ちょっと恥ずかしいこと。
「さて、お二人に仕事を与えます」
「今度は何ですか?もうドラゴン退治は飽きました」
リゼットの切り出しに不信感を覚える。やけに笑顔だからだ。きっとロクなことがないに決まっている。私の隣でモニカはゲームをして聞いてないフリをしている。
「サバゲーをしましょう。武器は実験室にあるものを使っていいですから、好きなものを選んでください」
リゼットはお構いなしに話を続ける。
「しつもん!サバゲーって何ですか?」
「正式名称はサバイバルゲームと言って、擬似戦闘をして楽しむ遊びです。まあ、戦闘と言っても構わないでしょう。実弾を使用しますし」
私とモニカの二人で戦闘訓練をしろ、ということなのだろうか。でも、モニカと私で撃ちあったら、どちらかが壊れてしまう。修理のたびにポンコツだのガラクタだの文句を言っているリゼットにとって得な内容ではないはずだ。・・・シャルロットをターゲットに?まさかね~。あはは。
「んで、具体的にはどうすればいいわけ?」
モニカがゲームを終了して、こちらの話に加わってくる。
「珍しく積極的ですね。今日は雨が降るんですか?」
同感。今日の天気が心配だ。サバゲーが外でやる遊びなら気をつけなくちゃ。傘あったかな?
「雨が降るわけないでしょ!ちょっと面白そうだから、乗っかってあげようと思っただけよ!」
「わかりました。じゃあ、説明をしますね」
リゼットはクスクス笑いながら、仕事の内容の説明を始めた。
「ノエル、以前遭遇した人間のことを覚えていますよね?とどのつまり、そいつらを捜索、捕獲してほしいのです」
リゼットの話によると、人間が単体で生活しているとは考えづらく、集団でどこかにまとまっていると見るのが妥当らしい。その人間たちを捕獲といっても抵抗するようなら殺してしまっても構わないとのことだ。原則は捕獲なので、全滅はいけない。あと、その集団のリーダーらしき人物の殺傷もいけない。残った人間が情報量の少なそうな子供でもダメだそうだ。
「内容は分かったわ。で、居場所の目星はついているの?」
「いいえ。全力で探してください」
キッパリとリゼットは言い切る。モニカがちょっとイラッとする。
「見当もついてないの?面倒臭いわね。何か移動手段になる装備ぐらいはあるんでしょうね?」
「ありませんよ。少しは物に頼らないで自分で頑張ってください」
またもキッパリとリゼットは言い切った。おお、分かる、私にも分かるよ~。モニカの怒りのボルテージが上昇してる。
「~~ッッ!!どうしろってのよ!!できっこないじゃない!居場所は全くわからない、足もないじゃいつまでかかるか分かったもんじゃないわ!!」
モニカ嬢、おっしゃる通りです。しかし、リゼットお姉様はこれくらいの無理難題くらいは普通に吹っ掛けてくるわけで。怒っても仕方ないのですよ。
「アンタも黙って聞いてないで何か言ってやりなさいよ!!」
「いやー、困りました」
返答にも困っているし、リゼットの無茶にも困っているから、間違ったことは言ってない。ただ、モニカの要求するような答えじゃないのは百も承知だ。
「困りましたじゃないわよ!!アンタもねぇ、そうやってユルユルだから、リゼットに全部押し付けられるのよ!だいたい、リゼットも少しは他人の苦労も考えたら!?」
「へぇ、随分なナマイキな口ですね。私の人形のクセに。あなたは私の道具なんだから、私の言うことをただ黙って聞いてればいいんですよ」
リゼットとモニカの口げんかが始まった。こういうときは我関せずが一番いい。お、そうだ。シャルロットとでも遊んでよう。リゼットの部屋にいるかな?最近は前と打って変わって天気が良いから外で遊んでるかな?
