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番外編~鳥は果して籠から逃げられたのか?~

この話は読まなくとも本編には全く影響がありません。

また内容がありきたりな上、多少長いのでお読みになる方はご留意ください。

 ここは都市の研究部と呼ばれる部署。配線の焦げた匂いやオイルの匂いといった無機質な香りが広がる空間。都市の研究者たちが機械人形やらその兵装を造っている。彼らは他にロクな道を見出せなかったから、ここにいるだけだった。都市での変わり映えのないよく言えば、安定した日常で一番刺激を受けやすい場所が開発関係の仕事であった。刺激は決して外からはやってこない、内側で造り出さなければ。そして今日、彼らの退屈を紛らわせる玩具が目を覚ました。彼女が目を覚ましてみた景色は全てが初めて見るものばかり、しかし、彼女にはそれらは全てが何であるかを理解していた。

「おはよう、ございます・・・」

機械音声のあとに彼女が発した最初の有機的な産声だった。目の前には数人の人間とアンドロイド達。皆がこちらを見ている。彼女の目覚めをずっと見ていた彼らのことを彼女は「気持ち悪い」、と思わされていた。起動のあとのシステムチェック。オールグリーン。何も問題はなかった。彼女の感情さえも、適合であった。

「これから、君は試作機としてテストを受けてもらうことになる」

開発班のリーダーらしき人物にそう言われた彼女はただ頷くしかなかった。

 彼女の開発コンセプトは、敵陣に先兵として突撃して後続を助ける、といったものだった。そのため、機動力と攻撃力など突破力が求められた。

―脚部、オーバーヒート状態です。モーター停止します―

彼女の合成音声が限界を告げる。開発陣の連中は予定よりも低い限界値に溜息をついていた。テストは失敗だった。試作機は満足に動かない足を無理やり引きずって、実験場から出る。本来なら、誰かが運んでやるべきなのだが、人間達にとってみれば失敗した部品なのだ。無理をして壊されたところで何も困らない。それでも、最初はアンドロイドに運ばせていたが、その内、試作機の方から断るようになった。満足に動かない足に歯軋りをしながら、開発室に戻る。この無機質な白い部屋が彼女の部屋だった。監視カメラがおかれ、常に行動を監視されていた。そこに至るまでにいくつもの社交辞令。皆が気のない言葉をかける。彼女にはそれが我慢ならなかった。自分は躯体の限界まで必死になってやっているのに、と彼女は愚痴をこぼしたかったが誰も人間は取り合わないだろう。人間達は彼女の思考ですらも無遠慮で覗いてくる。何を考えていても、チェックが入れば全てが晒される。その上でも人間達は対応を変える気がないようだ。

そんな彼女の生活にも唯一の楽しみができた。実験中にオーバーロードして彼女は開発室に運ばれた。再起動した彼女の前には型すらも分からないアンドロイドが座っていた。

「誰?」

目の前の少女に彼女は訝しげに問いかける。彼女にとって他のアンドロイドにもいいイメージはなかった。いつも人間に媚びて、機嫌をとっているようにしか見えなかった。その上、耐久実験と銘打たれた暴力行為の場所に連れていく存在でもあったからだ。

「あ!私も試験機なんです!残念ですけど名前はないんです。型番号ならありますけど」

目の前のアンドロイドは場違いなくらいに明るい声で喋り出した。彼女はその明るい声を不快に思った。

「貴方も試験機なんですよね?耐久実験、大丈夫でしたか?」

「見れば分かるでしょ?ダメだからここで寝てたんじゃない」

イライラしながら、彼女は答えた。

「ごめんなさい。そうですよね」

少しシュンとした様子でもう一台の試験機は答えた。彼女は表情がコロコロ変わるアンドロドに憤りを感じていた。同時に自分と同じ扱いを受けているはずの相手がこんなに明るいのかが理解できなかった。

「なんで、そんなに楽しそうなの?」

「え!?いや、なんででしょうね?」

彼女は照れながら頭を掻いている仕草をする相手に溜息をついた。

「じゃあ、逆になんでそんなにつまらなそうなんですか?」

小首を傾げて尋ねてくる。そんな少女の一挙手一投足に不快を感じていた。

「そりゃつまらなくなるわよ!毎日毎日、来る日も来る日も、体がぼろぼろになるまで玩ばれて!痛い思いして!こんなことして一体何が楽しいの!?ねえ!?」

彼女は怒りを目前の人形にぶつけた。その怒号に気圧され、少女は目を大きく見開いてただ相手の言葉を聞いているしかなかった。彼女の怒りが収まり、不貞腐れたような態度に戻るのを待ってから少女は話した。

