さざ波の影
リナと一緒に、村の小道を歩いていた。
「……静かだね」
「うん。これが“普通”なんだろうな」
昨日の騒動――屋敷の火災――は、すでに村の話題から消えかけていた。
誰もが「アレンのおかげ」で済んだと笑っていた。
けれど俺には、それが妙に引っかかっていた。
(――火の手が回るの、ちょっと早すぎなかったか?)
屋敷の構造を思い出す限り、火元は奥の物置だった。
油も置いていない場所だ。しかも――あの夜、誰かがあそこにいた気配を感じた。
俺は《トーカー》を使おうか迷った。
だが「疑うためにスキルを使う」ことに、どこか罪悪感があった。
(……これは俺の問題か? アレンに言えばいいのか?)
そう考えていると、突然、リナが言った。
「――ねえ、アレンのこと、どう思う?」
突然の問いに、胸がつまる。
▸「誰からも好かれる、すごいやつだよ」【リナの安心+1】
▸「ちょっと、眩しすぎるかもな」【リナの共感+1】
▸「俺は、俺だ」【リナの困惑+1】
「……ちょっと、眩しすぎるかもな」
そう答えると、リナはふっと微笑んだ。
「分かる。私もそう思ってた。昔から、すごく良い人すぎて……こっちが息切れしちゃうくらい」
その言葉に少しだけ救われた気がした。
だが、すぐに背後から陽の声が飛んできた。
「おーい、二人でデートか?」
振り返ると、いつもの笑顔のアレンがいた。
「あ、ちがっ……!」
リナが慌てて否定し、アレンは冗談っぽく笑った。
「冗談、冗談。けどさ――ちょっと時間ある? 二人に頼みがあってさ」
***
アレンは俺たちを村外れの森まで案内した。
「最近、この辺に“痕跡”があるって村の猟師が言っててさ。何かの足跡と、斬られた木。それも……人の手によるものらしい」
「魔物、じゃないんですか?」
リナがそう訊くと、アレンは首を振った。
「俺もそう思った。でも、それなら逆におかしい。村の結界がある限り、魔物がこんな近くまで来れるわけがない」
アレンの目が真剣だった。
今まで見たことのない、“勇者”の顔だった。
「……だから、調べたい。もし“中から”誰かが村に危機を招こうとしてるなら、先に止めなきゃいけない」
それは“あの火事”を思い出させる。
(やっぱり……俺だけじゃなかった)
そして俺は、静かに選択肢が浮かぶのを感じた。
⸻
▸「アレン、俺も協力するよ」【信頼+1】
▸「危ないんじゃないか……? 村に報告した方が」【安全ルート】
▸「……リナは危険だ。村に戻った方がいい」【分断フラグ+1】
⸻
(……誰も傷つけない選択を)
そう思って、“一番良さそうな”選択肢を選んだ。
「アレン、俺も協力するよ」
アレンは嬉しそうに微笑んだ。
「ありがとう。頼もしいな、やっぱり」
だがその時だった。
突然、森の奥から何かが飛び出してきた。
――牙のある獣。だが、魔物ではない。
鎧を着た人間の姿に似ていた。
リナが叫んだ。
「っ、アレンっ!!」
その声に、アレンが俺たちをかばうように飛び出す。
そして、斬撃が走る。
金属音と共に、火花が散った。
アレンの剣が、それを受け止めていた。
(速い――!?)
俺はその時、理解した。
アレンは本当に強い。
けれど、あれは……!
アレンが叫ぶ。
「リナ、離れてろ! こいつは――人間じゃないッ!」
そして、俺に向かって一言。
「頼む……守ってくれ。リナのことは!」
その言葉を聞いた瞬間――
俺の中に、また選択肢が浮かぶ。
でも今度は、文字が赤い。
⸻
◉「了解。任せて!」【リナ好感度+3/アレン信頼+2】
◉「……でも、お前がいなけりゃ意味がない」【アレン覚醒フラグ強化】
◉「リナ、逃げろ! お前を守るのは俺だ!」【自己評価+1/分断フラグ+2】
⸻
赤は、“物語が大きく動く”選択肢。
俺は、震える指でその中の一つを選ぶ。
心では、こう願っていた。
(どうか……間違っていませんように)