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ユリアナ物語  作者:
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第1刊 黎明の乙女

拙作「新世界の神が見てる」の作中物語であるリリス(依子)著「ユリアナ物語」を実際に書いてみました。

シリアス基調で書いておりますので下世話な下ネタはほぼ………あんまりありません。かといってお子様に是非と言える内容でもありません。ターゲット不明なラノベもどきですが、もしよろしければ読んでみください。

まあ、アチラを好意的に読了された方には響くかと思います。お笑いとして。

【前書】


 この物語は偉大なる星の支配者へ魂を捧げる全ての子らへの贈り物である。


 暗き刻を経て光を得た幸いなる民達の中に我らは在る。その光のただ中にあっても尚、眩い光を放つがゆえにそのお姿は正視すること叶わず。然るにその御心に触れ、寄り添うことを許されし御傍に侍りたる者が実在することもまた事実である。

 その内にある者として事実を事実のまま語るは不遜にして無作法。しかして蓋をして隠しおおすこともまた選ばれし侍り人の良心に照らして呵責あるところである。故に空想の世界に仮託した物語を編み、その尊さのみを世に開陳することとした。


 我が名はリリス。筆名である。星神の正妃たるクロエお姉様を筆頭とした多くのお姉様方のご協力を得て星神のお人柄や来歴を仮託した人物像を物語の中に紡ぎ出し世に広めその尊さを読み手に問う者である。

 

 尚、先にも述べたとおりこの物語は事実に即したものではなく、空想上の世界観の中に紡ぐ架空の物語である。従ってどのような特定の国家、団体、人物にも関連性はなく、全ては絵空事である旨を重々ご承知願いたい。



※本編の後に添えられた付録の随筆は星神の妻によるものであるが、各号に掲載されるそれら随筆文の作者は特に本人の許可なき場合は匿名または筆名とする。また本編及び随筆の転載は固く禁じるものであることをここに明言する。留意されたし。





【第1話 花の名前】


一輪の花として生を受けた。そして一匹の修羅となりて闘った。

この生の始めに私は一人であった。この生の終わりに私はやはり一人なのだろうか。

その答えを突きつけられるそのときまで私は足掻き続けるのであろう。


花なれば実を結ぶことを夢見て。



◇◇◇



千年の歴史を持ち繁栄と退廃の中にあるディアーナ皇国。嘗ては広大な国土を誇ったが、150年程前に皇王の分家たる四つの大公家が相次いで離反して国土はかつての三分の二にまで縮小した。

だが、有力な鉱山と大穀倉地帯、そして海運の要となる良港を独占し、海の向こうに栄えし血盟の国バラント王国をはじめとした各国との交易は変わらず皇国へ莫大な富を齎し続けた。

一方、領土の大半が山がちであり、海に接していても海岸線が断崖絶壁ばかりで港をもてないなど、発展の伸びしろがほとんどない四つの大公国は時を経るに従ってその国力を減衰させていった。

彼らは元々が中央からの支援で成り立っていた領地経営であったのに、皇位継承問題で口を出し揉めた挙げ句、配下の貴族共々一斉離反したのだ。愚かなる短慮の末に。

この時の国土は今よりも更に小さかった。だが、ディアーナ皇国の残された国土に接している貴族達は数年後には各大公から離反して皇国へと再度帰属した。

この際に彼らへの罰則らしい罰は殆どなく、彼らの致し方ない立場を(おもんばか)る言葉を時の皇王から掛けられるに至り彼等の忠誠心はいたく刺激された。

その恩義は今も彼等の中に息づいている。

何故彼等国境の貴族らは大公らを見限り皇国へ再度帰順したのか。

先ず、彼らの領地は穀物生産に適さないがゆえに食糧が足りない。他国との交易が成り立たず物流が滞り経済が着実に破綻に向かう。寄親たる各大公家も窮しているから寄り子への支援ができない。

