引き続き捜索中のこと。
『Loading Operating System…100% System Check…. Device Check….ERROR!!
Left arm signal Right arm signal No response
OS ver2.07 Starting…』
「・・・きたか?それで、結局ダメだったのか?」
誰かの声がする。意識が戻ってくる。周りの情報が電子頭脳に入力されるようになる。腕が無くなってる。
「プロテクトが掛っていて、データの閲覧も改竄も難しいです。」
男性と女性が喋っている、私のこと、かな?そういえば、戦車に轢かれて・・・その後、どうなったんだっけ?機能停止していたみたいだ。というか、
「あの、ここどこですか?」
何か周囲を布に囲まれた狭い空間に拘束、というか腕を外されて座らされている。立とうと思ったが、立てない。配線は繋がっているものの膝の関節から下は外されている。抵抗は出来ない、といったところですか。
「まだお前は知らなくていい。それより、都市の情報を教えろ。直接訊く方が早いからな。お前が知っていること全部だ」
男はそういうとスタンガンらしきものをこちらに突き付けてきた。威力のほどは分からないが、痛そうです。雷神○級の威力がありそう。
「いや、でも、あの・・・都市のこと全然知らないんですけど?」
正直が一番、だと思う。今度は女の方が私に尋ねてきた。
「ねえ、もうあなたは都市に戻れないのよ。データを無理やり引っ張り出すのは私たちも好きじゃないの。お願い、教えて」
女性が手を合わせてお願いしてきた。都市に戻れないって、都市から来たわけじゃないんだってば。ん?
「あの戻れないって、帰してくれないんですか?」
と、ここで大切なことを忘れていた。
「あ、そうだ。今更ですが助けてくれてありがとうございました」
「あ、いや、助けたわけではないんだが」
ペコリと頭を下げると男は困ったように髪をかき乱した。
「調子が狂うな。一応言っておくが、戦車でお前を襲ったのもここまで連れてきたのも俺たちだぞ」
あれ?悪い人だ。悪い人には付いて行っちゃダメってうちのスパンキング女王が言ってました。
「今日からここで皆と一緒に暮らしてもらうわ。だから、プログラムを書き換えようかと思ったのだけれど・・・」
プロテクトが強固でデータを弄れないそうだ。通常の都市のアンドロイドより複雑に施されていたらしい。普通に解除しようとすると一週間は不眠不休で頑張らないといけない見積もりらしい。それぐらいいやらしいプロテクトだそうです。リゼットさんこんなところでもいやらしさを遺憾なく発揮していますね。
「とにかく、だ。お前はもう帰れん。これからは言うことを聞いてもらうぞ。都市の連中から捜索出来ないようにいろいろ対策しなくちゃならないからな」
尋問する気らしいですけど、都市のことはあまり知らないんですってば。
その頃。
「で、ノエルは奪われてあなたはのこのこ帰ってきたわけですか。一人で逃げ帰るのはお上手ですね。素直に褒めたいですよ」
「いや、だから、穴に落ちてて・・・」
拳にぐっと力を込める。
「穴に?へぇ、それは大変ですねぇ。ドジは穴があればどんな状況でもハマりますからね」
人間だったら血管が浮き上がってきそう。確かにアタシにも非はあるけど、こんなやり取り2時間もするほどじゃないと思う。
「だぁぁぁああ!!アタシが悪かったわよ!!ドジでした!すみません!だから、ノエルの捜索に内容を変更して・・・」
そこまで言うと、リゼットは溜息をつく。
「ま、私の準備が万全じゃなかったのもありますね。私もノエルを捜索します。それと、そんな装備で大丈夫ですか?」
やけにリゼットの面倒見がいい。とっても怖い。私は車両が(恐らく)使われていたことを思い出した。対人用の装備だけでは不十分だろう。
「一番いいのを頼むわ」
「実験室からご自由に持っていってください。では、私はシャルロットに話してきます。誰もここにはいなくなりますから」
リゼットは部屋を出て行った。ノエル大丈夫だろうか。再プログラムとかメモリ全消去とかされてなきゃいいけど。サイアク、解体されてたりして!!心配になってきた。どうしよ。アタシのせいだ。なんであんなタイミングで穴に落ちたんだろ?ホントにバカだな、アタシ。
「・・・カさん?大丈夫ですか?」
シャルロットがアタシの顔を心配そうに下から覗きこんでいる。泣きそうになってたのを見られた!?