こそこそ、バタン。
とりあえずは修羅場から抜ける。隣の部屋のドアを開き、中に入っていく。
「シャルロット、いますかー?」
「あ、はい。ノエルさん、どうしました?」
シャルロットが小首をかしげる。仕草の一つ一つがかわゆい。ペットにしたいです。シャルロットに喧嘩から逃げてきたことを話すと、クスッと彼女は笑った。
「あれ、私何かへんなこと言いました?」
「いえ、昔と比べて、リゼットさん、随分明るくなった、と思いません?」
う~ん。どうだろう?やることは陰湿だし、良く部屋に籠ってるし、明るいとは言いづらいような・・・。
「前は、ずっと、部屋に籠って、私たちにも、よそよそしくて・・・なんか、今のリゼットさん別人です」
別人かぁ・・・。う~む、たとえば、優しいリゼット?・・・考えるだけで逆に恐ろしい。さわやかな笑顔で優しくされたら、悪寒が走るに違いないです。
「・・・リゼットさん、今の方が優しいんですよ?」
何と!?今より意地悪だったのか!!それはキビシイ、とってもキビシイです!モニカなんか3日で処分されてしまいそう。うう、可哀そう。
「ギャー!!人の髪の毛引っ張るなー!!」
「やかましいです。片方を引っぺがして、私とおそろいのサイドテールにしてあげますよ」
隣から元気な声が聞こえてくる。まだ、喧嘩しているようだ。この様子だと、喧嘩のあとにリゼットが不機嫌になって実験室に籠り、モニカはゲームに耽るパターンだ。これじゃ、お仕事は延期だなー。
「あれで、優しいんですか・・・?」
「・・・はい」
シャルロットは顔を少し赤らめて俯いた。
「それ、リゼットの部屋にあったヌイグルミ・・・ですよね?」
私はシャルロットが持っているものに目を留めた。リゼットの部屋で前に見たものとそっくりだった。ちょこん、とクマ状のそれはシャルロットの膝の上に可愛らしく乗っていた。
「かわいーですよねー、リゼットに貰ったんですか?」
「あ、いえ、リゼットさんが・・・貸してくれました・・・」
あるぇ?リゼットはシャルロットにあまあまだから、貸すなんてケチなことしないであげると思ったのに。なんというか、リゼットのふしぎ発見!!ですな。何か意味あるのかな?シャルロットからヌイグルミを預かって、ヌイグルミの手をぱたぱたさせてみる。
「意味、というか・・・単純にかわいいものが大好き、なんですよ?リゼットさん。玉に部屋でヌイグルミで遊んでいます・・・」
以下想像。
ヌイグルミを抱えてベッドに飛びこむリゼット。
「寂しかったんですよー!あああああ、もうぜっっったい、はなしませーん!!」
サイドテールを振り乱しながら、ヌイグルミにキスの雨を降らせるリゼット。そのまま、ゴロゴロとベッドを往復する。
・・・それは凄い・・・見てみたいような見たくないような・・・ただ間違いなくイメージは完全崩壊するだろーな。
「何勝手に変な妄想してるんですか?このガラクタ!モニカとの話し合いが終わったので、あなたも早く仕事についてください!」
そして、私の手からヌイグルミを奪うと、私を部屋から蹴り出した。
外に出るとげっそりしたモニカが立っていた。凄絶な闘いがあったのだろう。にしても、よく拗ねなかったですね。
「ほら、アンタも行くわよ・・・」
明らかに声に元気がない。下の階に下りていく途中ずっとモニカはぶつぶつ呟いていた。ロボも鬱病になるんだなー。
「・・・もう・・・だめ・・・よごされちゃったよぉ・・・」
「モニカ?」
急にモニカは立ち止まって、髪を掻き毟った。
「ガァァァァァァァァァァァァ!!私のボディが完成した後、リゼットにあんなことやこんなことされてるなんて!!!覚えてないけど!!ああああ!!信じらんない!!」
モニカが叫びだした。あんなこと、こんなこと、いっぱいあるけど?何のことかな?
「モニカ、何されたんですか?」
うん、本人に聞いてみるのが一番早いね。
「アンタに言えるわけないじゃない!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!・・・もうお嫁さんに行けない・・・」
モニカをしばらくからかっていたが、少し経って私も笑えたことじゃない気がしてきた。その後は二人とも押し黙って、実験室に向かった。