表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ユリアナ物語  作者:
5/6

第5刊 謀議の乙女

カクヨムより先に更新します。

【第10話 ご褒美第一号】


旅に出たいベアトリクスの本心はあの濃厚なユリアンの体臭にこそある。宿住まいでは毎日湯浴みをするので体臭が薄い。それに“我が身は褒美の品”であると思い定めているユリアンからの下賜を頂くためには旅でもして武人としての働きをせねば示せるものがないではないか。

そんな思いが彼女を突き動かす。だがリカルダの帰参を待つというユリアンの判断に誤りはない。ベアトリクスの提案は我儘に過ぎないのだから取り上げられようもなかろう。


とはいえ翌日遂にリカルダが帰参した。


「ご苦労であった、リカルダ。怪我などはないか? 随分と心配したのだぞ?」


「………身に余るお言葉にございます。アチラにて気になる情報があり、精査しておりましたので時間が掛かりました」


「そうか。身体に負担はないか? 一先ずは休んで報告は明日で良いぞ」


「そうは参りません。事は重大にて」


「そうか。では皆を集めてから報告を聞こう」


そうして従者らが集められた。




この宿にはユリアナら以外の客を入れていない。従業員らは全て暗殺ギルドの者達であり、ユリアナに心酔し忠誠を誓う者達だ。防諜対策は万全と言って良い。だから報告は普通に食堂で行なわれる。

人数も入るし時間の掛かる会合も軽食や飲み物を饗しながら継続して行えるので利便である。


「それではリカルダ、話してくれ」


「はっ、先ずラビア王国は裏切っておりました。国王は王太子と東の姫との婚姻を約しており、また、ラビアの姫をいずれはディアーナの王座を継いだ者へ嫁がせる約も結んでおりました。こちらは代を経た後となりましょうが」


皆がクラウディアを見る。


「わたくしには来ておりませんわね。或いは姉か異母妹か………確か王太子は18歳でしたか? 姉が17歳ですので、そちらでしょうか」


「ええ、そのようです。それで王座を継ぐものですが、実のところ一応未定のようで、各大公家当主は排除するとの取り決めだけがなされているだけだそうです」


「それはまぁ、そうなりましょう。そうでなければ結束して事を成すなぞできよう筈もない」


ここでユリアナが補足を入れる。


「ブリュンヒルデよ、当主の子で男子がいるのは北のボレアスだけだ」


「あー、あとは嫁の遣り取りですか。ならば覇権はボレアスに帰すると」


「前回の中心にはノトスがいた。だが今回は末娘を皇王に嫁がせる野心が動きを鈍らせている。故に嫁はエウロスであろう?」


「ん? ボレアスの男子は何歳なのだ?」


「25歳ですね。しかも妻も子もいます」


「クラウディア、お前の姉はラビアの王太子へ嫁ぐのでは?」


「………妹は8歳ですから」


「今いる妻子はどうするのか? 次世代での婚姻か?」


「ノトスが今度成人する娘をボレアスの男子へ嫁がせる案をラビアから提示して欲しいと申し入れてきたとか。そんな情報も仕入れました」


「ヘルガのことか? その場合妻子は?」


「妻は処分、子は幽閉でしょうね」


「ノトスは………どちらへも良い顔をしたいのか? 皇王と叛乱後の簒奪者へも嫁を入れる? なんと慎みのないことか」


しばし発言が途切れた。各々の大公家の思惑がいかにも見え透いていてしかも下劣だ。後がないとはいえそこに乗せてくる欲望のなんと深く淀んでいることか………。


「かなり密につながっていることは承知した。それでラビアの戦略は?」


「ほぼ予測の通りなのですが、失敗したあとの対策も用意しておりますな」


「大公達への信頼感が低いのか?」


「それは………前回のこともありますから。100年以上もかけて溜め込んだ余力で成せなかったことを僅か十数年の期間で取り戻せた筈もなし、前回にもまさる奇策を弄するも地力の不足しているが故にて、ラビア王国としてはもしもうまく行けば儲けものくらいの感覚でしょう」


