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灰色の壁画に咲いた花

うずくまっていたんだ

暗くて、外も内も曖昧になところに

ずっとうずくまっていたんだ


短い一生に持てる希望全てを

使い果たしてしまったみたいに

目に入ってくるものすべてが

錆びついたガラクタに見えたよ


新しいものと古いものと

好きなものと嫌いなものと

全部混ぜたら真っ黒になった


そして目じりから溢れたもので薄まって

だんだん色がなくなっていったけど

見えた世界にきらめきはなかったんだ


「ねえもう何にも光って見えない」


平坦な壁画の上を僕は一人歩いてて

踏みしめた絵具は顔なしの人になる


それををじっと見つめても答えは出ないのは分かっているけど

誰も何も本当のことを話はしない


それならばと、僕は口を横に引いて笑って見せた




「ああもう真っ暗だ」


どうしてこの世界の何も僕の心に入ってきてはくれなくなったの?


分厚い扉を施錠して僕をどうしたいというの?



黒く塗りつぶされた絵画の一角を沼にして

入り口という名前を付けた


「この手を取ってよ」って

底のない沼に手を差し入れて待ったけど

女神様は現れなくて


僕のすべてを投げ込んでみても

罪さえも裁かれることもなかった


そんなこと分かっていたけど

絶望のちくちくが僕の腕を傷つける




そしていつからか、モノクロな絵画の上にいることさえもあやふやになって

現実なのか夢なのかも分からなくなって

僕は自分の冷たい頬を引っ掻いて、叫んだよ


「ここにいるよ」と


僕の顔から流れた真っ赤な雫が灰色のキャンパスに落ちて芽を出して

次々に見たことのないたくさんの色が花を咲かせたんだ


僕の世界に初めての色が咲いた


その花の色は息が止まるほど透明で

涙よりも光ってて、僕の手よりも暖かかったよ


そして最後に一番大きな花が咲いてそこからキミが姿を見せた

在るのか無いのかもわからない僕に手を差し伸べてくれた


そう、キミは僕の世界に優しさをくれた


音も色も匂いもない世界に

体温の上がるような音と雲に飛び乗ったような匂いと

太陽とおんなじ色をくれた



「これは全部アキのだよ」


ってキミは言ってくれた


「生まれたときからずっとアキの心にあったものだよ」


と言って、僕の手を握ってくれた


その時初めて、本当の涙の使い方を知った気がしたよ



ありがとう……ありがとう…


キミの教えてくれた初めての僕

ずっと大事にするから



色のなかった「僕」というタイトルの壁画が

今では僕の宝物になったんだ




色とりどりの花が灰色の絵を包み込んで

僕がキミに出会った時からずっと


気が付いたら僕の心は柔らかく笑っているんだよ






読んでくださってありがとうございました。

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