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なくなること。

やっと躯体の修復が終わり、外を歩けるようになったのでジゼルたちに会いに行くことにした。

「じゃ、モニカ。お先に失礼します。そんなに旧いと大変ですね。」

って、言ってきたので、まだモニカが喚いている声が聞こえる。なんか私、リゼットに似てきたかも!?S化傾向にある?そんなことを考えながら、目の前のドアを叩く。

「あれ、返事がありませんね・・・?」

恐る恐るドアを開けてみる。

「ジゼル?シャルロット?」

部屋の中は静まり返っていた。初めてこの部屋に来た時のことを思い出す。あの時も、部屋の中は静かで物音ひとつしなかった。Gかと思っていた生体反応がジゼルだったのは今となってはいい思い出だ。今は生体反応を1つ、感知している。二人の内、どちらかしかいないのか。残念。奥の部屋に付くと、シャルロットが雑巾で床を拭いていた。床には、何かが飛び散ったような痕跡があった。

「シャールロット!!」

後ろから覆いかぶさるように彼女に抱きついた。何も言わずに振り向いた彼女のあちこちにも赤い染みが付いていた。そして、頬には涙が流れた跡があり、そこについていた赤い斑点を綺麗に流していた。

「・・・何があったんですか?」

ポツリポツリと泣きながらシャルロットは今朝あったことを伝えた。しかし、はっきりと伝わってこない言葉が多く、ジゼルが死んだ、ということぐらいしかはっきりと分かることはなかった。

「何故・・・?」

「びょ、うきで・・・うっく、苦しんで・・・撃ってって・・・」

私はジゼルの死に実感が、湧いてないのだろうか。不思議と悲しくならなかった。それよりも目の前のシャルロットの方が気の毒で床の掃除を手伝い、その後はジゼルの墓にやってきた。

「・・・うっ・・・っく・・・」

シャルロットは朝から泣きやんではくれない。墓と呼ばれたものはずいぶんとお粗末で赤土の山に鉄パイプらしきものが差さって十字架を作っていた。でも

「・・・何で私は悲しくないんだろう・・・」

悲しくなる気配がない。感情が、むしろ落ち着いていた。私は機械だから、人間の死が理解できないのだろうか?機械のことなら、泣けるのか?そもそも、私の感情って全部偽物じゃないか?もともと悲しんだことなど一度もないんじゃないか?

「それ以上考えるとその足りないおつむじゃオーバーロードしますよ」

リゼットが私の思考を見透かして忠告した。相変わらず、私のことはバレバレだ。ここにいることも頭の中も。彼女はシャルロットと墓の方を見やった。少し悲しそうな表情をしている。

「ジゼルが、死にました」

「知ってます。以前からの病気が原因でしょう」

こういうときのリゼットは本当に悲しんでいるのだろう。横顔で泣きそうなのが見て分かる。

「あの病気は大したことないって・・・」

「嘘ですよ」

何で、嘘を言ったのか。そういう嘘はやめてほしい。信頼されていないのかな?どんどん気が滅入っていく。私は本当にダメなんだなぁ。ちらと横を見るとリゼットの頬を溜まっていた涙がついに流れていた。

「凄いですね。リゼットは。私はジゼルの死に何も感じていません。涙どころか悲しいとすら感じていないんですよ」

私は、何を言っているのだろう・・・。バカだ。そんなこと言っている場合じゃない。

「故障、ですね・・・あとで修理しましょう・・・」

リゼットに気まで遣わせた。最低だ、私。

「もうすぐ雨が降ってきます。部屋に戻りましょう。さ、シャルロットも」

私はシャルロットの手をつないで、リゼットの部屋に行くことにした。リゼットは少しやり残したことがあると言って発電機の下の部屋に行った。

「シャルロット・・・もう一度、今朝あったこと、話せますか?」

コクンと頷くと、一度目に訊いたよりは分かりやすく話してくれた。少し落ちつたみたいだ。どうやら、今日の未明にジゼルの病気が発症し、何度も「殺して・・・殺して!」とシャルロットに訴えてきたらしい。シャルロットが拒んでいると、最後は自分で銃を奪い取って自殺、したそうだ。凄惨な最期だったらしい。しかし、

(何故、何も感じないんだろう・・・?)

「ごめんなさい、一人にしてもらえますか」

シャルロットの強い意思を受けて私は部屋の外に出た。いつもと変わらぬ灰色の空からは酸の雨粒が降っている。部屋の中から、しゃくりあげている音が聞こえる。そっとしておこう。そう思った私は地下の部屋に行くことにした。

