前が突然別の行動を取ったらそれは驚くだろ。つーか、何で男の姿なのに女言葉?」

「あなたと同じ姿をすれば驚かれないと思ったのだけど、逆効果だったようですね」もう一人の海斗の髪の毛は伸び、背中に白銀の翼が生える。

「最初からその姿でいいじゃん。それよりも何か来てくれない」海斗は目線を上へとそらす。

「あらあら、あなた私の体に興奮しているのですか?」

「違うから、目線を戻したいだけだから」そう言いながら海斗の頬が赤く染まる。

「仕方ないわね。翼で隠すわよ」彼女は仕方なく翼で体を隠す。

「てか、ここどこなの?天国じゃなさそうだけど」

「ここはあなたの心の中。あなたは人間の倫理上では死んでいるわ」

「はぁ、俺やっぱり死んじまったのか」海斗はため息混じりに言う。

「あなた、何か遣り残したことはある?なかったら、そのまま天国行きだけど」

「ないさ。それは十七歳で死にたくはなかったけど、最後に自分の愛する人を守れたからな。思い残すことはなにもない」海斗は言葉を低くして言った。

「そう?でもこの映像を見たら天国へ逝く気にならないかもよ」彼女は言い自分の真横に魔法のようなもので少し大きめの鏡を出した。

その鏡は驚くべき映像を映し出した。その映像は涙子が死んだ海斗のことをぼろぼろになりながらも今も守り続けている映像だった。

海斗は絶句した。

逃げているはずの涙子が死んだ海斗のことを体を張って守っていることに驚きを隠すことはできなかった。

「おいなんで、涙子は逃げていないんだ。俺は大切に生きろって言ったはずなのに。それなのになんで涙子は」海斗は声を張り上げて言った。

「あなたには彼女の気持ちがわからないの?何で彼女が死んだあなたのためにあんなにぼろぼろになって守っているか。答えは一つしかないでしょ。それは『絆』と言うものじゃないの?たとえ、あなたの体に命がなくても、あなたが近くにいるだけで、自然と力と勇気をくれる真の『絆』と言うものはそういうものじゃないの?」彼女はそれだけ言い放つとまた鏡の方に目を向けた。

海斗はいつの間にか涙がこぼれていた。涙は拭いても拭いてもこぼれてきた。

「俺は・・馬鹿だな。涙子の事を守れたと思い込んでいたけど、守られていたのは俺の方だったんだな。」

「さあ、どうするの?伊邪那岐海斗!このまま天国に行くの?それとも彼女を助ける?」

海斗の答えはすでに決まっていた。

「もちろん。涙子を助けに行くに決まっているだろ」

「いいわね〜。私、あなたのその何かを決心した顔好きだわ。あの人に似て」

「てか、お前一体何者なんだ?」

「私?そんなのどうでもいいでしょう。それより早く彼女を助けに行こう」

彼女は両手を前に出す。

「何これ?」

「あなたも出しなさいよ」

「おう」海斗は彼女を言われるがままに両手を前へ突き出した。

彼女は海斗の手を強く握り、翼で海斗を包み込む。彼女に手を握られた瞬間、彼女の意志や思いが流れ込んできた。その中に何故か知らないが母さんの姿があった。

彼女は海斗のことを自分のところに引きつけ口づけを交わす。

その瞬間海斗は急に意識を失った。




「はぁ、はぁ。」涙子の体はすでに限界を迎えていた。

着ていた制服はぼろぼろに引き裂かれ、引き裂かれた所からは血が滲んでいた。

それでも涙子は立っていた。愛する人を守るために。

「そろそろ、私もこの遊びに飽きてきた。さあ、この遊びに幕を下ろそう。愛する人とともにあの世に行け」悪魔の木は涙子の心臓めがけて先の尖がった鋭い枝を目にも止まらない速さで飛ばした。

