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ぶつかること。

今日はリゼットに頼まれてマンションの1階に来ていた。まあ1階と言っても地上に出ている部分での話だが。ドアを開けて指定された部屋に入ると、中は壁が取り払われていて、3部屋分のサイズの大きな装置が置いてあった。

「これが、発電装置ですか」

初めて見るその機械は強力な磁場を発生させていた。少し躯体に負荷がかかる。うっとおしいエラーログに頭を悩ましながら、巨大すぎる金属の箱によって狭くなった通路を歩いていく。しばらく、進むと、部屋の角には穴があいており、そこから下に降りれるようだった。そこには、仄明るい空間が広がっていた。光源はデスクに置いてあるパソコンやら、用途の分からない機械のものだろう。にしても、何でこんなところにこんな空間を造ったんだか。話によると、ここで私は修復を受けて起動実験をした後、上で正式に起動したらしい。起動実験のメモリーも消去したと、リゼットは言っていた。それにしても、私のデータに関してはよく消去がされている。もしかして以前の私はリゼットに相当嫌われていたのかな?だとしたら、リゼットの機嫌次第で私の記憶は消去されたり、ねつ造されたりするのだろうか!?おーこわいこわい。というより、もう弄られてたりして・・・。

「これですか・・・物騒ですね」

私はリゼットに指定されたそれを手に取る。大型の銃器だった。グレネード弾が射出されるそれは対アンドロイド用だった。両手で持って遊んでみた。横にローリングして構える。

「動くな!!」

決まった。遊びはやめてあたりを見回してみた。周りにたくさんの銃器が転がっている。他にもアンドロイドの残骸らしきパーツがごろごろ転がっていた。お、黄金銃がある。ワル○―P38もあるよ!これはパトリオ○トだぁ!マガジンの形が∞だから弾切れしないんだよね!案外、リゼットは銃コレクター?指定されていた他の銃を手にすると、私はバックパックにそれらの銃をしまってその部屋を出た。




「リゼットー、持ってきましたよー」

ドスン!!!30キロを超えるバックパックをその場に下ろす。

「もっと丁寧に置いてくれません?床が抜けます」

「はいはい、了解しましたー。これ、何に使うんですか?」

リゼットの愚痴を適当に流すと、バックパックから顔を覘かせている銃を指さした。

「アンドロイド迎撃ですよ。先ほどから接近しているアンドロイドがあるのでそれで破壊してください。ま、かなり旧い(ふるい)オンボロなので、あなた一人でお願いします」

「はぁ・・・」

正直、出来るかどうかわからないというより、マニュアル本とか欲しい気分だ。「猿でもできるアンドロイド迎撃のための7つの常識」とか。まぁ、リゼット曰く戦闘用のプログラムは内蔵されているからなんとかなるそうだ。銃器の取り扱いも問題ないらしい。ホント、不確定情報ばっかだなー。ていうより、ターゲットについて全く訊いてなかったな。




目的のアンドロイドはブースターパックで飛んできた。みたまんまメカ娘だ。背中や腕に仰々しい装備。やけに露出の多い服。テカテカ光るパツパツのスーツ。更に金髪ツインテールだ。凄いなー。

「ロスト躯体確認。排除。」

やけにロボットライクなこと言うな。まぁ当然か。敵のアンドロイドは両手に持っているマシンガンを撃ってきた。かわそうとするが、さすがに逃げ切れない。しかし、弾の威力は予想外に低かった。どうやら、対人用の兵器みたいだ。

私は動きの止まっていた敵に向かってグレネードをぶっ放した。大きなブースターに直撃して敵は落下した。落下際に肩に装着されていたマイクロミサイルポッドからミサイルが飛んでくる。

―左腕損傷、躯体損傷率増加―

CPU内の処理にいつの間にか集中していた。徐々に私のクロック数があがっていく。処理を戦闘に割く割合を増やしていく。落下地点から全力で敵が駆けてきた。両手のハンドガンが火を吹く。私は敢えてそれをかわさず、反撃に出る。グレネードをもう一度直撃させればカタはつく。しかし、先ほどよりも機動力のある動きで攻撃はかわされ、接近戦になる。地面に隠しておいたマシンガンを引き抜き、撃ちあう。私は体の機能を久しぶりにフルに使って、相手を破壊することだけに集中した。