「な、何でもないわよ!!それよりっ、アンタの方は大丈夫なの!?」
つい顔を逸らしてしまう。
「大丈夫です。私はただ・・・お留守番しているだけですから。モニカさんと、リゼットさんの、無事と成功を祈って、待ってます・・・」
なんでこの娘はこんなに健気なんだろう。アタシはこんな可哀そう少女がどうしても死ぬ運命にあって都市で腐った連中がのうのうと長生きする現実が憎くなった。
「絶対、連れて帰ってくるから。安心して待ってなさい」
大丈夫だ。絶対に連れ帰る。根拠なんてないけど何とかしてみせる。アタシは外で待っているリゼットのところに向かった。
「・・・それ、何?」
「エアバイクですけど?」
エアバイク、浮遊するバイクのことだが、訊きたいのはそこじゃない。
「何でそんなの持っててこの前の捜索のときに貸してくれなかったのよ!?」
キョトンとした顔でリゼットがこちらを見る。
「え?貸したくなかっただけですけど?」
開き直りやがって!!!いちいちムカつく女だ!コイツのセリフは銅20グラム、亜鉛25グラム、ニッケル15グラム、嫌み8グラムに悪意95キロで錬成されているに違いない。悪意の錬金術師だ。いつかぶちまけてやる。
「早く乗ってください、時間が勿体ないです」
「さっきまで何度も謝らせて時間を無駄にしたのはどこのだれ!?アンタでしょ!!?」
「ノエルの充電は最大で二日程度しか持ちません。ですから、信号が途中から消えるか知れないので早めに位置を特定しましょう。オンボロさん」
リゼットはフルフェイスのヘルメットなんか被って、準備万端といった様子だ。
「オンボロじゃないわよ!!このドS少女趣味!!部屋にヌイグルミ散らかして!今度は猫耳ヘルメットなわけ!?」
リゼットが黄色の猫耳フルフェイスヘルメット越しに睨みつけてくる。少し顔が赤くなっている。
「言ってはいけないことを言いましたね?モニカ!!」
「言ったわよ!悪い!?アンタだって人のことジャンクとか言うじゃない!!」
「決着をつけましょう。モニカ。どっちが上なのかそろそろ決めてもいいでしょう」
「ハン!かかってきなさいよ。ド三流。格の違いを見せてやるわ!」
「こ、こいつ俺たちより都市のことを知らん!ふざけてるわけじゃ、ないよな!?」
男がドスンと椅子にもたれ掛かる。女の方もメモを取ろうと用意した紙がほぼ白紙のままだったことに信じられないといった表情だ。
「本当に知らないのね。何も。えっと、じゃあ、リゼットさん、に頼まれてあそこで何をしていたの?」
女の方が尋ねてくる。人間を探して殺そうとしてましたーなんて言わない方がいいかな、やっぱり。
「アベルー?いるかー?」
誰かが入ってきた。
「「あっ!!」」
「ん?アンリ?こいつを知っているのか?」
アンリと呼ばれたその男は以前、私がシャルロットとアンドロイドのパーツを漁っている時に会った細い男だった。
「こ、こいつだ!!こいつがレオを殺したやつだ。あとフローラも!」
恐らく私が殺した男がレオで破壊したアンドロイドがフローラというのだろう。なんだかマズイ空気になってきた。人間だったら冷や汗が出ていたのだろうがあいにくそんなものは分泌しない。人間たちの会話が私にとってどんどん不利になっていくのをただ黙ってみているしかなかった。