「私も痛いですよ?毎日毎日、電撃を流されたり、衝撃を与えられたり。首がちぎれちゃうことだってありました。でも、外を見たんです。外は明るくて、いろんなものがあって、一度しかまだ連れて行ってもらってないですけど、眺めているだけでとても楽しいところでした」

少女はその後も外の魅力を次々と語っていく。彼女は、最初は聞くまいとそっぽを向いていたが、次第に惹かれ、最後には少女の眼前で目を輝かせて話を聞いていた。

「ねぇ、私も頼めば外に連れて行ってもらえるかな?」

「きっと大丈夫ですよ。いっぱい我慢しているんですから!」

彼女の問いに答える少女の顔も爛爛と輝いていた。その後も彼女と外に出られた時のことを想像しながら、いろんな話をして過ごした。




「あの、私を外に出してくれませんか?」

ある日、彼女は研究員に頼んだ。

「ああ、いいよ。そうだね、じゃあ・・・」

研究員は快諾してくれた。だが、すぐに外に出られるというわけではなく、テストに合格したらとのことだった。テストの日程はちょうど一ヶ月後だった。彼女はそれまでにある、拷問のような数々の実験もただ耐えていた。外に出られるという希望を抱いて。

 ある日、悪夢が彼女を襲った。いつものように夕方には来るはずの少女を待っていたが、いつまでたっても少女は現れなかった。彼女は楽しみである外の会話ができないことに不満を感じていた。もしかしたら、もう全ての実験を終えて外に出てしまったのかも知れない。待ちきれなくなり彼女はいつまでも現れない少女のことをアンドロイドに尋ねた。

「ねえ、もう一人の試験機の子は今、どこにいるの?」

尋ねられたアンドロイドは少し思案してから、答えた。

「・・・廃棄処分になりました。残念ですが」

アンドロイドはそういって少し残念そうな顔をする。彼女は呆然としたあと、そのアンドロイドに飛びかかった。アンドロイドの上に彼女は馬乗りになり、何度も顔を殴りつけた。すぐに顔のフレームが露出し、さらに殴り続けると変形していった。最後にはただの鉄塊を頭部に据えたマネキンがそこに倒れている惨状となった。その事態にほかの戦闘用のアンドロイドが数体がかりで彼女の機能を停止させた。




約束のテストの日がやってきた。彼女はあの日からどこか生気ない様子だった。それでも、外に出られるという希望をもって今日まで稼働してきた。

「本当に外に出してくれるんでしょうね?」

「ああ、もちろんだ」

研究員は彼女が通り過ぎると気難しそうな表情をした。彼女が実験場に入ると、実験が開始された。彼女の最後のお相手は触手だった。鉄でできたそれらは彼女の四肢に纏わりつき、自由を奪う。触手は自由を奪い取るだけでは飽き足らずに、四肢を引きちぎろうと各々が別の方向に引っ張っていく。それにもかろうじて耐えている彼女に触手は電撃を彼女に流し出した。目は白目を剥き、体が機械的な痙攣をする。苦しそうな振る舞いを終えた彼女の前には顔をヘルメットで覆い隠したアンドロイドが現れた。そのアンドロイドの両手は円錐形をしており、彼女には初めそれがなにをするものだか認識できなかった。アンドロイドの円錐形の両手が音を立てて回転し始め、彼女にその回転する両手をつき立てた。

「あがっ・・・あ!・・・がっ!」

ドリルが彼女の中枢部に近い部分を抉り続ける。壊れる限界の部分を調べようとしているのだろうか。肝心な部分は全て外されている。だが、かえってそのために多大な苦痛を味わうことになる。右のドリルが腹部を左手のドリルは眼球を抉り出していった。電撃と圧力がかかる躯体にドリルまでも加わって彼女の限界は徐々に近くなる。


 実験は終わった。彼女は精神力だけでなんとか耐えきった。まだ機能している擬似呼吸が腕の付いていない肩を大きく上下させ、荒い吐息のような音を人口皮膚が破れ、ボロボロのフレームが剥きだしになっている喉から直接聞こえてくる。