そうして行き詰まった彼らは全面降伏を申し出たのだ。

その際、厚顔にも一つの大公家が支援と引き換えに帰順を申し出てきたが、時の宰相デギン・ラガンは「貴公の家訓には恥という概念がないのか?」

と言って一蹴した。

以降、他も含め大公家からの帰順交渉は一切ない。


一方、ディアーナ皇国は彼らを切り離したことで富の拡散が激減し、税は減り民は増え、国は栄え、国力は弥増すばかり。

数世代を経た今は人口増加を背景にさらなる繁栄の只中にあるのだ。

しかし繁栄の裏側には腐敗と退廃が付き物である。

そしてそこには野心と策謀がたゆたい、慮外者が常に隙を伺っている。自身に都合の良い未来を掴む為に。



百数十年前の四つの大公家離反により皇家の血筋は細くなった。だが、世代を重ねた事で安定した分家を三家立てている。

いずれも公爵家として他貴族家からの崇敬を受けているが、派閥の形成は許されていない。故事に鑑みて。

そんな中、5年前の流行り病で本家たる皇王と三公爵家当主が揃って病を得て身罷ってしまった。


皇王には皇太子が就きはしたが、当時15歳。喪が明けて直ぐに妃候補であった公爵家令嬢との婚礼を行い、さらに遠縁の伯爵家からも側室を召した。


流行り病による血族の相次ぐ死によって皇家の血筋が極限にまで細ってしまった。

これ以上は………誰もが思いつくが、誰もが望まない事態になりかねない。

それだけは許容できない。


だから継嗣(けいし)を得なければならない。なにをおいても皇王の継嗣を。


そうして5年の年月が過ぎ去った。


側室は三人にまで増えたが未だに誰一人として子を得られず、城の奥向きは暗く沈んだ日々を積み重ねていた。

そんなある日、一人のうら若き侍女が剣の稽古の最中に夜空に浮かぶ光の玉を見つけた。それはゆっくりとこちらへ降りてきているようだ。

通りがかりの女性衛兵にそれを指し示し、人を呼びにやらせた。不可解なそれに対処できそうな者、宮廷魔法士を呼びに。


程なくして駆け付けてきた魔法士は若くして宮廷で三賢者と呼ばれるうちの一人であり、一先ず侍女の不安は僅かながら和らいだ。


「マグダリア様!あれを!」


「むう?術式も魔力も感じない。なれば魔法の類にあらず。先ずは風で………素通りか、次は転移を………駄目だ、術式をまるで受け付けぬ!あれはいったい………」


ふよふよと揺らぎながら降りてくるそれは突如として何かに引き寄せられるように城の東側へと進路を取ると、今宵皇王が(しとね)としている筈の正妃の部屋へと消えていった。


侍女ハンナは宮廷魔法士マグダリア、繋ぎをした衛兵のブリュンヒルデと共に三人で正妃の部屋前まで行き、扉横に侍る衛兵に事情を説明して控えの間へと入り正妃の侍女にも同様に話す。だが中からの声掛けは特になく、恐らくは既に事を終えて休んでいるであろうとの事。

差し迫った危機でないのならばこのままとして明日朝にでも確認しようとのことに落ち着いた。


翌朝、果たしてそれらの出来事について皇王も正妃も認識しておらず………しかして二人ともが同様の夢を見たと言う。


「ふむ、光の玉とやらは見知らぬが、美しき花が一輪、アンナの身に宿る夢ならば見たな」


「あら、私も同様の夢を見ましたわ」


城の側仕えらの間で瞬く間にその夢の話は広がり………その二月後、正妃の懐妊が確認された。

あれは慶事の前兆の夢であったかと皆が噂しているのとは別に、光の玉を目撃した侍女と魔法士と衛兵は確信していた。


その子は天からの授かり物であろうと。



そして産み月となった。


皆が祈り緊張している。

皇王には男しか即位できない。仮に産まれた子が女児であれば、公爵家から婿を取って皇王とせねばならないが、今の三公爵家には適齢の男子がいない。そして継嗣もいない。であれば産まれた子が女児の場合………立会者からは既に誓紙を取っている。側仕えする者も選抜し、教育係も………

