モニカのこと。
「ふぃ~、終わった」
疲れているわけではないが、こんな言葉が出る。私は今、モニカと二人で使うことになる部屋の掃除をようやく終えた。もとのリゼットの部屋にはシャルロットが一緒に住むことになっている。電源も通してもらったので、今、設置したテレビをつけてみる。
「やっぱり、真っ暗。設定の仕方もわからないしなー」
テレビの前で胡坐をかいて、リモコンをいじってみる。何も変化はない。
「この部屋?けっこう片付いてるじゃない」
今日修復を終えたばかりのモニカが入ってきた。
「おー。久々ですね、1/1サイズモニカ。」
全身像を見るのはあの戦闘以来だ。身長150センチ前半の金髪ツインテ。あの時のようなメカ娘スーツではなく、ノンスリーブのシャツとデニムをラフに着こなしている。
「でも・・・狭っ!!よくこんなとこに住めるわね~」
二部屋しかないことにケチをつけている。前の部屋ではリゼットの罵声、今度の部屋ではモニカの愚痴か。
「あれっ、テレビあるじゃん!」
「あ・・・」
興味津々のモニカは私の横に座って、リモコンを取り上げチャンネルを変えた。テレビ画面は真っ暗のまま。
「何だ・・・つかないじゃん・・・」
モニカはリモコンをポイと投げ捨てた。確かにつかないと意味ないよねー。
「これからはテレビもな・・・『システムエラー。エラーが発生しました。システムを再起動します。』
「あれ、モニカ?」
いきなりモニカの首がガクンと傾いて瞼を一度閉じ、しばらくした後、目を開けた。瞳孔反射のような作業とともに小さな機械音がした。
「・・・え?何?じろじろ見ないでよ」
大丈夫か?私のルームメイト!?モニカはキョロキョロとあたりを見回した。
「ものが少ないわね。冷蔵庫も食器洗い機も、電子レンジもないじゃない」
・・・このロボットは何に使う気だろう。そんなに家事がしたいのだろうか?実は家庭用?
「モニカ、料理がしたいんですか?」
「べっ、べつにアンタのために料理するつもりなんてないんだからね!」
ぽかーん。顎を動かすパーツが動作不良を起こした。口がしまらない。腕を組んでそっぽをむいた上に顔を少し赤らめるなんてプログラミングは完璧ですね。モニカは隣の寝室に入っていった。
「アンタは床で寝なさいよ。アタシがベッドで寝るから」
「はぁ・・・別に良いですけど」
床で寝る、というか別にそもそも寝なくてもいいしね。充電器も作ってもらったから問題ない。
「は、張り合いがないわね」
「そ、そうですか?」
もしかして、モニカは同型機と住んでいたのだろうか?全員、金髪ツインテツンデレ。・・・・・・
「べっべつにアンタのためry」
「お、おれいなんてしないry」
・・・なんだか大変そうだ。意志疎通が難しそう。
「なんか変なこと考えてるんじゃないでしょうね?」
モニカが訝しそうにこちらの顔をのぞいてくる。まぁ、変なことを考えていたわけだが。でも、実際にそうだったら別に変なことじゃないのかも知れない。
「そうだ。モニカ、昔のこととか話してくれません?」
「昔って、いつ?」
「えーと、ここに来る前ならいつでも」
「じゃあ、最初に休暇をもらったときの話ね」
モニカは結構嬉しそうだ。
「初めて外に出て遊びに行ったんだけど・・・」
「初めて?それまで遊びに行ったことはなかったんですか?」
「当たり前じゃない!いつも外で戦闘用アンドロイドがうろうろしてたら仕事してないでサボっているみたいじゃない」
へぇ~。つまり、自由に遊びに行けないのか。大変だなぁ戦闘用は。
「そもそも、アンタだって外をろくに歩けないじゃない、s」
バターン!
