[大幅改変中] 王立学園入学前 1 学園
「ふう、良い朝だな」
今日は3月26日。ようやく王立学園の寮が解放される日だ。
前に銅級にランクアップしてから、荒稼ぎしまくって今では貯金が2万Yもある。この調子なら入学までには10万まで貯められそうだな。
財布に収められた金をチラリと見て、良い気分のまま宿を引き払う。宿を出たら、市場、冒険者ギルドを素通りして門の前に作られた列に並ぶ。
北の門で冒険者カードを見せて町の外に出ると、人や馬によって踏み固められた道が雑草をかき分けて地平線まで続いているのが見えた。
その道から左手にズレると昨日まで潜り続けていた初心者の森。逆に、右手にズレると同じような規模の森、つまり学園が所有する森がある。
俺の入学を認めると記述された内容の手紙、言い換えれば許可証とも言える魔法の手紙を持っているため、森に入っても迷わないようになっている。しかし、許可されていない人は学園のある場所までたどり着けないようだ。
スカイ先生の話によると、実は昨日までは手紙を持っていても入れなかったらしいから、どうせなら迷いの森を体験してみたかったな。
少し後悔しながら、踏み固められた道を逸れて行くと森の前までたどり着く。初心者の森とは違って、木3本分先までしか見通せないほどのかなり濃い霧が森全体に漂っている。
「うーん実際に見てみるとこの中に入るのは怖いな」
濃い霧のせいで身を潜める場所が多く奇襲するのに適した恐ろしい場所となっている。それに、霧のせいで五感を利用した気配察知も十分では無い。
うん、許可されてないのに入ろうとしなくて良かった。こんな森の中で迷ったら一生外に出れない気がする。
「まあ、行くしか無いか」
手紙の入った袋をしっかりと握りしめて霧の中へと突入した。
進めば進むほど周りが見えくなり、世界から自分1人だけが隔絶されたように錯覚する。真っ白な霧に囲まれながらただひたすらに進み続けると、より深く、白く、自分の体すら見えなくなり、だんだんと光の中に溶けていく。
そして光がだんだんと抑まり、視界が戻ってきた。
「おお、ここが王立学園」
気がつくと俺は草原に立っていた。
すぐ後ろには霧の濃い森が見えて、近くにはボロい小屋がある。小屋のそばには騎士のような格好をした人が周囲を警戒しており、兜の動きからこちらに気が付いたであろう事がわかる。
「学生の方ですね。この森を通れるアイテムを持ってるはずです。見せてくれませんか?」
「分かりました」
勿論逆らわずに手紙を差し出す。おそらく、ここの警備員なら最低50レベルはあるだろうから今の俺では勝てない。いや、別に戦うわけじゃ無いけど。
「確認しました。あそこに見える一番大きな建物が貴方方学生が学ぶための校舎となっています。中で受付をしていますのであちらまでお願いします」
騎士さん(仮称)が指差した建物は遠目から見てもかなり大きい。王城とまで言わないが、それに準ずる程度はありそうだ。
「ありがとうございます」
目的地である場所を目指しながら周りを見てみる。森から出た瞬間から分かっていたが、この学園のある空間はかなり広いようだ。
まず目立つのが大きな校舎。日本の学校にある様な建物ではなく、細かな紋様が壁に刻まれた歴史を感じさせる美しさだ。
その横に、ビルの様に縦と横に真っ直ぐ伸びた建物が2棟並ぶ。あれが俺が住むことになる寮だ。
校舎を挟んで、寮の反対側にはコロッセオのような建物。用途としても決闘のために使われる。
他にも、建物の周りには円形の石畳が不規則に並んでいるのが見えた。
そして、それらすべてを収めてもなお余裕のある広さを持つ大草原と、点々と存在する大樹。その外側に木々が並び、ここが森に囲まれていることが分かる。
建物は全てローマ風で、ヨーロッパの教会に近い形の建物をそのままスケールアップ、または変化させた感じだ。
校舎と寮は大体3、4階までありそうな高さで、森の外から見えないのが不思議だと感じた。
………そういえば空を飛んでた時も、この森の建物を見た記憶はない。やっぱり迷いの森なだけあって、何かしらの不思議パワーが働いているのかもしれんな。
ゲームの中でもそこまで詳しい説明はなかったはずだ。この学園には俺の知らない設定がまだまだ隠されている可能性がありそうだし、なかなか一筋縄ではいかないだろう。
考え事をしながら歩いていると校舎の入り口まで到達した。
入り口は広いがドアがなく、外からでもエントランスらしき広い部屋が見えた。広い部屋は吹き抜けとなっており、少し曲がった階段がクロスするように、2階、3階へと続いているようだ。
その部屋で真っ先に目につくのは白いシャツと紺色のズボンを着崩した男性。ぼさぼさな茶髪と乱れた顎髭が特徴的なおっさんは、書類の整えられた机の上に腰かけている。
「ああ?もう来たのかよ。早すぎんだろ」
「えっと、すみません?」
180cmくらいある身体の胸ポケットに添えられたネームプレート。ルーカスという名前の教師であることが示されたそれを見て、やはり思った通りだと感じた。
ルーカス、彼は戦闘に関する教員であり元冒険者。
というか大体の教員がこの学園を卒業した後に冒険者となって戦闘の経験を積んでいる。
今までは平和な時代であり、ほとんどの教員は先天性のスキルを持っておらず適性もそこまで高くない。しかし、冒険者としての仕事、つまり命を賭けた戦闘を通じてレベルを上げて、ダンジョンなどからいくつかのスキルを得ているおかげでなんとか教員としての面目を保っていられる。
ゲームでも最初の頃は教員に何度もレベルの差を見せつけられたが、3年生になれば逆にぶっ倒す事が出来るんだ。あくまでキャラの成長を促すためのキャラだから仕方ないね。
そんな悲しい結末が待っている教員のルーカス。彼は教員の中でも特殊で、レベル100を超えているーーーちなみにレベルキャップは500で、100レベルといったら学園卒業までにギリギリ行けるぐらい。魔王でも弱点を攻めれば300レベル以下でも倒す事が出来る。
適正Aは無いが冒険者として優秀で、毒の調合や罠など小細工が得意なのでアイテムを使ったデバッファーとして使える。便利だから何回かパーティとして連れていった事があったな。
教員の中ではレベル100を超えている者は数名だけなので、学園の中では強い部類に入る。
そんな彼はまあまあ若いくせに、身だしなみが乱れすぎて子供たちからおっさんに間違えられる運命だ。ちょっと老け顔だし、会ってみた今では確かにおっさんだなという感想しか出てこない。
「そんじゃあ、入学証明できる物を渡してくれ。多分手紙かなんかだと思うが分かるか?」
「あ、ああ、手紙。分かりました」
思考が逸れてしまい反応するのが遅れてしまった。余計な考えは振り払って、手紙を渡す。さっき会った騎士とのやりとりの様に、手紙を確認されてOKを貰った。
「ええっと、シシ・クロウ…シシ…おっこれか。ほい、この書類と、あとは制服に学生カードか」
そう言って渡されたのは王立学園についてや入学に関してのことが書かれた分厚い書類。そして学園の制服や森の出入りを可能にする学生カード。
「ここでの手続きはコレくらいだな。大体のことはその分厚い書類に書かれてるから、寮に行ってゆっくり見りゃあいい。そんじゃあさっさと行きな」
「分かりました。ありがとうございます」
ずさんな対応だったが一応お礼を言ってその場を後にする。この後は学園内を見て回りたいが、取り敢えず寮に行ってみるか。




