ギルドと国を追放された少年、金貨の生る木で異世界スローライフ
「レマ、共和国出身の少年か。ほう、父親は錬金術師ね。まあいいだろう、お前のポーションの回復力は中々あると聞いた。いいだろう、このギルド『サンクチュアリ』への加入を認める」
僕を認めてくれたのはギルドマスターのフィンだった。この共和国で有名なギルドを纏め上げ、各地のダンジョンを制覇したという逸話を持つ。
それ故だろうか、鍛えられた筋肉が五月蠅い程に主張をしていた。それとあの強面。失礼ながら普通の人ならお近づきになりたくないアウトローのような渋い顔をしていた。もっと簡単に言えば、屈強の大男。
「あ、ありがとうございます。僕、ポーションの製造しか出来ませんし、この力でしか貢献できませんけれど、頑張ります」
「頼んだぞ、レマ」
ポンと肩に手を置かれ、優しい笑みを向けられた。ごつい顔をしている人だけど、案外優しいのかもしれない。
――僕はそうして、サンクチュアリに加入した。
共和国は島国で海の各地に大きな島が散らばっていた。周辺海域全体が共和国の領海だから、その規模の大きさが伺える。
そんな中央にある島こそが首都の『ミネルヴァ』という。僕が長年住んでいる故郷だ。その中央通りにあるギルドこそサンクチュアリなのだが、初めて訪れた。
「……面接、緊張したなぁ。でも合格だったみたいだし、頑張ろう」
僕は、つい最近に亡くなった父親の背中を追いかけて錬金術師の道を選んだ。だからこそ、毎日を必死に生きて、ポーションの製造に励んでいた。こうしてやっと名高いギルドにも入れて貰えて、その第一歩を踏み始めた。
期待をされている以上、僕もその期待に応えねばならない。必死にポーションを製造して、みんなの危険を少しでも取り除く。それが僕の仕事だ。
サンクチュアリのメンバーで『マウ』という女性魔法使いに別室へ案内された。耳が尖っているし、エルフのようだった。
長い金髪を腰まで伸ばし、ドレスのような漆黒ローブに身を包み、大人の女性って雰囲気で綺麗な人だなぁって僕は思った。
「ここよ。この部屋を使って頂戴」
「ありがとうございます、マウさん。広くて良い部屋ですね、わぁ……こんなにポーション瓶とか試験管が大量に。レア材料もこんなに使っていいんですか?」
「ええ、遠慮なく使用して。がんばってね、応援しているわ、新人くん。私はマスターとダンジョンへ行く予定があるの。だから、お留守番をお願いね」
マウさんは手を振って部屋を後にした。
ひとりぼっちになって、ちょっと寂しいと感じてしまったけど、それでも頑張ろう。本当に認められるまでポーションを作りづけていこうと――テーブルに大量に置かれている試験管へ手を伸ばした。
それから程なくして――
僕のポーションは認められた。
「素晴らしいじゃないか、レマ」
「やるわね。フィン、この子を入れて正解だったんじゃない?」
「そうだな、レマにはこのまま我がギルドに居て貰おう。きっと君は最高の錬金術師になれるだろう」
この日、僕は認められて本当に嬉しかった。
でも、それもたったの一週間で崩れ去った。
一週間後――
「……レマ、君は追放だ」
突然の宣告に僕は焦った。
言葉の意味が分からなかったからだ。
あれから一週間、必死にギルドの為にとポーションを作り続けた。不平不満もなく、寧ろ好評だったのに、今や僕のポーションはほとんどを割られて破棄されていた。
「酷い味ね。まずっ……」
ぺっと本当に不味そうにマウさんは、僕のポーションを吐き捨てた。そんな、あんな優しかった彼女がどうして……。
「追放? そんなウソでしょう?」
「ウソじゃない。レマ、お前は無能すぎたんだ。これを見ろ」
フィンの手には、昨日作った失敗作があった。そうだ、最近は失敗も増えていた。でも、それは当たり前の事。製造率100%の錬金術師だなんて、そう滅多にいるものじゃない。いるとしても指で数える程。
「そ、それは仕方ないよ。僕は完璧じゃないし……製造率も50%あるかどうかだから……ごめん」
「ごめん? 謝って済む問題かよ。あのな、レマ……俺たちが提供しているポーションのレア素材は苦労して取っているんだぞ? それを何度も失敗されてみろ。ギルドの士気に関わるんだよ。他のメンバーから不満が出ている。だから、お前のような失敗錬金術師は不要なんだよ。これから、クーパーを迎える」
扉が開いて、そこから男が現れた。
白髪の青年……って、この人は、指で数える程しかいない錬金術師。製造率100%を誇るというプロ中のプロ。どうして彼が……!
「……そんな」
「さあ、ギルドから出て行け。それと、共和国からこのような通達もきているから、中身を読むように」
手紙を渡された。なんだろう、これ……?
