01_勇者を駆逐してほしいのです
はじめまして。
数ある作品のなか足を運んで下さりありがとうございます。
毎日21時18分に1~3話投稿できるように頑張ってまいります。
よろしくお願いします。
どこここ……
妙に思い瞼をゆっくり開けると真っ白な景色、そして目の前に誰かがいる。
しばらく見つめていると、徐々に目が慣れて目の前の存在にピントがあう。
「きれい……」
無意識にそう呟くほどに美しく尊い存在がそこに座っていた。
肩にかからない長さにそろえられた白銀の髪に白磁期のような真っ白な肌。
そこにルビーのような深紅の瞳。
そして、片側だけでも優に5mを超えるであろう純白の大翼
見つめているだけで不思議と安心感と温かさを感じる
「夢なの・・」
そうつぶやくと同時に目の前の存在が口を開く
「初めまして花沢匡佳様」
そよ風に撫でられるような心地よさを感じるほど美しい声色だ。
「私は大天使ミューゼ。死後の魂を導く存在です」
(死後? っていうことは、やっぱり私……殺されたんだ……)
「あなたにお願いがありここにお呼びしました」
「あなたに異世界へ転生していただきたいのです」
突飛のない話に私は混乱する。
「異世界に転生ですか?」
「はい、魔王が支配する世界へ勇者として転生していただき、
圧倒的な力と聖剣を以て世界を平和へと導いてほしいのです」
混乱する頭を整理しながら私は質問する。
「もしそのお願いを断った場合、どうなりますか?」
「あなたの記憶はすべて消去され、
地球人として新たな人生を歩んでいただきます。
異世界の件は、ほかにも勇者候補の方はいらっしゃいますのでご安心ください」
「そうですか」
一時の静寂の後私は口を開く。
「……嫌です」
少し顔を引きつらせた天使に向かって私は叫ぶ。
「絶対に嫌です!!」
怒号にも似た大声が白い空間を駆けていく。
「ただ与えられた力で……努力せず手に入れた力で……
そんなもので生きていく人生を、私は肯定できない!!」
まっすぐと深紅の瞳を見つめながら信念をぶつける。
数秒の沈黙の後、今まで無表情だったミューゼが口角を上げる。
「合格です」
「え?」
「試すようなことをして申し訳ありません」
困惑する私を尻目にミューゼは続ける。
「先ほどの転生の件は、これから話すことを聞くに値する人間かを確認する
最終試験でした」
バサッと大翼がはためく。
「それでは、本題に入らせていただきます」
ミューゼの深紅の瞳が一層紅く揺らめく。
「与えられた力におぼれ、邪知暴虐の限りを尽くしている勇者どもを
一人残らず駆逐していただきたいのです」
ミューゼから発される怒りの覇気に背筋が凍り付くのを感じた。
「勇者を駆逐……ですか?」
「はい、勇者といえば聞こえはいいですが、その実態は魔王領の土地と資源を
欲した現地の人間たちが魔王領に侵略するために召喚した災厄です」
「そんな勇者を駆逐するために、転生していただきたいのです」
突如右前方にスクリーンのようなものが現れる。
「それでは、勇者と現状について軽くご説明します」
スクリーンに映像が浮かび上がる。
「本来の勇者は誠実さと真面目さを持ち、努力と研鑽を怠らないものを
選別し召喚され、魔王側と人間側の和平の象徴として君臨するものでした。
しかし、そのような勇者では魔王領の侵略に手を貸してくれない。
そこで目を付けたのが”穢れた魂”でした。
怠慢が招いた無力から卑屈になり、それでも力だけは欲しいと願うもの。
ただただ快楽と愉悦のために人を嬲るもの。
そういった魂を厳選し強力な力を与え勇者として招いたのです。
狙い通り、勇者は力にのまれ、欲のままにふるまいました。
その結果、勇者の名を冠した災厄は、瞬く間に魔王軍を壊滅させ、
土地と資源を占領し、エルフや獣人といった魔王の庇護下にあった種族は
人間の奴隷として尊厳を踏みにじられ、現在も悲惨な目に合い続けています」
耳から入ったおとぎ話は、
目から入った情報によって現実であると理解させられる。
目をつむり深呼吸をして、感情と情報を整理する。
「転生したとして、私なんかが勇者に勝てるのですか?」
「この世界は、努力次第ですべてを覆すことができます
剣術でも魔法でも、そのすべては努力により取得が可能です」
「努力があなたを裏切ることはありませんし、
どんな理不尽も打ち砕くことが可能です」
素敵な世界だな
先ほどの惨状を目にしてもそう思ってしまう程に、
私の人生は、努力が理不尽に否定されてきた。
最後の最期まで。
きっとこの世界でも私と同じような苦しみを味わっている人々がいるのだろう。
必死に積み上げてきた努力を、勇者という理不尽に否定された人々が。
そんな理不尽を努力で否定できるなら、私はどこまででも努力して見せる。
心を決める。
「転生したいです!」
力強くミューゼの深紅の瞳へ訴えかける。
「迷いは……ないようですね」
ミューゼが立ち上がる。
「突飛なお願いに快諾いただき感謝いたします」
申し訳なさそうな顔でお辞儀をする。
「それでは転生の儀を行います」
ミューゼと私の間に巨大な魔方陣が浮かび上がる。
「魔方陣の中心に立ってください」
指示通り歩を進める。
魔方陣の中央にたどり着くとミューゼから転生についての説明が始まる。
「あなたには、そのままの容姿かつ、
今までの記憶を保持したまま転生していただきます。
私から特別な力を与えることはありません。
もし、最初からレベルが上がっているのであれば、
それはあなたが地球で行ってきた努力の賜物です。
転生者には転生紋と呼ばれる紋章が体に刻まれます。
これは、転生後の世界に魂を繋ぎとめておくために必要なもので、
我々天使によって召喚されたものは八芒星。
人によって召喚されたものには五芒星が刻まれます。
そして、重要な点が二つあります。
一つ、紋章を破壊された場合、魂を繋ぎとめておけなくなるため、
肉体は残りますが実質死亡状態になります。
二つ、八芒星が五芒星を破壊することはできますが、その逆は不可能です。
故に、勇者たちは八芒星を恐れています。
ただ、注意点として、
紋章が破壊できないだけで五芒星が八芒星の命を奪うことは可能です。
実際、何人もの八芒星の転生者たちが五芒星に殺されています。
もし、八芒星の転生者が生き残っているのであれば、
彼らにも事情を説明して協力を仰いでみてください。
紋章を見せれば話を聞いてくれるはずです。
通例では力の象徴として目立つ位置に刻むケースが多いのですが、
あなたの場合それでは勇者をむやみに引き寄せてしまう恐れがあります。
そのため、普段は見えず見せようと思えば見せれる場所に付けておきます。
現地でご確認ください」
説明の終了とともに魔方陣が回転を始める。
「これから先、辛く厳しい戦いが待ち受けていると思います。
ただ、最後にはきっと意味があったと思えるはずです。
その時まで、どうかご自身の信じた道を突き進んでください」
魔方陣が強く発光する。
「ご武運を祈ります」
視界が完全に真っ白になった。
ここから、真の勇者キョーカの苦難を極める旅が始まる。
最後まで読んでいただきありがとうございます。
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