涙子は自分の死を覚悟し目を閉じた。

「ごめんね、海斗君。やっぱり私、守れなかった」

その時だった。

突如、周りの時間が止まる。

そして、死んだはずの海斗の目が開いた。

目を覚ました瞬間、雷が鳴り響き、地面が割れ始める。

海斗の体は一瞬にして回復し貫かれた横腹も再生していた。

そして目と髪の色は白銀に光り、背中にも白銀の翼が生えていた。

海斗は涙子の心臓の前で止まっている鋭い枝を手で掴み地面に捨てた。

そして、涙子だけを止まっていた時間から解き放った。

涙子は動き出し目の前にいる海斗を見て驚いた。

「えっ・・、もしかして海斗君なの?」

「そうだよ。さっきと見た目が違うけど、正真正銘本物の海斗だよ」

「本当に海斗君なの。夢じゃないよね」涙子は涙を流し、海斗はそんな涙子を抱き寄せた。

「あぁ、夢じゃないさ。俺は生まれ変わってここに戻ってきた。お前のことを守るために。だから、お前は下がって見ててくれないか?」

「うん。私、海斗君が帰って来るの待っている」

「おぅ。もしヤツに勝ったら・・・・・キスの一つでもしてくれよ」お互いの頬の色は、薄いピンク色に染めていた。

海斗は涙子に結界を張る。

そして海斗は悪魔の木に向き直り指を鳴らした。

その瞬間、止まっていたはずの周りの時間が動き始めた。

悪魔の木は目の前相手に気が付く。

「お前何者だ」悪魔の木は驚いた声で言った。

「お決まりのセリフだな。伊邪那岐海斗、イザナギの血を受け継ぐ者だ」

海斗の声は静かな森に響きわたった。

「因みに、言っとくけどな。俺は今とても腹が立っている。俺の愛する人をこんな目にあわせてただで済むと思うなよ」

「ただで済むと思うなだと、笑わせるな。さっきのお前では私に指一本触れることさえ出来なかったのにお前が私を倒すだと、笑わせてくれる」

悪魔の木は土に埋まっている全ての鋭い根を地上に出し、海斗一直線に根を伸ばした。

海斗は構えようともせず、ただ目を瞑って立っているだけだった。

「あんな大口を叩いておいてもうあきらめたか。ならばこんどこそ死ね」

鋭い根が海斗の目の前にまで来た瞬間に海斗は瞑っていた目を開いた。

その瞬間、根は枯れ始め、そして枯れた根は炭となり地面に降り注いだ。

「なにが、なにが起きたのだ。きさま一体何をした?」

「簡単な話だ。俺が目を開けた瞬間に目の前の物体だけが過去へとさかのぼりもとの物体に戻っただけのことだ」海斗は一呼吸空け話を続ける。

「でも、もうこれ使わないから。これだけ使ったら、お前のこと手を使わずに、倒してしまうからな」海斗の顔から笑みがこぼれる。

「私を、なめるなよ。お前ら人間風情に負ける私ではない。

よかろう、お前にあの業を使ってもよさそうだ」悪魔の木は自分の枝に生えている葉を枯らし始めた。枯れた葉は全て地面に落ち吸収された。

吸収された瞬間炭になった根は復活し、二足歩行が出来るように足を形成し始めた。

二足歩行が出来るまでにそんなに時間はかからなかった。

足が完成した瞬間、悪魔の木は地面から足を抜き立ち上がった。

立ったときの全長は東京タワーの高さと同じぐらいの高さだった。

「これが、私の真の姿だ。米粒みたいなお前など踏み潰してやるわ」

「はぁ、大きくなったからって強くなったわけじゃないだろ。じゃあ俺も少し本気を出すか」海斗は指と首の関節を鳴らし始め、肩を大きく振り回した。

