12.レスリー・コクラン 唯一の勝者
その頃のスコットランドヤードの例の部屋。予定を大幅に遅れて帰着したレスリー・コクランは、整然としたデスクを前に佇んでいた。
自分のデスクがこんなに片付いていたはずはない。誰かの手が加わっている。誰かと言うのなら同室のフレディである可能性が高い。彼がここに目を向ける理由はなんだ?
――とそこで加わっていたアイテムに気付き、畳まれたそれを開いて開いて、また開く。
にや。口元が緩んだ。
「チャーリー」
巡査を手で呼び、部屋に引き込む。親しげに肩に腕を回し、非常に陽気にうきうきと、
「今後、ミス・シモンズの対応はフレディも可になったから。いやむしろ、彼を前面に押し出してよろしいようだ。今後ね、ぜひその方向で」
言いながらも実は彼は、メアリーの持ってくる任務に真剣に腹を立てたことはなかった。表すなら、空しさ。なぜ自分がこのような羽目に陥ってしまっているのかという情けなさ。それがたいていの場合である。
「嵌ったな、フレディ。だから気をつけろと言ったのに」
嘆いているような言葉ながらも、顔の方が正直だった。レスリー、満面の笑みにて事態を歓迎。これで情けなさも半減というもの。あれほどの男も嵌るのだから、自分だって嵌って良いのだ。
つまりあの娘の手による螺旋の罠に、巻かれず済む者はいないのだ。
出かけて行った事件は片付き、今後を思えば平和な午後だ。窓の向こうの青空も、祝福に輝いているよーに見える。きらきらと。珍しいほど晴れやかに。
ブルーの瞳にブルーが映る。レスリーは先頃フレディが眠っていたあのイスに収まると、気分よろしく屋根のはるかを見透した。
平和。これに勝るものはない。




