表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/4

第四話:月の悲歌~竜宮の絆と星の魔法少女~

プロローグ:月の都の影と、乙姫の予感



遥か高き月の都。世界の「時」の均衡は、八岐大蛇との戦いで一時的に保たれたものの、その根源にあった「上位存在」の歪みは、月の都をも蝕み始めていました。乙姫は、その禍々しい気配が、月の都の奥深く、かぐや姫の居城から発せられていることに気づいていました。かぐや姫は、かつて八岐大蛇討伐に草薙剣を授けたが、その動機と真意は、いまだ謎に包まれている。乙姫の胸には、言い知れぬ不安が募っていたのです。



物語の始まり:竜宮城の穏やかな日々



八岐大蛇との激闘から数年。ウラシマと乙姫は、世界の時空の歪みを修復するという使命を終え、竜宮城で穏やかな日々を送っていました。彼らの間には、愛娘ツクヨ(月夜)が生まれていました。ツクヨは、父ウラシマの持つ「時を操る力」と、母乙姫の持つ「竜宮城の古代技術」の素養を秘めており、海の光の下でのびやかに育っていました。ウラシマと乙姫は、ツクヨにこれまでの戦いのことは語らず、平和な時が永遠に続くことを願っていたのです。

しかし、ウラシマと乙姫は、時折、遠い異世界へと転移した桃太郎と金太郎の気配を感じ取っていました。彼らが無事であるか、そして新たな危機に直面していないか、ウラシマと乙姫は心を痛めていたのです。



旅立ち:桃太郎と金太郎を探して



ある日、ウラシマと乙姫は決意を固めます。「ツクヨ、桃太郎殿と金太郎殿を探しに行こう。彼らもまた、この世界の未来に必要な勇者だわ。」乙姫は、ツクヨの手を握り、優しく微笑みました。

ツクヨは、初めての下界への旅に胸を躍らせました。ウラシマは竜神王のコアを、乙姫は草薙剣を携え、三人は竜宮城を後にし、広大な時空の海へと旅立ったのです。



正体不明の敵、そして乙姫の悲劇



旅の途中、彼らは幾度となく正体不明の敵から襲撃を受けました。それは、空間そのものを歪ませ、時間の流れを捻じ曲げる、かつてないほどの強敵でした。敵はウラシマの想像を遥かに超え、竜神王の防御システムも、ウラシマの「時を操る力」も、徐々に限界を迎え始めたのです。


ある時、一際巨大な敵の攻撃が、ツクヨを狙いました。ウラシマは間一髪でツクヨの前に立ちはだかり、全身で攻撃を受け止めました。彼の体は光の粒子となって崩れ始めます。

「あなた!」乙姫の悲痛な叫びが響きます。

消えゆく間際、ウラシマはツクヨに向かって微笑みました。「ツクヨ…強く生きろ…お前には…未来がある…」


父の死を目の当たりにし、ツクヨの心に絶望と怒りが渦巻きました。その瞬間、彼女の中に秘められた力が覚醒し、ツクヨの瞳が金色に輝いたのです。周囲の時間が、一瞬にして止まります。


「おのれ…!」乙姫は、愛する夫を失った悲しみを胸に、ツクヨを抱きしめながら、瓦礫と化した竜神王のコアと、ウラシマが遺した「時の力」の残滓を回収し、必死に退避しようとします。ですが、時空の支配者の尖兵が放った追撃が、乙姫の背後から迫りました。乙姫は、ツクヨをかばうように、その身を盾にしたのです。

「ツクヨ…あなたなら…きっと…」乙姫の言葉は途切れ、その体もまた、光となって消滅していきました。


母の死。ツクヨの心は打ち砕かれ、ただ漠然と立ち尽くしました。彼女の瞳からは、涙がとめどなく溢れ落ちます。ツクヨは、正体不明の敵が放つ「負の時」オーラが、遠い月の都から発せられていることに気づいていたのです。



