第5章
最高の1日だった。
コテージに割り当てられた、ふかふかのキングサイズベッドに身を沈めながら、俺、鈴木航太は今日の出来事を反芻していた。
脳裏に焼き付いて離れない、女神たちの水着姿。
太陽の下で輝く汗、弾ける笑顔、そして……俺の胸を包み込んだ、あの神々しいまでの柔らかさ。
(波音の胸、マジで天国の感触だったな……)
思い出すだけで、身体の芯がまた熱くなる。
あの時、俺の肋骨にむにゅっとめり込んだ、B89の圧倒的な質量。
しがみついてきた腕のしなやかさ。耳元で聞こえた、か細い吐息。
全てが、俺という存在を肯定してくれる、甘美な記憶だ。
エリカの競泳水着から伸びる長い脚。
あかりの爆乳を揺らしながらの全力疾走。
ここののスク水に浮かび上がる、清楚なボディライン。
(……もう、現実になんて帰りたくない)
まどろみの中、そんなことを本気で考えていた。
このまま、この甘く、エッチで、ドキドキする毎日が永遠に続けばいいのに、と。
意識が、心地よい眠りの海に沈みかけていく。
その、瞬間だった。
ピコン、と。
まるでゲームのシステムメッセージのような、無機質な電子音が頭の中に響いた。
「……?」
閉じた瞼の裏に、突如として、青く半透明なウィンドウが浮かび上がった。
ゴシック体のシャープな文字が、そこに表示されている。
『「水着回 Ver1.0」視聴率:歴代1位!』
夢か? いや、違う。
眠気は一瞬で吹き飛び、脳が覚醒していく。
なのに、そのウィンドウは消えない。
あまりにも鮮明に、くっきりと、俺の視界に固定されている。
まるで、俺の網膜に直接映像を投影しているかのように。
「……視聴率……?」
意味が分からず、俺は思わずその言葉を呟いた。
その声に反応したかのように、ウィンドウの文字が瞬時に切り替わる。
『視聴者満足度:Excellent!』
直後、俺は感じた。
全身の力が、急速に失われていくのを。
眠りに落ちるのとは違う。
これは、もっと強制的で、抗うことのできない、システムのシャットダウンに近い感覚だ。
電源を、ブチリと切られるような。
声も出せない。指一本動かせない。
青い光に意識が飲み込まれ、俺は為す術もなく、暗闇の中へと引きずり込まれていった。
「――はっ!」
次の瞬間、俺はベッドから飛び起きていた。
心臓が、胸の中で暴れ馬のように跳ね回っている。
全身は冷たい汗でぐっしょりと濡れていた。
「……ゆ、夢か……?」
荒い息を整えながら、俺はゆっくりと周囲を見回す。
見慣れた(といっても昨日初めて見たが)コテージの天井。
窓から差し込む、穏やかな朝日。
どうやら、悪い夢を見ていたらしい。
昨日はしゃぎすぎたせいだろう。
「はは……ビビらせやがって……」
俺が安堵の息をつき、再びベッドに倒れ込もうとした、その時だった。
窓の外から、あの声が聞こえた。
「航太くーん! おっはよー!」
寸分の狂いもない、昨日とまったく同じイントネーション。
まったく同じ、太陽のような明るさ。
俺の背筋を、氷水のような悪寒が走り抜けた。
まさか。
そんなはずはない。
俺はベッドから転げ落ちるようにして、枕元のデジタル時計に目をやる。
表示されている時刻は、8:00。
そして、その下に表示されている日付は――昨日と、まったく同じ日付だった。
「……あ……」
口から、乾いた音が漏れる。
昨日の出来事が、フラッシュバックする。
波音の笑顔。エリカの冷たい視線。あかりの爆乳。ここののスク水。
そして、脳裏にこびりついて離れない、あの青いウィンドウ。
『視聴率』
『視聴者満足度』
ピースが、カチリ、カチリと音を立ててはまっていく。
ここは、楽園なんかじゃない。
そうだ。俺は、気づいてしまった。
この甘くて、エッチで、最高の楽園が、実は出口のない、無限に繰り返す檻だという事実に。