「さぁ、いくぞ」海斗は白銀の翼を大きく羽ばたかせ、大きく跳躍する。

悪魔の木は海斗を踏みつけるために大きく足を上げる。

海斗は悪魔の木の攻撃を体を回転させながらかわし、悪魔の木の腹の部分に右ストレートを食らわす。

悪魔の木は海斗の一発で大きく宙に浮いた。

海斗は目に止まらないスピードで悪魔の木の腹の部分にパンチをたたきこむ。

悪魔の木はすごい勢いで地面に倒れた。

悪魔の木は先の尖がった枝を矢のように放つ。

矢の嵐は海斗一直線に向かった。

海斗は右手を前に突き出した。

「止まれ」

すると何千もの枝は海斗の手の前で止まった。

海斗は止まった枝の一つを取るとすべての枝は下に落ちた。

「私の攻撃が通用しないだとありえない・・・・、そんなはずはない」

悪魔の木は立ち上がり海斗にパンチを食らわそうとした。

しかし、海斗は右手で軽く止め海斗は悪魔の木を軽く持ち上げ空高く投げ飛ばした。

海斗は落ちてくる悪魔の木に閃光を放った。

爆音は空高く響き渡り悪魔の木は塵と化した。

ふぅ、おわったなと一つ大きく深呼吸をした。

「終わったことだし、帰るとするか。そうだ、涙子を結界の中から出してあげないと」と独り言を呟きながら、涙子のいるほうに向かっているときふと気づいた。

右手にいつも身に着けている数珠にひびが入っていることを。

しかし、そこまで気にも留めず、涙子の所へ向かっていた、その時である。

突然、目の前の景色にひびが入った。

景色は割れ続け、そして人一人通れるぐらいまで広がると景色が割れるのが止まった。

そこから、俺と同じ身長ぐらいの一人の男が現れた

その男は全身黒ずくめで目の色は紫、髪の毛はロングヘアーだった。

その男が通る道に生えていた雑草は一瞬にして枯れ始めた。

男は俺の方に歩み寄り、口を開いた。

「これはイザナギの子孫ではありませんか。会ってすぐではありますが私と一緒に来てもらいませんか?」

「お前さ、人にお願い事するときはまず名前を名乗れよ。まぁ、名乗ったとしてもお前みたいな怪しいやつに付いて行くわけないけどな」

「穏便に連れて行こうと思いましたがやはり無理のようですね。わかりました、それでは力ずくでもあなたを連れて行きます」

「お前、馬鹿か?お前なんかが俺に勝てるわけないだろ」

「それは私の力を見てから言って下さい」

「そこまで言うなら、かかって来いよ!」海斗は挑発をするように手招きをした。

「それでは」

海斗が身構えていると急に男の姿が消えた。

男はすでに俺の後ろに立っていた。

「遅いですよ」男は言うと俺はいつの間にか地面に寝そべっていた。

男はこの一瞬に俺の後ろに回り込み、俺の頭を持ち地面に叩きつけた。

たった一発で海斗の体は立ち上がれないほどの重傷を負っていた。

「はぁ、少し強くやり過ぎちゃいましたね」

「海斗くんーー」涙子は海斗の名前を叫びながら、海斗に近づこうとした。

しかし、それに気づいた男は一瞬で涙子に近づき一言涙子に言った。

「眠れ」涙子は崩れるように倒れる。

海斗はその光景をただ見ていることしか出来なかった。

「また、俺は大切な人を守ることが出来ないのか」

海斗は自分の愚かさと情けさに自分への怒りを感じた。

海斗は俯くことしか出来なかった。

しかしその時、男のところに一筋の光が指した。

