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04_異世界初の出会い

 森は光に照らされた。



 涙と逆光ではっきりと見えないが二人の人影が私を守るように眼前に現れた。


「そんじゃ、一発かましますか♪」


 若さと妖艶さを兼ね備えたような声とともに、アメジストにも似た長髪をたなびかせた女性が構える。

 その手にはきれいなバラの装飾がされた30cmほどの杖が輝いていた。


「《氷晶爆発(アイスブラスト)》!」


 杖の先端から5mほど先、ちょうど私と巨虫の間に一瞬氷塊が出現したかと思うと、一瞬の閃光とともに轟音を立て爆発する。


 紫髪の女性のマントが爆風を受けて大きく翻る。


 周囲一帯が砂塵と白煙に包まれる。


 10秒ほどして白煙が晴れるとそこに巨虫の群はいなくなっていた。



「レント、これでよかったよね」


「ああ、ありがとうアメジア」


 男性の声は思わず聞きほれるような爽やかな声だ。



 私は抜けた腰に何とか力を入れ立ち上がる。


「あ、ありがとうございました!」


 2人に向けお礼を言いながらお辞儀をする。

 背中に回した両腕はまだ小刻みに震えている。


 一拍おいてレントと呼ばれていた男性が振り返る。

 ちょうど耳を覆い隠す長さの白銀の髪を風に揺らす。

 身体は濃い灰色の鎧に包まれ、腰には赤い柄の剣を携えている。


「ああ、ひとまず無事で――」


 彼は私の姿を見るや目を引きつらせる。


 何事かと思い、キョーカは自分の体に視線を落とす。


(そっか、私の格好ってこの世界では異質なんだ)


「異様な格好に黒髪、貴様は勇者信者か?」


 勇者信者?てっきり五芒星の勇者と勘違いされたのではと危惧していた私は呆気にとられる。


「え?いや、私はミューゼ様の力で転生した八芒星?の勇者です」


 私は正直に素性を明かした。


「はあ……そうか、なら勇者紋を見せてみろ」


 軽いため息の後、呆れたように感情のない乾いた声で返答される。


(勇者紋?たしか普段見えない位置に刻んでおくと言っていたような……)