「どう誤魔化すと?」


「全ては王太子の独断であると」


「嫡男を切り捨てるのか?」


「次男が優秀だそうで。しかも王太子は側妃の腹でなにかと揉め事の原因になりがちだとか」


「………どちらでも良いと言うことか。哀れだな」


「まあ、かなり馬鹿もやっているようなので。それにエウロスに誑かされた張本人でもあるようですね」


「それに半分だけ乗ったのか。国王は」


「左様に」


だいたい整理がついた。幾つかの溜め息が聞こえる。


「そしてここからは予期せぬ情報にございます」


「ああ、聞こう」


「遥東の地にて名を上げる傭兵団イオスが駐屯しておりました」


「イオス………暁の明星か!」


「しかり、噂に名高い強兵は全戦力ではないようですが、かの地の防衛を向こう1年程請け負ったとのことです」


「防衛なのだな?」


「はっ、確認致しました」


「では………お仕置きはその後か」


「賢明に御座います」



遥東方の地にて根を張る有角族と獣人族、鉱人族を多数抱える強者の集う傭兵団は更に遥東より流れてきたと伝わる200年を超える伝承の兵達だ。

数的不利を何度もひっくり返し、数多の強者を打ち倒し、時にドラゴンすらも下す圧倒的兵。

彼等100名に相対するならば2万は用意せよとは何処かの古き名将の言葉だ。

彼等の存在を知った上で事を構えるのは愚者の驕りというものだろう。

だが、必要ならばユリアナはそれをする。今は必要ではないからそれを選択しない。それはリカルダも承知している。


その日は食事を共にしてからリカルダへ褒美を下賜することとした。



その晩、ユリアナは悟った。おのが思い上がりを。数え切れないほどにイカされてコチラの施しには満足そうな微笑みを以て受け止められた。それは「なんて健気で可愛らしい施しなのでしょう」といった児戯を受け止め褒めそやす大人の対応。

あの失神と朦朧の中で認知しえなかった本職? の凄みを骨の髄までも叩き込まれたユリアナであった。



翌朝。ユリアナが目を醒ますと傍らでジッとコチラを見詰めるリカルダがいた。


「おはようございます」


「おはよう」


「よく眠れましたか?」


「ああ、スッキリとした目覚めだ」


「良うございました………では、その良き目覚めに上乗せを………」


そう言ってキスをされた。そのさなかに内太腿に指が這う。やがてその生き物のようなソレは………朝から泣かされた。いや、鳴かされたが正しいか?

その間、リカルダの乳首をはむのが精々であり、なにも出来なかった。


やや日が高くなったあたりに起き出して共に湯浴みをして、改めて労いの言葉を掛けて別れた。


前世の大人の男としてのプライドはぺしゃんこになっていた。





【第11話 全てはジークの為に】


さて、ラビアの来襲まではまだ日がある。各方面への指示事項の確認と徹底。それに人事の齟齬などないかを確認し、さらに港町アラムの防御体制の確認などを行った。

ユリアンらはこれにてするべき事は全てした。あとは担当となった者等が良きに計らうだろう。実務の場にまでトップが出しゃばるのは宜しくない。任せねば人は育たないのだから。


「エウロスへと向かおうと思う」


皆予想していたのだろう。ただ頷いて応えた。

其々に支度をはじめて、翌日には出発となった。

メンバーはユリアナ、クロエ、ハンナ、マグダリア、ブリュンヒルデ、ベアトリクス、エイダ、クラウディア、影のアーデルハイド、クララの10名だ。初期からのメンバーに途中参加の三人。

先ずは暗殺ギルドが用意した馬車3台に分乗しての移動となった。皇国内は馬車で駆け抜ける。

4日後、皇国の東端となる砦の街へ着き、1泊してから徒歩でエウロス領へと踏み入れた。


岩場が延々と続く荒野はいかにも農耕には向いていない。東西南北どの方面も荒地や山岳地ばかりで豊かな土地とは言えないのに、何故そんなハズレの地に最も近い血を持つ親族を配したのか。それは国境警備戦力として信頼出来る者を置きたかったからだ。広い土地の防備の為に多くの騎士や貴族を配下に付けて、親族らを公爵の上位者としていつしか大公とした。

食糧や物資は中央から大量に分配して支えたから経済的な困窮などあり得ず、むしろ質実剛健を忘れ去り華美に耽る軟弱者と化していった。

しかも中央の人事に口を挟んだり、軍権を全て寄越せと言ってみたり、しまいには自分らの中から次期皇王を選べ等と言い出した。


もはや許容出来ぬところまで来て勅使による叱責行ったところ遂に………叛乱を引き起こした。


日夜浪費していた中央からの補給物資等は適当な管理しかしておらず、華美を制し軍事に注力すべしと諫言した有能な臣下を理不尽に罰した末、いざ叛乱を起こしてみたら物資不足で直ぐに軍が息切れして敗北し、汚名と元手不如意のスパイラルへと落ちて行った。

調子に乗った挙げ句の自業自得。皇国に近接した領地の貴族らは速やかに寝返り皇国へと帰順した。僅かながらも耕作地をもつ彼等の離反は大公らに決定的な零落への道筋を齎した。


