第3話 はぁ?騎士を目指す?そんなことをしたらゴミのように扱われますが大丈夫でしょうか?
「もう我慢できない!僕は騎士になるぞ!止めるなよユフィ!」
「はぁ……」
今朝も朝からどうしたのでしょうかこの豚は。
まぁ旦那様はとても直接的な思考をされますので、前回騎士に脅かされてひっくり返ったことを反省して自らを鍛えようと考えたのでしょうね……。
今のは美化しすぎでしょうか。きっと脅かしてきた騎士を逆恨みして、騎士になって見返してやる、またはやり返してやると考えたのでしょうが、その筋肉皆無の子ブタちゃんのような体形でよくそのようなことが言えたものだと驚きを通り越して軽蔑しそうです。
そろそろ避暑地にでも行ってもらいましょうか。
本格的な社交シーズンが始まる前まで……。
えっ?そんな嫌ですわ。社交シーズンにこの豚がいたら、国中に笑いを提供する愉快なお家に認定されてしまうではありませんか。
あえて笑いを提供すると宣言してやってみるのも面白いかもしれませんが、必ず悪用する家が出ますので私が公爵様から怒られてしまいますわ。
あの豚は一言目にはこのクルスローデン伯爵家の名前を出し、二言目には実家であるアーゼンベルク公爵家の名前を出すでしょうから、一緒に笑いものですわ。
もし公爵がこちらを裏切ったりしたら足を掴んで共に地獄へ行きましょうね。
でも、今は良好な関係ですし、領地経営も順調ですし、なにより新たに作った特産品を献上したおかげで王家の覚えも目出度いのですから、そのような壮大な自爆策を繰り出す必要はないのです。
でも、社交シーズン前までならありですわね。
「旦那様。それは良いお考えです。貴族たるもの、体を鍛えておくのも仕事の一つですわ。ここはひとつ、避暑地にある別荘を再来月までお貸しするので、行ってらっしゃいませ。前に旅がしたいと言われていましたが、旅をするいい機会にもなりますわ」
「おぉ、わかってくれたかユフィ!持つべきものは良い妻だな」
きっと『しめしめ。この女ちょろいな。まぁ僕に惚れているようだし当然だな』なんて思ってそうな顔ですが、私としても誰からの文句もなく幽閉できますし、最高ですわ。
訓練役の騎士として申し訳ないですが第12部隊をつけておきましょう。
この前の盗賊団殲滅のご褒美に避暑地で休暇を取ってこいと言えば喜ぶでしょう。
豚のお世話だけは押し付けますが、せいぜい鍛えてあげてください。
「よかったのですか?」
旦那様を入れた豚小屋を引っ張っていく第12部隊を見送ってから執事長が尋ねてきました。
「よかったもなにも、最高ですわ。あとは第12部隊が旦那様を殺さないようにだけ注意が必要ですが」
「はぁ。なにやら馬車の中で喚かれていたようですが」
「えっ?私には何も聞こえませんでしたが……」
噓ですわ。旦那様もさすがに気付かれたようです。
それはそうですわね。筋骨隆々の第12軍に囲まれての行軍に浮気相手を同行させられるわけはありませんわ。
「もし帰ってきたときに旦那様が豚ではなくなっていたら第12部隊には褒賞を渡さないといけませんわね」
「訓練開始早々に骨折でもして2か月の間部屋に引きこもって耐えている、に賭けたいと思います」
真面目に答えたのに笑わせに来ないでほしいのですわ。
おもわず顔を隠してしまいました。
「では私は、行軍中に体を壊したと言って1日も訓練など行わずに部屋で引きこもったところ、第12軍も引っ張り出すために食事は届けず。それで旦那様はげっそりして気を失って介抱されて、そのまま医務室に引きこもるも治癒術師の女性に手を出そうとして張り手を喰らってのびて……あとは怒り散らしている間に、屋敷の人間から連れ戻してくれという嘆願が来て、仕方なくこの家に戻ってくる、に賭けますわ」
「……」
やりましたわ。執事長を笑わせることに成功しました。
何をやってるんだって……現実逃避ですわ。
さて、どこまでの醜態を披露してくださるでしょうか。
私の望みは頑張って訓練して少しは筋肉をつけて社交界にでられる体になっていることです。
もっと言えば、訓練で精神も鍛えられていれば今までのことは全て許して夜会に連れ出しますわ。
なにせ幼い頃は顔だけは良かったのですから。
ないですわね。
こんな夢のような話。現実には起こらないからこそ夢なのですから。
それでも期待してしまう乙女が私の心の中にもいることに驚きますが、当然ながらそんなことは起こりませんでした。
翌日、馬車の中で暴れた旦那様が本当に骨折して帰ってきたのですから。
読んでいただきありがとうございます!
ブックマークや星評価(☆☆☆☆☆→★★★★★)を頂けるとより多くの方に見てもらえる可能性が高まりますので、どうか応援いただけたらありがたいです。よろしくお願いいたします!