桃太郎と金太郎の異世界迷宮、そして再会



時空の亀裂によって、見知らぬ異世界へと転移していた桃太郎と金太郎。彼らは、獣神機たち(犬、猿、雉、熊ロボ)と共に、様々な困難を乗り越え、力を磨いていました。


彼らが転移したのは、荒廃し、希望が失われた異世界でした。そこでは、人々の「正の時」が吸い取られ、負の感情が蔓延していました。桃太郎は、知恵と統率力でこの世界の住民を導こうとするが、絶望に慣れた人々の心は固く、彼の言葉は届きませんでした。金太郎は、怪力で魔物を退けるものの、根本的な解決にはならず、無力感に苛まれました。さらに、転移の際に散り散りになった獣神機たちが見つからず、彼らの心は深く沈んでいきました。

「くそっ…!こんな世界、どうすれば…!俺の力じゃ、どうにもならねぇのか…!」金太郎は、拳を地面に叩きつけ、悔しさに顔を歪めました。

「金太郎…諦めるな。俺たちは、この世界の歪みを正すために戦ってきたんだ。きっと、ウラシマ殿たちも…」桃太郎は、自らの言葉で自分を奮い立たせるように呟きました。


そんな絶望の淵で、桃太郎の持つ草薙剣が微かに輝きました。それは、ウラシマが遺した「時」の残滓と、乙姫が草薙剣に込めていた竜宮城の古代技術が共鳴した、かすかな光でした。

「…希望を…捨てては…ならぬ…」

桃太郎と金太郎の心に、遠く、しかし確かにウラシマと乙姫の声が響きました。それは、彼らがこの世界にいることを示す、唯一の希望でした。


そのメッセージに導かれるように、彼らは散り散りになった獣神機たちを次々と見つけ出し、再会を果たしました。

犬、猿、雉、熊ロボも、異世界での過酷な経験を経て、以前よりもさらに強く、そして桃太郎と金太郎への忠誠心を深めていました。

「もう二度と、お前たちを離さない…!」桃太郎は、獣神機たちを抱きしめ、固く誓いました。

「おう!俺たちはどんな時も一緒だ!」金太郎も力強く頷きました。

その時、彼らの頭上に、遠い月の都から放たれた時空の支配者の禍々しい波動が届きます。

「これは…鬼ヶ島の時と同じ、いや、それ以上の邪悪な気配だ!」桃太郎が叫びます。

「きっと、ウラシマ殿たちに何かあったに違いねえ!」金太郎も直感するのです。


二人は、その波動の源を目指し、時空の歪みを突破してたどり着きました。彼らの目に映ったのは、荒廃した月の都と、ウラシマと乙姫が消滅した光の残滓、そして悲しみに打ちひしがれる少女の姿でした。


「乙姫殿!浦芝殿は…!」桃太郎が駆け寄ります。

少女は、両親を失った悲しみに打ち震えながらも、辛うじて事の顛末を彼らに語りました。八岐大蛇をも操っていた真の敵、「時空の支配者」の存在。そして、両親が命を賭して散ったこと。

「…ウラシマ殿も、乙姫殿も…まさか…」金太郎は言葉を失います。


その時、荒廃した月の都の奥深くから、一条の月の光が差し込みました。その光の中に、静かに、そして冷徹な表情で佇む人物がいたのです。それは、かつて草薙剣を授けたかぐや姫でした。彼女の登場は、桃太郎と金太郎に安堵ではなく、かえって疑念を抱かせます。

「…無垢なる抵抗よ」かぐや姫の声が、静かに響きました。「この世の運命は、すでに定められしもの。抗うことこそ、愚か」


その言葉に、少女の瞳が凍り付きます。「かぐや姫様…どうして…」

桃太郎はかぐや姫に詰め寄ります。「かぐや姫殿!なぜこのような事態を止めなかったのですか!?貴女なら、あるいは…!」


かぐや姫は、桃太郎の問いに答えることなく、静かに語り始めました。「この世は、度重なる歪みによって朽ち果ててゆく運命にある。私が与えし草薙剣も、八岐大蛇を討つための道具にすぎぬ。真の秩序をもたらすためには、全てを『無』に還す必要があるのだ…」


「『無』だと!?貴女は…まさか、あの『時空の支配者』の…!?」少女の心に、激しい衝撃が走ります。かぐや姫の言葉は、まるで時空の支配者の理念と共鳴しているかのようでした。彼女こそが、全ての黒幕なのか、あるいは、より深淵な目的を持つ存在なのか。敵か味方か、その真意は全く読めません。



