中級者の森 3 この世界とスキル
突然だが、俺の転生したこの世界の元になった(?)ゲーム、「ユニオン・ファンタジア」について少し語ろうと思う。
「ユニオン・ファンタジア」の戦闘システムはスピード順コマンドバトル。つまり、行動が早いキャラからコマンドを決めるバトルシステムだ。
行動順はAGIや武器や防具の重量で決まり、その順番でコマンドを決めれるようになるが、詠唱魔法を使う場合やタメが必要なスキルの場合はコマンドを決定した後も攻撃までは少しのラグがある。
ゲームのようにこの世界でも詠唱魔法は詠唱が必要になったり、一度に戦える魔物の数に限りがあるなど共通する部分もあるが、基本的には全く違うものになっている。
相手のターンを待たずに連続で攻撃出来たり、確率ではなく自分の技術によって攻撃を回避出来たりなど、ゲームでは出来なかった事が出来る。
いや、そんな些細な違いだけでは無かった。
様々な方法で習得できる<スキル>。MPを消費する事で発動させたり、常時発動したりして、戦闘やあらゆる行動に作用し強化する<スキル>。
俺は<スキル>を持っている事がどれだけ強力で、戦闘の在り方を大きく変えてしまっているかを知らなかったんだ。
この光景を見るまではーー
「シロン! 行けるな!?」
「いいです。兄さん」
若い男女が言葉を交わす。
兄さんと呼ばれた男が乱戦の中で敵の攻撃を回避しながらゴブリン達に向かって的確に矢を放ち、シロンと呼ばれた女は凄まじい勢いで敵に接近し切り刻んで隙間を抜けて行く。
「これがスキルの力か」
そう、これはゴブリンが何十体も襲ってくる乱戦の中での出来事だ。
ーーー
遡る事数分前。
王立学園の授業が始まる前日の朝。学園の準備期間最後の日をレベル上げに費やすために、俺たち3人は中級者の森に潜る準備をしていた。
「俺ら2人のレベルは27になって、<戦士>のジョブレベルは5。
クロウはレベル24で、<剣士>のジョブレベル4、か。うーん、やっぱり30レベル近くになるとレベルが上がりにくくなるな〜」
「そうだね。でも中級者の森に潜り始めてから4日間でこれだし、悪く無い結果だと思うよ」
「俺の考案したレベル上げのおかげだな。でも、学園の授業が始まったら時間も取れなくなるし、金稼ぎのためにドロップアイテムも全部回収する予定だったよな? レベル上げの効率も下がっちまうが大丈夫か?」
「レベル上げも大事だが金も稼いでおかねえとレベルに合った装備を用意できなくなっちまうからな。命あっての物種と言うし、適正レベルの狩場に行ったが装備の質が悪くて死にましたじゃあダメだろ」
「まあ、確かにゴンの言う通りだな。そりゃあ金も大事だよなあ」
授業が始まる前でこのレベルとなると大きなアドバンテージを得てる気がしてくるんだが、それは気のせいだ。他の人のペースは分からないが、有用なスキルさえ持っていれば大体俺らの2倍くらいの効率にはなるだろう。
この世界では死んだら終わり。だからこそ、ゲームよりも安全を考慮しながら魔物と戦う必要がある。俺も死にたくは無いからペースが遅くなるのも仕方がないんだが、少しづつ焦りが生まれている気がする。
それはサンとのステータス格差も関係しているだろう。
ーーー
シシ・クロウ:Lv24 (+3) 剣士Lv4 (+2)
HP:480 (+60)
MP:115 (+15)
STR:31 (+3) +4(剣士)
VIT:53 (+6)
INT:27 (+3)
AGI:28 (+3) +4(剣士)
MND:28 (+3)
LUK:24 (+3)
ーーー
ステータスの上昇はいつも通り。だが、パーティを組む事で俺自身のステータスの低さが明らかになっている気がする(ゴンはおそらくだが、俺と同じ程度のステータス)。
サンハート。主人公であるサンはステータスの追加ポイントは3である。最大で5なのに主人公が3って低くね? と思うかもしれんが、ストーリーが進んで成長すると追加ポイントが増えるんだ。しかも、その追加ポイントは自由に振れるという主人公特権。
今は1ポイント差しかないが、されど1ポイント差。どうやって振っているのか分からんがSTRやAGIに多く振られている様で、誰よりも早く動いて敵を葬る姿を見ていると、俺の防御寄りに振られたステータスが無意味に思えて来る。
