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03_森から響く悲鳴

 豊かな自然の中、四人を乗せた一台の馬車が轍をなぞっている。



「あと二時間ぐらいで王都に着くな」


 分隊のリーダーであるレント=クロスフォードが呼びかける。


「あー 長かったー」


 両足を伸ばし、バタバタと動かしながらアメジア=バイオレットが返答する。


「お、おいお前、少しは気にしろよ。スカート履いてんだからさ!」


 アメジアの向かいに座ていたレントが動揺しながら返答する。


「えーでも見たいんでしょ」


 スカートの裾を少し持ち上げながら声に艶を乗せて誘惑する。


「まったく、そういうところはエマを見習ってほしいもんだな」


 レントはアメジアの横に座っているエマ=アシュリーに目を向ける。


「ちょっとー こんな奴に何見習えってのよ」


 不貞腐れながらアメジアが声を上げる。

 一方、エマはうつむきながら黙っている。


「おーい、イチャイチャする体力あるんだったら御者変わってくれよ」


 御者席からザック=バンデッドが呼びかける。

 ザックは朝7時に出発して約5時間は御者を務めている。


「そうだな、居眠りでもされたら困るし次の休憩ポイントで変わってやるよ」


 はぁ……とため息をつきながらザックは進路へ目を向ける。


 その時


「ぎゃーーーーーーー」


 突如向かって左の森から女の叫び声が聞こえてきた。


 4人に緊張が走る。


「おい、ここメデューの森だろ、危険な魔物なんていないはずじゃ」


 ザックが虚空に問いかける。


「まさか超変異か!」


 レントが焦り気味に返答する。


「とりあえず、俺とアメジアで様子を見てくる。

 ザックはすぐに馬を出せるように準備しておいてくれ!」


「ああ、分かった」


 ザックが返答すると同時に装備を整えた二人は森の中に消えていった。



「まったく、なんで陽動役の俺を追い置ていくかな」


 ザックが不満を吐露する。


「仕方ないよ、今は彼がリーダーなんだから」


 エマが宥めるように声をかける。


「まぁ、我慢するしかないよなー」


 天を仰ぎながら発した声もまた森の中へと消えていった。



 一方レントとアメジアは森の中を駆けていた。


「アメジア、とりあえずの目標は悲鳴の主の救助だ。

 もし、強力な魔物がいた場合はすぐに戦線を離脱する

 場合によっては見殺しにすることも選択肢に入れる。いいな」


「ええ、分かってるわよ」


 2人は森の奥から断続的に響いてくる悲鳴をたどって進んでいく。

 そして、森の最奥、切り立った山肌が見えたところで悲鳴が止んだ。


「おかしいな……」


 レントは疑問を感じていた。

 もし、魔物に殺されたのであれば死の瞬間こそ断末魔を上げるはず。

 それがなかったということは……


「叫ぶ間もなく殺られたか」


 強力な魔物がいないメデューの森だからと軽く考えていたが、

 気を引き締める必要がありそうだ。



 そして数十秒走った先でついに魔物の正体を確認する。


「なんだ、あれは!?」


 眼前に広がるのはまさに黒い絨毯。

 無数の巨虫が一人の少女を囲み蠢いている。


「スライムサッカーね。あんな数見たことないけど」


「念のため《鑑定(アナライズ)》を使う」


 レントの左の瞳が青白く発光する。


 レントのもつスキル《鑑定(アナライズ)》ができることは。

『自分よりレベルが低いもののレベルを確認する』

 だけであるが逃げるか否かの判断には非常に有効である。


 レントの瞳が元に戻っていく。


「ひとまずスライムサッカーは最大でもレベル7ぐらいだ。安心していい」


 それを聞いてアメジアが安堵する。


「ただ、あの少女レベル20もあるぞ」


「なんですって!?」


 レントとアメジアのレベルはどちらも30である。

これは度重なる訓練と戦闘経験を積んできたからであり、

通常同年代のレベルは高くても10ほどのはずだ。


「じゃあ、なんであんなに怖がってるのよあの子」


「俺もわかんねーよ」


 そもそも無害な魔物であることに加え、

強者であるはずの少女が怖がっている様子はとても奇妙だった。


「とりあえず回り込んで間に入り込むぞ」


「おっけー」


 緊張感から解放された二人は軽やかに移動を開始する。


 走る勢いをそのままに山肌を駆けあがると、

 弧を描くようにしてスライムサッカーの群を飛び越し、少女の前に着地する。


「おい、大丈夫か?」


「え?」


 顔面蒼白の少女がこちらを見上げる。


「もう大丈夫だ、安心してくれ」



 暗い森に日が差し込んだ。

魔物紹介

*スライムサッカー

スライムサッカーは蚊が魔素を吸収し変異した魔物である。

主食はスライムで、繁殖の時期になるとスライムの核を捕食し養分をためる習性がある。

蚊だったころの習性が残っており人間などの恒温動物を発見すると追いかけるが、

特に攻撃するわけではない。


つまり、スライムサッカーは見た目が気持ち悪いだけで人間に害はない。


追いかけられたときは、しばらく動かずに興味をなくすのを待つか、

水に飛び込み体温を下げる、大きな音を立てて追い払うなどが有効である。



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