月光の覚醒:星の魔法少女 ツクヨと月光時空機



両親の死、そして謎に包まれたかぐや姫の言葉。少女の心には、悲しみと怒り、そして混乱が渦巻いていました。しかし、その混乱の中で彼女の瞳は再び金色に輝き、乙姫が遺した竜神王のコアと、ウラシマが遺した「時の力」が共鳴し始めます。


「私は…父と母の…そして、この世界の未来を…!貴女の好きにはさせない!」少女の叫びが月の都に響き渡りました。


その瞬間、ツクヨが抱えていた竜神王のコアからまばゆい光が放たれました。光が収まると、ツクヨの姿は一変していました。竜神王の装束を纏い、父の「時を操る力」の源泉である月光の杖を手にし、母の技術が込められた神秘的なペンダントが胸で輝く。彼女は、悲しみと決意を胸に、「星の魔法少女 ツクヨ」として覚醒したのです。


桃太郎と金太郎は、ツクヨの瞳に、ウラシマと乙姫、そしてこの世界の全ての希望が宿っているのを感じました。

「その瞳…まさか、ウラシマ殿の…」桃太郎は、ツクヨの中にウラシマの面影を見つけ、その名を尋ねます。「あなたの名は…?」

「…ツクヨ…です」少女は震える声で答えます。

「ツクヨ殿…」桃太郎は草薙剣を構え、金太郎もまた、獣神機と共に臨戦態勢を取ります。

そして、ツクヨが手に持つ竜神王のコアが輝き、彼女の決意に呼応するかのように巨大化し、月光を纏った一機のロボットに変形しました。その姿は、竜神王の面影を残しつつ、月の力を凝縮したかのような美しさと力強さを兼ね備えた、ツクヨ専用機「月光時空機」だったのです。ツクヨは、そのコックピットへと飛び乗りました。



最終決戦:宇宙を駆ける希望



「愚かなる娘よ…その程度の力で、定められた運命に抗えるとでも?」かぐや姫は冷酷に言い放つと、彼女の背後から、全てを食らい尽くすかのような、真の「時空の支配者」が姿を現しました。それは、不定形な闇そのものであり、存在そのものが世界の理を歪ませる、根源的な存在だったのです。


「時空の支配者」――それは、この多次元宇宙に生じた無数の「負の時」と「存在の矛盾」が凝縮され、意識を持った「世界の病巣」そのものでした。世界が抱える不完全性や歪みを全て「無」に帰すことで、完全な秩序(あるいは完全な虚無)を作り出そうとしていました。かぐや姫は、古より月の都で世界の「歪み」を観測し続けてきたが、世界が度重なる戦いや矛盾によって自壊に向かっていることに絶望し、最終的に「時空の支配者」の理念に賛同し、その一部となっていたのでした。彼女が草薙剣を授けたのは、その後の「無への還元」に必要な「最後の清算」のため、あるいは「世界を救う可能性がある存在」への微かな期待という、矛盾した心境の表れでした。


月の都を覆う光のバリアが砕け散り、戦いの舞台は広大な宇宙空間へと移りました。漆黒の宇宙に、巨大な時空の歪みが渦を巻き、星々がその力に引きずり込まれようとしています。


「ウラシマ殿、乙姫殿の仇!そして、世界の未来のために!」桃太郎と金太郎は、合体して「天元龍神王てんげんりゅうじんおう」となり、漆黒の宇宙に躍り出ます。全宇宙の星々が、彼らの背後で瞬いています。


時空の支配者は、周囲の星々の光を吸収し、空間そのものを歪ませる「時空崩壊砲」を放ちます。その一撃は、まるで宇宙そのものを飲み込むかのような威容を誇っていました。時空崩壊砲の余波が、遠くの銀河を揺るがします。


ツクヨが操る「月光時空機」は、父の時を操る力と母の古代魔術を融合させた**「月光時間制御フィールド」を展開し、時空崩壊砲の軌道を僅かにずらします。その隙を突き、天元龍神王は加速し、金剛桃神王の怪力と龍神王の時空操作能力を最大限に引き出し、時空の支配者の猛攻を宇宙空間で縦横無尽に回避します。彗星の尾のように光の航跡を残し、二体のロボットが敵の攻撃の合間を縫って疾走します。