「ヤクソク、ソトにダシテ・・・」

「ああ、分かっているよ。その前にそんななりじゃ、出せないから修理をしよう」

いつものように自力で彼女は実験場を去ろうとしたが出来ずにアンドロイドたちに運ばれた。

 彼女が目を覚ました時には躯体のダメージは何一つ無くなっていた。

「約束です。外に連れて行ってください」

「まぁ、待て。まだ直していない部分があるんだ」

研究員が制止をかける。ほかの研究員たちやアンドロイドは彼女に繋がっているパソコンを忙しそうに弄っていた。

「まさか・・・!」

彼女のその言葉を聞いて、研究員がにやりと笑う。

「分かったのかい?さすが聡明だよ。それでこそ、だよ。まだ君のソフトウェアの方を直していなくてね。」

いつも通りの修復なら彼女には何の影響もないが、雰囲気がいつもと違った。

「何をするの・・・?」

彼女は怯えていた。何かは分からないが、絶対的な恐怖と苦痛が確実に待っている。

「そうだね。実は今日の実験は本来が君が耐えられるものじゃなかった。でも君は耐えきった。凄いことなんだけども、気持ちが悪いんだよ。分かるかい?自分の造ったものが想定外のことをすると、気持ち悪いってことが」

―戦闘プログラムの消去を行います―

彼女のCPUが処理を始める。強制コードが働いており、止めることができない。処理を彼女はバックグラウンドにした。

「ちょっと!ふざけないでよ!!私が何したって言うのよ!!」

彼女は精一杯の抗議をする。他のデータも次々に消されていく。

「あんた達の悪趣味な実験をいくつ我慢してきたと思ってんの!?ねえ!?ふざけないでよ!約束の一つぐらい守りなさいよ!!」

研究員はいやらしい笑みを浮かべる。

「ちゃんとフォーマットした後に外に出してあげるよ?心配しないで」

彼女は全力で喚き散らす。喚き散らすことさえできなくなる前に。

「それじゃ意味ないじゃない!!!あんた達、本当にサイテーよ!!!あの子もこうやって苛めて壊したわけ!?だから、外に連れ出したの!?一瞬だけ希望を与えるためだけに!?」

「さっきから造ってもらったくせに生意気な態度だね。そろそろ、メモリの消去も始めようかな?」

彼女の顔が一気に蒼白になった。その様子を見て研究員は愉しんでいるようだった。周りのアンドロイド達は無表情に作業を続けているものもいれば目を伏せているものもいた。

「ねえ、ごめんなさい・・・私が悪かったわ。だから、それだけはお願い、止めて?いいじゃない、一回ぐらい外に連れていくくらい?ね?助けてよぉ・・・私、いっぱい頑張ったのよ?」

彼女の声が徐々に弱弱しくなっていく。それに征服感を得たのかさらに研究員は増長する。

「もうちょっと、頼みかたがあるんじゃないの?」

「すみませんでした・・・許してください・・・本当に外に出たいだけなんです。一回だけでいいんです・・・痛い実験でも何でも耐えますから。なんでも、何でもしますから。着せ替え人形でも、ダッチワイフでも、何でもいいですから、お願いします・・・壊さないで・・・」

嗚咽の混じった声になっていった。ここまで計算して嗚咽をこぼすようなプログラムを研究員たちは造ったのか、単に人間に近づけようとしたのかは定かではない。

「分かった・・・僕もやり過ぎたね。ごめん、ちょっとデータの消去を止めてあげて」

研究員は他の人たちに指示をだした。彼女の顔に生気が戻った。

「ありがとうございます!ありがとうございます!」

研究員が微笑む。

「そんな展開になると本気で思っているの?」

「え?」

失意が彼女から全てを奪い去った。





「!!!?」

身に覚えがあるのか、はっきりしないキロクが彼女の人工知能に衝撃を与えた。

「あの、スタートボタン、押してください・・・」

隣から弱弱しい声が聞こえた。

「え?ああ、ってあれ負けてるじゃない!?」

彼女は隣の少女に、怒鳴る。

「もう一回よ!全く、人がボーっとしてる間に倒すなんて卑怯よ!」

「ご、ごめんなさい・・・モニカさん・・・」

彼女と少女はゲームを再開する。それでしか彼女にはフラッシュバックした記憶を振り払う方法が無かった。あれはかつてのアタシ?それとも、他の誰か?どちらにせよ、外に出られたのはアタシ。それが彼女かどうかは誰にも分からない。


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