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09_温泉旅館へ

 街の明かりに照らされながら5人はとぼとぼと歩を進める。



「ねえ、お風呂入りた~い。もう3日も入ってないのよ」


「ああ、そうだな、確かあっちに温泉旅館があったはずだ~今日はそこに泊まるか~」


 酔っ払い、もとい、レントとアメジアがフワフワとした口調で会話する。


「ああ、俺も賛成だ」


 ザックも二人の意見に賛同する。


「キョーカさんもそれでいいかい?」


「え、ああ――」


 突然振られて一瞬考える。


「あ、いや混浴とかじゃないから、そこは安心してくれ。まあ酔っ払いの面倒は任せるかもだけど」


「え、いや、そこ気にしてたんじゃなくて。着替えとかないなと思って」


「なんだ、そんなことか。それなら問題ないぜ」


「え、どういうことですか?」


「行ってみたらわかる。きっとびっくりするぜ」


 ザックが意地悪くニヤニヤとする。


「なあ、エマはどうする?」


「私もお風呂入りたい」


「そうか、よし、決まりだな」


 そして私たちは温泉旅館を目指すことにした。



 少し山を登ったところで硫黄の香りが鼻をつく。


「もう少しだ」


 そういうレントは夜風に吹かれて少し落ち着いたのか、ぎこちないながらも自力で歩けるようになっていた。



 そして、5分ほど歩いた先に立派な和風の建物が現れる。湯煙を纏いながら淡く光る姿は蜃気楼のようで幻想的だった。



 受付に着くと使い込まれた漆器のような、不思議な魅力を放つ女将さんが対応してくれる。


「いらっしゃいませ、本日はお泊りですか、ご入浴のみですか?」


「今日、一泊お願いしたい。5人分温泉付きで頼む」


「承知いたしました。それではお一人当たり 10,000 RDLになります」


「ああ、ちょっと待ってくれ」


 そういうと四人は懐から個人カードを取り出す。


「俺たち4人は安保隊に所属しているのだが、割引にならないか?」


「確かに、安保隊であることを確認いたしました。それでは、こちら4名様分の代金は 2,000 RDLとさせていただきます」


「お、助かる」


 安保隊は任務で各地を転々とすることが多いため、宿泊施設を利用するケースが多い。宿泊費がかさんで装備を十分に整えることができないということを防ぐため、一般国民から税を徴収し割引制度を導入している。


「では、こちらにサインと代金のお支払いをお願いいたします」


 各自、サインをしてお札を置いていく。私の分の代金は、酔った勢いなのか正気なのか、気前よくアメジアが出してくれた。



「こちらお部屋のカギになります」


 そう言って手渡されたのはスマホぐらいの大きさの木の板だった。


「お部屋の入り口にカギの差込口がございます。カギを差し込みますと扉が開閉可能な状態になります。お部屋に入られましたら内側からカギを引き抜いてください。外に出られる際は逆にお部屋の内側から差し込んでお部屋の外から引き抜いてください」


 初めて聞くカギの仕組みに少し感心する。


「タオルや石鹼、バスローブを脱衣所にご用意しております。必要であればご利用ください。使用後は返却用の箱をご用意しておりますので、そちらに返却をお願いいたします」


「それでは、安らぎのひと時をご堪能ください」



 女将さんの丁寧な接客が終わると同時にアメジアが早歩きで女湯へ向かう。

 それとは対照的に男性陣が踵を返す。


「俺は先に部屋に向かう。それじゃ」


「俺もいったん部屋に行くわ」


 そういうと男二人は宿泊部屋のある方へ歩を進める。


「え、先にお風呂入らないんですか?」


 つい、気になって質問する。


「あとで入りに行くさ。ま、いろいろあんだよ。気にすんな」


 そういうと二人は部屋の方へと消えていった。



「じゃ、エマちゃん一緒に行こっか」


 先走ったアメジアの背を追いかけて私たちも女湯の暖簾をくぐる。

 すると、入ってすぐのところに鏡が置いてあった。


 思わず立ち止まる――

 異世界に来て初めて自分の姿を見ることができた。マントを着て帽子をかぶった姿はさながら魔女のコスプレのようで我ながら滑稽だった。周囲を確認して人がいないことを確認すると帽子を取ってみる。いつも見慣れている自分の顔。よく友人には顔が整っていて羨ましいといわれるが、個人的に鼻が低いことがコンプレックスである。