その後も自己正当性を事さらに、声高に主張し続けて無為に時を重ねていった。皇王の血筋バンクとして目溢しを受けながら。


ユリアナは両親の仇を討つ。だが先人らに倣い滅ぼしはしない。

それでも今回は四大公家を取り潰すつもりだ。血は残し管理する。しかし家は残さない。150年前の軛を精算するのだ。そして憂い無き未来を弟へ、ジークへと引き継ぐのだ。

我が無償の愛と献身を以て父祖の思いを後世へと繋ぐ為にジークの御世を創出する。仇討ちと同等に我が身が果たすべき重責である。


これはそういう戦いなのである。


エウロス領へと踏み込むと魔獣の棲息域としての濃度が格段に上がった。こんな領域に人は住めるのだろうか? いや、そんな訳はない。

事前に調べてあるとおり、3日後に確信する。皇国との境界を敢えて放置することで大公家は魔境を作り出したのだ。それは防御線であり、拒絶の意思表示なのだろう。

そして領民逃散防止にも資する自衛策ともなる。ある意味に於いては実に合理的かつ実利的だ。


「交易無しに生命線が維持出来ない筈なのに良くもこんな策を継続してきたものだな」


この3日間、魔獣を相手取り存分に腕を振るったベアトリクスが呆れながら吐き捨てるように言った。


「果たしてそれだけかな? 実際にエウロスの当主や子弟らはノトスへと訪れているし、兵も出している」


「抜け道があると?」


「或いは手段を持っているのか」


「成る程。民の出入りは閉ざし上位者や軍事においては………フン、為政者の驕りか」


「驕り?」


「完全な秘匿などできまい? ならば何れは漏れる。或いは既に、な」


「成る程な、あり得る」


ベアトリクスが話しているのは影のクララだ。宿で情を交わして良い仲になっている。領主の娘と影では凄まじい身分差があるのだが、ベアトリクスはそれを排した関係性をクララに求めた。その結果として対等な関係性を二人で作り上げたのだ。

因みに二人は恋人ではない。二人共が乞い願って求めるのはあくまでもユリアナただ一人だ。

互いの無聊を慰める関係。愛人にも満たない………言語化困難な……性的友人?

幸いなことにこの架空世界にはこれを言い表す適した言葉が見当たらない。幸い?


「アーデルハイド、抜け道だとか手段だとかは割り出せようか?」


「畏れながらユリアン様、人を………かなり入れねば難しいかと」


「そうか………監視ならばどうだ?」


「満月の役への出兵ですか?」


「そうだ」


「………里へ手配りいたしましょう」


「頼む」


15日に決起が決まっている敵の軍事行動は満月の役と仮称されている。港町アラムへの艦砲射撃を前提とする計画は一番明るい夜を選んで履行されるのだ。

そしてこれに合わせてエウロスが近々兵を起こすことは確定しているのだ。探らずとも動向は示される。


その遣り取りを傍目に眺めながらクロエが満足気に微笑み頷いている。

その勘働きと対処法の目の付け所、全てに得心が行く。

一面に於いて我が弟子たるユリアナの成長に目を細める師匠である。

クロエは基本的にユリアナの権謀術数に口出しをしない。それは元より高度であり、コチラにはない知見による策であったりすることもあるのだが、幼少時に指導したクロエの教えもキチンと押さえた多重複合的戦略と局地的戦術を緻密に考察し、他者へ説明可能な具体策へと落し込む才にユリアナが恵まれているからだ。

そこの才能においてはユリアナはクロエを凌駕する。

理解されない戦略は履行する実行者にとって弊害でしかないのだから。

ユリアナが作成する作戦指示書の内容はその高度な戦略性よりも、その具体性とわかり易さこそが賞賛されるべき部分なのだ。そこにクロエは惚れ込んでもいる。


流石我が伴侶だと。


さて、ジークの為の戦略は既に組み上がっている。魔境を超える手段はさしたる問題ではない。だがユリアナの命題の一つたる仇討ちにはその解明が意義あるものとなるかも知れない。


ユリアナは例え後に無駄だったと判明してもそうした部分を見落とさないし不合理であったと断じない。彼女はそうやって凌いできたのだ。そうしてこの悪意に満ちた世界の片隅を生き抜いてきたのだ。弟を守りながら。


彼女は海音であると同時に弟を溺愛する姉、ユリアナでもあるのだから。

いかほどの人が待っていてくれておられたのかは不明ですが、極わずかずつPVがついておりましたので「はるかの日々」の予約投稿を一時止めてかきました。

ちなみに今はカクヨム主体で書いています。「はるかの日々」もあちらの方がかなり先行して公開しています。もしアチラも読んでおられる方がおられましたらカクヨムのほうもヨロシクです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