 梯子を降りるとそこには上半身はだいぶ修復されたモニカが横たわっていた。リゼットはどこに行ったのか、見当たらなかった。

「随分戻ってくるのが早いわね。もうどっか壊れたの?」

「・・・そうかも知れません」

モニカはしょげた私を見て、冗談を言ったことを後悔しているみたいだった。

「ちょっと、アンタ大丈夫?」

「・・・ダメかも・・・」

モニカは首を持ち上げて、こっちを心配そうに見ていた。私は横にあった椅子に腰かけた。

「・・・私、友達が亡くなったのに、悲しいとすら感じないんです・・・」

モニカは一瞬、驚いていたが、少し思案したあと口を開いた。

「私も、一度だけそういうことあった」

「・・・!?」

「あれはね、私の同期のアンドロイドがウイルスで暴走したときだったかな。その子とは仲良かったんだけどね。私が任務で彼女を破壊したんだけど、あっさりしてた。壊しても、こんなものか、としか思わなかった。多分、今のアンタと一緒。全然、悲しいって感じなかった」

モニカは目を閉じて、昔のことを思い出しながら語った。

「それでも、仕方ないと思うよ。だって、アンタもあたしもそういうときは悲しむのが普通だって、分かってるんだもん。悲しく感じなくさせたのはきっと造った人の都合。きっとどこかでホントの自分は泣いてるんだって、あたしは思ってる」

「モニカ・・・ありがとう・・・元気出ました」

モニカにお礼を告げる。

「べ、別に私は自分の経験を話しただけで、アンタのためなんかじゃ・・・」

モニカは顔を赤くして、そっぽを向いた。初めて見る『ツンデレ』の反応にきょとんとしてしまった。私が微笑みながら、そばに座っていると、モニカは恥ずかしそうな顔している。

「ほ、ほら!早く亡くなった子の妹を慰めてきなさいよ!」

「あれ、シャルロットのこと、知っているんですか?」

モニカはこっちを向いてグイと私の体を押す。

「リゼットに聞いたの!いいから、行く!」

なおも押してくるのでまた私は部屋に戻ることになった。どうでもいいけど、ツンデレもいいな。




バタン。上でドアがしまる音がした。

「お疲れ様でした。修理を再開しますか」

どこに隠れていたのか、リゼットが出てきた。

「アンタのもちものでしょ。アンタがどうにかするんじゃないの?フツー」

ずっと陰で聞き耳立てていたロボを罵る。

「大体、アイツにホントのことを教えてあげなくていいわけ?ま、後で教えたらそれはそれで怒りそうだけど?」

リゼットはモニカに一瞥をくれるとパソコンに向かって作業を再開した。

「確かにベストな選択じゃなかったかも知れません。でも、本当のこと教えて、面倒なことになるのはもう目に見えていました。変にあの子、マジメですから」

確かに、とモニカは思った。厄介なことになるのが分かっているなら、全部終わった後に教えた方がいいのかも知れない、と思った。

「問題の種が片付く目処は立ってるの?」

「多分、あなたが考えているのとは違う形でカタをつけます。その時は手伝ってもらいますよ」

無表情にパソコンに向かい続けるリゼットから、結構マジな雰囲気を感じた。楽はできそうにないなぁ、はぁーあ。




「シャルロット、落ち着きましたか?あれ?」

部屋に入ってみると、シャルロットは床で眠っていた。そう言えば、ジゼルのことがあったのは早朝のことだった。きっと、殆ど寝ていないのだろう。後で叱られるかもしれないが、リゼットの部屋で寝かせてあげることにした。一緒にいてあげよう。寝ているシャルロットが「お姉ちゃん」と呟いた気がした。前にリゼットから聞いた話だと、シャルロットも水の汚染の影響を受けているらしい。彼女も死んでしまうのだろうか?また、私は無感動なのだろうか?そう考えたところでマイナスな思考を振り払う。プラス思考にならなくては!!なら、この子が死んでしまわないようにすればいい。きっと、そうだ。とりあえず、きれいな水を探さなくちゃ。うおー、なんかやる気が出てきたぞー。いける!私なら出来る!

「・・・人の部屋で何やっているんですか?」

学ランを着て、鉢巻きをしている私を見て、リゼットは嫌そうな顔をしていた。

「リゼット!私、シャルロットを助けるんで!!病気治しちゃいますよ!つーわけで、手伝ってください!」

「はぁ・・・」

「今、諦めただろ!もっと熱くなれよぉ!諦めなければ絶対できる!そう言ってる電波を受信しました!」

このポンコツは何をまた、とリゼットは呆れた。ポジティブなのはいいが、方向が明後日を向いてしまうのは仕様なのか。そばで寝ているシャルロットが少し苦しそうなのは、きっとジゼルのことだけじゃないと思えてしまうほどだった。

「もっと米を食べろよ!朝飯抜いてるわけじゃないよな!パッション!!情熱!」

おお、この電波凄い!凄いよ!受信した自分の才能が怖い!マグマ級の熱さの言葉がじゃんじゃん出てくるよ!!あと、お米って何?

「全員修z」

ドス!あれ、デジャヴ、だ。前もこんな、こと、あった気が・・・ガク

「実力行使をさせるとはめんどうなガラクタさんです」

システムがダウンしたバカロボットを抱えて部屋を出る。ここにいるとシャルロットが可哀そうなので隣のリビングで待機することにした。ついでにこのポンコツさんは亀甲縛りでもしてあげるのもおもしろそうだと思った。

「お姉ちゃん・・・」

シャルロットが別室でそう言ったのが聞こえた。


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