[大幅改変中] 王都までの道のり 1歩目
<ユニオン・ファンタジア>の世界では1年が12ヶ月、1ヶ月が35日で四季の概念もある。時間は地球と同じだが、ここでは1年が420日と随分長い。
ゲームのストーリーが始まる学園への入学日は4月1日で、今日は3月20日。学園のある王都に向かって出発する日であり、俺が初めて村から出る日でもある。
あれっなんで外に出てないの?って疑問に思うかもしれないが、考えてもみろ、この村は魔王もビビる裏ダンジョンの前にあるんだぞ? 俺のレベルじゃそこら辺にいる雑魚敵にすら勝てねえよ。
出遅れちまうがそれは仕方ない。大都市の周辺まで行けば出てくる魔物も弱くなるから、王都へと向かう旅の途中でレベル上げが出来るだろう。
頑張って遅れを取り戻すぞ、とすぐにでも王都に行きたい欲求が溢れて今日はかなりの早起きをしてしまった。でも、まあ結局、俺が準備する事はほとんど無かったので7時頃になるまで素振りで時間を潰す事になった。
「そろそろ行く時間だね」
父さんから声が掛かる。
「ううっ、ぐすっ。クロウちゃん、もう行っちゃうの?」
「あははっ、あまり引き止めちゃダメじゃ無いか。ちゃんと見送ってあげないと」
「……うん、そうする」
半泣きになっている母さんと微笑みを崩さない父さん。正反対な性格ではあるがいつも仲睦まじい。
それにお互いを支え合っており、母さんはかなり心配性で俺の行動に何かと大袈裟に反応してくるのだが最終的には父さんが毎回落ち着かせてくれた。
そんな事が頻繁に起こるから大変だったけど、俺を心から心配してるのが分かってたし、その温もりを感じたからこそ体中に流れる恐怖に打ち勝てたところもある。
色々とすごく感謝してるし、それに……まあ騒がしかったけど案外楽しかったよ。
不義理にはなるが、学園に入学したら一度も帰省せずに卒業してからそのまま魔王討伐を目的とした旅を始めるつもりだ。
怪しい風が吹き、どんよりとした雲が太陽を遮るようにして空が灰色に染まる。いつもの日常が遠い過去へと流れていく事を想像すると、寂しい気持ちが湧き出す。
一方で、この家族と共に過ごす事に違和感を感じていたんだ。俺はここに居るべきでは無いのかもしれないという、本来有るべき形からズレてしまっているような違和感。
この村帰る前には一度自分を見つめ直す必要がありそうだ。
「出発の挨拶はもう十分だろ? 別に一生の別れというわけでは無いんだから気楽にした方がいい」
「そうですね、ありがとうございます」
馬と馬車の手入れを済ませて話しかけて来たのは、父さんの弟であるケッジ叔父さん。商人としてこのシシガミ村とシロモリの町(最寄りの町)を繋ぐ重要な役割を担っている。
叔父さんも父さん寄りの性格なので、別れの挨拶も長引かせない派だ。それに町に着くまでに2回ほど野宿する必要があるため、早めに村を出た方が良いという経験則も有るのだろう。
名残惜しさを感じながら、最後の挨拶をしようと両親の前に立つ。母さんは泣き止んでおり、2人ともしっかりとした目つきでこちらと目を合わせる。
「最後に私達からこの腕輪を渡しておくわ」
そう言いながら渡して来たのは少し錆びついて輝きが薄れた銀色の腕輪。細長い棒1本が2回転して二重の輪になった形をしている。
「この腕輪はうちに代々伝わる宝具の一種で、僕たちのご先祖様がこの村の守りを任された時に貰った物なんだ。家には旅する我が子にこれを渡して無事に帰ってくるよう祈るという風習があるんだ」
「そっか。……なら無事に帰って来ないとね」
家族との関係について悩んでいた、自分という存在に向けられた愛を受けて心が少し晴れたような気がした。
後のことは後に考えれば良い。まずは家族との長い別れに向き合うべきだ。腕輪から視線を外し顔を上げると二人の笑顔が目に入る。
「いい顔つきだ。元気に行って来なさい」