「どうした、さっさと手の甲を見せてみろ」


 どこに刻まれたんだろうと考えているうちに強引に両手をつかまれる。


「ま、無いわな勇者紋なんて」


 手の甲を黙視するや否や乱暴に手を離される。


「八芒星の勇者様の転生周期は8年で最後に転生してきたのは半年前。つまり、あと7年は転生してこない。八芒星の勇者様に希望を持ちたくなるのはわかるが嘘はよくねぇぜ」


「え……えーと……」


 どうにか理解してもらえないか、うまい説明を考えるが思いつかない。


「まあ、レベルは上げてるみたいだから、そこら辺のただ勇者に頼るだけの他力本願な勇者信者よりかはましか」


 彼は私から注目を解く。


「アメジア、この娘どうする?」


「どうするって言われても……」


 アメジアと呼ばれた女性がこちらに近づいてくる。


 さっきはマントで見えていなかったが、正面から見るとかなり刺激的な格好だ。

黒くて光沢を放つワニ革のような素材でできた服は、さながらビキニの下をミニスカートにしたような形状で、こちらが照れてしまいそうなほどである。


「ねぇ、あなたどこから来たの」


「お、覚えてない……というか気づいたらこの森にいたので……」


 口籠りながら返答する。


「こりゃ、いったん王都まで連れていくしかないでしょうね」


「そうだな」


 2人とも呆れたように会話を進める。


「よし、これから王都まで同行してもらうがいいか?」


「は、はい」


 ひとまず私は彼らに同行することにした。



「馬車で人を待たせている。走るぞ」


 そう言うと彼は陸上選手にも劣らぬ速さで駆けだした。


「何ぼさっとしてんのよ、私たちも行くわよ」


「え、ちょ、私あんな速く走れないんですけど」


「は?何言ってんのよ、さっき走ってたじゃない」


 いや確かに必死に逃げたけどそんな早いことないと思うんだけどな……


「ま、遅かったら私が担いであげるからとりあえず走りましょ」


「そうですね、その時はお願いします」


 そう言って私たちは駆けだした。



「うそでしょ?」


 眼前の景色が一瞬で流れていく。

 まるで、自転車に乗っているかのようだ。


「だから言ったでしょ、まあ、レベルが20もあれば当然といえば当然なんだけど」


 アメジアが並走しながら声をかける。


 そのまましばらく森の中を走り続けた。



「もうすぐよ」


 木々の隙間から光が覗く。ついに森を抜けだした。



 一面に広がる草むらには、二筋の轍が途方もなく続いている。


「おーい、こっちだ」


 30mほど離れた場所からレントが手を振ってこちらに合図を送る。


 そばには木製の馬車が停まってあった。



 私たちはレントの元へ駆け寄る。

 すると、馬車の御者席から声が聞こえる。


「彼女がお前の言っていた勇者信者か?」


 レントの爽やかな声とは対照的に少し荒々しさのある声が聞こえる。


 小柄で栗色のツンツンヘアーの男性が御者席から降りてくる。

 少しだぼっとしたひざ丈のズボンに、何かの獣の皮で作られたと思われる美しい白銀色のベストを着用し、隙間からは引き締まった腹筋を覗かせる。


「こりゃ、確かに容姿は勇者そのものだな。俺一人だったら間違いなく切りかかってる」


 いきなりの物騒な物言いにゾッとする。


「ともあれ、レントが鑑定(アナライズ)のスキルを持っててよかったな」


(スキル?ミューゼ様が言っていたレベルと何か関係あるのかな)


「俺の名はザック=バンデッド。年は17。気軽にザックって呼んでくれ」


 こちらの自己紹介をしようとしたとき、馬車の荷台からもう一人降りてくる。


「は、初めまして。エマ=アシュリーって言います。年は16です。」


 鈴虫の鳴き声のような透明で消え入りそうな声だ。

 胸にかかるほどの長くきれいな金髪をした彼女はぴっちりとした白い修道服に身を包んでいる。


「初めまして、私は……キョーカ。キョーカ=ハナザワって言います。年は18です。キョーカって呼んでください」


「これまた勇者っぽい名前だな。相当勇者にあこがれてるんだな」


 ザックが嘲笑とも関心ともとれる声色でヤジを入れる。


「そういえば自己紹介がまだだったな。俺はレント=クロスフォード。クロスフォード家の末裔でこの分隊のリーダーを務めている」


「よ、よろしくお願いします」


 よくわからないがおそらく身分が高いのだろう。

 反応に困っているとアメジアが間に割って入る。


「あなた同い年だったのね! 私はアメジア=バイオレット。レントと同じで貴族の生まれだけど、あんま気にしないでいいから。気軽にアメジアって呼んで♪」


 ギャルにあこがれていた同級生を思い出すようなテンションにちょっと懐かしさを覚える。


「あ、あいつも同い年だし普通にレントでいいから」


 アメジアがレントのほうを指さす。


「は、はい、分かりました」


「敬語禁止!」


 アメジアが食い気味に口を挟む。


「同い年なんだしタメで行こうよ♪」


「う、うん、わかった」


 初対面の人に敬語を使う質の私はたどたどしく返事を返す。


「おい、そろそろ出発するぞ。日が落ちる前に王都に入りたい」


 レントが全体に声をかけると荷台へと案内してくれる。


「おい、御者変わるって話どこ行った?」


 ザックが不機嫌そうにレントに問いかける。


「俺はさっきの騒動で働いたろ?お前がやってくれ。それに俺たちが森に入ったあと休んでたんだろ?」


 レントも不機嫌そうにまくしたてる。


「ああ、そうかよ」


 あきらめたようにザックは御者席へと移動する。


「それじゃ出発するぞ」


 ザックが手綱を引き馬が歩き始める。



 こうして私は4人とともに王都へ向かうことになった。

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