「そのまま伏せていろ、少年」空から男の声がした。

海斗は空から聞こえた男の言われたとおりにする。

すると、暗雲が立ち込めていた空が急に明るくなる。

そこには月をバックに一人の男が空中で仁王立ちしていた。

男は空に手をたかだかと挙げると、星が輝く夜空が突然赤く染まりだした。見ると男の頭の上には巨大な隕石が、男の手のひらで浮いていた。

男は黒ずくめの男に話しかけるように言った。

「やはり、お前だったか。元オリンポス十二神冥府の王ハデス」

「侵害だな。太陽神アポロン、私は今でもオリンポス十二神だが」

「お前が“ティタン”の復活を目論んでいる首謀者と言うことはもうオリンポス十二神の全ての神が知っているぞ」

「やはりお前らは耳が早いな。てことはアポロンが此処に来たと言うことは私を力ずくで止めに来たと言うことか」

「私はできれば話し合いで解決したいと思っている。しかし、応じられないと言うなら私はお前にこの隕石を落とす」

「お前にその隕石を落とす勇気はないだろ」

「そう言うなら仕方ない。本当に隕石を落とすまで」

「わっはははははは、やれるものならやってみろ」ハデスは頭に手を置き笑い、その後深い笑みを浮かべた。

アポロンは挙げていた手を下げた。隕石は重力圏を突破するとすごい速さでハデスのところに落ちようとしていた。

海斗は最後の力を振り絞り自分に結界を張ると意識を失った。

隕石は爆音とともにハデスに直撃する。

しかし、ハデスはアポロンの予想を超えることをした。

なんと落とされた隕石を片手で止めたのである。

隕石はハデスの手に触れると、一瞬して灰になった。

しかし、アポロンも焦る素振りを一つも見せなかった。

「アポロン、もう終わりか?拍子抜けだな」

「それは、どうかな」アポロンは笑みを浮かべた。

すると、いつの間にかハデスの首元に剣の先がつけられていた。

アポロンは口を開いた。「隕石自体は、お前に隙を与えるためのものだ。本命は軍神アレスと知能の神アテナがお前の首元に剣先をつけることだ」

神々は全身に黄金の鎧を身にまとい、アレスは背中に二本の剣をアテナは一本の長槍を背負っていた。剣と槍も金色に光っていた。

「アポロン、少しは頭が回るようになったなぁ。私を追い詰めたことだけは勝算に値する。

しかし、神三人とは分が悪すぎるな。今日のところは此方から退くとしよう」

アレスが口を開いた。

「少しでも動いたらお前を切る!」

「アレス、お前の頭の悪さは変わってないな。私がここに来るのに手ぶらで来たと思っているのか?」

すると突然、地響きが鳴り響く。

ハデスは頃合だと思いアレスとアテナの隙を付いて剣先から逃れた。

ハデスはアレスたちに背を向け、目の前の景色を引き裂いた。

そこから現れたのは何百人もの兵士と二頭の野獣だった。

ハデスは再びアレスたちの方に向き直り、口を開いた。

「さぁ、私の兵士たちを紹介しよう。ここにいるものたちは体内に魂を持ち合わせていないものたち、いわばグールでございます」兵士たちの様子は手を前にふらつかせ、まるでゾンビのような姿をしていた。

ハデスは手を大きく広げ一呼吸あけ話を続けた。

「私の右にいる獣は私が人体実験で創った生き物でございます。下半身は大蛇、上半身は、人間界から連れ去ってきた生きた女性を生きたまま使いました。あの時の女性の泣き叫ぶ声は溜まりませんでした。

