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目的があるということ。

「それでも・・・私と一緒に来てくれますか?」

しばらくの沈黙。聞こえてくるのは、足元で倒れている少女から聞こえてくる殺虫蛍光灯のような音だけ。

「貴方の目的はなんですか?」

「あなたと一緒ですよ。ノエル。といっても今はもう覚えていないでしょうが」

リゼットはいつものように意地の悪い微笑みを顔に浮かべた。

「貴方も私も初めは、シャルロット・・・いえ、モルモットと呼びましょうか。モルモットを観察、研究、処分するために造られたアンドロイドでした。私たちは人間を守るように造られながら、どこに人間と違いがあるかも分からないモルモットを殺す矛盾した存在でした。」

「・・・」

私の中にはそんな記憶もデータもない。初めて聞く情報ばかりだ。

「私は、モルモットを深く愛しています。・・・多分、プログラムの設定ミスなのでしょうが。都市にこんな実験を止めさせることとシャルロットに幸せになってもらうことが私の目的です」

初めて聞くことばかりのはずなのだが、どこかで聞いたような気がした。きっと、記憶をなくす前の私もリゼットから同じ話を聞いたのだろう。もしくは自分自身でこの話をしたのかもしれない。

「こうしている間も、どうせ都市から出ることをしない人間のために沢山のモルモットが作り出され、処分されています。・・・言っている意味はわかりますね?」

早くしないとより多くのモルモットが苦しむ。ということだろう。

「でも、どうやって計画を中止させるんですか?都市そのものを占拠でもするのですか?」

リゼットは少し視線を逸らして、顎に人差し指を立てる。どことなくわざとらしい挙動だ。

「・・・あてはあります。モルモットの実験計画はそもそも、都市の人間の一部しかしらないのです。都市は飽くまで、人間中心ですから、この計画の存在を人間に知らせて、反対させることが私たちに出来る精一杯です。一応ですが、人間の内通者がいて都市の状況を教えてもらっています」

「でも、それなら内通者の方にやってもらったほうが・・・」

「その内通者は一部の人間に入っているんですよ。ですから、監視も厳しいですし、外にも自由に出られません」

「そうなんですか・・・」

リゼットは下に倒れているアンドロイドを持ち上げると、メンテベッドに寝かせた。静かにアンドロイドの髪を撫でた。その姿は母性を感じさせた。

「協力者が要るんです・・・。そのためにこの子たちを鹵獲しました。この子たちには、残念ですが、何がなんでも協力してもらいます。でも・・・ノエル、あなたには無理強いしたくないのです。初めて、私と同じ感情を抱いた仲間ですから。私は、あなたの意志を尊重したい」

彼女の視線はいつの間にか、メンテベッドのアンドロイドから私に向けられていた。

「おそらく、今回のことに協力すれば、無事ではすまないでしょう。生きて帰れることはないとおもってもらって構いません。私も死ぬ気でいます」

「・・・いいですよ。協力します。私のマスターはリゼットですし、逆らえません」

苦笑いをする私に向かって、リゼットは食ってかかる。

「そういう意味では・・・!!マスターとかは、抜きで考えて頂けませんか?」

「私は・・・リゼットの為ならなんでも協力しますよ?」

リゼットは目を伏せた。最近のリゼットは昔よりも気弱な気がする。それは、私に気を許したからなのか。それとも、彼女の目的の達成がおそらく、彼女の最期であるからなのか。

「それは・・・」

「シャルロットには、話したんですよね?」

「・・・!!」

私はため息をついた。いつもは逆なのに。でも、分かっていたような気がする。シャルロットに人間じゃない、今回の計画が失敗すれば汚染のえい影響を受けて、死ぬだろう、なんてリゼットが言えるわけない。

「仕方ない、ですよね・・・」

きっとギリギリまで私に事情を隠していたのも同じような理由からなのだろう。私に出来る限り日常を過ごして欲しかったからとかなのだろう。

「武器、とか何か準備するものがあればなんなりと言ってください。ちゃんと準備しておけばもしかしたら無事で済んじゃうかもしれませんよ?」



翌日

「あくぅ!!・・・この感覚にはあまり慣れませんでしたねー」

私は充電ケーブルをひき抜き、階下に向かう。実験室でアンドロイド用リアパーツを修復するためだ。

「おはよーございまーすって・・・うわ!!」

私が実験室に入るとアンドロイドのうちの何体かが起動しており、作業をしていた。

「おはようございます」

初期化されたのか、個性を感じさせない声で一斉に返事をしてくる。

「あ、おはよ。凄いっしょ。ほとんどアタシが直したんだー。これで作業効率が大幅アップってね」

モニカが得意げに歯を見せて笑ってくる。

「モニカは、リゼットがなんでこんな準備しているか・・・知っているんですか?」

「・・・まあね」

モニカは少し寂しそうに笑った。

「ノエルも聞いたの?」

「はい、昨日・・・」

「そっか・・・アタシは正直言ってもう少しのんびりしたかったなーって折角、仕事もなくなって自由になって、ってそうか。都市でのことはあんまり知らないのか。まー、都市ではアタシ、バリバリ働いてるキャリアウーマンって感じだったのよ」

「想像できませんね・・・汗」

必死になって真面目に働き通しのモニカを想像したが、必ずイメージのどこかにサボっている印象があり、締まらないイメージしか湧かなかった。

「あんたって、結構ヒドイわね・・・」

「そうでもないです」

私がそう言うとお互いに吹き出してしまった。

「必ず、帰ってきましょうね。モニカ」

「・・・!!そんな当たり前のこと、言わなくてもわかってるわよ」

そして、私が初めて都市に訪れる日が近づいてきた。




「で、場所の確保はできたんですか?」

モニター越しにメガネをかけた男に問いかける。

「全く、こっちは病人だってのに、こき使ってくれるよ。君は。随分、苦労したんだよ。医療措置用のプログラムをそちらに転送しておくから。そのモルモット・・・シャルロットちゃん、だっけ?絶対に助けてあげなよ?」

男が薄ら笑いを浮かべる。この男には恩があるが、どこか苛立ちを感じさせる。

「言われなくとも、分かっています。当日の警備情報の入手と、あなたの所在地を送ってください。あと・・・」

私はそこで口を噤む。

「あと?何だい?」

「出来たら、で結構ですので、当日、人間の避難を促すようにしてくださいませんか?」

「まあ、いいけど。君らにはいてもらったほうが得じゃあないのかい?」

「確かに、遮蔽物になっていただけるなら、重畳ですが・・・今回は、人間にお世話になるので、義理、とでも思っていてください」

男はその言葉を聞いて得意げな表情をした。

「ふふーん、やっぱり見立て通り!君はいい子だねぇ~。いやぁ、良い子のお願いは聞かなきゃなあ。僕、頑張っちゃうよ」

「戯言は結構です。あんまりうるさいと生ゴミ処理器に叩き込んで、海に流しますよ?」

「相変わらず、手厳しいなぁ。じゃ、燃えるゴミになる前に回線を切らせてもうらおうかな」

「あっ・・・」

「ん?まだ何かあるのかい?」

私は言葉を飲み込んだ。

「・・・いえ、それでは、楽しみにしていてください。最高のカーニバルをご覧にいれますので」

「あはは、それは実に愉しみだ。じゃあ、また」

私は回線が切れて静寂を取り戻した部屋で、ベッドに飛び込み顔を埋めた。


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