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3:旧王都跡地の戦い

頭上から空を切る音が聞こえる。相手の攻撃を目視する前に横へジャンプすると、爆音と共に私が今までいた場所に大きな土煙があがった。髪の毛を操って飛び散る岩を防ぐ。危ない危ない。もう少しで叩き潰されるところだった。

私は息を整えながら眼前にそびえ立つ敵を見上げる。私たちの何十倍もあるその図体は太陽を遮るほど巨大で、胴体に対して太く長い手足はまるで鋼のように硬くシアの攻撃にもびくともしない。ゆっくりと移動する土色のその姿はさながら岩山が意思を持って行動しているかのようだ。旧王国跡地に突如現れたという怪物―――ゴーレムだ。

岩同士が擦れるような鈍い音を響かせながらゴーレムが元の体勢に戻っていく。ゴーレムの攻撃の度に地面や廃墟が大きく形を変える。その破壊力と巨体のせいで、モンスターというよりも自然そのものを相手にしているかのような錯覚に陥る。先程から私へ攻撃してきたスキにシアが剣で切りかかっているはずなのに、これっぽっちもダメージを受けている様子はない。スケールが違い過ぎる。いくら攻撃したところでこれだけサイズが違ったら効果なんてありはしない。地面を這う小さな虫が人間相手に噛み付いているようなものだ。本当にこんな怪物を倒すことが出来るのだろうか。そんな泣き言を言いたくなったが、ゴーレムがゆっくりとこちらに向き直るのを見て、私はもう一度気合を入れる。

魔王なのだからこれだけ強いのは当たり前だ。シアが倒してくれる事を信じて、今は余計な事は考えずに回避に集中しよう。


「ゴーレムが魔王? 本当に?」

それまで黙って説明を聞いていたヒスイが目を細めながら俺に尋ねてきた。疑惑の目を向けられながらも、俺は目的地を目指して歩を進める。

「なんだ? ゴーレムが魔王じゃ都合が悪いのか?」

「そういうわけじゃないけどさ。なんかイメージと違うじゃん?」

ヒスイが疑うのも無理はない。魔王と言われたらドラゴンやデーモン系統の知能が高いモンスターを思い浮かべるだろうが、意思を持たないゴーレムはその対極だ。俺だって最初は信じられなかった。

「なんでそのゴーレムが魔王だと思うわけ? 何か理由があるんでしょ?」

「街の酒場で聞いたんだ。ここ最近とある廃墟で怪物が出没してるってな。特徴から言ってゴーレムで間違いないらしいが、恐ろしく強くて調査隊だけじゃなく討伐に向かった冒険者たちも帰ってきていないそうだ」

行動パターンが決まっているゴーレムはちゃんと対策さえしていればそこまで手こずるモンスターではなく、もし仮に倒すのが無理でもその愚鈍さから逃走するのは簡単だ。それなのに冒険者たちが戻れなかったということは少なくともただのゴーレムではない。

「めっちゃ強いゴーレムってだけじゃないの? それかその冒険者がゴーレムだからって油断して足元を掬われたとか? 雑魚だと思って舐めてかかったら特殊個体で返り討ちにされる冒険者も少なくないってこないだ言ってなかった?」

「確かにそんな話をしたな。だが、今回のゴーレム討伐に向かったのは慎重派で有名な連中だったそうだ。どれほど慎重かと言うと、スライムやゴブリン一匹相手にも容赦せず全力で倒しにかかるレベルだったらしいな」

「本気出しすぎでしょ。良かった。そんな奴らが私を見つけなくて」

ヒスイが呆れた様子でひとりごちた。俺もお前と戦っていた時は全力だったがな、とヒスイに言いかけたが、なんとか我慢することが出来た。経験値稼ぎについてまた責めてくるのが容易に想像出来たというのもあるが、何よりお前という呼び方をすると烈火のごとく怒るのだ。名前を手に入れて嬉しいのだろうが、お前呼びが染みついてしまっているのだからうっかり言ってしまうくらいは勘弁してほしい。

そもそも、そんな呼び方一つでそこまで腹を立てなくても良いではないか。馴れ馴れしく名前を言うのは俺のキャラではないのだ。一回一回言うのにも結構勇気を振り絞っているこちらの身にもなってほしい。

そんな愚痴など当然言える訳がなく、俺は何も気にしていないふりをして説明を続ける。

「俺がそのゴーレムを魔王だと考えている理由は他にもある。まず、その出現場所だ。今向かっている旧王都跡地だが、実は魔王がこの世界に初めて現れた場所だと言われているんだ」

その昔、そこにはこの世界で最も平和で最も文明の発達した王国があったのだが、ある日突如として現れた一体の強大なモンスターに一夜にして滅ぼされてしまったらしい。強大国をいとも簡単に壊滅させたそのモンスターに人々は戦慄し、畏怖の念を込めて魔王と呼ぶようになったのだ。