そして左にいる獣も同じく私が創ったもので下半身は馬の足、上半身これまた人間の上半身でございます。

付けたしですがこの獣に使った人間たちは将来を誓い合った人たちのようです。

以上、グール三百人、獣二頭があなたたちの相手をしてくれます。どうぞ楽しんでいってください」二頭の獣は全長約三メートル、上半身はもはや人間の姿をしていなかった。

ハデスは説明が終わるとアレスたちに頭を下げると、闇の中へと消えていった。

アレスとアテナがハデスを追いかけようとするが、兵士たちに阻まれ追いかけることは出来なかった。

アテナが口を開いた。

「アレス、どうします?応援を呼びますか?」

「アテナ、弱気だな。応援など必要ない」

「はぁ、そういうと思ったわ。あなたは昔から、そうでしたからね」アテナはため息を大きくついた。

「ああ、俺は昔から何も変わってない」アレスは胸を張る。

「わかりました。アレスと私、そしてアポロンだけでこの目の前の相手を倒しましょう」

「いや、二人だ。ここは俺と君だけだ」

「何故ですか?アポロンがいた方が、戦いを優位に進めることが出来るのに」

「君と五千万年ぶりに一緒に戦ってみたくなったのさ」

「はぁ、やはりあなたは変わっていませんね。不器用なところや不器用なところが」

「フン」アレスは鼻で笑い、空にいるアポロンに声をかけた。

「アポローーン、こっちは私たちに任せてくれないか?」

「私は構わないが二人で勝てるのか?」

「俺とアテナで戦って負けた戦いがあったか?」

「フム、わかった。ここは君たちに任せよう。私は、倒れている二人の人間を私たちの城へ運ぼう」アポロンは海斗と涙子を片手で抱きかかえると空へと飛び立った。

アレスはアポロンが飛び立つのを見送ると敵の方に向き直った。

「さぁ、アテナ。お前の背中は、俺が守ってやる。だから、お前は俺の背中を・・」

「はぁ、素直に守ってくれって言えば良いのに。それなら私の背中、しっかり守ってくださいね」アテナは先陣を切る。

「フン、お前こそ、昔から何も変わってないじゃないか」

アテナが兵士の前まで行くと兵士たちは大きく跳躍し、アテナに襲いかかろうとした。

その数約百人。アテナは走るのをやめ、迎撃態勢に入った。

アテナは背中に背負っている槍には触れず、素手で倒す構えを取った。

兵士はまだ宙に浮いていた。

アテナは兵士たちを見上げると一言言った。

「降りてくるのが遅すぎますよ」言った瞬間、アテナの姿が一瞬消えたように見えた。

すると、兵士たちは空高く吹き飛ばされ爆発した。

アテナは百人もの兵士を一人ずつ殴り、殴った瞬間に魔法を打ち込んだのである。

「はぁ、久しぶりに人を殴ったから手が痛いわ」

兵士たちは尚もアテナに突進してきた。

「アテナだけにいい格好させるわけにはいかないな」

アレスは最初に持っていた小刀を捨て、背中に背負っている一本の剣を抜いた。

「アレス、“天剣レイディアント・シエル・ペネトレイト”(天を貫く剣)参る」アレスは、兵士たちの最前列に突進した。

アレスが天剣を振るうだけで、兵士たちの体は真二つになった。

アレスは兵士たちを次々に真二つにしていく。

あっという間に三百人いた兵士たちは居なくなっていた。

残ったのは二体の野獣だけになった。

二体の野獣は背中に背負った斧を抜き、アレスに襲い掛かった。

野獣は斧を振り下ろす。

アレスは二体の野獣の剣戟を受け止める。

“ドーーーーン”と言う音が響き渡る。

「アテナ、この二体の元になった二人の人間の魂は生きているか?」

「確かめてみるわ。十秒程度時間稼げるわね」

「了解だ。こっちのことは私に任せろ」

アレスはアテナにアイコンタクトを取るとアテナは頷いた。

アテナは目を閉じ精神を集中した。

“神の眼”