後に男子が産まれた時に正常化すれば良い。今はただ祈り、為すべきを為すのみと誰もが思い定めていた。


………おぎゃあ………


誓紙が効力を発揮した。魔法士による契約術式での箝口令は口頭のみならず、筆記においてもその効果を発揮する。


その日、皇国の民へ向けて皇子の誕生が発表された。


公表された名はユリアン・ソル・ディアーナ。

同時に真実の名も与えられた。ユリアナ・ルナ・ディアーナと。



運命の子はこうして波乱の待つ現世へと投げ出された。

彼の者は後に天の落し子、または御子と称される。険しき世の洗礼を乗り越えたそのあとに。





【第2話 裏切り者とそうでない者と】


その子は正しく神童であった。


その魔法は5歳にして外法に至る。

その剣技は並みの衛兵を薙ぎ払い、その槍は立木を穿つ。

学問に於いても幾つかの分野にて博士が当たらねば用を為さぬほどに(さか)しらである。


何故幼くしてそこまでも強く賢くなったのかと言えば早熟である必要があったからだ。

幾度も襲撃を受け、毒を盛られ、事故に偽装した罠を施され………撥ね退け見破る。それらは当然その身に侍りたる近侍の者らが対応すべきことであり、事実そのように処理されていたが、時にその護りをすり抜けた暗殺者が眼前に現れ直に襲われることが幾度もあったのだ。

だから闘った。(あら)ゆる状況を利用し、暗器を忍ばせ、虚を突いて、敵を………殺した。

最初の実戦は僅か3歳の時だ。

幼子と油断している暗殺者に魔法で一撃。簡単だった。以来、8人の敵を屠り5歳に至る。



そんな「彼」の噂を聞きつけたダークエルフが遠方より訪ねてきた。とある目的を胸に秘めて。


「貴女はかの有名なダークエルフ、クロエ・ルーシル様であられるのですか?」


「左様。ユリアン皇子よ、君に問いたいことがあり罷り越した」


「お答えできることであればよいのですが………」


「されば………犬も歩けば?」


「棒に当たる?」


在り来りの慣用句の上の句を投げかけられたユリアナは何も考えずに下の句を答えた。

それを受けた眼の前にいる無表情な、しかして美しきダークエルフの眼には強い光が宿り、まるで希望の星を見出したかのような、微笑を伴った表情を浮かべた。


「私には創造神より授かった定めし役割がある。その啓示にはこうある。

この地とは異なる世界より来たりし転生者を探せ。そしてその者に仕え共にこの世界を救え。とな」


ユリアナは3歳の頃から、そう、暗殺者を初めて屠ったあの頃から不意に経験していないことが出来るようになったり、見たこともない様々な光景が頭を過ぎったり、見知らぬ人々との交流を想起したりという………まるでもう一人の自分が我が身のうちにいるかのような不思議な体験を幾度となく重ねてきた。

そして近頃ではそのもう一人の自分と今の自分が融合してあるべき自分になりつつあると悟るようになっていた。

とは言えある一点に於いてどうにも消化しきれない事柄があるのだが………



「創造神の啓示でございますか。(にわか)には信じ難いことでございますね。ですが貴女ほどの高位にあるお方が神を騙るような虚偽をなさるとは考えにくいのもまた事実。なればこそ伺いたい。先程のやり取りの何処にクロエ様が私を転生者だと断じる要素があるのかを」


「聡明なる貴方でも気付きませぬか………犬も歩けば棒に当たる。そのような慣用句はこの世界には無いのです。これは創造神からの啓示を受けた際に、転生者を感知する権能と共に授けられし転生者へ向けた合言葉なのですよ」


