目下捜索中のこと。
「ったく、どこに行ったのよ!アイツは!」
私はいつの間にかセンサーから反応が消失したノエルの捜索に当たっていた。見た目デキる女なのに、内実は手間のかかる天然だから困る。とはいえ、今回の件は自分にも非がある。何としても見つけなくちゃならない。
1週間前。
「モニカー!!すごいおっきいムカデがいますよー!」
「あああ!もう!アタシ達はそんなの探しに来たわけじゃないのよ!つーか、Gはダメなのにムカデが大丈夫って・・・」
人間捜索初日。当てもない私たちは取りあえず、北の方角から調査を始めた。乾期に入ったお陰で空は雲ひとつない快晴。視界は良好だ。しかし、進めど進めど視界には赤土の荒野とそこから顔を出している建造物しか映らない。それらの建物をいちいち調べてもよいが、誰もいないことは事前に分かっている。今回はリゼットが貸してくれた高機能生体センサーを持ってきている。移動手段が徒歩の代わりのせめてもの救いだ。高機能だけあってこの装置は大きい。背中に背負っているが、私の背中からはみ出している。足に当たるため歩きづらい。変わり映えの無い視界に飽きた私はセンサーの範囲を収束させ、精度を上げて遊んでいた。その結果が今、私がつまみ上げているムカデだ。ムカデはそこそこカワイイと思う。って、モニカにいったらバカって言われた。ぐぬぬ・・・。
「人間がいる場所にはある程度、生活環境が整っているのよ。こんな荒れたところに人間はいつまでもいられないわ」
とモニカ氏。つまり、水、食料が確保できる場所、ということだそうだ。食料はともかく乾期である今でも十分に水を確保できる場所を探すべきだそうだ。なるほど、乾期さすがです。普段より大きくひびの入った大地を歩きつづける。
「でも、そういう場所って・・・ん、やっぱり何でもない」
モニカが急に話を途切れさせるから気になる。なんだろう?水が確保できる場所って野生動物保護地域、かな?狩猟禁止区域?
「アンタ、意味わかって言ってんの?」
「いえ、テキトーにデータベースから引っ張ってきました」
モニカから、適当鋼鉄娘の称号を貰った。いぇい。リゼットにもいい加減だとかよく言われるけど、私の作りがいい加減だから性格もいい加減なのかな?作りがいい加減なロボ=邪神・・・。う、それはいやだなー。これはひどい、のタグが付けられる。
「もしかしたら、人間たちは移動しながら生活しているのかもね。そうだと探すのは面倒になりそうね」
「人間はどうやって移動するんでしょうね。私たちみたく徒歩でしょうか?」
「確かにね。もしそうなら、どうやって移動してんのかしら?そう言えば、アンタ、前に人間にあったときにアンドロイドにも会ったわよね?ソイツの電力のこともあるし、発電装置でも持ってんのかしら?」
発電装置か。あんな大きなものがあればはっきりと居場所がわかるはずなのにな。発電装置を持って歩くのは無理だろうから、定住しているのかな?ふむ、謎は深まるばかり。水がいっぱいあって発電装置もあるような場所か・・・。ピキーン!!
「・・・海。海じゃないですか!!発電装置は海中に隠しているとか!!」
「海中に発電機って・・・。海か。海岸沿いに人間がいるとは思えないんだけどなぁ。」
モニカは海への移動にあまり乗り気でない。正直海がどこにあるか、私は知らないんですが。でも、何で海岸沿いに人間がいないと思うんだろう?
「アンタは知らないでしょうけど、海も結構、汚れてるのよ」
「それじゃあ、水着が汚れちゃいますね。それは我慢するとして、問題があります。黒の水着と白の水着どっちが私に似合うと思いますか?」
「そういう話じゃないわよ、バカ!汚染が進んでいるし、仮に生命が活動可能なら都市の奴らの管理下にあるはずなのよ」
「??都市に人間はいっぱいいるんですよね。だったらその管理下の場所に人間がいても不思議じゃないですよ?」
「う・・・、えっと、そうじゃなくってぇ。ああああ、もう、説明するの面倒ね!とにかく!海岸沿いに人間は普通いないの!分かった!?」
「は~い」
適当に返事をする。モニカはリゼットから都市の情報を流すな、と言われているようでこれ以上訊いても無駄だろう。なんで私だけ仲間外れなのだろう。少し、寂しい。そんなことを考えながら歩いていた。
ボスッ!!
「うわぁっ!!?」
大きな砂煙が舞い、モニカが立っていたところの地面が抜けた。
「モニカ、大丈夫ですか!?」
「いててて、何とか・・・」
モニカが落下したところはどうやら地面にちょうど埋まっていた建物の最上階のようだった。屋上にあたる部分が脆くなっていて崩れてしまったのだろう。モニカを救出する手立てが見つからず、いっそ私も飛びこんでしまおうか、と考えているときだった。
「生体反応・・・」
「えっ!?」
急速にこちらに接近してくる生体反応を複数確認。今まで、どこに隠れていたのか?モニカの救出が先か、対処が先か。ターゲットが来る方向を見つめる。何かがこちらに突っ込んでくる。砂漠用の迷彩が施されたそれは上空に何かを打ち出した。
「タンク、ですか・・・」
随分とアンティークな品のお出ましだった。先ほど上空に打ち上げられたものが空中で爆ぜた。その瞬間に私のセンサー類の反応がおかしくなった。視界に無数のターゲット表示が出現する。私が手を拱いていると、戦車はそのまま私に突っ込んできた。反応が鈍っていた私はかわせずに弾き飛ばされる。起き上がろうとするが、躯体の反応が鈍いうえにバランサーに異常が出ている。一回撥ねられただけなのに?と思ったら、脇腹に電磁波を発生させる銃弾を受けていた。戦車が方向転換を終えて、狙いをうつ伏せのままもがいている私に絞る。
「ちょっと!!何が起きてんの!!?」
モニカの声が聞こえる。まだ、抜け出せていないのだろう。戦車の駆動音で今の声は人間には聞こえていないだろうから、そこでじっとしていればきっと大丈夫。恐らく。
でも、わたしはダメそうだった。あの60トン以上もある車体に何度も蹂躙されれば、私の躯体などペシャンコになってしまうに違いない。ちょっと怖いな。
ドスッ!!
私の体に銃弾がまた突き刺さる。それが何なのかを判断する前に私の意識は消失した。
『機能、てい・・・し・・・』
アタシは音声入力を最大にして地上で起きていることを必死で探ろうとしていた。この喧しいキャタピラの音、旧式の車両が使われていることは間違いないのだが、何であるか特定はできない。チャフが散布されたせいで反応が拾えない。そんな折だった、か細い聞き慣れた音声が私の耳に届いた。
『機能、てい・・し・・・』
・・・ちょっと待って!?これってノエルの!!私は無駄と分かっていながら穴のあいた天井に向かって飛び跳ねる。届かない。必死になって、テーブルやらロッカーやらをかき集めた。そしてそれらを積み上げ、天井に近づく。これなら・・・。
地上に出た。だがそこには誰も残っていなかった。ノエルの反応すら残っていなかった。ただあるのは地面に残ったキャタピラの走行跡だけ。アタシはしばらく茫然と立ち尽くしていた。
「間に合わなかった・・・の?」
地面に伸びている跡、これを追えばノエルの場所が分かるかも知れない。うだうだしているよりはマシだ。
「ノエルー!!待ってなさーい!!」
キャタピラの跡が向かう先に向かって吼えた。