アテナが目を開けるとアテナの見る世界が大きく変わった。

全てものが鮮明に見えるようになり、生きている全ての魂が見えるようになった。

これが全てを見通すことの出来る“神の眼”の力なのである。

アテナは二体の野獣のことを見た。二体の野獣の周りには黒いオーラとともに一筋の小さな灯火が光っていた。

「見つけたわ、消えかかっているけどこれなら行けそうだわ」

そういうと背中に背負った二メートル以上ある長槍を抜き、地面に突き刺した。

アテナは祈り始めた。

「死に行った者達に安らかな死を」アテナは、地面から槍を抜き、大きく掲げた。

「アレス、離れてください」

アレスは二体の野獣の斧を薙ぎ払うと、空高く跳躍した。

それと同時に、アテナは二体の野獣向けて槍を放った。

その槍は音速の速さとともに爆音が響き渡る。

槍は二体の野獣を貫き、大きく爆発した。

アレスは地面に降り、アテナに話しかけた。

「どうだ、成功したか?」

「ううん、彼らの魂は消えかかっていた。100%助けられたかわからないわ。あとは、生きたいか、生きたくないかは彼らの想い次第だわ」アテナは首を振り俯いた。

「そうか、でも君はよくやったと思う。君は最善の道を選んだのだから」

「そうよね」アテナは寂しそうにしゃべった。

いつの間にか爆発したはずの槍は傷一つなく手元に戻っていた。

アテナたちが帰ろうとしたとき、一筋の光が射した。

そこには野獣の元になった二人の人間が立っていた。

女の方が口を開いた。

「ありがとうございます。アテナ様のおかげで私たちは自由になることが出来ました」彼彼らはアテナに微笑んだ。

奇跡が起きた。

アテナが放った槍は邪悪な魂だけを貫き人間の魂だけを残したのだ。おかげで彼らは人間の姿に戻ることが出来たのである。

「これで私たちは心置きなく逝く事が出来ます」男の方が言うと二人は顔を見合わせ言った。

「「本当にありがとうございました」」二人はアテナに微笑みかけ静かに消えた。

彼らが消えた後、アテナの目には薄っすら涙がこぼれていた。

アレスはそんなアテナを後ろから優しく抱きしめた。

アテナは涙を拭った。

そしてアテナはアレスに微笑みかけた。

「さぁ、帰りましょうか。私たちの城に」

アレスとアテナは、お互いの手を取り合うと、その場から消えた。

その時、闇に消えたはずのハデスが突然空に現れた。

「二人とも私に、面白い余興を見せてくれた。悪魔の木のおかげで私の計画の一つは完遂された。これはまだ計画の第一段階に過ぎないのだからな。わっはははははははは」

ハデスの笑い声は空高く響き渡った。
















エピローグ

ここはとある山中に佇むお寺の最深部にある会議室である。

そこでは誰もが自分の素顔を隠し、部屋の中は真っ暗であった。

議長らしき人は一人の男を会議室の中心の証言台に立たせた。

「第一支部当主天神輝之、前へ」

前に立たされた輝之の顔は学校で見せる馬鹿みたいな顔ではなく凛々しい顔つきをしていた。

「天神輝之に命ずる。そなたの友人である『伊邪那岐海斗』を速やかに殺せ」

輝之はそれだけを聞くと議長の方に一礼をすると自分の席に戻った。

「これで、今日の会議を終了する。解散」

           

           

ここは海斗たちが通う学校の最深部である。

そこでも会議が行われていた。

「これから、第一回裏生徒会役員会を始めます。私は裏生徒会長卑弥瑠魏菫です。

私の隣にいる子は裏生徒会副会長聖徳叶ちゃんで、書記は蘇我桐江ちゃんです。

以後、お見知りおきを。この裏生徒会は今のところこの場所にいる全十人です。

最初は大変だと思いますが、よろしくお願いします。この生徒会の主な仕事は、“伊邪那岐海斗”の身の安全を確保することと、海斗君を敵視する者をこの世から抹殺することです。まずは身の安全の確保を最優先でお願いします。以上、今日の会議を終了します」

会議が終わると皆立ち上がり生徒会長に深々と頭を下げた。



初めて書いたものです。読者の意見にしっかりと耳を傾けていきたいと思います。意見や直した方がいいところ大募集します。

読者の意見楽しみに待っています!よろしくお願いします。

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