愛されるって幸せ!
お兄ちゃんが、死んじゃった。
先生に言われて、急いで学校から帰ったら、お母さんが泣き叫んでいた。
お父さんは、冷静に、お兄ちゃんが死んだことを告げてきたけど、声は震えて大粒の涙をこぼしていた。
お兄ちゃんが、死んじゃった。
二輪が好きなお兄ちゃん。
チャーハンが好きなお兄ちゃん。
FPSゲームが好きなお兄ちゃん。
友達と遊ぶのが好きなお兄ちゃん。
猫が好きなお兄ちゃん。
お母さんが好きなお兄ちゃん。
お父さんが好きなお兄ちゃん。
みんなが好きだったはずなのに、お兄ちゃんが死んじゃった。
理由は教えてくれなかったけど、翌日の通夜の前にこっそり覗いた死に顔は、布で覆われていた。
ミイラみたいに。
通夜が始まって、いろんな人が会いに来る。
みんな泣いていて、私も声をあげて泣きそうになる。
本当に悲しかった。
寂しかった。
お兄ちゃんのことが好きだったはずの、お兄ちゃんの恋人の里沙さんは目を腫らしながらもキリッとした顔を崩さなかった。
私は、その様子を見て、余計に胸が苦しくなって、とてつもなく辛くなった。
通夜も終わり、葬式も終えた。
お兄ちゃんがいないという喪失感が、急に現実味を帯びて来た。
どこか、どきどきと心臓がうるさく感じる。
でも、今更何を願ったところでお兄ちゃんはもういない。
なんだか冷たい風にあたりたくなって、私はその夜、家を出た。
久々の夜のお散歩。
なんだか不思議な感じ。
走馬灯のように、今までの思い出を振り返りながら長いため息をつく。
せっかく気分転換に、普段歩かない道を選んだのに、気づけばいつもの道を歩いていた。
お兄ちゃんは、今頃どうしているのかな。
いつもの道を仕方なく歩き、いつもの家の玄関を仕方なく開ける。
「ただいま。」
ぱちっと電気を点ける。
なんの音もしない、静かだ。
寝ているのかな。
私は、お兄ちゃんの部屋に向かう。
扉を開けると、お兄ちゃんがうなだれていた。
「お兄ちゃん? 寝ちゃった?」
「ん、んん……。」
頬をぺちぺちと叩くと、お兄ちゃんは目を覚ましたようだった。
「おはよう、お兄ちゃん。えへへ、うふふ。」
「ん、おはよう……。どうしたの、そんなにご機嫌だけど。」
「ううん、なんでもないよ。ふふっ、今日からね、僕はずっとお兄ちゃんと一緒にいられることになったんだ。」
そう言うと、お兄ちゃんは手錠がガシャリと音を立てるほど飛び上がる。
「本当か?」
「うん、本当だよ。」
僕はゆっくりとお兄ちゃんに近寄って、そっと、優しく抱きしめる。
「お兄ちゃん、お兄ちゃんっ。ふふっ、僕、僕ねっ、お兄ちゃんのことが大好きだよ……。」
お兄ちゃんは優しく笑って、不自由なのに優しく僕の頭を撫でてくれた。
「うん、お兄ちゃんも、陵のことが大好きだよ。」
優しいお兄ちゃんの眼差しに、僕はつい震えてしまう。
色々あったし、大変だったけれど、やっとお兄ちゃんと一緒になれる。
「でも、陵は辛くなかった?」
「ううん、辛くないよ。ちょこっとだけ、怖かったけど。でも、お兄ちゃんと一緒にいられるならなんてことないよ。」
「そっか、さすがお兄ちゃんの弟だ。」
お兄ちゃんは少し笑ってから、手錠を避けて器用にぎゅっと抱き締めてくれた。
「うん、僕、自慢の弟?」
「うん、自慢の弟だよ。」
お兄ちゃんは、きっと分かっている。
全部に気づいているんだろう。
私が本当は妹であることも。
私が双子の弟を騙して手にかけたことも。
私がずっと、兄に愛されていた弟に嫉妬していたことも。
分かっているのに、私の名前を呼んでいるのに、弟だと信じて疑わないフリをしてくれている。
きっと、償いのつもりだとしても、今の私はそれに甘えるしかできないのが、悔しい。
弟の代わりとして接することしかできない、素直に甘えられない自分が悲しい。