「言われてみれば………確かにそのような慣用句を周りの者から聞いた覚えがありませぬ。書物にても………ふむ、記述のあった物は思い出せませぬな。成る程、得心致しました」


「それではお認めになられますか?貴方が転生者であることを、そして………我が主となることを」


「前段については思い当たる部分もございます。その慣用句の適用地域の限定的な部分に疑義がございますが………ですが後段につきましては余りにも畏れ多いことにて。我が身には過ぎたることかと存じます。平にご容赦を」


「ククク、尊貴なるダークエルフを、しかも我が名を知りたる上で申し出を断られるとはな。無欲にも程がある」


「確かにそうですね。ですから我が師として、また………もしも許されるならば友として在っていただけるならば至上の喜びに御座います」


そのダークエルフはまるで華が咲いたような笑顔を小さき者へ向けて言った。


「もはや創造神からの定めなど関係ない。私は君に付き従う。師として、友として。そしていずれは………」


こうして運命の出逢いは成った。


二人は紡いでゆくのだ。人生を、そして歴史を。

数多の人々を巻き込み引き連れながら。この瞬間より未来へと歩き始めたのである。



あれから3年が過ぎた。


かのダークエルフの指導を得て人外まであと少しといった域にまでその武を高めたユリアナは8歳となっていた。

そしてその頃に第二側室の出産があり、待望の男子を授かった。

周りの大人達の喜びは大変なものであったが、ユリアナとしても性別を偽りながらの生活に終止符がうてるとの安堵があった。


ジークフリート・ソル・ディアーナと名付けられた弟はユリアナにとっても待望の男子であり、とても可愛らしい庇護対象者となった。



弟の誕生から一年、今となっては文武に於いてユリアナを導ける程の実力者はクロエとハンナをおいて他になく、近頃は近臣らから政務に助言を求められる程にその力量を高く評価されていた。

そうして忙しい日々を送りながらも城内に僅かな違和感を感じるようになった。


「側仕えの中に見知らぬ者が増えてはいないか?」


クロエからの指摘だ。

そうなのだ、侍女やメイドらは結婚を機に辞するものは一定数いるから毎年何人かは入れ替わりがあるものだ。それにしてもこの1年余りはそれが多い。それに給仕や厨房での人の入れ替わりも………


ユリアナは専属の侍女となったハンナと元衛兵で今では近衛騎士となってユリアナに侍るブリュンヒルデに問うた。


「このところの近臣の入れ替わりには何かの意図がありはしないか?あまりにも急激に過ぎる気がするのだが」


「それは私達としても危惧するところであります。先日、マテウス宰相を通して影の頭領へ調査の依頼を致しました故、しばしお待ちを」


「影か………リカルダを呼んではくれないか?」


リカルダは影の頭領の子息であり、皇子に近侍する影仕えとして2年前から侍従に任命されユリアナに侍っていた。

独自の組織を配下に持つ頼れる情報通である。



新規の近侍のうち、5人が間諜である可能性が濃厚となった。

さらには皇都の守備兵や衛兵にまでも大公家の、恐らくはノトス家の息が掛かった者が多数潜り込んでいる事実が発覚した。

皇王の血が極限にまで細くなった今、彼らにとっては起死回生の為の千載一遇の機会となる。

もう何年も前から準備してきたのだろう。実に密やかにそして確実に皇都に侵食し、皇城にまでもその魔の手を伸ばしつつある。

光の玉を目撃して以来、天より下された御子ユリアナを護り抜く決意の元、盟約を交わし誓いあったもう一人の守護者たる賢者マグダリアは部下を使いさらに広範囲に索敵を行った。