ドアが勢いよく開く。このタイミングでわれらがマスターリゼットの登場。彼女の鞭がモニカに直撃。そのまま玄関まで引っ張っていく。いつも通り突然で有無を言わせない。
「余計な入れ知恵しないでくれますか?モニカ」
「は、はひッ!了解であります・・・」
鞭で吊るしあげたモニカをリゼットがにらむ。まさに蛇に睨まれた蛙!口調までカエルに!「であります」口調いいかも・・・。
「どんな罰に処すでありますか?」
「ちょ、アンタまで・・・」
「アイ○スのマネはいいですから、モニカから変なことを教わらないでください」
くっ!?そっちにとったか!確かに「であります」はアトラスのロボ子のセリフだと思ってもいいし、ガマ星雲第58番惑星宇宙侵攻軍特殊先行工作部隊隊長の口癖ととってもいい。
「奴隷一号、二号に仕事一通りを教えてあげてください。洗濯物が溜まっています」
「分かったであります」
先ほどのモニカじゃないが、私たちアンドロイドは食事をしない以外は人間と共通した家電が必要だったりする。シャワーや洗濯機、掃除機とか。そして今はその洗濯機の前にいるのだけれど。
「コインランドリー・・・初めて見たかも・・・」
目の前には正方形の大きな箱が置いてあった。その箱は2段に積まれ横一列に並んでいた。
マンションの高層階の一角に所狭しと並んでいるうちの1つに私は持ってきた洗濯物をほ織り込む。
「え!?全部そこに入れるの?こっちにもあるじゃない?」
モニカは別のコインランドリーを指さす。確かに別々にした方がいいのだが。
「1台しか動かないんですよ」
そう、もとは全部壊れていたのをリゼットが1台だけ動けるように修理したのだ。私は洗濯物を全部放り込むと、部屋の片隅にあった大きなバケツを手に取る。
「モニカもバケツ持ってください」
「へ!?」
モニカはこれから何をするかまったくわからないといった表情だ。初めてのことだし、仕方ないだろう。
「今から、水を汲みに行きます」
「はぁ!?どこまで?」
私は黙って、上を指さす。モニカは一瞬で理解してくれたようで、思いっきり溜息をつく。
「まさか・・・」
「一番上の階です」
このマンションの屋上は雨受け皿と同じような機能をしていて、その下の階は浄化装置となっている。しかし、完全に浄化できるわけでなく、浄化量も多くないため必要最低限の使用に止めるようにしている。だから、あの畑の野菜やジゼルに汚染の影響が出ていたらしい。
「それにしても、外での作業って大変ね~」
水を運びながらモニカが愚痴をこぼす。話によると戦闘用はホントに戦闘以外したことがないらしい。
「作業用のアンドロイドもよくやるわね。こんな場所に大掛かりにこんなものを作って」
「へぇ~。リゼットって作業用だったんですか」
私はリゼットがいやに器用なのに納得いった。
「そんなわけないじゃない。リゼットは監視用でしょ?」
モニカがきょとんとした様子で返事をする。あれぇ?じゃ、誰が作業用?というより、監視用って?
「えと、監視用ってなんですか?」
「・・・ゴメン。今の話なかったことにして」
モニカが右手でバケツを抱え、左手で額を抑えている。なんか苦しそう。
「モニカ?どうしましたか?」
「リゼットから・・・通信。私のい、いやな記憶がぁぁぁ」
リゼットの嫌がらせだろう。人の嫌がるデータを送るのが彼女の趣味だから、シカタナイナー。
ドスン!!
モニカが実験室に飛び降りてきた。
「あら、モニカ。洗濯は終わったんですか?」
まぁ、終わらずに来たらどうなるか分かっているだろうから、大丈夫だろう。
「ちょっと、リゼット!何、人のメモリー勝手に閲覧してんのよ!」
モニカはこっちを指さして怒鳴っている。
「それより、このデータです」
私はノエルのメモリーから抽出したデータをパソコンに表示する。
「ああ、この前の・・・ってこれ!?」
「驚きました?」
クスクスと笑う。モニカは驚きの表情で硬直している。パソコンにはノエルが出会ったという人間たちが表示されていた。
「私も最初はノエルの認識ミスだと思ったんですけど、違うみたいですね」
少し落ち着いたモニカがこっちを睨んでくる。
「こいつらのこと、どうするわけ?」
「せっかく、見つけたんですから最大限に利用してあげます」
モニカは呆れたような顔でまだこちらを見ている。
「このエゴイスト」
モニカがナマイキを言ったので、私は改良した電撃鞭で遊んであげることにした。