第8話 はぁ?旦那様が帰還される?もうあの方のお部屋はありませんが大丈夫でしょうか?
「ユフィ、戻ったぞ!」
「えっ???」
ある日突然戻ってきました。
え?誰がですかって?旦那様です。
絵にかいたようなこどおじの旦那様が私の予想に反して戻ってきました。
魔王を倒すと言って出かけて行って30年が経ち、私は旦那様との間に生まれた唯一の子であるアーリヴェルトに爵位を譲って別荘でのんびりしていたら突然現れたのです。
なんども言いますが、あなたは魔王を追って魔道具を使って旅だったのに、別荘にいる私の前に現れたらまるで私が魔王のようではありませんか。
まぁいいです。
彼もだいぶ年を取ったようですが、凛々しいまま。
豚には戻っていないのでよしとしましょう。
私はイスから立ち上がって彼を迎えてあげました。
「ユフィ……老けたな……うぐぅっ」
そして思いっきり鳩尾に拳を叩きつけました。
女性になんていう言葉を放つのでしょう、このバカは。
しばらく彼が蹲っている間、私は再びイスに座りなおして紅茶を頂きました。
そしてダメージから復活したようだったので、イスを勧め、紅茶を出して差し上げました。
「ありがとう」
彼はまだ鳩尾をさすりながらも座りました。
「もう魔王は倒したのですか?」
私は聞きます。それ以外に話題はないですしね。
「あぁ。合計で200人ほどは倒したな。でも、これ以上は少々年齢的に辛くなってきてな。後進に譲って引退したのだ」
彼はどのような修羅の道を生きてきたのでしょうか……。
魔王討伐200体とか、常人の領域ではありませんね。
「そうでしたか。私の方も無事、息子に伯爵位を譲りましたので、お互い引退した身ということですわね」
「子供?子供ができたのか。おめでとう……というか、すまない。私はここを放り出して行ってしまったから。それで誰と再婚したのだ?兄上か?」
まさか私が公爵様に憧れを持っていたことに気付いていたのでしょうか……彼は自由奔放で癇癪持ちで勝手な人でしたが、なぜかそういうところは鋭いのですね。
笑ってしまいます。
「どうしたのだ。まさか本当に?」
なにか焦り始めました。どうしたのでしょうか?よくわからないので私は本当のことを告げます。
「公爵様ではありませんわ。子供はあなたとの子供です」
「はっ?」
なぜか固まりました。どうしたのでしょうか。目の前で手を振っても固まったまま。ちょっとした悪戯で髭を引っ張ってみても固まっています。
「俺に子供だと?」
動揺のせいか、また一人称が揺れていますね。
「そうです。神殿長になると言い出されたときか、勇者になって一度戻ってこられたときか、どちらかだと思うのですが……」
あの2度以外だと計算が合わないのですが、思い当たる節がない……よりもよっぽどいいですわね。
生まれてきた子供は旦那様にそっくりな男の子でしたから。
「それ以降、もしかして再婚などはしていないのか?」
「えぇ、しておりませんわ」
なぜか額に手を置いた彼の呟きにしっかり答えてあげました。
「もしかして離婚もしていない?」
「えぇ、しておりませんわ」
また返します。なんか可笑しくなってきましたわ。
「なぜ?」
「あなたが私の旦那様だからですわ」
「キミはなにか被虐的な嗜好でもあるのか?」
「あはははは。失礼なことを仰いますね」
本当に面白い人です。私が旦那様を好きだなんてこれっぽっちも思っていないのでしょうね。
「ではなぜ?」
「あなたが好きだからですわ」
「は?」
また止まってしまいました。
私はなにか特別な魔法でも突然覚えたのでしょうか?フリーズ!……みたいな。
「あの、その……俺は……」
「落ち着いてください。焦らなくてもいいじゃないですか。お互い引退した身であれば、時間はたっぷりありますもの」
「そうか……そうだな……そうなのか?」
なぜそこで疑問なのでしょうか。
私はとりあえず旦那様をお風呂に押し込めて執事たちに料理を用意させ、旦那様と久しぶりの晩餐をしました。
彼が語ってくれる話は私にとっては文字通り異世界の出来事で、とても面白おかしいものでした。
あなたは何人の魔王(女)を抱いてきたのですか。
そこまでいくと人外の領域に思えますが、目の前で子供のように語る旦那様を見ると不思議とほんわりとした気分になりました。
「キミが……いや、本当に申し訳ない。俺は嫌われていると思っていたのだ……その、ずっと」
「えぇ、嫌いでしたわ。豚でしたもの」
「ぐぅっ……」
もう隠し立てすることは何もありませんし、隠す意味もありませんから全てを語りますわ。
「でも、どこか憎めなかったのですわ。それどころかやり取りは楽しかったのです。あなたが誰を抱こうがこれっぽっちも嫉妬の気持ちは浮かばないのに、魔王を倒すと言って出て行ってからはずっと心配しておりました。無事であればいいと、そう思っていたのです」
「ユフィ……」
こうして伝えられるのですから、良かったのですわ。
「私の気分はきっとずっと子供の頃のままだったのです。一緒に別荘の庭を駆けまわった子供のね。だから、夫婦というか、異性としてはあまり見ておりませんでした。でも、ずっと友達だと、親友だという感覚でした」
「そうだったのか。だから思い返せば酷いことばかりしていた僕を追い出さなかったのか……」
ようやく一人称が昔に戻りましたね。
顔からもなにかつきものが落ちたかのように自然な表情になりました。
「また、一緒にいてもいいだろうか?」
「もちろんですわ」
そう言い合って、私たちは一緒に寝ました。
出してしまった小説や、許可した劇についてどう言い訳しようかと考えながら……。
まぁ、驚く彼の姿が目に浮かんで楽しくなってしまったのですが。
これからは一緒の部屋ですわね。
読んでいただきありがとうございます!完結までお付き合いいただきましてありがとうございます!
ブックマークや星評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)を頂けるとより多くの方に見てもらえる可能性が高まりますので、どうか応援いただけたらありがたいです。よろしくお願いいたします!