陽の下にいる人
その日、村がざわついていた。
広場に集まる人々。子どもたちは騒ぎ、大人たちは笑い、老いた農夫すら背を伸ばして顔を向けている。
「アレンが帰ってきたんだってよ!」
その言葉を聞いた瞬間、リナの顔がぱっと明るくなった。
「アレン……帰ってきたんですね!」
俺の胸に、何か小さな鈍い痛みが走った。
(誰だ?)
まだ見ぬ“彼”の名前が、村の空気を変えていた。
***
彼が姿を現したのは、村の中央。
背は高く、顔立ちは整っていて、何より目がまっすぐだった。
「あっちで小さい魔物が暴れてたんで、ついでに片づけてきました!」
そう言って笑う青年の名は――アレン。
腰に下げた剣は使い込まれていて、旅人然とした風格をまとっている。
「あのアレン坊が……」「立派になったなぁ……」
村人の誰もがその姿を喜んでいた。
子どもは手を引き、大人は肩を叩き、老婆は涙を浮かべる。
リナもその中にいた。
気がつけば俺から数歩、自然にアレンの隣へと歩いていた。
「おかえり、アレン」
「ただいま、リナ」
ふたりのやりとりに、言葉は多くなかった。
けれど、何も語らずとも通じ合う空気があった。
(……敵わないな)
思った。
自分はあれほど自然に、誰かと笑い合ったことがあるだろうか。
***
その夜、村の広場で小さな祝宴が開かれた。
アレンが村に帰ってきた――それだけで人々は酒を酌み交わし、笑い、音楽まで奏でられる。
「アレンはすごいんだよ」
「小さいころから誰にでも優しくて、剣も強くて」
「都でも評判の若者だったらしいよ」
村人の会話が、全部アレンの名で彩られていく。
俺の頭には、ふわりと選択肢が浮かぶ。
⸻
▸「アレンさんって、本当に人気者なんですね」【印象+1(リナ)】
▸「……すごいな」【印象±0】
▸「俺には無理だな」【リナの同情+1】
⸻
「アレンさんって、本当に人気者なんですね」
選択肢の中で最も効果的と表示されたセリフを口にする。
リナはふっと笑った。
「うん。子どもの頃からずっとああなんです。……ね、太陽みたいでしょ?」
(太陽……か)
確かに、そうだった。
彼が現れると、場が自然と明るくなり、人が集まり、誰もが笑っていた。
俺はその輪の外に立っていた。
でも――
(俺には、《トーカー》がある)
心の中で、そう呟いた。
誰にもできないこのスキル。
誰とでも心を通わせられる力。
選びさえすれば、好かれることも、信頼されることも、できる。
(俺は俺のやり方で……)
そう、言い聞かせたそのとき。
アレンが歩み寄ってきた。
「リュートさんだっけ? 村で話は聞いてたよ」
その笑顔は、まるで太陽だった。
「リナのこと、助けてくれたんだって? ありがとう」
そして、また浮かぶ――
⸻
▸「いや、俺なんて何も」【アレン好感度+1】
▸「困ってる人を見捨てられなくて」【印象+1(リナ)】
▸「あなたがいなかったから、俺が代わりに」【アレン−1】
⸻
(……選ぶしかない)
俺は、笑顔の裏で、また言葉を選ぶ。