きっと攻撃面での差は広がっていく一方なんだろうなとステータス格差に悲しんだり、置いてかれてしまうと焦る気持ちが生まれてくる。
だが、今から魔物を相手するというのにこの焦りを表に出す訳にはいかない。心を落ち着けながら剣を丁寧に磨いておく。
全員の準備が整えば学園の外に出て中級者の森へと潜って、俺たちよりも上のレベル30近くある魔物をターゲットにしてレベル上げを行う。
そのレベルの魔物になると結構森の深いところに生息しているため、そこから少し進めば現れる魔物がガラッと変わる。
一目見ただけで明らかに環境の変化する境界線が存在しており、その不気味さは足を一歩踏み入れるのさえ躊躇う程だ。
勿論、俺たちも絶対に踏み入らない様にはしているが、その境界線にはほとんど魔物が現れないため、油断してしまっていたんだ。
この森に安全な場所など無いというのに。
「ーーこれで10組目、か。今日は調子がいいな」
「うん、まだ全員合わせて10ダメージも喰らっていないんじゃ無い? いつもならゴブリンアーチャー辺りの攻撃を受けていた気がするけど、上手く回避出来るようになったからね」
「それだけ慣れて来たって事だろうな。俺たちよりレベルが上の集団だから経験値が美味しいし、安全にレベル上げができるのは良い事だ」
「クロウはレベル上げが好きだね。もう少し技術にも注目した方がいいと思うんだけど」
「技術といっても俺の剣術は我流だからなあ。どうせなら誰か著名な人に師事したいし、そこら辺は伸びしろって事で。今はレベル上げの方が重要だな」
「あはは、確かにそんな機会が来ると良いんだけどね」
ついつい話に夢中になり、警戒が疎かになってしまっていた。ガサっという音と共に大木の根本に栄えた茂みから何かが飛び出してきて、慌てて構える。
相対するのは全身が真っ白である事が特徴の男女二人組。髪色も、肌も、服装さえもが白で統一された2人は、男の方が矢を番た弓を構えており、女の方が両手に比較的長めのダガーを持ってこちらに向けていた。
「ーー! なんだ君たちだったのか。3人組だったから魔物かと思いました」
「そうです。全くです」
警戒を解いて武器を納める2人に一歩遅れて、俺たちのパーティも対応する。
「ひでえ言い草だな」
「あはは。こっちも魔物が出て来たかと思いましたよ」
俺もふぅと息を吐いて安心する。完全に警戒が薄れていたからマジでビビったよ。やっぱり慣れが来てからが危ないよな〜気を引き締めねえと。
この2人はシロウとシロン。双子の兄妹で、どちらも学園でBクラス判定を貰った才能溢れる奴ら。
穏やかな喋り方の優男がシロウ、ですです言葉で話すのがシロンだ。
この2人は中級者の森に潜り始めて2日目に出会った冒険者の1組で、4日目にも偶然ばったりと出会ったんだよ。4日目の方は森からちょうど撤退している途中に出会って、そのまま一緒に王都、そして学園まで戻ったので少しは仲を深めることが出来た……と思いたい。
シロウとシロンはBクラス判定を貰うだけあって、強力なスキルを持っている。そのためか、2人だけで俺らと同じ程度のペースで魔物を倒せるらしく、レベル上げの効率がかなり良さそうだ。
くそう、良いな〜スキル良いな〜。
「せっかく会ったところだけどまだ戻る時間でもないし、このまま一緒にいても効率が悪いだけだから別れようか」
「そうだね。じゃあ僕たちはあっちの方向に行こうかな」
「じゃあ、こっちは向こうという事で」
それぞれのパーティが相手パーティの反対方向に歩き出そうとした時、俺の体に悪寒が走る。
出現する魔物が大きく変化する境界線のその先。ここにいる誰よりも強く凶悪な魔物の気配、雰囲気、そして敵意が痛いほどに突き刺さり、俺の脳がすぐ逃げろと警告して来る。
いや、もう無理だ。逃げ切れない。
俺とシロウの2人が危険を感じ、注意を向けた方向から大量のゴブリン達が現れるのが見えた。その数は10や20じゃ利かない、50を超える程の集団。
その集団の中には明らかに大きなゴブリンも混じっており、今全力で逃げてもいずれ追い付かれて魔物の波に呑み込まれるだろう。
ここで、こいつら全員を倒すしか道はない!!




