2012/03/15 Thu
2012/03/15 Thu
続き
「ん、ありがと」
「いやいや、つまらないものですが」
「そんなことないよ、あなたからの贈りものだから」
「そ、そう言ってもらえて嬉しいよ」
「うん」
タオルで濡れている手を簡単に拭き、水気をバイバイさせる。コタツの中にゆっくりと入れて温める。
「あー、あったまる~。コタツはやっぱりいいなー」
「うんうん、そうだねぇ」
彼女は贈りものを見つめているけれど決して触れようとはしていない。じーっと、本当に効果音がつきそうなほどにただ見つめる。愛犬に『待て』をさせているようなそんな罪悪感。
「……食べる?」
「あんっ!」
「え?」
「間違えた。うんっ!」
そういうと彼女の動きは素早かった。直前に変な声を出したことなどを全く全然これっぽっちも毛ほども思っていないようである。スーパーのポリ袋から取り出し、包装紙を丁寧に剥ぎ取り、セロテープでとめているところは無理矢理はがさず慎重かつ繊細に扱う……これまでの動作をたったの数秒で終えてしまった。
「はやくはやく♪ はやく食・べ・よ・う・よ!」
まったく、食いしん坊さんめ。
「はいはい、飲み物はホット牛乳でいいかい?」
「うん! ホットミルクでお願い!」
もう、彼女は元気溌溂であり、表情は嬉々一色で染まっていて、見ているこちら側まで楽しく嬉しくなってくる。ちょっぴりホット牛乳についてツッコミを入れて欲しかった……なんてことは思っていない。断じて思っていない。決して思っていない。
僕はコタツの外という、人類が生きるには難しい状況下へ身を投じた。……なんて、ただマグカップに牛乳をついで、電子レンジで温めているだけなんだけどね。
ヴンッッッと鳴り、若干不気味に光りながら廻る。回転とか渦巻きって神秘的だよね。
チーン! という小気味良い音をたてて、終了のお知らせを告げられ、僕は戸を開けてから取り出す。
「アチチ……!」
柄以外の部分はすごく熱かった。
オリゴ糖をほんの少したらしてからスプーンでかき混ぜる。ちなみにコップなどにスプーンなどのかき混ぜ棒を入れておくと、持ち運びとかをする際、振動を吸収してくれるから、こぼれる心配が少し減る。……ほんとにどうでもいいね。
「ほい」
「ありがとう」
僕はもう一度コタツという安心安全自由の安息と安堵をもらたす、人類の叡智といっても過言ではない、科学技術の粋へと脚を伸ばした。コタツはそこまでではないか?
マグカップを両手で持って、ふーふーと冷まそうとしている彼女は可愛い。とても、すごく、マジでがちで。なんてひとりの女の子に不躾な視線を送っていることが、ばれたのか彼女は口を開く。
「そういえば……」
「うん?」
「あのさ~……」
「どした?」
「あのさなのさ」
「なにさなのさ」
「………………」
「………………」
「…………えーっとね、あなたは他の人から、その……バレンタインの日になにかもらったのかな~? なんて……思っちゃっている……訳で、ありまして……」
「僕が(他の人から)チョコを?」
「あんあん!」
「え?」
「間違えた。うんうん!」
「いや、もらってないけど……」
「本当に?!」
なんかすごい喰いつきなんですけど……あ、チョコではなくて僕の話にね。
「うん、そうだけど……」
なぜだろう、ほんの少し心がチクチクと痛むぜ。べ、別に悔しいとか悲しいとか思ってないからな!
「私から、だけなんだね?」
「うんそうだy……あ、もうひとりからもらっていたよ」
「っ?!?!?!」
何故、にらまれる。
「母さんから」
「くっ! 敵の侵入を容易く許してしまうなんて……!」
いや、敵ってなんだよ。ウチの母さんだよ。君も知っておるでしょうに。なんだかんだ言って、君達仲良しだったじゃん。何時の間に敵対心抱いているんだよ。
「いやいやいや、母さんからだから」
「それが甘いと言うのです!」
「……チョコだから?」
「なんか面白いこと言ったと思っているのかもしれないけれど、別に全然ウケたりしないから。そんな勝ち誇ったような顔をしないでよ」
「なん……だと……?」