皇都に隣接する二つの街にも市民として伏せられた兵と思しき者らが数百人づつ待機していると看破した。


猶予は如何ほどか………



皇王たる父へ面会を求めた。

だがそこから事態は風雲急を告げる展開へと舵を切った。


皇王の侍従長を兼ねる影の頭領が裏切ったのだ。

そして皇王と正妃を殺害し、宰相を監禁して玉璽の引き渡しを迫った頭領は矢継ぎ早に行動し、ジークフリートも手に掛けようと画策した。

ジークフリートにはリカルダの配下が侍っており、いちはやく危機を察知して城下の隠れ家に身を潜めている。


影の頭領セバス・ハブルは宰相名義で乳幼児が罹る伝染病の調査の為の巡回に協力せよとの宣布を行い、さらには行方知れずとなっているユリアン皇子の探索にも人員を割いた。


やっと城内が手薄となった。


間諜や潜り込んでいた敵方の兵士らを密かに狩ってゆくユリアナ達。皇都ではリカルダ配下の暗殺ギルドが暗躍し、隣接する二つの街ではブリュンヒルデとマグダリアに率いられた近衛騎士団や宮廷魔法士隊の精鋭が出向き、調査済みの偽装市民を始末していった。



父母を喪うという痛恨事にもめげずにユリアナはやるべきことをやり遂げた。泣くのは全てを終えてからだと言い聞かせて………


そうして仇となった頭領セバスをも討ち果たして宰相を救い出し、事態の収拾に速やかに乗り出した。



一月の後、ユリアンは皇王に即位した。未だ涙を秘したままに。


「私は弟に皇位を引き継ぐまで為すべきを成して参ります。皆はそれまで私を支えてくれようか?」


やや憮然とした表情のハンナが応えた。


「その様な確認をされる我が身の情けなきこと。我が身命は元より陛下へ捧げたるものに御座います」


続いてブリュンヒルデとマグダリアが応える。


「「然り。我等盟約の三従者はユリアン陛下と共に」」


「私もですよ」


「クロエ、皆………ありがとう」


今回暗躍していたのは主にノトス家であったが、どうやらエウロス家とボアレス家も関わっていたようだ。

反逆者でありながら150年余りもの長きに渡り捨て置かれたは皇家の濃い血を分けた一族であるが故。だが、此度は血族であるが故の皇位簒奪の為の策謀であり、赦されざる罪を………父母を弑されたるに至り、もはや復讐こそがユリアンの努めである。

つまりはこれからだ。これからがユリアンが為すべき闘争の始まりなのだ。


全てを安定化してからジークフリートへの譲位を。


忠義の臣と伝説持ちの師に支えられユリアナは闘志を静かに燃やすのであった。





【第3話 始動】


ユリアン・ソル・ディアーナ。それはユリアナの公式名である。

しかして真実の名はユリアナ・ルナ・ディアーナ。一時的にでも皇位継承権を得る為に父母や高官らが謀った結果としての性別詐称。

その為の二つの名。

だが………彼の者にはもう一つの名がある。


安室海音(あむろうみね)


3歳の頃より少しづつ想起され始めた前世の記憶は早熟なユリアナの精神と混ざり合い、更にその記憶は容量を増してゆき今では八割方は海音の人格が占めている。

だが、残り二割についてはどうにも割り切れない問題、いや、矛盾があった。


安室海音は男であったのだ。


男として38歳まで生きて、理不尽にも見ず知らずの者達による抗争の流れ弾に当たり死んでしまった憐れな独身男性。

高い学力と教養を有し、見目の良い優男という外面で周囲と接していたが、その実冷酷なる策士であり、多くの女達と交わりを持つ自由人でもあった。

仕事で国々を渡り歩く人生を楽しむ根無し草でもある。


そんな孤高の自由人にも忘れ得ぬ人が僅かながらいた。

決して心をおもねるようなものではない。だが、時に思い出し胸に温かな灯をともすような存在が………


何れにせよ彼には受け入れ難く、ユリアナには呑み込めない………性別の違い。

この矛盾には慣れるしかないのだが、性的欲求という方向性に於いては両者の合意形成は既に出来ている。


ユリアナはもとより同性である女が好きなのだ。

そして勿論安室海音も女が好きだ。

故にユリアナの初恋は侍女のハンナであったし、今夢中なのは師であるクロエであったりする。

いや、正確にはクロエを筆頭に、ハンナ、マグダリア、ブリュンヒルデの4名を性的対象として見ているのだが。立場上、そして相手ありきのその想いは満たされることはなかろうが、心深く秘めたるその熱は恐らくは生涯にわたり蓋をして目を背け続けてゆかねばなるまいと己に言い聞かせていた。


