水泳部の夏
☆1
・小牧恵三は、夏休み初日に恋をした。
そのとき彼はまだ12歳だった。
水泳部に所属していた彼は、
その日の練習で、明るく元気でどこか儚げな、
色白で可愛い女の子に出会った。
台に手をかけている時に、その子は唐突に現れた。
「先生、見学に来ました。見ていっていいですか?」
その子と目が合い、彼女は柔らかく笑った。
夏の光のまぶしい午前中、蝉の声がうるさく、
顔と体を浸したプールの水が、とても美しく輝き、
(この子可愛いな)と、それはとても絵になる、
衝撃的な瞬間だった。
水泳部の顧問の竹崎佑香先生は、
彼女に、気安い言葉で話しかけた。
「おー来たか来たか。水泳部は部員少ないから、
いつでも歓迎だよ!ユミちゃんももう中学生か。
時間が経つのは早いな。まあゆっくり見学していってよ♪」
水泳部の顧問の竹崎先生は、
三十代くらいの、おおざっぱな性格の先生で、
あまり生徒にきつく当たらないことから、
割とみんなに好かれる先生だった。
「先生、私水の中に潜るのが好きで、
そんなにはやく泳ぐことが出来ませんが、
しばらくでもいいからここで楽しい部活動をしたいな☆
プールの水冷たそう☆早く仮入部したいな♪」
ととても楽しそうに目を細め笑った。
衝撃的だった。
恵三はもちろん女の子は可愛いと思ってたが、
このユミと言う名の少女が、
具体的に何年生で、どのクラスにいるとか、
全く分からなかった。
見たことのない顔で、竹崎先生と仲が良いので、
先生の親族かなと思った。
呆然とその子のことを眺めていると、
彼女はキラキラ笑い、恵三に手を振って、
「ヨロシクね!」と気安く声をかけた。
恵三は真っ赤になって、プールの水の中に、
顔をうずめ、(えー可愛いよ)と驚き、
その日はそれ以上彼女と絡むことはなかったが、
女の子にはじめて笑顔を向けられ手まで振られ、
純粋過ぎる思春期に、恵三が淡い恋に心をときめかすには、
十分すぎるシチュエーションだった。
その子は、練習が終わり礼をして解散する前に、
帰ってしまったが、とても印象に残る夏の日だった。
…………『続く』