「・・・ギ、ギギ・・・損傷、率、90パーセン、トオーバ、アクチュエ、タ、に深刻、なダ、メージ。60秒後に機能、をて、いししま・・・」

私の目の前で壊れた胸像のような姿になったアンドロイドが精いっぱいにプログラムされた言葉を発していた。私は任務を達成した快感に恍惚しながら、目の前の産業廃棄物に銃口を向けた。

「もう結構です。解析するのでソレを渡してください」

リゼットが後ろから歩いてきた。最後まで破壊したかったが、マスターの命令とあらばいた仕方ない。人形の頭を残った右腕で鷲掴み、リゼットに手渡した。

「随分と活き活きしていたじゃないですか」

「結構、楽しかったでdddd、す」

喉にもらった銃弾が原因で音声出力に異常が出たようだ。リゼットはクスクスと笑うと、珍しく御苦労さまと素直に労をねぎらってくれた。

「じゃあ、武器があった部屋に来てください。あなたの修理もしてあげますから」

何か素直すぎて違和感があるが、ここは甘えさせていただこう。いつも、こんなだったらいいのに。損傷によりスムーズに動かない足で何とかリゼットの後に続いて、マンションに戻った。




「このガラクタさんは、相当無茶していたみたいですね。かなり型が古くてブースターにも対応していないのに適当な処理を施して使ってたみたいですね」

あれから三日。ずっと私とリゼットはこの電磁波が上からビンビンくる部屋に閉じこもっている。大した影響はないが、不快だ。まぁ、リゼットにこき使われないで済む今の状態からすると不快指数はこっちのほうがましかも知れない。

「何か言いたいことがあるんですか?内容によってはそのまま廃棄しますよ」

うう、言葉責めは止んでなかった。私はいま、手足を取り外されているため、ダルマのような状態になっている。四肢を動かしても、関節部からウィンウィンという音が虚しく返ってくるだけである。常にエラーメッセージに『右腕からの信号がありません』『左腕から・・・』と表示されていた。結構、うざい。

「まだ、直してくれないんですか~」

「目下進行中なのが理解できませんか?ジャンクさん。少しは黙っていてください」

私はジャンクじゃない!とかって乳酸菌人形みたいに返事したら、うるさいって鋏を投げられました。鋏は私の額に刺さってます。いてて。

「やっと終わりました」

「ホントですか!?」

もう腕とかを取り付けるだけ、と思ったのもつかの間。破損した箇所を修繕され、綺麗な胸像となったこの前のアンドロイドが起動した。私の修理やってくれてたわけじゃないんだ、ショボーン。小さな起動音が響き、ピッピッと電子音が鳴った。少女の躯体の中で電子LEDが明滅を繰り返し、彼女の眼の焦点がなんども調節されているのが良く分かった。

「起きましたか?ガラクタ2号さん?」

「なっ!?あたしはガラクタじゃない!!」

起動直後から威勢よくその少女はかわいい八重歯をむき出しながら喚き立てた。綺麗な金髪にはあまり損傷が無かったため、本当に綺麗な喋る人形になっている。

「って、アンタ、ロスト機体じゃない!?まだ動いていたの!?」

「私より古いあなたに言われたくありませんよ。それにあなただってもう立派なロストナンバーですよ」

「あ~あ・・・最後の任務だったのに、なあ」

そう彼女は呟いた。とても残念そうだ。それにしても、アンドロイドは戦闘中か否かでギャップが大きい。こんなに表情があるんだ、と感心していたら、リゼットが意味深に笑いかけてきた。多分、お前ほどじゃねーよ的な意味だろう。ザ・テレパシー。しかし、私からはなんて声をかけたらいいか悩む。「戦闘、お疲れーッス」とか言ったらキレる気がする。