「いってらっしゃい、無事に帰って来てね!」
「うん、行ってきます」
二人が快く送り出してくれたんだ。なら俺も笑顔で旅立つべきだろう。だんだんと昇る日の光に照らされながら別れを済ませる。
「乗り込みな、出発するぞ」
ケッジ叔父さんの掛け声と共に帆が被せられた馬車の中へと乗り込む。そして後ろを向き、姿が見えなくなるまで手を振り続けた。
シシガミ村を出発してから2時間程度。俺は寝転んだまま馬車に揺られながらのんびりと過ごしていた。
いやあ、流石に暇すぎるぜ。
「おっ、そろそろ休憩の場所だね」
「本当ですか!?」
馬車の窓から外へ顔を出してみると、土と草木のにおいが混じり合って森のような匂いに変化しながら鼻へと届く。
シシガミ村の周囲は平原であったが、シロモリの町への道中には木々が乱立しており、まるで浅い森の中に道が続いているようであった。
休憩場所は木が伐採されて作られた広場で、綺麗な川が近くを流れている。そこから後2〜3時間も進めば定期的に手入れされているキャンプ場のような場所があるのでそこで昼ごはんを食べる予定なのだ。
広場で止められた馬車から降りて、切り株に腰を下ろす。叔父さんの方を見ると馬に水を飲ませた後、一緒になって休憩しているようだ。
これはチャンスだな。休憩中に話かけるのは迷惑かもしれんが、少し学園の事を聞いてみよう。
そう思って声を掛けようとすると
ーーー風が吹いた。
森全体がざわめくような荒々しい風が吹き抜ける。だが、まるで台風の目のようにこの広場だけは一切の風が感じられない。
影が差し、ふと上を見上げると1人の女性が宙に浮いていた。その特徴的な姿、そしてこの場面によく似たシーンを俺は目にしたことがある。
彼女について説明するには、その前に<ユニオン・ファンタジア>というゲームにおける魔法の存在について話さなければならないだろう。
<ユニオン・ファンタジア>には魔法が二種類ある
一つ目は詠唱魔法。詠唱によって魔法を使う方法であり、この方法は詠唱を正しく唱えることが出来れば、MPのある限り魔法を使うことができる。
例えば、水属性で言うと〈ウォーター〉や〈ウォーターボール〉等だ。
ゲームの設定としては、詠唱魔法は古代に神から授けられた<魔術言語>によって作り出した、誰にでも使える魔法との事。
古代ではさまざまな魔法が作られたとされるが現在ではその製法が失伝しており、新しい魔法を覚えたければ古代の遺跡などから詠唱を知らなければならない。
ちなみに、ゲームでは魔法について結構詳しく説明がされており、詠唱や<魔術言語>のルールなどもテキストに書かれていたので大体の魔法が使える。まあ、MPが無いから発動はできないけど。
そして、二つ目は特殊魔法。<スキル>の一種であり、その名を冠する力を顕現させる。この魔法は詠唱の必要は無くMPを使用した直後に発動するのだ。
例えば、水属性で言うと〈細波〉、〈激流〉、〈豪雨〉等がある。基本的には〈豪雨〉は〈激流〉の、〈激流〉は〈細波〉の上位互換であり、同じMP消費量で顕現できる量や威力に差が出る。
遺伝や継承、才能などの要因により特殊魔法を習得出来るのだが、同時期に同じ魔法を持った者が現れたという記録は無い。
また、特殊魔法の使い手は貴族の生まれである事が多いが、特殊魔法は人類の危機を退けるための力であり貴族であろうとも戦う必要がある。いや、むしろ率先して戦うのがこの国の貴族としての在り方なのだ。
そんな特殊魔法の中でも最強クラスの能力がある。遺伝や継承により受け継がれる事は絶対に無く、圧倒的な才能を持つ者に与えられる。
その力は
〈空〉
〈海〉
〈大地〉
この3つが現時点で存在している最強クラスの能力だ。
そして今目の前にいるあの女性こそが特殊魔法〈空〉を持つ者、ルルーフ・スカイその人だ。