そんな性別の矛盾は皇王を演じる際には正側(プラス)に働く。


ユリアナ、もとい、ユリアンは安室海音を根として皇王の威厳と強さを演出し、臣下らはその力強さと深い教養、深謀、そしてその合理的思考に対して無条件に頭を垂れた。

内政と外交をより深く把握した上で適材適所に仕事を割り振り、国内の表も裏も信賞必罰を徹底した。


此度の乱でリカルダ配下の暗殺ギルドは大活躍をした。それに影らも全てが頭領のセバスに従っていた訳ではなく、彼らの里に於いてはリカルダに付き従う勢力が多くあって、彼らも事態の裏側で活躍してくれていたのだ。

そうした者らにも報いなければならない。


こうした行いは後にユリアンを助ける事となる。情けは人の為ならずである。



皇王即位から5年、国内の安定と繁栄は揺るぎない。貴族らの統制も行き届いており、四つの大公家からの策動も全て芽のうちに摘み取り退けている。

そして反攻の準備がほぼ整った。


皇弟ジークフリートは6歳。健康かつ優秀さの片鱗をも見せ始めた愛する唯一存命中の家族。

先ずは国を本来のあるべき姿へと戻さねばならない。


渋る弟を説得し、譲位した。


先の皇王、上皇としての位すら受けずにユリアナはこのディアーナ皇国における武の象徴たる地位を求めた。

即ち武の王「アーレイウスの剣」の称号だ。


この「アーレイウスの剣」とされた者には様々な特権が与えられる。

・軍権の不入

・国による任務履行時の資金無償供与

・一定の範囲での法支配拒絶

・国境及び各領地の通行の自由

他にもあるが主だったところではこのようなものだ。

但し、権利には義務が附随する。

国からの指名依頼は都合が許す限りにおいて受領しなければならない。特に皇王からの依頼は必ず受ける義務がある。


故に………譲位後、弟であり現皇王たるジークフリートからの依頼を称号授与直後に受ける事となった。


「兄様………いえ、アーレイウスの剣ユリアンよ、我が皇国の仇敵たる大公家を討ち滅ぼせ………真に軍の補助は要らぬのですか?」


「陛下、締まりませぬな。

私に侍りたる(ともがら)は皆が一騎当千にございます。あの様な惰弱な奴等相手には過剰戦力にございます故、ご心配なされるな」


「そうは申されても心配にごさいます」


「フフフ………ジーク、全て済んだらね、私のことは姉様とお呼びなさい。私も貴方からそう呼ばれることを楽しみにしています。来年の我が成人の儀は乙女として参加するつもりですし、いいですね、ジーク。約束ですよ?」


「兄様………はい、約束です!」



こうしてユリアナの旅が始まった。


自らの痛恨事を清算し、血族の放置された事情を清算し、皇国の未来を拓き安堵する為の闘いが今幕を上げる。

「ユリアナ物語」第一部は作中では隔月発刊、二年で完結ですから全12刊となっています………あと11刊分ですね。思いのほか大河ドラマ化しそうな予感。

因みに【前書】にある妻達による随筆文はあくまでも「同人誌」の付録的扱いなのでこちらへは併記しません。まあ、もしも何かの間違いで需要が多く寄せられたならばその時考えます。

第二部ともなるともう………下ネタではない聖剣伝説か。多分需要はなさそうですね。

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