11:逃避
日が昇らないうちに街から遠く離れ、私は人気の無い森の中を進んでいた。どこへ向かっているのだろう。自分でも分からないが、今はただひたすら足を動かした。立ち止まってしまったら、また私へ向かって魔法や弾が飛んでくるような気がした。
吸血鬼を倒し街に被害が出ていないか確認しようとした私を見上げる人間たちの目つきが未だに脳裏に焼き付いている。恐れ。蔑み。そして、明確な敵意。少しも躊躇することなく、彼らは私を攻撃してきた。
自分の中に怒りの感情が湧いてこないのは意外だった。魔王が完全に復活したら一番困るのは人間たちのはずだ。それを阻止しようしているのに恩を仇で返されたのだから、私はもっと怒ってもいいと思う。別に彼らの為に戦っていた訳じゃないから、腹が立たないのも当然か。半ば錯乱状態だった人間たちへと抱いた感情は失望とほんのすこしの悲しみだけだった。
私は自分自身を納得させようとする。しょうがないじゃない。人間とモンスターなんだから敵対するのは当たり前。人間の味方をするモンスターなんて一般的にはあり得ないし、モンスターに敵対心を持たない人間なんて普通はいない。私を仲間にしたシアが特別なだけなのだ。
その結論に私は自分で疑問を投げかける。本当にシアは私に敵対心を持っていなかったのだろうか。街を去る直前にちらりと目に映った彼の姿を思い出す。人間たちと一緒に私を見つめながら何かを叫んでいた。
もしかしたらシアも私に対して負の感情を胸に秘めていたのかもしれない。魔王の肉体を宿した怪物と同等に戦える力を身につけた正体不明の人型スライム。一緒に旅を行っていたとしても、人間たちにとって脅威である事に代わりはない。今は勇者の指示に従っているが、いつ他のモンスターと同じように人間を襲うかも分からない。魔王を倒し人類に平和をもたらそうとしている勇者としても無視することは出来ないはずだ。自分に刃向かう前にタイミングを見計らっていつか討伐しようと思っていたんじゃないのか。
彼を疑う自分に嫌気がさす。今まで一緒に旅をした仲間なら、シアがそんな事を考えている訳がないと分かるはずだ。信じられなくなっているのはシアのことではない。私自身だ。
だがそこで、いつも心の奥にしまっている疑問が降りかかってくる。
スライムなのに人間の姿で人語を操り、魔王の肉体たちと戦った後にはなぜかその能力を受け継いでいる、人々から化け物と呼ばれる存在。
私は一体何者なんだ?
お読み頂きありがとうございます
最初の構成よりもシリアスになってしまったので軌道修正しようかどうか悩んでいたのですが、話の流れとしてはこのまま進んでいった方が自然かと思うので、この後の話もシリアス気味にしていきたいと思います
ちなみにどんな結末にするかはまだ決めていません
このままバッドエンドになるのか、それともハッピーエンドを迎えられるのか、ぜひ最後までご確認ください