第4話 はぁ?文官になる?計算もできないのにミスったら懲罰を受けますが大丈夫でしょうか?
「おいユフィ!僕は文官になるからこの部署に配属されるように紹介状を書け!」
「はぁ?」
えぇと、この方は前回騎士になると言って訓練するために別荘に向かったのに道中で骨折して帰ってきたので、武官は諦めて文官を目指す、ということでしょうか?
いや、部署まで指定していることから、気に入った相手でもいるのでしょうか?
相変わらず自分を顧みない浮気性で困ってしまいますね。
それに応えてしまう方がいらっしゃるというのも問題なのですが、どうせ我がクルスローデン伯爵家の名前を出し、実家であるアーゼンベルク公爵家の名前を出して気を引いたのでしょう。
もしくは利用されているのでしょう。
困りましたわね。
実を言うと、現在我がクルスローデン伯爵家としては旦那様が指定してきた部署に手駒を配置したいと考えているところでした。
そこは貴族の税務を行う部署です。
誤解しないでくださいね。
わが家が脱税とか、違法なことをしているわけではなく、むしろ逆です。
親しくしている侯爵家からの頼みで脱税の可能性がある家の調査を依頼されているのです。
ここは思い切って旦那様に行ってもらいましょうか。
「思い切りすぎではないでしょうか?」
そう言いましても執事長。他に行かせるものがいないのですから仕方ありません。
税務は国の大事なのですから、それを取り仕切る部署には高位貴族の縁者がたくさんいらっしゃいます。そんな中に平民をいれるわけにはいきません。
女伯爵の夫であり、公爵の子である旦那様は、そこに放り込んで全く問題ないという稀有な人材なのです。
ちょっと頭が弱くて、浮気性で、計算はできませんし、思考力もかなり偏っているというデメリットがありますが、侵入だけはできます。
「デメリットが多すぎると言っております」
わかっています。でも他に手段がないのです。
なら行かせてミスさせてあぶり出すという手段しかありませんわ。
「見つけたぞ!」
「エラルド様?なにをされていらっしゃるのですか?」
執務室でみながもくもくと作業している中、突然叫んだエラルドに注目が集まります。
彼は何やら1束の書類を持ち上げて勝ち誇っているのです。
そんな彼に彼が懸想している同僚の女性が声を掛けました。
「よくぞ聞いてくれたラフェリア。聞いてくれ。私は脱税行為を見つけたのだ!」
「えぇ?」
声をかけた女性もその返答に唖然としてしまいます。
なぜなら彼が持っている書類は彼の家……つまりクルスローデン家の税金を計算した書類なのですから。
執務室内も唖然とします。
普通、どこかの家から送られてきたものが探すのは他家の不正です。
なのにこのバカは自分の家の不正を見つけたと言って興奮して紅潮し、叫んでいるのです。
「それで、どういった不正を見つけられたのですか?」
笑い声をあげたら自分が怒られる。笑った表情を出してもまずいと一生懸命自分を律した女性はなんとかエラルドに質問しました。
「これですよ、ラフェリア。こっちはマクシミリアン侯爵家の提出された書類です」
バカを見る目で弛緩した空気に染まっていた執務室の雰囲気が一斉に変わります。
なにを隠そう、この場にいるのはバカが手に取ったマクシミリアン侯爵家の不正を見つけるために政敵のラヴェロア侯爵家が送り込んだ人材と、マクシミリアン侯爵家陣営が不正を隠すために送り込んだ人材とがひしめき合っていたのですから。
ちなみにクルスローデン家はラヴェロア侯爵家陣営です。
当然、陣営を無視してナンパするバカ……いや、エラルドは完全に浮いていましたが、まさかあのバカが突然核心に迫ってきたのではないか?という懸念が執務室に漂います。
「マクシミリアン侯爵家ともなればしっかりと税務に関しては整理されて税金を計算されているであろうに、クルスローデン家の書類はここもここもこっちも違うのです。そしてこれを正して合計すると、なんと10万ギルも多く納税しなければならないのです。あぁ大臣!ちょうどいいところに。これが不正の証拠です!」
誇らしげにバカが計算結果を読み上げ、書類を掲げています。
繰り返しますが、このバカの家が提出した書類をです。
そして偶然通りがかった財務大臣にも見せつけます。
これを聞いていた執務室の人間の半分は興奮し、半分は真っ青になりました。
「えぇと、エラルド君だったな。よくやってくれた……と言っていいのだろうか」
そして財務大臣がエラルドに声を掛けます。
「これは大臣。ありがとうございます。しかし気にしないでください。たとえ自家といえども不正は正さなければなりません」
そして声を掛けられたエラルドは得意げに、そして少し自嘲した様子で語りますが……
「いや、クルスローデン家の計算は一切間違っていない」
「は?」
そもそも彼は計算を間違っていた。普通の文官なら絶対に間違えない足し算を……。
きっと掛け算や割り算は間違えないように紙に書いてやったのに、足し算はできると踏んで暗算したのが間違いだったのでしょう。
最後に各項目の税金を合算するときにやらかしていた。
そしてそれをこっそりとラヴェロア侯爵家陣営の文官が彼に教えてやって、彼は真っ青になった。
なぜなら彼はこれによってどうでもいい自分の家の不正を見つけ、同時に懸想しているラフィアが守ろうとしているマクシミリアン侯爵家の書類が問題ないと宣言してしまおうとしていたのだから。
失敗した、と思って青くなった。
が、彼の失敗はそれではなかった。
「まず君が指摘してくれたこことここ。これはクルスローデン家の計算が正しく、マクシミリアン侯爵家の計算がおかしい。本来、侯爵家であり資源を算出しているマクシミリアン侯爵家では税金の割合はこっちを使うべきだし、計算式も変えるべきだった。にもかかわらず、税額が安くなる割合と計算式を使っていること自体に問題がある。これをなぜ今まで放置してきたのか、文官の選択に間違いがあったと言えるだろう」
マクシミリアン侯爵家の陣営のものは青い顔になって震えています。
毎年さっさと合格のハンコを押して処理を終えてしまい、細かい計算式など公開していなかったのだ。
なのに今年はバカが自分の家の計算が間違っている根拠に合格印を押されているマクシミリアン侯爵家の書類が正しいものと勘違いして証拠に出してしまったのだ。
当然ラフェリアは職務を外されてしまい、エラルドの目論見は泡となって消えていきました。
この話を財務大臣ご本人から感謝と共に笑いながら聞かされた私はどういう顔をしていいかわからず混乱してしまい、財務大臣に笑われてしまうという失態を犯してしまいました。
エラルド許すまじ……。
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