「陵。こっち向いてごらん。」
優しいお兄ちゃんの声に、つられて顔をあげる。
お兄ちゃんは顔を赤くしながらも優しく笑っていた。
「大丈夫。大丈夫だからね。」
「お兄ちゃん……。」
ガラスみたいに抱き寄せられて、キツく、キツく、抱き締められる。
そして、薄衣越しのような、柔らかいキスをされた。
「ぇ……。」
「ん? ご褒美。」
あはは、と笑いだすお兄ちゃんを、久々に見た気がした。
楽しそうなお兄ちゃんを見てしまうと、つい、嬉しくなってしまう。
「ご褒美……なの?」
「うん。よくできましたのご褒美。」
「ぅ、え、へへっ。嬉しいっ。僕、もっとおねだりしてもいいの……?」
「いいよ。」
それからお兄ちゃんは、何度も、何度も、何度も、何度も、苦しくなるほど幸せなキスをしてくれた。
私は、これ以上ないくらいの幸せで胸が張り裂けそうになっていた。
「嬉しい、お兄ちゃんっ。好き、ずっとずっと、愛してるよ。」
お兄ちゃん、大好き。
そんな言葉が、俺の胸に突き刺さる。
可愛い、可愛い、嬉しい。
これからは、この純粋な瞳が全部全部、俺のものになる。
好き、可愛い、愛してる。
ふるふる体を震わせる妹が可愛くて仕方がない。
ああ、可愛い。
好き。
お兄ちゃんが好きな陵。
お兄ちゃんを愛してる陵。
お兄ちゃんが好きすぎて嫉妬する陵。
弟を可愛がるお兄ちゃんが嫌いな陵。
お兄ちゃんのためならなんでもできちゃう陵。
たくさん褒めてあげなきゃ。
そう思うと、どんどん止まらなくなっていって、箍が外れて、自分で引くほどこの小さな身体を壊したくなる。
里沙に狙われて、かわいそうな陵。
俺が、俺のだから。
もう誰にも渡したりしない。
もう何にも触れさせない。
もっともっと、おかしくなってほしい。
狂うほどに愛してほしい。
弟じゃ足りなかったから。
突然怖がったりして、心底腹が立った。
妹に手を出すなとか、ヒーロー気取りをしたりしてそっちの方が寒気がする。
思い出すだけでも鳥肌がたつ。
でも、もういない。
やっと、いないんだ。
「お兄ちゃん、どうしたの……。」
「なんでもないよ。ね、こっちおいで?」
陵はそーっと俺の胸元に顔を埋める。
どこまでもいじらしくて、可愛らしくて。
これで、俺は。
陵とゆっくり愛を深められる。
ゆっくり壊していける。
愛して、壊して、そうして、俺だけ愛してくれればいい。
((ああ、愛されるって幸せ。))
※※一応お話の解説※※
登場人物沢山でごめんなさい
乱文もいいとこでわかりにくいですね……
整理として色々書いておきます
【登場人物】
私(陵)
双子の妹、兄大好き
可愛がられる弟が憎い
お兄ちゃん
双子の兄、妹大好き
妹好きだけど嫌われたくなくて顔が似てる弟に手を出す
弟
双子の弟
兄の想いを知ってなお、妹を守るために兄の元へ通う
里沙
兄の元カノ
兄が妹好きなのを知っていて、憎くて仕方なくて、
妹は兄の毒牙にかかっていることを知っている
両親
兄のことしか眼中になく、双子にあまり興味がない
兄の様相でぐちゃぐちゃの遺体に悔しさで泣いている
【ざっくり解釈】
お兄ちゃんは陵が愛おしくて仕方なかった
でも陵に嫌われたくなかった
顔が似ていた彼女と付き合ったけど、気づかれてしまい、気持ち悪がられて別れた
顔も声も似た弟を抱いたりもした
でも弟は似ていても別人で違うなと感じていた
その頃、弟の反応から妹が恋愛感情を抱いていることに気づくお兄ちゃん
やっと両思いになれると、膨らみ歪んだ愛を妹にぶつけます
妹も、親から愛を受けず育ったせいで、お兄ちゃんから初めて愛を受けます
しかし、両親にがんじがらめにされていたお兄ちゃんは、妹と一緒になるために今回の策を練りました
が、ざっくり解釈です
わかんなぁなってところは脳内補正でOKです
一番好みの設定で解釈してください笑笑