 髪はずいぶんと伸びた。一年半前は剣道のために男子と同じぐらいの長さにしていたのだが、負傷して剣道ができなくなってから短髪にしておく理由がなくなり、そのまま伸ばし続けた。今では肩に届くぐらいの長さになり、我ながら女の子らしくなったと思う。


「何してんの、早くこっち来な~」


 アメジアに呼ばれて脱衣所の方に歩き出す。



 脱衣所にはカギ付きのロッカーが並んでいた。アメジアとエマが使っている以外のロッカーにカギが刺さっていることからおそらく今は貸し切り状態なのだろう。


 適当なロッカーを開けると中には脱衣籠が入っていた。


 ひとまずアメジアから借りているマントと帽子を籠の横に置く。そして羽織っていたブレザーを脱いで籠に畳んで入れる。続いて首のリボンを緩めて取り外す。それをブレザーの上に置きながらシャツのボタンをはずす。ボタンを外し終えたシャツを脱いで畳み始めたところで声を掛けられる。


「あんた、意外と大きかったのね!?」


 声の方へ視線を向けるとすべてをさらけ出したアメジアがこちらへキラキラとした視線を送っていた。


「いや、アメジアの方が大きいじゃん」


 恥ずかしくてすぐ目をそらしたが、その一瞬でもわかるぐらいアメジアのは大きかった。


「エマと同じくらいなんじゃないの」


「え?」


 エマにそんな印象を抱いてなかった私は驚いてエマの方を振り向く。


 モゾモゾ、モゾモゾ


 ぴっちりとした修道服が体に食い込んでいるのかうまく脱げないらしい。


「エマちゃん腕をまっすぐ上に伸ばしてみて」


 スルスルと修道服を巻き取っていくと純白の柔肌が現れる。


「え!? うそでしょ!」


 驚くことが二つあった。

 一つは修道服。足首あたりまでの長さのワンピースのような形状なのに異様に軽い。そして生地がものすごく厚くてもちもちとしている。例えるなら、肌触りがシルクのマシュマロといったところだ。


 そして二つ目。マシュマロからマシュマロがそのまま出てきた。

 つまり、エマは下に何も着ていなかった。


「ひゃっ!」


 エマは私から修道服を奪うと胸の前で抱きしめて顔を埋める。ちらっと見えた耳はお酒を飲んだアメジアより真っ赤になっていた。


「ね、大きかったでしょ!」


 アメジアが椅子に腰かけながらこちらをニコニコと見つめている。


「え、うん……」


 正直、そんなことより下着を着ていないことの方が衝撃すぎて乾いた返事を返すことしかできなかった。


「じゃ、私先に行っとくね~」


 そういうとアメジアは石鹸だけ持って湯煙の中に姿を消していった。


「私も、先に……失礼します!」


 アメジアに続いてエマはタオルを胸に当てながら湯煙に消えていく。


(私もさっさと脱いで温泉に行こ)


 そう心で呟いてスカートのファスナーに手を掛けたところでエマが戻ってくる。

 どうやら石鹸を忘れてたらしい。頑張って気配を消そうとしてたみたいなので、気を使って気づかないふりをする。


 そんなこんなで生まれたままの姿になった私はロッカーのカギを締めると石鹸とタオルを持って湯煙の方へと歩いていく。


 異世界の温泉がどんなものなのか少し期待に胸を躍らせながら私は湯煙の中に姿を消した。

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