「モニカ、あれが今日からあなたの先輩になる私の所有物一号、ノエルです」

「「え?」」

え?えーと、つまりモニカと呼ばれたアンドロイドは私の後輩?やたー。後輩ができたー。

「はぁ!?何で私がこんなトロそうなやつの後輩なわけ!?アイツ、頭にハサミ刺さってるじゃん!それに誰も、アンタなんかのために働かないわよ!!」

「トロいのは間違いないですが、マスターに対してそんな口をきいていいとおもっているんですか?」

分かる、分かるよ!この妙に優しい口調はリゼットの怒りのボルテージが上昇している証だ。モニカ、もう抵抗しない方がいいよ・・・!

「第一アンタはあたしのマスターじゃないし!それに・・・pi・・・メモリー領域に空きがありません。メモリー領域内の情報を整理します・・・メモリー領域の整理を中断しました」

リゼットがいきなり、パソコンをいじり出したかと思うと、とてもえげつないことをしだした。モニカのメモリフォルダに大規模の情報をコピペしたのだ。さらにメモリ整理のキャンセルまでさせている。モニカは相変わらず、メモリ空間を広げようとして、エラーを起こしている。カワイソウ・・・。

「リブートします・・・」

モニカの無機質な声。

「リ、リゼット、もうちょっと優しく扱ってあげても・・・」

「ダメですね。おバカさんはこれくらいしないと、治りませんから(はあと)」

すっごく黒い笑み。

「にしても、なんでモニカのデータは初期化しないんですか?」

「え?気分ですけど」

至極当然といった感じで返事をされた。え、気分で消されるの?私は恐怖とちょっとした不公平感を感じた。




「都市の対応は相変わらず、杜撰なとこがありますね」

「ま、仕方ないじゃん」

私はノエルの電源を落として、パソコンに繋がったモニカと会話をしていた。目の前のノエルの腕となるパーツを修復しながら、モニカの情報を閲覧していた。今までの任務のログがある。

「最後の任務、ですか・・・」

「正直いうと、私も相当旧いからね~、この任務の報告が終わればその場で破棄される予定だったんだ。はぁ~あ、なんとかしたかったけどな・・・」

ディスプレイ上のノエルの型式番号を見る。もう20年以上も前に生産されたタイプのものだ。そんな昔の機体もすでに人工知能の開発は完成の域に入っていたから、会話や表情については私たちと遜色ない。ただ、アンドロイド用のブースターはまだ試験段階だったため、すでに一般化されていたこの機種は対応していなかった。

「ノエルにはあまり情報を漏らさないでください。彼女の致命的なまでの情報欠落には助けてもらっているので」

「はいはい、分かりましたよ。マスターリゼット様」

性格の欄にツンデレと初期設定がなされている。真面目な情報の羅列のなかにそう記述されている光景はシュールだった。ノエルの修復はあり合わせだが、あと5日もすれば何とかなるだろう。モニカの方は・・・パーツが足りない。というより、規格に合わない。ノエル以上の魔改造が必要だ。

「かなり弄らなきゃいけないみたいですね。ソフトウェアを全面的にバージョンアップする必要がありそうですね・・・」

これでは修復ではなく、製作だ。そんなことよりも、本人の考えの方が大切だ。

「・・・ま、いいんじゃない?どうせ破棄される予定だったんだし。ただの産廃になるよりかは、生まれ変わってこき使われる方がマシでしょ」

「怖くないんですか?」

強がるだろうが、訊いてみる。体の内のわずかに動く首を傾け、モニカは俯いた。

「・・・大丈夫・・・」

それしか彼女は言わなかった。覚悟はできているようだ。最後に彼女の蒼い澄んだ瞳を覘きこんで、私は話しかけるのを止めた。そういえば記憶を消す前のノエルも最後は俯いていた。きっと、彼女も恐怖と戦っていたのだろう。私は大きくため息をつくと、モニカの心をひとつひとつ新しいものへと交換していった。


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