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第7話 はぁ?旦那様が勇者様?この世界には魔王はいませんが別の世界に行って大丈夫でしょうか?

「うわっ、なんでお風呂???」

それはこっちが聞きたいのですが。

裸を覗かれたので思いっきりビンタしてしまいましたが、それは気にせず戸惑っていらっしゃいます。


「どちらへ行かれていたのですか?こちらでは旦那様が消えたと騒ぎになっていました」

「そうだったのか。すまない。次元の歪みとやらに飲み込まれて別の世界に行っていたのだ」

私は耳を疑いました。



『すまない』ですって?

この横暴で自分勝手で自由な旦那様の口から『すまない』なんて言葉が飛び出してきたことに衝撃を受けました。そして、そのような言葉が旦那様の頭の中にあったことにも……。


「驚くよな。だけど本当なんだ。その世界で俺は……」

また一人称が変わっています。

この方は本当に周りの影響を受けやすい方ですわね。


そして聞いたところによると、旦那様は異世界に行くときになにか特別な能力を授かったようで、それを使って異世界を冒険し、ついには魔王を倒したとのことです。


え~と、幼児の夢のようなお話ですが、なにか雰囲気が変わられたこの方を見る限り本当のようですわね。

そもそも豚ではなくなっています。


むぅ……。

なぜちょっと素敵なのでしょうか。



「そして、俺には使命がある。他にも存在している魔王を倒さないといけないんだ」

なんと他の魔王たちも軒並み一網打尽にするために再び次元の歪みに飛び込んだところ、我が家のお風呂に行きつき、ぼっちゃんしたと。


それではまるで私が魔王のようではありませんか。

ふふふ、よくぞ気付いたな豚よ。

いいだろう。貴様を我が魔力で木っ端みじんにしてくれるわ!


などという遊びをすることもなく、とりあえず旦那様を乾かして服を着せてベッドに放り込みました。

3回くらい対戦したのは内緒です。



そして翌朝……



「俺は行く。すまないなユフィ。達者で」

「旦那様……」

「そんな顔をしないでくれ。思えば僕は良い旦那ではなかっただろう。私のことは忘れて……そうだな、死んだことにでもして、幸せになってくれ」

もう一人称が大混乱していますが大丈夫でしょうか?


かなり面白い状況ですが、どうやら魔王を求めて別世界に旅立つと言っているようです。

そんなことができるのかと不思議な気分で尋ねましたが、なんと神様から次元の歪を生み出して転移する魔道具を授かっているとのこと。


その魔道具大丈夫ですか?

私の前に飛んできましたよ?



しかし彼はなぜか自信満々です。


「神の慈悲で、キミと別れの時を過ごすようにしてくださったのだろう。もう心残りはない。最愛の人よ。達者でな」

そう言って行ってしまいました。

悔しいけどちょっとドキドキしたので、記憶の中の彼をぶん殴っておきます。

あと完全に忘れていたようなのですが、お風呂の中に剣を忘れていましたよ?

 


 

それで、神様は私に何を求めているのでしょうか?

私ははっきり言ってたぶん旦那様のことは割と好きですが……。


きっとひょっこり帰ってくる気がしますので、そのままここで暮らしていましょう。

楽しいお話を持って、楽しい状況で帰ってくるでしょう。

帰ってこなくても子孫たちにお話として残してあげましょう。



こうして我がクルスローデン伯爵家では、次元の歪に消えた女伯爵の夫の話が伝説として残ることになりました。


あの剣は宮廷魔術師のグラフェルド様曰く相当な神力が込められた一品だったようです。

神殿が譲ってほしいと言ってきましたが、忘れものなので取りに戻るかもしれないからとお断りしました。

こんな時にまで意図せずに完璧な言い訳を用意してくれるなんて、あの方はやはり何か持っているのかもしれませんね。


今ではマクシミリアン侯爵家の不正を暴いたお話、自由奔放に浮気ばっかりしているお話、彼が語った異世界でのまるで幼児の夢を体現したような活躍の話は勇者エメルドの大冒険という名前で本になって増刷に次ぐ増刷を繰り返す超人気作品になりました。


基本的には彼のことをバカにしつつ、面白おかしく描かれた様子に加えて、根底のところで愛を感じる作品として好評を得ました。

著者は私なので、そんな風に言われると恥ずかしくて仕方がありませんが、なんと劇にするということで鑑賞のお誘いを頂いたので、それは断りました。



しかし、なぜか少し落ち込んだ雰囲気で公爵様が鑑賞券を持ってこられましたので仕方なく観たのですがなかなか面白かったです。

次元の歪に飛び込む彼(役の俳優)に、私(役の女優)が抱き着いて涙ながらに行かないでと叫ぶシーンだけは全否定したいですが。


わかってないですね。


私はなんというか彼の男としての何かではなく、人間としての何かに惹かれたのです。

夫婦ではなく、たぶん友人だったのでしょう。



きっと彼はどこかで楽しくやっています。

そんな彼がどんな話を聞かせてくれるのかとここで真面目に働きながら待っている自分という構図を考えるだけで楽しいのですから。


公爵様には申し訳ないですが、離婚もせず、お腹の子供をしっかり育てていきますわ。


読んでいただきありがとうございます!

ブックマークや星評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)を頂けるとより多くの方に見てもらえる可能性が高まりますので、どうか応援いただけたらありがたいです。よろしくお願いいたします!

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