「ツクヨ殿!奴のコアを叩く!」桃太郎の指示が宇宙空間に響き渡ります。


ツクヨは、月光時空機の機体を宇宙の塵一つない精密さで操り、時空の支配者の闇の腕をすり抜けます。彼女は、月光の杖を模したロボの武器から、月の光を凝縮した「ルナティック・タイムビーム」を連射し、敵の動きを寸断。ビームが命中した空間は一瞬静止し、その後激しい光を放って弾けます。その直後、金太郎が操る天元龍神王が、その巨体からは想像できないほどの速度で突進し、時空の支配者の禍々しい装甲を剥がします。剥がれた装甲からは、さらに濃密な闇が噴出します。


「なぜ…なぜこんなことをするのですか、かぐや姫様!」ツクヨは叫びます。


「これが、この世界の唯一の救い…」かぐや姫の返答は、やはり冷たく、その表情からは一切の感情が読み取れません。


時空の支配者は、全身から無数の時空の歪みを放ち、ツクヨと天元龍神王を包囲しようとします。歪みは宇宙空間に無数のブラックホールを生み出し、ロボットたちを飲み込もうとしました。しかし、ツクヨは魔法少女としての覚醒を果たした力で、瞬時に複数の時間を分岐させ、幻影を生み出して敵の目を欺きます。天元龍神王は、その幻影と連携し、敵の攻撃を誘い込みながら核心へと迫ります。


「今だ!草薙剣!」桃太郎が叫ぶ。


金太郎が天元龍神王の必殺剣である草薙剣を構え、時空の支配者の再生力を上回る速度で、その剥がれた装甲の奥にある核を狙います。草薙剣が放つ神聖な光が、闇を切り裂いていきます。ツクヨは「時の停止」魔法で時空の支配者の一瞬の隙を作り出すと、渾身の力を込めて、月光時空機の武器を振り下ろします!


「月光時空・スターライト・ブレイク!!」


放たれた光の矢は、時空の支配者の闇を貫き、その奥に隠されたかぐや姫の心臓に命中しました。衝撃波が宇宙空間に広がり、周囲の星々が一時的に輝きを増したかのようでした。



終焉、そして新たな始まり



光が収まると、時空の支配者の禍々しい姿は消え去り、かぐや姫は元の姿に戻って、静かに宇宙空間に漂っていました。彼女の瞳には、初めて安堵のような光が宿っていました。


「…ありがとう…ツクヨ…これで…私も、この歪みから解放される…」かぐや姫は、最期の力を振り絞り、ツクヨに微笑みかけました。「この世界は…お前たちに…託された…」


かぐや姫の体は、月の光となって宇宙の彼方に消え去りました。彼女は、世界の歪みを完全に消し去るために、自らを犠牲にする道を選んだのです。


月の都は、再び穏やかな光に包まれました。ツクヨは、両親とかぐや姫の遺志を胸に、強く立ち上がります。

「ツクヨ殿…」桃太郎が優しく呼びかけました。「共に、この世界を守りましょう。」

「ああ!」金太郎も力強く頷きます。


ウラシマと乙姫は帰らなかった。しかし、彼らの愛と勇気は、娘ツクヨの中に、そして桃太郎や金太郎との絆の中に、確かに生き続けていました。ツクヨは、両親の意思を継ぎ、自身の「月光時空機」と共に、遥かな時空の旅へと出発します。彼女の旅の目的は、世界各地で起こりうる時空の歪みを正し、そして何より、両親のように、困っている人々を助けることでした。時空の彼方に光る無数の星々が、ツクヨの新たな旅路を祝福しているかのようでした。


こうして、伝説の勇者たちが時空を超えて集い、宇宙をも舞台にした強大な敵を打ち破った物語は、永劫に語り継がれることとなりました。ツクヨは、月の光を宿す魔法少女として、時に桃太郎と金太郎と共に、時に単独で、世界の平和と時空の均衡を見守っていくのでしたとさ。




――完――

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