開いて呼んでみると、そこには『国外退去命令』と書かれていた。……はあ? どうして、国外退去? ありえない。そんな、こんな事って。
頭が真っ白になっていく。
これは現実じゃない。悪夢だ。
そうだ、きっと僕は悪いを夢を――
「やれやれね、レマ。せめてもの慈悲よ。私がテレポートで国外に出してあげるわ。これでもう二度と会う事もないでしょうね。ああ、そうそう、この失敗作は持って帰ってね」
と、マウさんは僕の懐にいくつかの失敗ポーションを忍ばせてきた。こんなの……返されても意味はない。それから僕はテレポートを食らってしまった。
◆
視界が真っ黒になって、体が何処かへ引っ張られているのが分かる。僕は魔法によって転移しているんだ。
やがて何処かへ放り出された。
「うわッ……! ……くそ、ここはどこだ?」
知らない森の中にいた。
マウのヤツ、こんな不気味な場所に僕を飛ばしたのかよ。……もしかしたら、この雰囲気からして父さんに教えて貰った『迷いの森・ケレス』か。
くそう、くそう……どうしてこんな事に。僕に力が無かったから? ポーションの製造が失敗だらけだったから? そんな、こんなのって……。
トボトボ歩きながら無念を感じていると、大木の生えている場所に出た。周囲は変わらず樹々が囲っていているが、今いる場所だけは広い空間が広がっていた。
「……はぁ、なんもないや」
あるのは、マウが忍ばせた失敗ポーションだけ。僕はその小瓶を握りしめていた。次第に怒りが込み上げてきて……そのポーションを無意識の内に大木に投げつけた。
……パリンと音がして。
トロトロっと紫色の液体が大木に流れた。……僕ってば、木なんかに八つ当たりして。そんな自分が嫌になった。
けれど、そこで異変が起きた。
「え……」
大木がキラキラ光っていた。
黄金に輝き、その葉っぱから実が成っていたんだ。さっきまでは、何も実ってなかったし、ただの葉っぱが生えている木だったぞ?
「何が起きた……?」
まさか、僕のポーションが反応したというのか。そんなバカなと動向を注視していると、葉っぱが実って『金貨』を生やした。
「……はぁ? 金貨? これって、共和国の貨幣……『メルクリウス金貨』じゃないか。一枚で十万の価値がある……。それが一枚、二枚どころじゃない。十枚、二十枚は実ったぞ!?」
ありえない光景だった。
木から金貨が現れたんだ。なんだこれ、これこそ夢か? 僕は信じられない光景にただ頭が真っ白になって、震えた。
どうして、こうなった。
なんとなく頬を抓ってみれると、痛かった。これは夢でも幻でもない。リアルなんだ。
「やった……やったぞ。僕のポーションは失敗作じゃなかったんだ!! やった、やったああああああッ!!」
金貨よりも、その事実が嬉しくて飛び跳ねた。あぁ、良かった……僕は、僕は父さんに近づいていたんだ。お金よりもよっぽど価値のある事実だった。
「良かった、これだけ金貨があれば生活は不自由しないし、家だって建てられるぞ」
念のためと金貨を摘み取ってみた。
すると、硬さも本物だし、重みも一致していた。寸分違わぬ『メルクリウス金貨』だった。偽造でもない、本物。使っても何も問題ない。
「これは……まさに錬金術だ」
――僕はそれから、お金を製造しまくって大金持ちになった。そして、僕と同じ境遇の不遇の聖女・ユースと出逢って意気投合した。
更に、世界最高と謳われた商人・ネプに目を付けられ、仲間に加えた。彼女は僕のポーションを売ってくれるという。おかげで稼ぎが更に増えた。
◆
その一ヶ月後……。
僕の噂が広まって随分が経った。
久しぶりに共和国の近くにある村・ヘイズのお店へ向かうと、元ギルドマスター・フィンが目の前に現れた。
「な、なあ……レマ。お前の噂は聞いている。やり直さないか?」
「久しぶりだね、フィン。君の噂も聞いているよ、ギルドが大変なんだって? あのクーパーが裏切って、君のギルドの財産を持ち逃げしたそうだね」
「あ……ああ、そのせいでギルドは崩壊寸前なんだ。なあ、レマ、お前ってすげぇ稼いでるって聞いた。やっぱり、お前のポーションは最高だった! 認める! だから、戻って来てくれ……!!」
そう頭も下げず彼は言った。
僕の心には何も響かなかったし、きっとまた裏切られる。フィンが僕にした事は許せないし、許すつもりもない。
「すまない、フィン。僕にはもう大切な仲間がいるんだ。じゃあね」
「そ、そんな……レマ!! レマぁぁぁ!!」
――その後、フィンのギルドは崩壊した。
僕は、二人の女の子と共に最高のスローライフを送っていた。二人共とても素直で可愛くて、最近は恋仲にもなりつつあった。
これからも『金貨の生る木』で最高の生活を満喫しまくろう。
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