「それって昔話でしょ? どこまで真実なのか分かんないんじゃない? それにもしそれが本当だったとしても、偶々その場所に強いゴーレムが現れるようになっただけかも知れないし」

「落ち着けって。まだ、説明の途中だ。これは跡地の周辺を何度も通りかかっている商人の話なんだが、数ヶ月前までボロボロの廃墟しかなかったはずなのに一ヶ月ほど前に突如として巨大な岩山が出現したらしい。岩山の中腹部に黄緑色に輝く物体が見えたから商人が不思議がって近寄ろうとすると、その岩山が突然動き出して商人にめがけて襲いかかってきたそうだ」

幸い、商品を載せていた荷台を囮に命からがら逃げ出す事には成功したのだが、馬に乗って逃げる商人が振り向きざまに見たのは廃墟よりも数倍はデカい黄土色の化け物だった。街にたどり着いた商人はすぐさま守衛にその事を報告したが、そんな巨大なモンスターがいるわけ無いだろうとマトモに取り合われなかった。

「魔王の伝承の中には驚くほど大きな体を持っていると伝えられているモノが多い。そして、その商人がそのゴーレムを見た時期はちょうど俺がこの世界に飛ばされてきたタイミングなんだ。こんな偶然、そうそうないだろ?」

「そう言われたらそんな気もするけど……」

ヒスイはまだ納得しきれていない。恐らくこう考えているのだろう。復活した魔王がゴーレムを作り出したのではないかと。確かにそれなら現れた時期が被っている事も説明出来るし、ゴーレムと思えない異常な強さにも合点がいく。人間たちのいる街を襲わずに廃墟となっている旧王都を根城にしているのも魔王らしくないと言われたら納得せざるを得ない。

だが、残念ながら今の俺たちが手にしている情報の中で一番魔王っぽいモンスターはこのゴーレムしかいないのだ。荒野で絶滅したはずのドラゴンを見たという話や血を抜かれた人間の死体があちこちで発見されているという話もなくは無いが、いずれも噂の域を出ず実在していると確証がある物はこの旧王都跡地のゴーレムだけだ。手探り状態の中、闇雲にこの世界を彷徨うよりは少しでも本物の魔王の可能性があるモンスターを倒していくしかないだろう。

「とりあえず、見るだけ行ってみるかぁ」

俺と同じ結論に至ったらしいヒスイが緊張感のかけらもない声をあげて先へ進む。ゴーレムと対峙してみて、ちょっとでも違うと思ったらさっさと逃げ出そう。そう心に決めて俺はヒスイの後を追った。

攻撃の規模が大きすぎて逃げるスキなど全くないとも知らずに。


ゴーレムは疲れた様子もなく攻撃を繰り出してくる。意思を持たない無機モンスターなのだから当然と言えば当然なのだけれど、少しは攻撃の手を緩めてくれないとただこっちが疲弊するだけになってしまう。実際、予備動作から攻撃方法を予測していなかったら危なかった場面が先程からチラホラで出てき始めている。早く何とかしてくれ。私は祈るような気持ちで振り下ろされる剛腕と矢のように飛んでくる砕けた石や瓦礫を躱した。

かれこれ何十回とシアはゴーレムに対して剣を振るっているが、これといって相手に変化は見られない。破壊力を見る限りその身体は岩というよりも鋼に近いらしく、シアの剣が弾かれているのを攻撃を回避した直後に何度か目撃している。

身体の表面が剣も通らないほど硬いとなったら関節を攻めるしかないのだが、目の前にそびえ立っているゴーレムはあまりにも大きく、関節部への攻撃も効いているようには見えなかった。

いくらやっても有効打が見つからないのであれば、なんとかして逃げるしかないんじゃないだろうか。次の攻撃かその次あたりでシアと合流して逃走の算段をたてよう。

私は体勢を整えながらシアの位置を探るため辺りを見回した。攻撃が弾かれて廃墟の屋根に着地したところだった。シアがゴーレムの視界を左から抜けるように隣の廃墟に飛び移ろうとしている。するとゴーレムが突如今まで見せなかった挙動を取った。

左脚を後ろに引いたゴーレムは廃墟の上を移動するシアを体の正面で捉えると、そのまま右腕を振り上げた。

「シアッ‼ 攻撃が来る‼ 避けてっ‼」

シアがいる方へ向かっていきながら、咄嗟に私は大声で叫んだ。私の声が聞こえたのか、一瞬シアがこちらを向いたような気がした。

次の瞬間、シアのいる場所がゴーレムの攻撃によって木っ端微塵に吹き飛んだ。

お読み頂きありがとうございました。


今回から戦闘が始まりました

タイトルの通り、このストーリーは恋愛話なのであまり戦いに関する描写を長々と書くつもりはありませんが、ゴーレムとの戦いは次回まで続きます

ちょうどよい引きだったからね、しょうがないね

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